【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
レグナとリイドは全速力でリーネを拐(さら)ったドラゴンを追い掛け、穴の中を潜った。
日の光も届かなくなった穴道は真っ暗で手探りで進まねばならなくなり速度が激減してしまう。
さらに不幸にもレグナは【氷属性】。
リイドは【風属性】であり、火を灯す魔法がなかった。
「くそっ! 前が見えねぇじゃねぇか!」
「落ち着いてレグナ! 穴は一本道になってる。曲がりにだけ気をつければいけるよ!」
「ああ!」
幸いに穴は男が立ってもまだ余裕があるほどの大きさであり、立って走るのは容易だった。
ドラゴンの姿はとうに見えず、人間の駆け足で追いつけるものではなかった。
早くしないとリーネが! っという焦りはレグナもリイドも同じだった。
無駄に心配性で口うるさく、時にはウザったくて仕方ないのがリーネという母親だ。
だがレグナにとってもリイドにとっても大切な肉親であることに代わりはない。
どうか無事であってくれ!
そう祈りながらレグナとリイドは穴を抜けた。
そこは【エルガンディ王国】から遠く離れた草原。
穴はそこに通じていた。
目先には小さな森が広がっており、反対方向には【エルガンディ王国】の城壁が見えた。
「ここは!?」
レグナが辺りを見渡しながら言うと、リイドが「南側だ!」っと即座に位置を把握した。
「あらあら……ここまで追い掛けてくるなんて。困った人たちね」
「「!?」」
突如聞こえてきた女の声にバッと反応したリイドとレグナは武器を抜刀して振り返る。
すると森の影から一人の女が現れた。
漆黒の鎧を身に纏い、ふわりとした青の長髪が特徴的な女騎士だった。
片手には槍を持っている。
デザイン的にエルガンディの物だ。
どこかで盗んできたのか。
「気をつけてレグナ。コイツもドラグーンだよ」
「マジかよ……ただの人間にしか見えねぇ……」
そんな事を言っていると、さらにもうひとり奥から赤い髪の女騎士が現れた。
彼女もまた漆黒の鎧を身に纏っている。
「へぇ? 穴の中を突っ切ってきたんだ。度胸あるじゃない」
赤い髪の女騎士が感心すると、青い長髪の女騎士がニコリと笑う。
「そこまでして追い掛けてくるということは……あの女性はあなた方にとって相当重要な人物であるみたいですね?」
リイドは相手の話を聞きながら辺りに目を配らせていた。
リーネが見当たらない。
きっと森の奥へ連れて行かれたんだ。
すぐに向かいたいが、そうなるとこの女騎士二人を突破しなければいけない。
ドラグーンについてはグロリアやカーティスらに聞いている。
おそろしく堅い竜鱗を纏うことができるらしく、あのゼクードさんの斬撃でさえまともに通らなかったとか。
でもそれはセレン・フォルスの話。
この女騎士二人はもしかしたら……
個体差があれば勝てる可能性もなくはない。
だが、負けた時のことは考えておこう。
リイドは意を決して先程の青い長髪の女騎士に返事した。
「ああそうさ。リーネさんは【エルガンディ王国】で唯一オリハルコンを錬成できる錬金術師なんだ。あの人が死んだらもう誰もオリハルコンを錬成できないんだからな!」
「お、おいリイド! なにバラしてんだ!」
レグナが驚愕してる。
ワザとらしさがなくてむしろ助かる反応だった。
そして当の女騎士二人もニヤリと笑った。
「なるほど……唯一の錬金術師なら丁重に扱わなければいけませんね」
「唯一の錬金術師なら、絶対に返すわけにはいかないわね」
これでいい。
これでリーネが殺される心配は無くなった。
希少な錬金術師は奴らも失いたくはないだろう。
だが所詮……奴らはドラグーンだ。
武器が必要なくなったら、リーネは殺されてしまうかもしれない。
これはほんの時間稼ぎにしかならないだろう。
そこまで考えてリイドは片手剣と盾を構えた。
「ちょうど2対2だ。レグナ。赤い方は任せるよ!」
「ちっ! 後で説明しろよ!」
レグナも双剣を構え、対する女騎士たちも槍と大剣を構えてきた。
「油断してはダメですよレジーナ」
「大丈夫よオルテンシア。アタシたちはちょっとやそっとじゃ……死なないから!」
凄まじい踏み込みでレジーナと呼ばれた赤い髪の女騎士はレグナに掛かった。
勢い任せの大剣抜刀!
