【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第367話【酷い父親】

 土煙を焚くことで匂いと視界を遮り、うまく逃げることができた。

 

 エルジーもリーネも無事に救出できた。

 武器の回収も忘れない。

 オリハルコン武具は希少な物だ。

 やすやすと捨てられない。

 

 ネオは拓けた街道になんとか戻った。

 位置的に【エルガンディ寄り】の方角だろう。

 誰の気配もないことを確認してから、抱えていたエルジーとリーネを降ろす。

 

「ここまで来れば大丈夫だろう」

 

「ありがとう貴方。助かったわ」

 

 リーネに言われて「いえ、無事で何よりです」と返す。

 そしてエルジーは。

 

「来てくれてありがとうネオ……本当に……本当に!」

 

 頬を赤くして潤んだ目をしていた。

 よほど怖かったのだろう。

 誘拐され、指も折られればこうもなる。

 

「エルジー。ロジェールを見なかったか?」

 

「え?」

 

「僕より先にお前の元へ向かったはずなんだ」

 

「王女様が!?」

 

 なぜこんなところに王女自らが来ているのか?

 エルジーの顔は驚愕に染まっていた。

 この反応を見る限り、やはりロジェールは……

 

「そ、そんな……どうして王女様が!? 貴方一人ではないの!?」

 

「あのバカは王国を飛び出して来たんだ。お前を助けるために」

 

「そんな……」

 

「お前が見ていないとなると、やはりあのバカは森で迷ったみたいだな」

 

「探しましょうネオ! 王女が捕まったら大変なことに!」

 

「わかってる。だが……」

 

 ネオはエルジーとリーネを見た。

 夜でただでさえ危険な【竜軍の森】にはA級ドラゴンとドラグーンが徘徊している。

 

 エルジーは利き腕を負傷していて戦えない。

 リーネもただの一般人だ。戦闘能力はない。

 だからこの二人を置いてロジェールを探しに行けるはずもない。

 

 ならば二人を連れてロジェールを探すか?

 それも危険だ。

 複数のドラグーンに見つかったら守り切れる自信はない。

 

 どうするべきか……

 

「ネオ。リーネさんは私が守ります。だから行ってください」

 

「バカを言うな。利き腕が使えないお前に何ができる?」

 

「それは……でも! 王女の命は私たちより優先されるべきはずです!」

 

「そんなことは百も承知だ。だが王女は殺されない。人質として使われるだけだ」

 

「そんな!」

 

「アイツを人質にされれば【シエルグリス】は為す術もなく奴らの手に落ちることになる。……これはもう、時間の問題だろう」

 

 ネオが言うとリーネが前に出てきた。

 

「まだ捕まったって決まったわけじゃないんでしょう? だったら……」

 

「無理です。奴らは鼻が利きます。そのうえA級ドラゴンも従えられる。僕ならともかく、王女では逃げ切ることは不可能でしょう」

 

「見捨てるんですかネオ! 王女を!」

 

 エルジーが取り乱すが、ネオは無言を返事にした。

 どう言い繕おうが、今考えていることはそうなってしまうからだ。

 

「【エルガンディ】へ行くぞ」

 

「「え!?」」

 

 ネオの発言にエルジーとリーネが驚いた。

 

「ゼクードさんとカーティスたちに応援を頼む。それしか王女を……【シエルグリス】を奪還する方法はない」

 

「そ、そんな……ネオ……」

 

 エルジーが後ずさる。

 よほどショックだったみたいだ。

 だが現状ではこれしか打つ手はない。

 

「嫌なら助けに行けばいい。だがもう僕は助けてやらないからな」

 

 突き放すように言い切ったネオに、エルジーは悲しそうに俯いた。

 エルジーからすれば助けに来てくれた友達を置いて、自分だけ逃げる形になるのが許せないのだろう。

 

 だから行きたければ行けばいいとネオはあえて言った。

 今ここでエルジーが踵を返してロジェールを助けに向かっても、止める気はない。

 

 しかし、そんなエルジーの背中を撫でたのはリーネだった。

 

