【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
名乗り出たローグは高台へ上がった。
向かいに立つシルクハットの男ヴァルドレイクは不敵に笑って顎を撫でた。
「ほぉ……骨のある騎士もいたか」
「バカ! やめろローグ! 殺されるぞ!」
女王レイゼに怒鳴られるもローグは引き下がらなかった。
「死ぬのが怖かったら騎士なんかやれませんよ!」
主君に言い返し、それからヴァルドレイクを睨んだ。
「いきなり現れて好き勝手言いやがって! おれと勝負しろ!」
「ローグやめて! こいつらはあのゼクードさんさえ勝てなかった相手なのよ!」
今度は母リベカが叫んできた。
母の顔は蒼白で冷や汗が見て分かるほど浮かんでいた。
「そりゃ一対多数だったからだろ。一対一なら話は別だ!」
ローグはあくまで引き下がらない。
国に土足で上がってきた無礼なヴァルドレイクたちを許せない気持ちの方が強かった。
ここは母と妹の故郷だ。
特に母リベカは過去に男の支配を受けた身だ。
またこんな支配を受けさせるわけにはいかない。
父との約束のためにも!
「自惚れるなよクソガキが! お前ごときが父上に敵うと思ってるのか!」
「まぁいいじゃないかレグ」
「父上?」
「見せしめにはちょうどいい奴だ。私に逆らうとどうなるか……思い知らせてやろう」
ヴァルドレイクの血のように赤い眼がギラリと光った。
SS級騎士でも身震いするほど凄まじい殺気を放ってくる。
それでもローグは長剣【ハーズヴァンドオブリージュ】を構えた。
「さぁ来い小僧。私の身体に傷の一つでもつけてみろ」
「言われなくても!」
ローグは一息に踏み込んだ。
常人ならば対応できない速度を容易く発する脚力は、さすがSS級騎士だった。
「必殺! アークインフェルノスラッシュ!」
渾身の技名を叫び、大きな袈裟斬りを放つ。
しかしヴァルドレイクは避ける素振りすら見せず、その一太刀を胸に受けた。
「受けた!?」
レイゼやリベカやロジェールたちが驚愕する。
だが裂けたのはヴァルドレイクの衣服のみで、肉体に刃は通っていなかった。
「な、なに!?」
なんだこの手応え!?
堅い!
これじゃまるで……S級ドラゴンの竜鱗じゃねーか!
「どうした小僧? もう終わりか?」
「な!?」
顔を上げたローグは驚いた。
ヴァルドレイクの顔がドラゴンのそれになっていたのだ。
赤い目はそのままに。
漆黒の竜鱗に覆われている。
「か、顔が!」
「ドラゴンになった!」
「に、人間じゃないの!?」
「何者なんだアイツは!?」
高台の下で見守る市民たちが驚愕の声を上げた。
それを聞いたヴァルドレイクはまたも嗤う。
「何者……か。そうか。知らぬなら伝えよう。我々は【人間の知性】と【ドラゴンの強靭な肉体】その2つを併せ持った新人類【ドラグーン】だ」
「こ、これがドラグーン……!?」
みんなドラグーンの名は知っていた。
だが脅威を知らなかった。
そして今、思い知らされた。
「これからこの世界を支配していく種族の名だ。よく覚えておけ」
ヴァルドレイクの言葉にローグはもう一度長剣を握り直す。
「なにがドラグーンだ! 必殺! インペリアルスティンガー!」
今度はヴァルドレイクの目を狙った刺突!
それは見事に命中し、ヴァルドレイクの眼球を穿つ。
「眼に!?」
「刺さった!」
驚愕と歓喜の声が市民たちから沸き起こった。
当のローグは手に伝わってくる肉々しい感触を不快に感じながらも叫ぶ。
「どうだこの野郎! 身体は硬くても眼は硬くできねぇだろ!」
「……なるほど。竜鱗を突破できなければ眼を狙え。騎士の基本だったな」
……っ!?
嘘だろ!?
効いてねぇ!?
ヴァルドレイクは何ともなかったかのように喋ってきた。
突き刺された長剣を自らの手で引き抜き、片目から血を流す。
「だが残念だったな。我々はどれだけ傷を負おうとも再生する」
血を流していた片目が見る見る間に塞がっていった。
あっという間である。
な、治った……!
