【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第355話【広がっていく被害】

 ボトッと自分の手首が床に落ちた。

 ゴポッと血が溢れ、その床を赤く濡らす。

 

 ぇ……え? なに?! 斬られたのアタシ!?

 何も見えなかった!

 なんなのコイツ!?

 

 アグリスは目の前に現れた紅い騎士――――カーティスと呼ばれていた男を睨んだ。

 

 凄まじい闘気を発するカーティスに、アグリスは一瞬で汗が全身から吹き出た。

 竜の心臓が激しく脈動して警告してくる。

 

『逃げろ! コイツには勝てない!』っと。

 

 確かに先程の一撃で手首が吹っ飛んだ。

 ちゃんと竜鱗を纏っていたのに切断された。

 あの糸目女の攻撃にはビクともしなかったのに。

 

 このカーティスという男の斬撃は、何かレベルが違う!

 

 慌てて後退しようとするが、カーティスの長剣がアグリスの両足を吹き飛ばした。

 

「あっ!?」

 

 グラッと体勢が崩れるアグリスは床に突っ伏す。

 カーティスはアグリスの背中を思いっきり踏み付け、身動きを封じた。

 

「ぐぅっ!」

 

「動くな。すぐ楽にしてやる」

 

 カーティスがアグリスの心臓を狙って剣を構える。

 竜の心臓を潰す気だ。

 アグリスは急いでドラゴン形態になろうと力(りき)むが変身できなかった。

 

 カーティスへの恐怖心のせいで身体が震えて言うことを聞かない。

 

 ヤバい! ヤバいヤバいヤバいヤバい!

 なんなのよコイツ!?

 化け物じゃない!

 

 こんなのがいるなんて聞いてない!

 助けてお父様!!

 

 強くて優しい父ヴァルドレイクに願いを飛ばし、しかしそれが叶わない願いと知りながらもアグリスは求めた。

 

 カーティスはなんの躊躇いもなくアグリスの心臓を背中から突き刺そうとしていた。

 

 アグリスを捕縛したところでドラゴン形態やらなんやらになるのをカーティスは知っていたからだ。

 簡単には拘束し続けられる相手じゃないから、逃げられる前に殺す。

 それがカーティスの答えだった。

 

 カーティスが長剣を突き出した時、その切っ先は心臓を貫く前に何者かに弾かれた!

 

「調子に乗るなよ平民風情が」

 

 レグの声が聞こえた。

 アグリスは顔を上げると、そこには本当にレグがいたのだ。

 

「レ、レグ……!」

 

 泣き虫で、そのくせプライドだけやたら高くて短気なレグがアグリスを助けに来てくれていた。

 

 カーティスは特に動じず、静かにレグを睨み返す。

 

「お前もドラグーンか」

「だったらどうした?」

「無論。狩らせてもらう!」

 

 甲高い金属音を響かせながらカーティスとレグは互いの長剣を弾いて間合いを空けた。

 

 シュヴァリエの称号を持つレグならば、このカーティスという化け物に勝てるかもしれない!

 

 アグリスはそんな希望を胸に秘め、頼れる兄の戦いを見守った。

 

 

 リーネの店内にて手練れが激突した。

 オフィーリアとアグリスが見守る中、カーティスとレグの剣は交差を開始する!

 

 刹那の如き突きを放つカーティス。

 眼球に迫った切っ先を寸前で弾くレグ。

 それはもはや超反応の域に達していた。

 

 オフィーリアとアグリスにはカーティスの突きがそもそも見えなかった。

 それを難なく弾いてみせたレグは紛れもなく達人の領域にいる。

 

 だがカーティスもいきなり現れた強敵に臆することはない。

 突きが外れた次の瞬間にはレグの顎を狙った蹴りを放つ。

 レグは首を捻ってその蹴りを躱(かわ)すが顎を掠(かす)る。

 

