【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
セレンの飛行によって昼前にはもう【竜軍の谷】を越えていた。
そこからは徒歩で【シエルグリス】に向かうことにした。
理由としては敵に補足されにくくするためだ。
ロジェール王女が人質にされることを前提として行動している今……敵の意表を突かねば勝機はない。
そんなこんなで【シエルグリス】が肉眼で見えるところまで接近したセクード一行。
近くの木々と茂みに身を隠し、望遠鏡を覗いてみた。
【シエルグリス】の周囲にはA級ドラゴンの群れがワラワラと集まっている。
信じられない光景が見えた。
「くそ……【シエルグリス】周辺にA級ドラゴンが集まってやがる」
ネオが吐き捨てるように言うと、隣のミオンも望遠鏡を目から離して口を開く。
「ええ。やっぱりあいつらの手に落ちたってことね。門まで開きっぱなしだわ。みんな無事だと良いけど……」
「奴らはA級ドラゴンも従えることができるのか?」
カティアに聞かれたネオは頷く。
「ええ。僕も一度それを見ています。間違いないです」
「そうか。厄介だな……」
カティアが腕を組んで険しい顔をするが、ゼクードは構わず言葉を紡いだ。
「A級ドラゴンはシエルグリスの騎士たちに任せればいい。俺たちがやることは姉さんとロジェール王女の救出だ。二人を開放できれば一気に形勢を逆転できる」
「例の作戦で行くんですか? 父さん」っとカーティス。
例の作戦とはセレンとグロリアの空襲のことである。
空からの奇襲は騎士ならば絶好の死角となる。
できるだけ敵の注意をこちらに向けさせる必要があるのだが、レイゼとロジェールを人質として突きつけられたらすぐに動けなくなる。
こちらの前進と空からの奇襲はほぼ同時が好ましい。
だが空からの奇襲がそもそも失敗する可能性もある。
敵にセレンたちの存在がバレた場合だ。
その時のためにもう一人だけ、一発逆転が可能な戦力を入れておきたい。
「そうだな……けど、正直不安はある。だから空襲班にもう一人戦力を追加する」
「誰を追加するの?」
妻のフランベールに聞かれ、ゼクードは意を決して頷いた。
「それはもちろん――――」
※
【シエルグリス】の中央広場に平民たちは集められた。
集められた彼らは、いったい何が始まるのか分からないでざわめいている。
中央広場には高台が設置されており、ヴァルドレイクとレイゼが立っていた。
その脇にはレグとロジェールも立っている。
そしてヴァルドレイクは周到に平民たちを包囲していた。
レジーナ・オルテンシア・アグリス・ドレスたちを中央広場の周囲に展開。
仮に彼女らを突破して逃げたとしても王国の外にはA級ドラゴンの群れを放っている。
戦闘能力のない平民は食われるしかない。
絶対に逃げられないのだ。
ヴァルドレイクは中央広場に集められた民衆を高台から眺める。
「少ない人口でもこれだけ集合させれば絶景ですな」
そう隣に立つレイゼに語りかけるが、彼女は黙ったまま返さない。
付き合いの悪い女王を傍らにヴァルドレイクはシルクハットを被り直しながら溜め息を吐く。
「……しかしあなたにはがっかりさせられた。レイゼさん」
「がっかりだ? そりゃ悪かったな。好みの女じゃなかったってか?」
「此の親にして此の子あり。国のために娘の一人も見捨てられないとは……あなたも王の器とは程遠い人物だったようだ」
「見捨てて抵抗すりゃ王の器だって言いたいのか?」
「ろくな抵抗もせず、あっさり降伏する王に存在価値がありますか?」
「……」
「私は無いと思いますね。上に立つ者ならば力を持つべきだ。平民はいつだって力ある者の支配を望んでいる。支配とは謂わば加護のようなものですから」
ヴァルドレイクの言葉を聞いた民衆や騎士たちがキッとヴァルドレイクを睨んだ。
しかし彼はまったく意に介さず続ける。
「充分な加護を約束できない者が人の上に立つものじゃない。弱者は弱者らしくしていろということだ」
「そうかい。あんたはなんでも出来るみたいだな。羨ましいよ。オレは誰かに助けてもらわねぇと何もできねぇけどな」
「これはこれは……自分の不甲斐なさを全肯定とは。あなたの部下や平民たちはさぞや苦労してそうだ」
「そうかもな。けどみんないつだって助けてくれるぜ? そこんとこあんたはどうなんだよ?」
ドガッ!
「っっ!」
ヴァルドレイクの蹴りがレイゼの顔に入った。
「「レイゼ様!」」
「お母様!」
「「「女王様!」」」
倒れたレイゼにリベカやロジェールや民衆や騎士たちが叫んだ。
顔に蹴りをくらったレイゼは鼻から大量の血を流した。
「口を慎め。いつまで女王のつもりでいる?」
ヴァルドレイクの冷酷な言葉に高台の近くにいた騎士が剣の柄を握った!
「おのれキサマ!」
しかしレグがロジェールの首に剣を突き付ける。
「動くな! 王女がどうなってもいいのか!」
「くっ! 卑怯者め!」
結局誰も抵抗できなかった。
国のトップ二人を人質に取られればどうしようもない。
リベカや他の騎士たちもヴァルドレイクたちを睨むしかできなかった。
それに気を良くしたヴァルドレイクが高台の上で前に出た。
そして民衆たちに口を開く。
「さて……自己紹介をしようか。私はヴァルドレイク・ディアマード。今この瞬間からお前たちの王となった者だ。よく覚えておけ」
民衆たちは戸惑いながらざわめく。
「私が王となる事に異論がある者は出てこい。相手をしてやろう」
「そうかい! だったら相手をしてもらおうじゃねぇか!」
誰もいないであろうと踏んでいたのだが、予想に反して一人だけヴァルドレイクの前に出てきた。
そいつは赤い鎧を着た若い男の騎士だ。
その男を見た者はみんな驚愕していた。
特にリベカが。
「……お前は?」
「おれは【シエルグリス王国】のナンバー3! SS級騎士のローグだ!」