「これがドラグーンの力だ。お前たち普通の人間ならば致命傷でも、我々にとってはカスリ傷にもならん」
「ば、化け物だ……」
「こんなの……どうやって……」
信じられない光景を見せられた市民たちが絶望する。
だがローグは諦めない。
竜鱗もダメ。
眼のダメ。
ならばドラグーンの弱点はなにか?
そしてそれはネオから聞いている!
長剣を掴むヴァルドレイクの手を振り払い、ローグは本気の突きの構えを取った。
「だったら心臓を穿つまでだ! 奥義! エターナルフォースセイバー!」
鋭い踏み込みと同時に突きを放つ。
それは今やドラゴン戦でも基本的な技【竜突き】だ。
名前こそ改名してあるが、ローグはフォームも完璧な刺突技を繰り出した!
長剣の切っ先がヴァルドレイクの胸に向かって飛来する!
しかしあと少しというところて長剣を素手で止められた。
「あ!?」
こいつ!
素手で剣を止めやがった!
いや、よく見れば竜鱗に覆われている腕だ。
それでも凄まじい怪力だ。
かなり勢いを付けた突きだったのにピタリと止められた。
「さっきから技名だけは立派だな。小僧」
「なに!?」
「だがいいか? 技というのは……こういうものを言うんだ!」
「どわっ!」
長剣ごと押し返されたローグは態勢を崩してしまった。
その一瞬でヴァルドレイクは自分の長剣を抜刀した!
「【ディアマードアーツ・ブレイドパーティー】!」
キンッ! っと甲高い金属音を響かせると、無数の飛ぶ斬撃がローグの全身に襲い掛かった。
「うわああああああああああ!」
「ローグ!」
リベカとレイゼとロジェールが叫ぶ。
ヴァルドレイクの斬撃は鎧の隙間を徹底的に狙っていた。
吹き飛んだローグは倒れ、全身のあちこちから血を吹き出させた。
な、なんだ今の……斬撃?
やべぇ……身体のあっちこっちが斬られた……イテェ……!
裂傷の痛みで意識が朦朧とするローグは、こちらに歩いてくるヴァルドレイクを見た。
こいつ……マジで強ぇ……
生身でこの強さ……それに加えてドラゴンの力まであるのか……
こんなの、反則じゃねぇか……!
けど……ネオか、カーティスか、ゼクードさんなら……!
あの3人の誰かが来てくれれば……!
それまでは!
おれが!
「ほぉ? まだ立つか」
「ダメ! ダメよローグ! もう立たないで! 殺されちゃう!」
リベカが狂ったように叫ぶが、ローグは振り向かない。
大量の出血と裂傷の痛みで意識を繋ぐだけでもキツイ。
コイツに勝つのは……おれじゃ無理か……
悔しいな……
ネオにはけっこう鍛錬つけてもらったのにな……
「ネオという騎士以外はカスばかりだが……お前はカスなりに根性があるようだ。まぁ、それだけだがな」
ムカつく野郎だぜコイツ……
【シエルグリス】の騎士全員をバカにしやがって……
みんながどれだけそのネオに追いつこうと努力してるのか知らないくせに!
それにここは母さんと妹の国だぞ。
こんな奴らに支配なんかさせてたまるか!
「うおおおおおおお!」
意を決してローグは突っ込んだ!
ヴァルドレイクに迫る途中、ローグは何かに殴られた。
「うぐっ!?」
なんだ……今の!?
さらに打撃は続いた。
「うぶっ! ごっ!? がっ! ぶっ! あぶっ!?」
なんだこれ!?
おれは何に殴られてるんだ!?
「がっはっ!」
顔面を執拗に殴られ、最後には顎をカチ上げされた。
まるで掌底をくらったような感触だった。
意味が分からない!
確かに殴られている。
感触は人間の手だ。
でも何も見えない。
見えないほどの速度で殴られているのか!?
「ローグ!」
痺れを切らしたリベカが高台へ乗り込みローグを抱き寄せた。
その間に市民たちは青ざめていた。
「なんだ!? 何が起こったんだ!?」
「わ、わからん……」
「何も見えなかった……速すぎて……」
誰も捉えられなかったヴァルドレイクの攻撃。
正体不明のその攻撃は、ロジェールにも心当たりがあった。
見えない何かに攻撃される恐怖。
あれはいったいなんなのだろうか?