「エルジーさん……ここは彼の言うとおりにしましょう?」

 

「リーネさん……」

 

「大丈夫よ。お義兄さ……ゼクードさんならきっと何か良い案を考えてくれるはずよ。助けてもらうために、ここは我慢しましょう」

 

「……………………わかり、ました」

 

 

 ロジェールがヴァルドレイクに連れてこられた時にはもうエルジーの姿はなかった。

 ネオと交戦したレグという男が取り逃がしてしまったらしい。

 

「ち、父上……申し訳ありません!」

 

「この愚か者め!」

 

 怒鳴ったヴァルドレイクの平手がレグの頬を叩いた。

 かなり本気で叩いたようでレグが倒れる。

 

「居眠りでもしていたのかキサマは!」

 

 ヴァルドレイクの怒りの声は見る者さえ畏怖するほどの迫力があった。

 レグはもちろんのこと、周りにいる女騎士たちも冷や汗を流して身をすくませる。

 ホーホーと鳴いていた森のフクロウもそれで静まる。

 

「も、申し訳ありません! 申し訳ありません!」

 

 レグが必死に頭を下げていると、アグリスという女騎士が彼を庇うように両手を広げて前に立った。

 

「お、お父様! 暴力はやめてください!」

 

「そこをどけアグリス! 私は今レグと話をしているんだ!」

 

「レ、レグを殴るなら、代わりにアタシを殴ってください!」

 

「なんだと?」

 

 アグリスの発言にヴァルドレイクは怪訝な顔を浮かべる。

 レグや女騎士たちも驚愕した気配を見せた。

 

「ァ、アグリス……お前……」

 

 レグがアグリスの背中を見つめ、当のアグリスは震えながらもヴァルドレイクを見据えた。

 

「レ、レグだって人間です。失敗する時だってあり――――」

 

 ドスッ!

 

「うっ!」

 

 なにか鈍い音がしたと思うと、ブシャアと鮮血がアグリスの胸から飛んだ。

 

「「「アグリス!」」」

 

 レグや女騎士たちが悲鳴を上げるようにアグリスの名を叫んだ。

 ロジェールは目を疑った。

 ヴァルドレイクはアグリスの胸に腕を突き刺していた。

 それもかなり深く。

 

「あ! あ! が! は……は! あ!」

 

「このまま心臓を引きちぎって食ってやっても良いんだぞ?」

 

 な……な、なに……なにやってるのコイツ!?

 自分の娘に、なにを!?

 

「ち、父上! やめてください! お願いします!」

 

 レグが必死に懇願し始めると、周りの女騎士たちも一気に騒ぎ始めた。

 

「お父様やめて! アグリスが死んでしまう!」

「お父様お願い! 殺さないで!」

「お父様!」

 

 そんな女騎士たちを一瞥してからヴァルドレイクはアグリスから腕を引き抜いた。

 

「う、あ……!」

 

「……二度と私に口答えするな」

 

 言い捨てたヴァルドレイクはアグリスを地面へ振り落とす。

 

「あぐっ! はぁ……あ!」

 

 大量の血を胸から流し、そこを押さえて過呼吸を繰り返すアグリス。

 

「アグリス!」

 

 レグが慌てて寄り添うと、他の女騎士たちもアグリスに包帯やらを持ち出して手当を始めた。

 しかしヴァルドレイクは手についたアグリスの血を払いながら口を開く。

 

「手当てなどしなくていい。すぐに治る」

 

「酷い……それが父親の言うことなの!」

 

 頭にきたロジェールはヴァルドレイクを睨んだ。

 手をロープて結ばれてなければ殴ってやりたいくらいだ。

 しかしヴァルドレイクは不敵に嗤う。

 

「過激に見えますか? 私は父親の中でも優しい方だと自負していますがね」

 

「どこが! 今さっき娘を殺そうとしたくせに!」

 

「我々の故郷【ハーティシオ王国】では父親というのは絶対的な存在です。私の父もそうでした。強く・気高く・野心に満ちていた」

 