真っ直ぐ振り下ろされる巨剣の一撃を、レグナは左へステップすることで回避し、瞬時に姿勢を低くした。
ガラ空きになったレジーナの側面。
レグナは目付きを鋭くし、双剣を逆手に持ち換える!
「パワーだけじゃ勝てないぜお姉さん!【真紅の舞】!」
母レィナ直伝の連続剣を無防備なレジーナに叩き込む。
しかし、彼女に触れた刃からは奇妙な手応えが伝わった。
堅(かた)い。
まるで鉄を殴ってるような手応えが返ってきた。
しかも当のレジーナは斬撃の嵐のなか平気で大剣を薙ぎ払ってきた!
「うおっ!?」
【真紅の舞】を中断し、薙ぎ払いを避けたレグナはレジーナを見た。
なんと彼女の顔は竜鱗に覆われており、鎧から露出している肌の部分も竜鱗を纏っていた。
さっきの手応えはこれか!?
なんて堅さだ!
自信なくなりそうだぜ。
前の時もこうだった。
オレの【気】はやっぱりまだ弱すぎるのか!
「あっは! すごーい! 全然痛くないわ!」
レジーナが自分の身体を見回しながら歓喜する。
「嘘だろ!?」
レグナは冷や汗を浮かべ。
対するレジーナは余裕の笑みを浮かべ始める。
「こんなに堅くなるなら最初からこの形態使えば良かったわ。ねぇ? アンタもそう思うでしょ?」
「……オレは好きじゃねぇな。元の方が可愛かったぜ?」
「そりゃどーもっ!」
瞬時に振り下ろされる大剣!
レグナは双剣をクロスしてそれを受け止めた。
凄まじい衝撃波が生まれ、少し離れたリイドにも衝撃が届いた!
「わっ!」
ビリビリと衝撃波を感じるリイドは横目でレグナを見た。
手数で上回るレグナの斬撃がまるで通じてない。
防戦一方になっている。
やっぱりコイツらも堅い竜鱗を持ってるのか。
カーティスから聞いたセレンと同じだ。
これはマズイぞ。
「よそ見とは余裕ですね?」
「!」
リイドの首を狙った槍による刺突!
オルテンシアと呼ばれていた青い長髪の女騎士の攻撃だった。
リイドは咄嗟にバックラーでそれをパリィ!
体勢を崩したかと思えばそうでもなく、オルテンシアは槍をその場で回転させて迫ってきた。
「【ディアマードアーツ・トライデント】!」
回転を止めた刹那の間に刺突!
それはあまりにも速く!
リイドの片目を潰しかけた。
あと1ミリで眼球に刃が届くというところでリイドは片手剣でそれを弾いた。
だがオルテンシアの攻撃はまだ続く。
弾かれた槍を地面に刺し、それを軸にして身体を浮かせリイドの顔に蹴りを入れた。
「ぐっ!」
バックラーで蹴りをなんとか防いだが手が痺れた。
なんて筋力だ。
パワーも超人。
防御も竜鱗で刃が通らない。
母リーネを助けに来たつもりが、これでは逆にやられてしまう。
「ん……あなたの匂い……さっきの方と同じ匂いがしますね」
「!」
リイドはオルテンシアを見た。
鼻をクンクンさせている。
さっきの方とはやはりリーネの事だろう。
こいつがリーネを拐ったさっきのドラゴンか。
「なるほど……あなたの母親だったんですね? それならここまで必死に追い掛けてくるのも分かります」
「なら返してくれないかな? 大切な母親なんだよ」
「それは無理な相談です。オリハルコンを錬成できる錬金術師なんて【ハーティシオ】にも居ませんでしたからね」
「……そりゃ残念だ」
「ふふ……さて」っとオルテンシアの顔が竜鱗に覆われ始め、そして槍を構え直してきた。
「たった二人で追い掛けて来たことを……後悔させてあげましょう」
不敵に嗤うオルテンシアにリイドは戦慄した。
これは……本当にマズイぞ!