【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
ネオは先に行ってしまったロジェールを追いかけ森の中を疾走していたが、こともあろうにロジェールを見失ってしまっていた。
あのドラグーンが降下した場所へ向かったのだろうと思ってこの方角を進んできたが、ロジェールの背が一向に見えない。
あいつこんなに足速かったか?
「おいロジェール! どこ行ったんだあのバカ女! 足手まとい以外の何者でもないぞ!」
王女に対して敬語を使わなくなったネオが毒づく。
彼女に対して頭に来たのもあるが、なにより敵にロジェールが王女だと言うことをバラしたくないからだ。
ロジェールが捕まって人質にされたら一巻の終わりだ。
それこそ【シエルグリス】が奴らの手中に支配される。
それだけは避けねばならぬのに、ロジェールはどこまで先に行ってしまったのだろう。
「くそ! 先走りやがって! あいつ自分の立場を忘れてるんじゃないか!?」
苛つく気持ちを吐き出しながらネオは視界の悪い森の中を走った。
おそろく降下地点にいるであろう次期君主を追って。
川に落ちたせいで泥臭い身体を我慢しながら、ネオはひたすらに走った。
※
「あれ? ここ……どこ?」
当のロジェールは似たような森の背景に惑わされすっかり迷子になっていた。
ネオがとっくに自分を抜いて先に行ってしまったことにも気づかない。
見渡す限り森・森・森!
木や草などには蛇や虫などが跋扈(ばっこ)する。
非常に気持ち悪い。
走ってたら顔が蜘蛛の巣に掛かって悲鳴を上げそうになったりもした。
「ネ、ネオ? どこにいるの?」
さっきまで後を追ってきていたはずなのに……頼りになる幼馴染はそこにはいなかった。
たぶんネオはそのままエルジーたちがいる降下地点に向かったのだろう。
分かるのだけど、それがどの方角か分からなくなってしまった。
真っ暗闇の森は視界が悪すぎてどれも同じ景色に見える。
方向感覚が狂うほどに同じ景色だ。
降下地点はどっちだったっけ?
早くエルジーを助けてあげないと、今この瞬間にもエルジーは奴らに酷い目に合わされている。
それだけは許せない!
「見〜つけた!」
「!?」
突如として空から聞こえたのは先程のドラグーンの女騎士の声だった。
ロジェールは空を見上げると、翼を生やした女騎士がまっすぐロジェールに向かって降りてくる。
やばい!
見つかった!
しかもさっきの女騎士だ!
ロジェールは咄嗟に祖母の形見である長剣【ブラックローズ】を抜刀して構えた。
「また会ったね王女さま」
「なっ!?」
なんで王女だとバレてるの!?
「さっきのメチャクチャ強い男はいないんだ? ラッキー! 私はメルセーヌ・ディアマードです。どうか王女さま。抵抗せず大人しく捕まってくれないかな? あなたを捕まえたらお父様にぜったい褒められるし」
「エルジーを返して!」
「捕まってくれたら会わせてあげるよ?」
「さっきのエルジーの悲鳴は何!? またエルジーに酷いことしたんでしょ!」
「知らないよそんなこと。それより武器を捨てて。無駄な抵抗しないで捕まってよ」
「断わります! エルジーの居場所を吐いてもらうわ!」
「え? やる気なの? あなた強そうには見えないけど……」
「バカにしないで! 私だって!」
ロジェールはロングブレードにありったけの【気】を纏わせ薙ぎ払った。
しかしその斬撃はメルセーヌの片腕にあっさり防がれる。
「私だって……なに?」
「!?」
メルセーヌの腕に刃が通らなかった。
まるで鉄に当たったかのような手応えだった。
「痛くも痒くもないよ? ほら、傷一つない。それで本気なの?」
「嘘……」
ネオはあんなに簡単に斬ってたのに……
見ればメルセーヌの腕はドラゴンの鱗に覆われており、爪も鋭利になっていた。
もはや人のものではない少女の腕にロジェールは絶句する。
「こんなに弱いのにどうしてさっきの男から離れたのかな?」
ネオの事だ。
離れたんじゃない。
ネオが勝手にいなくなっただけで……
「あのまま繋がって守ってもらってれば良かったのに。バカな女」
「くっ!」
ロジェールは一歩下がって長剣を構え直すと、メルセーヌの背後から背の高いシルクハットの男が現れた。
「見つけたようだな」
「お父様!」
お父様!?
もしかしてゼクード様が言っていたヴァルドレイク!?