 躱されるのを予測したかのようにカーティスは長剣による薙ぎ払いを繰り出した。

 音速を超える斬撃は脳を狙っていたが、レグも化け物じみた反応でそれを剣で弾く。

 

 これで終わりかと思ったカーティスの連撃は、最後に身体の回転を乗せた回し蹴りが飛んできた。

 先の斬撃から一秒も経たない蹴りに、それでもレグは対応してみせた。

 

 僅かに姿勢を下げてカーティスの蹴りを避けた。

 蹴りの風圧で金髪が靡く。

 

 突き・蹴り・斬撃・蹴りの計4連撃を捌き切ったレグは長剣を振り下ろす。

 その振り下ろされた斬撃もまた重く、長剣で受け止めたカーティスの足元に亀裂が走る。

 

「あのカーティスさんと互角!?」

「あのレグと互角なんて……!」

 

 端から見ていたオフィーリアとアグリスが思わぬ展開に息を呑んだ。

 一瞬で勝負が決まると思っていたから。

 

「ふん……平民風情がなかなかやるじゃないか」

 

 レグに言われるがカーティスは答えない。

 鍔迫り合いで火花を散らしながら、お互いに反撃のチャンスを窺う。

 

 だが途中でレグが鼻で匂いを嗅いできた。

 カーティスの匂いにレグは顔を露骨に険悪にした。

 

「お前……あのゼクードと同じ匂いがするな」

 

「!」

 

「まさか兄弟か?」

 

 聞かれてもカーティスは無視して攻撃を開始。

 鍔迫り合いから押してレグの体勢を崩し、突きを放つ。

 レグは床に剣を突き刺し、刃でその突きを受け止めた。

 

「質問には答えろよ。無礼な平民だな」

 

「どうやってエルガンディに入った?」

 

「なに?」

 

「城門には精鋭も含めて固めてある。空の警戒もさせている。街中の警備もだ。なのにこんな王国のド真ん中まで誰も気づかなかった。どこから侵入したんだお前たちは」

 

 カーティスの問いにレグは顔に血管を浮かせて激怒した。

 

「質問してるのはこっちだろうがっ!」

 

 手を突き出して放ってきたのは炎魔法の【フレイム】!

 咄嗟に避けたカーティスだが、背後の壁に火球が当たって大爆発を起こした。

 

 リーネの店に風穴が空いて、街の外へと続く道になってしまう。

 近くの住民たちの悲鳴が沸き起こり、同時に騎士の味方たちも到着した。

 リーネが呼んだ援軍だろう。

 自分もその一人なのだから。

 

「カーティスさん! 加勢します!」

 

 騎士たちがそれぞれの武器を抜刀するが、カーティスはそれを片手で制した。

 

「来るな! こいつはオレが抑える! お前たちは他の侵入者を探せ!」

 

「! 了解しました! ジャック! ヤクト! エー! お前たちは東側だ! アストラ! ジョーカー! お前たちは私と来い!」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 味方の騎士たちはすぐさま散開した。

 あのカーティスが『抑える』と言っていた。

 その一言で仲間たちは、自分たちの手に負える相手じゃないと察したのだ。

 

 残されたカーティスは店から外へ飛び出し、レグもそれに追走する。

 

 街の被害は避けたいが、この男が相手ではなかなか難しい。

 思った以上に手強いレグにカーティスは長剣を構える。

 

「やはりこの匂いはゼクードと同じだな。剣の型も似ている。見たところ兄かお前は?」

 

 まだ聞いてくるのかコイツ。

 しつこいな。

 どうせ息子だと言っても信じないだろうに。

 

「そんなことを聞いてどうするんだ?」

 

「奴には侮辱された怒りがあるのさ。女の扱いが下手だの、礼儀を知らないだの。平民の分際でこのオレを侮辱するとはおこがましい!」

 

 なるほど。

 そういうことか。

 身内に手を出せば一矢報いることが出来ると思っているらしい。

 器の小さい男だ。

 

「きゃあっ! ちょっと! なにすんのよ!」

 

