【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
【シエルグリス】の至るところに戦塵が立った。
爆音が轟き、地鳴りが響き、建物が崩れ落ちていく。
それは父ゼクード率いる【ドラグーンキラー隊】と【ディアマード家】が激突した戦闘音である。
ゼクードの作戦は成功した。
【祖母セレンの空襲】と【義母フランベールの狙撃】という二つの戦略はヴァルドレイクからロジェールとレイゼを開放した。
これでもう足枷はない。
ここからが本当の実力勝負になる。
ゼクード・カーティス
ローエ・カティア・フランベール
ミオン・レィナ
そしてネオ。
現時点での最高戦力を集めた総力戦。
このメンツで負けるならもはや誰も勝てない。
だからどうか……みんな頑張って!
グロリアはそう祈るしかなかった。
あの精鋭に入れない己の未熟を僅かにも感じながら。
「あっちこっちで戦闘が始まってやがる! 街中も危険だぜこりゃ!」
左隣を走っているのは伯母のレイゼだった。
大勢の市民を引き連れて走っている。
どこかへ避難しようとしているらしいが、街中はいつ何かがスッ飛んでくるか分からない戦火に満ちている。
なにせ弟カーティスやら、母ローエやらが全力バトルをしているのだから。
しかも相手も相手でドラグーンという人間を辞めている本当の化け物たち。
自分も人のこと言えた身体ではないが、とりあえずレイゼにグロリアは進言した。
「レイゼ伯母ちゃん! 王国の外の方が安全だわ! みんなを外へ避難させましょう!」
するといつの間にか右隣を走っていたリベカが慌てて口を挟んだ。
「しかし外にはA級ドラゴンの群れがいます! 危険ですよ!」
「大丈夫よリベカさん。アタシが先に行って掃除しておきます! だからハイ! ローグをお願いします」
抱えていたローグをリベカに引き継がせた。
ローグは傷の痛みで気絶してしまっているが、命に別状は無さそうだ。
「あ、ありがとうございます! あぁ……ローグ……」
安堵するリベカにグロリアはさらに吉報を告げた。
「それとリベカさん。エルジーも無事ですよ」
「本当ですか!」
「はい。今は【エルガンディ】で保護されています。だから大丈夫です」
「良かった……本当に良かった……ありがとうございます」
ボロボロと大粒の涙を流すリベカにグロリアは笑った。
「お礼なら後ろのネオに言ってあげてください。エルジーを助けたのは彼なんで」
「! ……そうですか。ネオが」
「それじゃ掃除してきます!」
「あ、気をつけて!」
リベカの言葉にグロリアは片手を上げて返した。
それとほぼ同時にレイゼの声が弾ける。
「市民の誘導を最優先にしろ! みんなを王国の外へ避難させるんだ! 急げ!」
「「「はっ!」」」
★
ロジェールを抱えながら走るネオ。
レイゼやリベカらが市民の誘導を始める中、ロジェールは未だに泣いていた。
「ネオ……ごめんなさい……本当にごめんなさい……わたし……」
自分の腕の中で謝ってくるロジェールに、ネオは小さく溜め息を吐いた。
「今さら謝ったって遅いんですよ」
「!」
ロジェールがネオを見上げた。
ネオはギロッと睨み付ける。
「僕はあなたに優しい言葉を掛けるつもりはありません。僕は本気で怒ってますから」
ロジェールはネオにとって散々足を引っ張り、人の言うことも聞かずに勝手に捕まった戦犯だ。
女でなければ殴っていたところだ。
彼女が男だったなら、たとえ主君であろうとも一発殴っていたと思う。
いったいどれだけの人間に危険が迫ったと思ってる。
「ご……ごめんなさい……」
「この戦いが終わったらキッチリ罰を受けてください。そしてもう二度と……こんなことはしないでください」
「……はい」
ネオの眼が本当に怖かったのだろう。
ロジェールはネオの腕の中で縮こまってしまった。
……まぁ、今回の件は成長の糧にしてくれればいい。
いつかは僕の上に立つ次期女王だから。
お姫さま抱っこでロジェールを運んでいるが、そろそろ下ろそうか。
早く前線に戻って戦列に加わらないといけない。
「ネオ……わたしはもう大丈夫。ここまで来ればもう大丈夫だから」
言われたネオは辺りを見渡した。
ここはもう城壁の門前。
複数の騎士たちが市民をまとめ、外ではグロリアと数人の騎士がA級ドラゴンと戦っている。
これだけ味方がいるなら確かに安全だろう。
「分かりました。では」
ネオはロジェールを優しく下ろした。
涙でグシャグシャになったロジェールの顔はあまりに惨めで高貴ささえない。
王女とは思えない今のロジェールは、いつか見た母ミオンのようだった。
本当に惨めで、情けなくて、突けば崩れ落ちそうなほどか弱く見える。
だが未来の主君がそれでは困る。
「ロジェール」
ネオが呼び掛け、ロジェールがビクついて振り返る。
「……エルジーは無事だ」
「!」
「今は【エルガンディ】に保護してもらっている」
「ほ、本当に!?」
「ああ」
「よ……良かった……良かった!」
一番知りたかったであろう事実にロジェールがまた泣き出した。
今度のは嬉し泣きだがよく泣くヤツである。
「ネオありがとう! 本当に……本当にありがとう!」
大切な友人の無事を心底喜ぶロジェールは、部下であるネオに深く頭を下げた。
ネオは何も言わず踵を返してゼクードたちが戦う戦場へと戻る。
【友達】と【王国】を天秤に掛け、ロジェールは【友達】を取ってしまった。
それは人としては間違っていない。
ただ王女としては間違っていた。
だがもうそれは過去の話だ。
取り返しのつかない事態を取り返すためにネオは走った。
もう一度ロジェールにチャンスを与えるために。