【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
母セレンの背中は凄い風の通り道になっていた。
耳にゴォゴォヒューヒューと風が当たってうるさい。
しかし景色は夕陽も相まって絶景だった。
セレンの飛行速度に対して、地上はやたらとゆっくりスライドしている様に見える。
なんとも不思議な光景だ。
だがやはり速い。
馬の何倍も速い気がする。
これなら【エルガンディ】にもすぐ着きそうだ。
「はえー! 馬より数倍はえー! これなら今日中に【エルガンディ】に着いちゃうんじゃないか?」
興奮が収まらないゼクードが言うと、後ろのミオンも頷いた。
「この速度なら余裕ね。画期的だわ」
さらにレィナも楽しそうに口を開く。
「これなら1日も掛からず【エルガンディ】と【シエルグリス】を往復できますよ! セレンさん本当に凄いです!」
「えへへ……お役に立てて光栄です!」
セレンも本当に嬉しそうだ。
ドラゴンになってしまって悲観していると思ったが、役に立てるなら前向きになれるのかもしれない。
あとはセレンが暴走さえしなければ安心なのだが……それを確認する術がない。
でも今のところ暴走する気配さえない。
出来ればこのまま安定してほしいな。
そう胸に秘めつつ、ゼクードは下を見た。
【竜軍の谷】である深い森をすでに通過しそうになっていた。
ホントに速い……徒歩ならここらで1日過ぎてる。
セレンの飛行速度はいったいどれほどなんだろう?
馬の比じゃないぞこれマジで。
「速い……【竜軍の森】があっという間に過ぎてった……空から見ると広いなぁ」
空から見る【竜軍の森】は予想外に広大で、自分たちが通ってる場所はほんの一部に過ぎないことが分かった。
空から見ると何もかもが新鮮だ。
「これじゃあアタシ……ついてくる意味なかったわね」
ミオンが苦笑するのでゼクードは「そんなことないですよミオンさん」と返した。
「あなたが言わなかったら母さんで飛ぼうなんて思いつきませんでしたし」
「そう……ならいいけど」
「あ、そういえばお礼がまだでしたね」
「お礼?」
「はい。レィナちゃんから聞きました。ドラグーンたちにやられた俺を助けてくれたって」
「ああ。あれたまたまよ?【竜軍の森】で修行してたらレィナとセレンが襲われてたから」
「なるほど。でも、ありがとうございます。おかげで母さんもレィナちゃんも俺も助かりました」
「いいのよ別に。気にしないで」
いつもだがミオンの返事はどこか素っ気ない。
なんというか、興味のない事にはとことん無関心なのだろう。
あのネオの母親というだけあって、そこのところはなんか似ている気がする。
そういえばミオンさんって39歳なんだっけ?
いや……見えない……
これで30代とか有り得ない。
そもそも子持ちにすら見えない。
「……なに?」
「あ、いえ!」
ゼクードはうっかりミオンを凝視してしまっていた。
ミオンに怪訝な顔をされ、慌てて口を開く。
「ミオンさんって綺麗ですよね。39歳でしたっけ?」
女性に年齢を聞くというマナー違反を犯してしまった。
口をついて出てしまった言葉。
レィナがギョッとゼクードを見る。
しかし当のミオンはとくに気にした素振りもなく
「ええ。そうよ」
っと即答した。
ゼクードは思わず目が点になった。
この人本当にそういうのは気にしないタイプらしい。
ある意味サバサバしてて男らしいかも。
「お兄義様! 女性に年齢を聞くなんてマナー違反です! 奥さんに言いつけますよ!」
「わー! ごめん! やめて! 怒られる!」
レィナに謝るゼクードを見てミオンは「?」と首を傾げた。
「なんでマナー違反なの?」
「え!?」
ミオンの返しにレィナが驚く。
「いや、それは、ほら! 女性にとって年齢とはデリケートな問題ですし、知られたくないところじゃないですか」
「……そう? 私は別に知られてもいいけど」
「ま……まぁ……ミオンさんの場合は見た目と年齢が釣り合ってませんからね……」
