【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
自分の腕を見ると、そこには先程のオリハルコンの手錠が!
しかもロジェールの腕と繋がっている!
「何やってんだお前はああああああああ!」
「ええええ!? これわたしのせいなの!?」
どう考えてもお前のせいだろとツッコミたくなったがそれどころではない。
目の前に敵がいる。
こんな状態で戦えるわけない!
「さっさと外せ!」
「無理だよ! 鍵持ってない!」
「なんで持ってないんだ!」
「だって要るなんて思わないじゃん!」
こ、こいつ!
どこまで足を引っ張れば気が済むんだ!
ネオは頭の血管が切れそうになった。
しかし次の瞬間、敵の女騎士が斧を掲げて振り下ろしてきた。
「ちっ!」
「きゃっ!?」
ネオはロジェールを抱えて即座に後ろへステップする。
地面に当たった斧は花をメチャクチャに爆ぜさせた。
「ぁあん避けないでよ〜。せっかくその手錠壊してあげようと思ったのに〜」
女騎士は忌々しい笑みを浮かべながら言った。
こちらが手錠で繋がっているのをいいことに余裕の笑みだ。
しかもよく見れば背中に翼が生えている。
妙に高い跳躍だと思えばそういうことか。
ドラグーンとはあんな中途半端な変身もできるのか。
「ねぇ! エルジーはどうしたの!」
ネオに抱えられながらロジェールは叫んだ。
「エルジー? ……ああ。あのメイドの子か。お父様に指を折られてたよ」
「なっ!」
「そのあとその指を踏んづけられてたな〜」
折れた指を踏んづけた!?
この腐れ外道が!
「よ、よくもおおおお!」
ロジェールが激昂し、体勢を変えて走り出そうとした。
「よせロジェール!」
ネオは彼女を行かせずまた無理矢理に抱えて走り出した。
「きゃっ! なんで逃げるの!?」
「頭を冷やせ! こんな状態で戦えるか!」
ネオの戦闘スタイルは二刀流。
その片腕がロジェールによって塞がれている。
これでは満足な攻撃が出来ない。
何よりロジェールを庇いながら戦うことそのものがリスクだ。
最悪、二人とも討たれてしまう。
だから悔しいが、ここは逃げるしかない!
それにさっきから周りでドラゴンの気配もするのだ。
しかも囲まれている。
さすがに騒ぎすぎたのかもしれない。
「逃がさないよ!」
翼を広げて飛翔した女騎士がネオに飛び掛かる。
その距離はあっという間に縮まっていく。
速いな。
やはり足で振り切るのは無理か。
女騎士は執拗に空からネオを狙った。
斧によるヒットアンドアウェイを繰り返す。
規則的な攻撃を強めてきた。
だがネオもロジェールを抱えながら残った片腕で剣を握り、
女騎士の空襲を捌いた。
「もう一発!」
「また来るよネオ!」
「動くな! ジッとしていろ!」
ロジェールを黙らせ、走りながらネオは女騎士の攻撃を見切ってみせた。
擦れ違いざまに女騎士の腕を斬り伏せた。
「え?」
ガシャンと斧を持った腕が地面に落ちた。
女騎士は一瞬キョトンとした。
わずかに遅くなりながらも何が起きたのかを把握し青ざめる。
「ぅ、嘘!? 腕が!」
「【真・竜斬り・閃空】!」
マヌケにも空中で止まった女騎士を目掛けてネオは斬撃を飛ばした。
それを見た女騎士は残った左腕に青い竜鱗を纏わせた。
「そんなもの! 鱗を纏えば!」
ドシュッ!
「え?」
女騎士の左腕はあっけなく吹き飛んだ。
「嘘!? なんで!?」
ドラゴンの防御力を過信していたのだろう。
女騎士は両腕を失って半ばパニックになっている。
ここでトドメを刺すべきか?
いや、奴らは確か心臓を潰さないと永遠に再生するとゼクードさんが言っていた。
ならばやはりここは逃げるが正解か。
ネオは遠くに見える川に向かって走り出した。
「あ! 逃がすな! みんな行けえええ!」
女騎士がいきなり叫ぶと、どこからともなくA級ドラゴンが多数現れて襲いかかってきた。
さっきからしていた気配はやはりコイツらだったのか!