 言いながらヴァルドレイクは星々の輝く夜空を見上げた。

 

「そして冷酷・非情……自分が無能と判断した子供は容赦なく殺す。私には兄弟がたくさんいましたが、残ったのは私一人だけでした」

 

「そんな……なんでそんな!」

 

 あまりに過激な話にロジェールは首を振る。

 ヴァルドレイクは視線を下げてシルクハットを被り直した。

 

「それが貴族を代表する大貴族ゆえの【しきたり】だからです。無能な跡継ぎでは大貴族の長は務まらない。あなたのようなね」

 

「!」

 

「友達と王国を天秤に掛け、友達を取る。実に立派で、実に愚かだ。あなたは【王の器】ではない」

 

 キッパリと言い切られ、ロジェールは歯を食いしばるしか出来なかった。

 

「まぁ……若すぎるというのもあるのでしょうが」

 

 フォローのつもりだろうか?

 忌々しい笑みである。

 でも反論できないでいる自分は、やはりそうなのだろう。

 母レイゼほどの【王の器】でないのは、自分でもわかっていたからだ。

 

 現に今こうして捕まってしまっているのだから。

 

「あなたの無能さには感謝していますよ? おかげで我々は【シエルグリス】を難なく手にすることができる」

 

「く……」

 

 悔しい……

 自分にもっと力があればこんなことには……

 ネオの言うとおりになってしまった……

 

 ネオ……ごめんなさい……

 本当にごめんなさい…………

 

「明日の朝ここを発つ。【シエルグリス】を制圧するぞ」

 

「は、はい!」

 

 レグや女騎士たちが慌てて返事をする。

 

「おそらく戦闘にはならんと思うが、油断はするなよ」

 

「はい!」

 

「【シエルグリス】を制圧した後【エルガンディ】も制圧する。各自、自分の能力はしっかり把握しておけ。実戦で使えるようにしておくんだ」

 

「はい!」

 

「……返事だけは良い」

 

 ボソッとヴァルドレイクは呟いた。

 そしてレグを見る。

 

「レグ」

 

「は……はい!」

 

「次は無いぞ?」

 

「は……はっ!」

 

 冷や汗を流したレグが返事をし、それを確認したヴァルドレイクは踵を返した。

 

「頭を冷やしてくる。あとは自由にしろ。王女だけは逃がすなよ」

 

「はい!」

 

 女騎士たちの返事を後にヴァルドレイクは森の奥へと去って行った。

 そしてすぐさまレグが胸に包帯を巻かれたアグリスを起こす。

 

「アグリス! 大丈夫か!?」

 

「ごほっ! 大丈夫……すぐ治るから……」

 

「なんでオレを庇った! 父上に口答えするなんて自殺行為だぞ!」

 

「……べつに。【エルガンディ】で助けてくれたから……っていうか、いつも助けてくれるから、たまにはって、思ったのよ……」

 

「……! バカ野郎……」

 

 レグはそう言うとアグリスを横にし、自分のマントを掛けてあげた。

 あのヴァルドレイクと比べると凄まじく優しい男に見える。

 

 兄妹の仲はみんな良いのかもしれない。

 ではなぜあんな父親にみんなついて行ってるのだろうか?

 

 ロジェールは近くにいる青い長髪の女騎士オルテンシアに声を掛けた。

 

「……ねぇ」

 

「ん?」

 

「なんであなた達はあんな酷いお父さんについていくの?」

 

「酷い? お父様は優しい方よ? 現に私達だれも死んでないし、捨てられてもいないでしょう?」

 

「そんなに殺されたり捨てられたりするのが当たり前の国なの? その【ハーティシオ】って」

 

「いいえ。大貴族だけよ。私達は【ハーティシオ王国】を代表する三大貴族の一角【ディアマード家】。他の大貴族の父ならばこうはいかなかったわ」

 

「そう……」

 

 他の父親よりはマシだと言いたいのだろうけど、こんなのが家族だろうか?

 

 わたしにはお父さんはいないけれど、これだけは言える。

 

 あんなの父親じゃない。

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