「なによ! 子供っぽいって言いたいの!」
「なんでそこで怒るんですか!?」
そんなレィナとミオンのやりとりを聞きながら、セレンが突如として声を上げる。
「エルガンディが見えて来ましたよ!」
「え、もう!? 早いなぁ」っとゼクードは身を乗り出して地上を見た。
そこには確かに城壁に囲まれた王国が見えた。
【エルガンディ王国】だ。
まさかたったの数分で【シエルグリス】から【エルガンディ】に移動できるとは。
凄まじいことこの上ない。
「ちょっと待って……様子が変よ? 黒煙が上がってない?」
ミオンの言うとおり。
王国内の中央で黒煙が上がっている。
「本当だ! まさかドラグーンか!」
即座に予想したゼクードは妻たちの顔と、生まれたばかりの娘たちの顔を脳裏に過ぎらせた。
凄まじい不安が一気に押し寄せてくる。
みんな無事なら良いが。
カーティスが居るから大丈夫だと信じたい。
「母さん! 急いで王国に降下してくれ!」
「うん!」
まっすぐ王国に向かって飛ぶセレン。
するとレィナが慌てて声を掛けた。
「待ってくださいセレンさん! このまま近づいたら敵と誤認されて大砲やバリスタを撃たれる可能性があります。途中で私たちを降ろしてください!」
「わかりました。降下しますよ」
レィナに言われた通り、セレンは【エルガンディ】より少し離れたところに降下した。
★
大砲やバリスタで迎撃されないよう【エルガンディ】から距離を取ってセレンは降下した。
それからすぐに走り、城門前でカーティスや多数の騎士たちを見つけた。
「カーティス!」
「! 父さん!」
ゼクードはカーティスの元へ走り、すぐに確認する。
「ドラグーンか?」
カーティスは即座に頷いた。
「はい。不意を突かれました。この穴をご覧ください。奴らの中には穴を素早く掘れるドラグーンがいるみたいで、地面から王国内に侵入されました」
穴!?
門でも空でもなく穴とは。
これは予想外だった。
確かにカーティスたちの横には大きな穴が空いている。
「こちらも応戦したんですが、敵には全員……逃げられました」
「被害は?」
「それが……」
カーティスは後ろにいるレィナを見た。
その時点でゼクードは嫌な予感がした。
「リーネさんが……奴らに連れ去られました」
「なんですって!?」
やはりレィナが慌ててカーティスに寄る。
カーティスはさらに顔を暗くして続けた。
まだ何かあるようだ。
「それから……そのリーネさんを助けようと追撃したレグナとリイドが、瀕死の重傷です」
「嘘……!」
レィナが絶句しフラついた。
俺は慌ててレィナを支えるが、俺も正直驚いていた。
レグナとリイドとは共闘したことがある。
二人ともかなりの腕前だった。
さすが隊長を任されるだけあるレベルだったのに。
「二人は病院に搬送されました。命はギリギリ繋ぎ止めています」
カーティスが告げると、俺は愕然とするレィナの頬を叩く。
「レィナちゃんしっかり。すぐに行ってあげてくれ。リーネちゃんの事は俺とカーティスがすぐに対応するから」
「す……すみません!」
なんとか正気を保ったレィナは、しかしやや危ない足取りだった。
見かねたミオンが前に出た。
「心配ね……私がついて行くわ」
「お願いします」
ミオンはレィナの後を追って行った。
ミオンさんが一緒なら大丈夫だろう。
しかしまさか。
「レグナとリイドがやられるなんて……」
俺が言うとカーティスは顔を険しくした。
「相手のドラグーンに攻撃が通用しなかったみたいです。一方的な戦いだったんでしょう」
「やっぱり奴らの竜鱗はセレン並か?」
「いえ、どうやら格差があるようです。オレが戦ったレグというドラグーンは恐ろしく堅い竜鱗でした」
レグ……あいつか。
カーティスとやり合って逃げたとなると、やはり相当の手練れみたいだな。
ヴァルドレイクと大差ない【気】の強さを感じた。
あの男二人は俺とカーティスで抑えなきゃいけない相手だ。
ネオも加えれば勝機はあるだろう。
「しかし他の女ドラグーンは城の精鋭部隊の攻撃なら通用するレベルでした」