「よくやったぞメルセーヌ」
「はい!」
ヴァルドレイクらしき男はメルセーヌを優しく撫でた。
メルセーヌは心底嬉しそうに満面の笑みを零す。
父親のいないロジェールには、その光景がちょっとだけ眩しく見えた。
「さて……」
メルセーヌを撫で終えたヴァルドレイクが迫ってくる。
「ち、近づかないで! 斬りますよ!」
ロングブレードを構えた瞬間、ヴァルドレイクがその刀身を掴んできた。
するとロジェールが押しても引いてもロングブレードは動かなくなり、次の瞬間には刀身が砕き割れた!
「ぉ、お婆ちゃんの剣が!」
大切な形見を砕かれ、凄まじい損失感がロジェールを襲う。
「考えのない抵抗ならばしない方がよろしい。我々もあなたに危害を加えたくはない」
「……っ!」
「質問に答えて頂こう。あなたは【シエルグリス】の王女ロジェールですね?」
「! 違います!」
「……まぁ、言いたくないなら構いません。人質の指をへし折りながら、話をしようじゃありませんか」
「人質って……まさかエルジーの!?」
「おや? 知り合いですか? これは好都合」
「まさか! あなたがエルジーの指を! 許さない!」
ロジェールは怒り、折れた【ブラックローズ】を突き立てようと走る。
しかし見えない何かに殴られ吹き飛んだ。
「あぐっ!」
なに!?
何をくらったの!?
「考えのない抵抗ならばしない方がいいと言ったはずですが?」
ヴァルドレイクが手を鳴らしている。
やっぱりさっきのはこの男に殴られた?
み、見えなかった!
この人、この子より強さが段違いだ!
「今すぐ答えてくれればエルジーの指を折らないと約束しよう」
「……っ!」
「あなたは王女ロジェールですね?」
「それは……」
どうしよう……
答えたら、ネオの言ったとおりになっちゃう……
ネオ……助けて……
★
居た!
エルジーだ!
隣にいる女性は【エルガンディ】の錬金術師リーネさんだ。
見たことがある。
僕の武器も彼女に錬成してもらったものだ。
しかし何故ここに?
まさかオリハルコン武具のために捕まったのか?
……と、ネオは森の茂みからそう考えながら覗いていた。
あのドラグーンが降下した場所にようやく着いたが、そこにロジェールの姿はなかった。
あったのはエルジーとリーネ。
そして……
この凄まじい【気】を発している金髪の男。
名前は分からないがロングブレードの使い手みたいだ。
あの金髪の男がエルジーとリーネを見張っている様だ。
他のドラグーンたちは見当たらない。
よく分からないが、これはチャンスと見ていいだろう。
当のエルジーとリーネは縛られてこそいないが、エルジーだけ手に包帯が巻かれている。
あの女ドラグーンが言っていた通り、エルジーは指を折られたらしい。
「そこにいるのは誰だ?」
「!」
金髪の男がネオの隠れる茂みに向かってそう言ってきた。
どうやらバレていたようだ。
気配は消していたつもりだったが、やはりゼクードさんが言っていた嗅覚だろうか?
ドラグーンはみんな嗅覚が鋭くなるらしいが……
ネオはゆっくりと立ち上がって二刀の剣を抜く。
「ネオ!」
ネオを見つけたエルジーが声を上げた。
彼女の近くにある焚き火がパチンと爆ぜる。
「ネオ……だと?」
金髪の男は抜刀済のネオを見てニヤリと笑った。
「くく……気の早い奴だ。もう剣を抜いているのか」
「そこの二人を助けなきゃいけないんでな。悪いが死んでもらうぞ」
言いながらネオは剣を構える。
できればエルジーとリーネがいるこんな場所を戦場にしたくはなかったが、そうも言ってられない。
ロジェールはやはりどこにもいないし、本当にどこに行ったんだアイツは?
「二刀流か。ということはお前が父上の言っていた【シエルグリス】のネオだな」
僕の名を知っているのか?
下調べされていたということか。
いったいどうやって……
「相手にとって不足はない。このオレ……レグ・ディアマードが相手をしてやろう! もしこのオレに勝てたら二人は返してやるよ」
「ふん……あとで後悔するぞ」
とは言ったものの……このレグという金髪の男は強い。
【気】がカーティスと同等か、もしくはそれ以上か。
悔しいが、まともにやり合ったら勝てそうにない。
さて、どうするか……
幸いエルジーとリーネは拘束されていない。
隙を作ってやれば逃げ出せるはず。
時間を掛ければ他のドラグーンが戻ってきて逃げられる可能性が減る。
時間との戦いだ。
一気に攻めたてるしかない!