【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
ゼクード達が【シエルグリス】を発ってから数時間が経った。
夕陽が妙に静かな草原を赤く照らす。
【エルガンディ】へ続いている街道をひたすら歩きながら、ここまでA級ドラゴンやドラゴンマンなどをまったく見なかったことが気掛かりだった。
自然の者たちが静まり返るのは、いつだって良くない出来事の予兆なことが多い。
あのドラグーンたちが関係していそうだが……
「静かね……」
セレンの右隣を歩くミオンが辺りを見ながら言った。
セレンの左隣を歩くレィナも同意らしく「静かですね……」と返す。
二人に挟まれたセレンはさすがに素人なので環境の微妙な変化には気づけないでいる。
故にセレンは(え? え?)っとミオンとレィナを交互に見て困惑していた。
しかしさすがベテランの女騎士二人だ。
ミオンもレィナもこの奇妙な静けさに勘づいていた。
こういうのは自分だけ気づいていると一気に不安になるものだが、味方が敏いと安心する。
「ねぇゼクード……このまま【竜軍の森】を通るの?」
お?
ミオンさんに名前を呼ばれたのは初めてな気がする。たぶん。
ちょっとビックリした。
「はい。そのつもりです」
「やめた方がイイんじゃない? セレンを狙った奴らがまた襲ってくるかもよ」
おそらくミオンさんはこの静けさをドラグーンたちの仕業だと思っているらしい。
俺もそれは同感だ。
だが……
「それは……そうですけど。じゃあどうやって【エルガンディ】に戻るんです?」
「セレンってドラゴンになれるんでしょ? アタシたちを乗せて飛べない?」
なんか凄いこと言い出したこの人!
「あ……たぶん飛べると思います。やって見ましょうか?」
やるの母さん!?
俺とレィナは驚愕して顔を見合わせた。
ミオンは構わず「お願い」と告げた。
「わかりました。では……」
セレンが目を閉じた。
大きく息を吸い込んで、両手を胸の前に絡める。
すると全身から光が滲み出てきた。
「変身!」
セレンがそう叫ぶと、その光は一気に大きくなって全身を包んだ。
……っていうか変身って言ってたけど、必要あったのか?
そんなことを胸に秘めながら俺は眩しさに目を閉じた。
ゆっくりと光が収まっていくのを感じて、目を開ける。
するとそこにはいつか見た桃色の竜鱗を纏うドラゴンが立っていた。
一瞬だけゾッとした。
少し前の強敵……というか悪夢というか、そんなこんなの思い出がフラッシュバックしそうになる。
「凄い……本当にドラゴンになった……」
ミオンが巨大化したセレンに目を丸くした。
「乗れますか?」
セレンが言いながら四つん這いになって姿勢を低くしてくれた。
それでも俺たちの倍以上の大きさを誇っているが。
「い、いいの? 母さん……」
「もちろんよ。さぁ乗って乗って」
なんかノリノリだな母さん。
「じ、じゃあ、お邪魔します……」
まさか母の背中に乗る日が来るとは……
そう思いながらジャンプし、セレンの背中へと飛び乗る。
ツルツルの竜鱗が滑りそうで怖かったが、割と踏ん張りが利く。
続けてミオンとレィナも乗ってきた。
セレンの巨体は大人3人が乗っても余るくらい大きい。
あの小柄な母さんがどんな原理でここまでデカくなれるのか不思議でならない。
……いや、それよりもレィナちゃんは大丈夫だろうか?
よりによってこの姿の母さんに乗るなんて。
「レィナちゃん。大丈夫?」
「大丈夫ですよ! ちょっとワクワクしますね!」
あ、全然心配いらなかった。
メチャクチャ楽しんでる。
「それじゃあ飛びますよ。しっかり捕まっててくださいね」
セレンも早く飛びたいらしく、翼を動かし始めた。
「わかった」っと返した俺はとくに掴まる場所がない母の背中に腰を下ろし、両足で母の背を挟むことしかできなかった。
大丈夫かなこれ。
そんな心配も束の間。
セレンは翼を羽ばたかせ、ゆっくりと浮上し始めた。
地面が離れ始め、全身に奇妙な浮遊感を感じた。
「ぉ……おお! 飛んだ! スゲェ! 俺たち飛んでる! 母さんスゲェ!」
離れていく地上を見ながら俺は思わず興奮してしまった。
初めて空を飛んだのだ。
興奮せずにはいられなかった。
「ふふ……はしゃぎ過ぎよゼクードったら」
セレンも満更でもない声で笑う。
「地面がどんどん離れてく! 夢を見てるみたい!」
「そうですね! まさか空を飛べる日が来るなんて!」
ミオンとレィナも目を輝かせて地上を見ていた。
さすがにみんな初めての経験だから興奮してる。
それもそうだろう。
たぶん、俺たちが人類で初めて空を飛んだ人間だろうから。
しかもドラゴンに乗って。
「みなさん。動きますよ。落ちないでくださいね」
「「「了解!」」」