 リーネの店から聞こえてきたその声は、あの赤い髪の女騎士のものだった。

 オフィーリアがその女騎士をロープで拘束しようとしていた。

 腕も足も切断された女騎士はオフィーリアに抵抗できないでいる。

 

「なにって、逃さないようにロープで縛るだけですよ」

「これじゃあ私が悪いことしたみたいじゃないのよ!」

「したでしょうが!」

 

 そんな女騎士たちの怒鳴り合いを他所に、カーティスとレグは睨み合いを続けた。

 

「あの女を助けなくていいのか?」

 

「ロープでドラグーンを拘束できるとでも思っているのか?」

 

「……」

 

 やはりそうか。

 こいつらドラグーンはセレンと同じ。

 ドラゴン形態と竜人形態があるはず。

 

 あんなロープで拘束してもドラゴン形態で巨大化すればすぐにハチ切れるだろう。

 

 だから捕縛して情報を聞き出すのは無理がある。

 ドラグーンに対しては殺すしか手段はない。

 

 それにこのレグという男は危険だ。

 

 これだけの力量が有りながら、まだドラゴン形態と竜人形態を持っている。

 

 使ってこないのは、きっとまだその形態に慣れていないからなのだろう。

 

 慣れる前に、力をつける前に倒さねば、いずれとんでもない脅威になる。

 

 意を決したカーティスは一気に踏み込んだ。

 互いの剣がぶつかり、周りに衝撃波を発生させる。

 

「ふん……ゼクードの兄だけあって、やはりなかなかやるな」

 

「悪いがオレは兄じゃない。息子だ」

 

「……は?」

 

 

 カーティスとレグの戦闘が激化する中、リーネは急いで城門へと走っていた。

 理由はもちろん息子のリイドとレグナがいるからだ。

 

「リイド! レグナ!」

 

 我が子の名前を呼ぶリーネ。

 城門前を警備している騎士たちの視線がリーネに集中する。

 その中にはレグナとリイドの姿があり、訪ねてきた母に驚愕する。

 

「母さん!? どうしたのこんなところに来て!」

 

「はぁ……はぁ……どうしたのじゃないわよ! 例のドラグーンってのが王国内に侵入してたわよ! なにやってたの!」

 

 そのリーネの言葉は一瞬で場を驚愕させた。

 

「そんなバカな! 誰も通ってないよここ!」

 

 リイドが慌てて反論するも、遠くから爆発音か響き始めた。

 

「なんだ!?」っとレグナ。

 

「オフィーリアが戦ってるの! カーティスや他の騎士たちにも声を掛けたわ。あなた達も急いで!」

 

「……っ! レグナ隊長! 行きましょう!」

 

 部下に言われたレグナだが、首を振った。

 

「ダメだ。オレたちはここを死守する」

 

「な! 何言ってるのレグナ! みんなが中で戦ってるのよ!?」

 

「義母さん落ち着いて。カーティスや他の騎士たちも応援に向かったなら大丈夫だ。オレたちまで行くことはない」

 

「で、でも!」

 

「ここを空けたらそれこそ相手の思う壺かもしれないだろ。オレたちがここを離れたら誰がここを守るんだ?」

 

「それは……」

 

 リーネが押し黙り、リイドはフゥと一息ついてからレグナに問う。

 

「レグナ。ドラグーンはどうやって城壁を越えたんだろ?」

 

「さぁな。空の監視もさせてるから、バレずに侵入するなんて不可能なはずだが……」

 

「だよね……まさか地面からとか?」

 

 リイドが言った瞬間!

 リーネの足元からドラゴンが現れた!

 

「えっ!?」

 

 バクンと咥えられたリーネはそのまま穴へと引きずり込まれていった。

 

「きゃあああああああああっ!」

 

「母さん!?」

「義母さああん!」

 

 他の騎士たちが驚愕してる中、リイドとレグナはなんの躊躇もなく穴へと飛び込んだ。

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