城の精鋭部隊……
人類が敗北したあの時の騎士たちか。
彼らも相当な実力者揃いだ。
あのレベルでようやくダメージを与えられるなら、やはり中途半端な騎士たちでは歯が立たないということか。
「ならこっちも少数精鋭で固めないとダメだな。被害が大きくなる。ローエたちにも力を貸してもらおう」
できれば子供たちの傍にいてほしかったがそうも言ってられない。
リーネを救うのが最優先だ。
「そうですね」
「よし。とりあえず俺は陛下の元へ行く。リーネさん救出作戦を考える」
「了解です」
「あ、あの!」
突如声を上げたのはセレンだった。
後ろでずっと待っていたらしい。
カーティスがセレンを見つけて目を限界まで見開く。
「!? セ、セレン!」
「あ! 待ってくれカーティス! 今の母さんは大丈夫だ! 攻撃しないでくれ!」
「ぇ、ええ……グロリアから話は聞いています。ちょっとビックリしただけです……」
「なら良かった。細かい挨拶は後でいいよな? 母さんは俺に付いてきてくれ」
祖母と孫の再会の挨拶を後回しにする。
かなり薄情な事を言っているのは自覚していた。
だが、今はそんな悠長なことはしていられない。
「え、でも」
「今は我慢して母さん。リーネさんを救うのが先決だ。リーネさんは俺の妻の妹さんなんだよ」
「! わかったわ。カーティス。また、あとでね」
「……はい。あとで」
どこかギコちない挨拶だけ交わしたカーティスとセレン。
見た目だけで見ると、兄と妹のようにしか見えなかった。
※
レグナとリイドが搬送されたという病院へ駆け付けたレィナとミオン。
部屋を受付から聞いてそこへ向かった。
「レグナ! リイド!」
個室の扉を空けたレィナが目にしたのは、ベッドで横たわる包帯だらけの息子二人だった。
その二人の見舞いに来てくれていたらしいカティアとローエの姿もあった。
「レィナ! 落ち着け。二人の命に別状はない」
すぐにカティアが伝え、レィナはそれだけで一気に安堵した。
後ろのミオンもそれを聞いてホッとする。
「良かった……でも、酷い怪我……」
「ええ……わたくし達が駆け付けた頃にはもうボロボロでしたの」
「トドメを刺される前に追いついたのが、せめてもの救いだった」
ローエとカティアがそう言い、レィナは一粒の涙を零す。
「どうして退かなかったのよ……」
そのレィナの一言を聞いて、ローエはハッとする。
「レィナさん……リーネの事は?」
「聞きました」
「でしたら……」
「分かってます。リーネを救うために退けなかった。必死に食らいついていたんですよね。……わかってますよ。でも……それで、もし死んでたら……リーネも私も……。お願いだから……順番は守ってよ……親より先に死なないで……」
重い口を発するレィナに、カティアとローエは同じ母親として心中を察する。
「リーネだって……息子が死ぬくらいなら自分の死を選ぶのに……この子達はいっつも……私とリーネの気持ちを分かってない」
「レィナ……気持ちは分かるけど、あんまり叱っちゃダメよ? たぶん……一番辛いのはその子達だと思う」
付き添いのミオンの言葉にレィナは目を大きくする。
「ドラグーンに勝てるだけの力量がなかった。単純な実力不足という結果は……騎士としては辛いと思うの。ましてやそれで母親を救えなかったとなれば尚更」
「……」
ミオンに言われ、返す言葉もなかったレィナは、しばらくレグナとリイドを見つめていた。
包帯だらけの息子二人を見るだけで怒りが込み上がってくる。
自分の子供をここまでされて黙っていられる親などいるはずもない。
「カティアお姉様……相手はどんな奴でしたか?」
「ん……青い長髪の女騎士と、赤いツインテールの女騎士だ。青い方は槍。赤い方は大剣を使っていた」
「名前も聞き取りましたわ。青い方はオルテンシア。赤い方はレジーナと呼ばれてましたわよ」
カティアとローエが情報を提供してくれた。
「ありがとうございます。覚えておきます」
オルテンシアとレジーナ……か。
絶対に許さない。
絶対に!