「い、いつの間にこんな! ネオどうする!?」
「逃げるに決まってるだろ! 歯を食いしばってろ!」
ネオはさらに速度を上げて走った。
川が近づいてくる。
「ちょ、ちょっとネオ! 前は川だよ!」
「息を吸え! 飛び込むぞ!」
「ええええ!?」
ネオは迷わず飛び、大きな川へロジェールと共に落ちた。
追いついたA級ドラゴンたちと女騎士は川に飛び込まずに止まった。
「暗くてよく見えない……匂いも途切れた。ぁあもぅ! 逃げられた!」
夜の川は水面すらまともに見えない。
匂いによる追撃もし難い。
ネオはそれすらも計算していた。
★
川に飛び込んだネオはロジェールを抱えながら片手で必死に泳いだ。
さほど強くない川の流れでも、人ひとり抱えて片手で逆らうのは無理があった。
手錠でろくな水泳ができないネオは仕方なく流れに従って下流へ。
ロジェールが苦しそうにしているが、まだ水面から顔を上げるのはマズイ。
もう少しだけ我慢してくれと、ネオは流れに従ってスピードを上げた。
そして!
「ぷっはぁ!」
「ぷはぁっ!」
かなり流されてからようやく水面から顔を出した。
共に息が限界だったロジェールはゲホゲホとむせている。
かなり無理をさせて申し訳ない気持ちになったが、おかげであのドラグーンの追跡から振り切れた。
ネオは辺りを見回し、近くに登れそうな岸を見つける。
「岸に上がる。しっかり捕まってろ」
「ぅ、うん!」
ロジェールはネオにしっかりと抱きつき、ネオもしっかりとロジェールの腰を抱く。
片手で川を掻き、岸に辿り着いて這い上がった。
びしょ濡れの身体から水が大量に滴った。
靴や鎧に水が溜まって重い。
ロジェールはグッタリしながら周囲を見渡した。
そこは木が生い茂る真っ暗な場所だった。
月明かりだけが視界を確保してくれる。
あっちを見てもこっちを見ても木だらけだ。
森みたいなこの光景は……
「ここ……【竜軍の森】?」
「ああ。この川はここを通ってから海へ出る」
ネオが言うとロジェールは目を見開く。
「ならエルジーはどこかにいるかも!」
「なんでそうなる?」
「だってゼクード様は【竜軍の森】で襲われたんでしょ? てことはここがアイツらの縄張りってことじゃない!」
「そんな安直な話が……」
言いかけたネオは空からの気配に気づいてロジェールを引っ張った。
「隠れるぞ! こっちだ!」
「え? あ!」
近くの茂みに身を隠したネオとロジェールは空を見る。
そこには先程襲ってきたあの青いドラゴンが飛行していた。
「やっぱり居ないかぁ……帰ろ。あんまり遅いとお父様におこられちゃう」
キョロキョロと川の周辺を見ながらそのまま飛んで行く。
そのドラゴンは森の奥地で降下していった。
……もう両腕が再生してやがる。
化け物め。
「さっきのドラゴンだ! ほらネオ! やっぱりここに居るんだよ!」
「……みたいだな」
「あいつを追えばエルジーを見つけられるかも! 早く行こう!」
「バカ言うな! こんな状態で戦えるか!」
「ネオの斬撃なら斬れるでしょ!」
「斬れるわけ…………」
いや、待てよ?
この手錠はオリハルコン。
僕の剣もオリハルコン。
僕の【気】をこのオリハルコンの剣に纏わせれば、鎖くらいは斬れるかもしれない。
「……? ネオ?」
「……やってみるか」
「え? あ、うん」
ロジェールと共に地面に手を置いて手錠の鎖をビンッと張り詰めさせた。
「いくぞ」
「ぅ、うん!」
このときロジェールは、ネオが剣で手錠をツンツンしながら地道に壊していくものだと思っていた。
しかしネオは手を大きく掲げて、剣を全力で振り下ろしてきた!
「わああああああああああ!」
予想外すぎるネオの行動にロジェールは思わず悲鳴を上げてしまっていた。
だがネオの斬撃は見事に鎖を断ち切っていた。
「よし! 斬れた!」
「ネオのバカ! 腕吹っ飛ぶかと思ったよ!」
怒鳴るロジェールを無視したネオは、先程のドラゴンが降下した方面を見る。
あそこにエルジーがいるかもしれない。
助けてやりたいが、僕一人では無理だろう。
「場所を特定できたのはデカいな。明日はこのまま【エルガンディ】へ向かってゼクードさんたちに応援を頼もう」
言いながら振り返ると、当のロジェールはすでに走り出していた。
「おい待てロジェール! どこへ行く気だ!?」
「エルジーを助けに行くんだよ! ネオも早く!」
まさかこのまま降下地点へ向かう気か!?