ヴァルドレイクはまったく動いていないというのに。
「ローグ! しっかりして! ローグ!」
「か……母さ……下がっ……奴が……」
もはや声すら発せぬローグは吐血する。
息子の重症具合に驚いたリベカは医者を探そうと振り向いた。
するとそこにはヴァルドレイクが立っていた。
「!」
「そこをどけ。見せしめにトドメを刺す」
「やめて! 殺すなら私を殺して! この子は許してあげて! お願い!」
なに言ってんだよ母さん……
やめてくれ……
こんなんじゃ……こんなんじゃ
親父に合わせる顔がねぇよ……
ローグは情けない自分を呪いつつそう思った。
母さんには生きていてほしいのに、声が出ない。
無理に喋ろうとすると吐き気が込み上がってくる。
当のヴァルドレイクはリベカに対して鼻を利かせた。
「うん? この匂い……そうか、お前たちは親子か」
「そうよ……だからお願い。この子は殺さないで」
「良いだろう。私としてもこの小僧は殺すには惜しいと思っていたところだ。なかなか見込みのある男だ。将来化けるかもしれん。カスなりに、な」
ダ、ダメだ……!
「お前の息子にはこれ以上手は出さん。だが母親のお前は、文字通り身代わりになって死んでもらう」
ダメだ!
やめろ!
やめてくれ!
母さん逃げて!
頼む!
こんな最後なんてあんまりだ!
★
「おいやめろヴァルドレイク!」
「貴様は黙っていろレイゼ。こいつの死刑は決定事項だ」
「ふざけんじゃねぇぞ! 誰か一人でも殺してみろ! その瞬間に反旗を翻すぞ!」
「ほぅ……それは皆殺しにされたい、ということか?」
ヴァルドレイクの余裕の笑み。
しかしレイゼや市民たちの眼は死んでいなかった!
「やりたきゃヤレよ!」
「そうだそうだ!」
「お前の目的は【シエルグリス】の支配だろう!」
「だったら私達の死はお前にとって痛手のはずよ!」
市民たちの声に熱が宿り始めた。
思わぬ市民たちの怒声にヴァルドレイクは目を丸くした。
「キ、キサマらああああ!」
「騒ぐなレグ」
「父上! しかし!」
「なるほど。皆殺しにすれば私の目的は達成できない。確かにそれは私にとっては手痛い反撃だ」
建国を謳う者として平民の存在は絶対に必要なもの。
それなくして支配は成り立たない。
皆殺しは簡単だがヴァルドレイクには一切のメリットがない。
実に弱者らしい抵抗の仕方だ。
だがヴァルドレイクは怯まない。
弱者は選択肢が少ない。
だから弱者なのだと思い知らせよう。
「ならばお前たちには悪夢を見せよう」
悪夢という言葉に市民たちが戸惑う。
ヴァルドレイクは分かりやすくリベカの首を掴んだ。
「うぐっ!」
「この女を嬲り尽くす。そしてその悲鳴がキサマらの脳に焼き付くまで、徹底的に蹂躙しようか」
「テ、テメェ……!」
レイゼが歯を食い縛る。
ヴァルドレイクは構わず続けた。
「生の悲鳴はいいぞぉ? 常人ならば簡単に気を狂わせる。見ものだな。お前たちがどれだけ耐えられるか」
「待ってください!」
「ん?」
突然叫んだのはレグに捕まっているロジェールだった。
「リベカさんには手を出さないで! やるならわたしにやってください!」
「ロジェール!?」っとレイゼ。
「こんなことになったのはわたしのせいなんです……だからリベカさんには何もしないで……嬲るならわたしを。わたしにはそれだけの責任があります」
「バカ野郎お前! 何言ってんだ!」
レイゼが怒鳴るもロジェールは涙を流すだけで答えない。
確かにこの事態を招いたのは他でもないロジェールだ。
だが、だからと言って王女の蹂躙を許していいはずもない。
「おい! やるならオレだろうヴァルドレイク! ロジェールとリベカには手を出すんじゃねぇ!」
「やれやれ……どいつもこいつも献身的な事だ」
「ああそうだろ! みんな良い奴なんだよ! だからオレをやれよ! こちとら覚悟は決まってんだ! 悲鳴の一つでも上げさせられたら褒めてやるよ!」
「貴様……」
ヴァルドレイクがレイゼを本気で睨んだ次の瞬間!
「お父様! ゼクードたちが来ました! しょ、正面から!」
「なに!?」