「バカヤロウ! 相手は何人いると思ってるんだ! このまま行ったらゼクードさんの二の舞だぞ!」
「でもまたエルジーが酷い目に合わされてたらどうするのよ!」
「それは――――」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!」
突如として響いてきたのは女性の悲鳴だった。
その悲鳴はどこか聞き覚えがある!
「今の悲鳴は!」
「エルジーだよ! やっぱり何かされてる!」
ロジェールは駆け出した。
「あ! おい! ああくそ! あのバカ!」
ネオも駆け出しロジェールを追った。
※
「まったく……クモ一匹で騒ぐな! このバカが!」
【竜軍の森】の奥地にてレグが怒鳴った。
「そんな言い方ないでしょう! こんな大きなクモが頭の上に落ちてきたら誰だってビックリするわよ!」
泣いているエルジーに代わってリーネが反論した。
エルジーに乗ったクモはすぐさまレグによって処分されたが……
「黙れよ平民。口答えするな」
「冷たい男ね。そんなんじゃ死ぬまで結婚できないわよ」
「なんだと!」
パチン! と焚き火が弾けた。
リーネの言葉に眉間にシワを寄せるレグだが、周囲にいる姉たちが口々にざわめき始める。
「あ〜それは思う」
「うん。ワタシも」
「レグって冷たいよね」
「なっ!」
「そうかしら? レグはいつも私たちのことを助けてくれるから、冷たいなんて思ったことないわ」
一人だけ意見が違ったのはアグリスだった。
しかし。
「口が悪くて短気だとは思うけどね」
「おい!」
怒る弟に姉たちは笑った。
そんな子供たちをヴァルドレイクは黙って見つめる。
すると空から一匹のドラゴンが帰ってきた。
「みんな〜」
「あ、メルセーヌ帰ってきた」
「おかえりなさい。空の散歩はどうだった?」
ドレスに聞かれ、メルセーヌは人間の姿に戻ってから答える。
「快適〜。でも途中でケンカしてるカップルを見つけてイラッと来たら襲ったんだけど、メチャクチャ強くてビックリしちゃった」
その言葉に反応したのはヴァルドレイクだった。
「ほぅ? メルセーヌ。そいつはどんな奴だ?」
「あ、えと……黒い髪で、目がピンク色の男でした!」
「なるほど……もうひとりは?」
「白っぽい長髪のロングブレード使いでした。女の子です」
「白い長髪……ロングブレード使い……まさか」
「どうされましたか? 父上」
レグに聞かれ、ヴァルドレイクは顎を撫でる。
「私の調べでは【シエルグリス】の女王はレイゼという女だ。その娘にロジェールという王女がいる。その王女は白い長髪にロングブレードを使う女騎士でもある」
「特徴が一致してる! じゃあ!」っとアグリス。
「ああ。信じられんが王女の可能性がある。捕まえれば【シエルグリス】を簡単に制圧できるかもしれん」
「【シエルグリス】を無傷で手に入れられるチャンスですね! 捕まえましょう父上!」っとレグ。
「そうしたいが……メルセーヌ」
「はい!」
「ソイツらは今、どこにいるか分かるか?」
「あ……えっと、それは……」
「まさか殺したか?」
「いえ! 実は……川に飛び込まれて逃げられて……」
「川?」
「はい。この【竜軍の森】に繋がっている川です。もしかしたらここのどこかに流れついてるかも、なんですけど……」
「そうか。ならばまだ可能性はあるな。よし。今から王女を捕まえるぞ」
ヴァルドレイクが言うと女騎士たちは「はい!」と声を揃えた。
ヴァルドレイクは続けて指示を出す。
「メルセーヌ。お前は飛んでもう一度【シエルグリス】付近を調べてこい。見つかるなよ」
「わかりました!」
「レグ。お前はここに残れ。見張り番だ」
「はっ!」
「他は私と共に【竜軍の森】をくまなく探す」
「はい!」