【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
レィナの双剣とオルテンシアの槍が交差し火花を散らす。
迅速かつ凄烈。
そして迷いなき怒りの太刀筋がオルテンシアの首を狙う。
(あらあらこの女……私を殺す気満々ね)
殺気に満ちたレィナの剣を捌きながらオルテンシアは思った。
この女騎士は以前戦ったあのレグナとか言う男騎士と戦い方が同じだが洗練さが段違いだ。
【気】の強さ。
卓越した剣技。
それらを駆使する身体能力の高さ。
全てがあの男騎士よりも上だった。
そして何よりこの匂い。
なるほど……さっきからお怒りなのはそういうことね。
「随分と私情に囚われた攻撃ね。さては無能なお子さんでもやられたかしら?」
「っ! 黙りなさい!」
レィナの顔が露骨に険しくなった。
もちろんオルテンシアは分かって挑発した。
レィナの匂いはあのレグナという男騎士とまったく同じだ。
男と女では匂いの質が違う。
しかし親子の場合はたとえ男女でも特有の匂いが一致するのだ。
それでピンと来た。
このレィナという女騎士はあのレグナの母親だ。
母親ならばこの凄まじい殺気と怒りに満ちた眼も、
そして最初から私を狙っていたかのように飛び出してきた挙動にも全て説明が付く。
息子を半殺しにされた母の怒り、というヤツだろう。
子供のいないオルテンシアには分からない怒りだが。
「ふふ、余計な気の揺れは戦闘にスキを作るだけよ? お母さま?」
「口に気をつけなさい! 【竜斬り・氷竜巻】!」
双剣に氷を纏わせ一回転!
それはゼクードの【竜めくり】。
レィナの斬撃は風と化し、氷柱を混じえた青い竜巻となった!
「!」
オルテンシアの眼の前で発生した竜巻の接近は速かった。
回避が間に合わない。
咄嗟にオルテンシアは竜人形態になり肌を竜鱗で覆わせた。
全身が竜巻に飲み込まれ、肌を覆った竜鱗がピシッ! っと音を立てて亀裂が入った。
(え? 竜鱗が……斬れる!?)
レィナの攻撃力はオルテンシアの竜鱗の硬度を超えていた。
慌てて槍を振り払い竜巻を打ち消したオルテンシアだが、すでにレィナが目の前に肉薄していた!
「な!」
「【竜斬り・十文字】!」
双剣による十文斬りはオルテンシアの胸を鎧ごと斬り裂いた。
咄嗟に下がったので心臓には至らなかったが、血が吹き出た。
「ぐっ!【ディアマードアーツ・トライデント】!」
ドラグーンたるオルテンシアにはこの程度の傷など大したことはない。
だからすぐに反撃した。
研ぎ澄まされ、一点に凝縮された【気】は槍の刺突を鋭利にし、レィナの顔を狙って放たれた。
だがレィナはそれをしっかり見据えていた。
あっさり躱され、脇をすれ違いざまに斬られた。
「あぐっ!」
オルテンシアは胸と脇から血を流しながらレィナから距離を取った。
竜鱗がまったく使い物にならない。
この女の斬撃はレグナのものとはまるで別物だ。
普通に刃が通る。
どうやら本物の精鋭らしい。
いや、精鋭の中の精鋭だ。
「やるわね。こんなに強いと思わなかったわ。名前を聞いておこうかしら?」
「レィナよ」
「あらカワイイ名前」
言ってる最中にオルテンシアの傷が癒えていく。
ドラグーンは心臓をやられない限りは不死なのだ。
「……厄介ね。その再生能力」
「羨ましい? あなたも心臓入れてみる?」
「結構よ。人を辞めてまで強くなろうなんて思わないわ!」
地面を砕くほどの踏み込みでレィナは加速した。
対するオルテンシアも竜鱗が防御にならないことが分かったので槍でレィナを迎え撃つ。
互いの突きが切っ先に当たり、そしてオルテンシアの槍が弾かれた。
レィナはそれを好機と見なし、今度こそ心臓を貫かんと【竜突き】を放とうとする。
しかしオルテンシアはニヤリと笑って唱えた。
「【氷剣弾雨(アイスソードレイン)】」
竜の心臓で強化された氷の魔法。
空に白い閃光が発したと思うと、そこから無数の氷剣がレィナに降り注いだ!
「!」
レィナは驚きつつも、降り注ぐ氷剣の雨を高速剣で斬り伏せていく。
あまりにも広範囲な【氷剣弾雨】は近場の建物などを破壊していく。
それは当たればレィナの身体も同じ末路になることを暗に示していた。
止まない雨のような氷剣にレィナは動きを封じられた。
対してオルテンシアはその氷剣の雨をものともせずに突っ込んで来る。
オルテンシアの竜鱗が氷剣の雨を弾いており、
彼女はこの魔法の中でも平気で動いてくる!
「うふふ! 防御で精一杯みたいね! いま楽にしてあげるわ!」
「くっ!」
オルテンシアの槍がレィナの心臓を狙って穿たれた。
レィナはそれを双剣の片割れで弾くが、そのせいで手薄になった箇所から氷剣が肩に突き刺さった!
「うぐっ!」
「吹き飛びなさい!【ディアマードアーツ・ランスショック】!」
怯んだレィナに力技をぶつけた。
直撃すれば上半身を吹き飛ばせる大技なのだが、レィナはしぶとく剣でそれを受け止めていた。
しかし有り余る威力はレィナの軽い身体を吹き飛ばし、近くの建物に激突させた。
「ああああああああ!」
ガッシャーンっと轟音を響かせ、建物が崩れてレィナが埋まった。
ちょうど【氷剣弾雨】の発動時間が切れて氷の剣が止んだ。
ドンピシャである。
我ながら見事な技と魔法のコンビネーションだと思いつつ青い長髪を撫でた。
すると崩れた建物の瓦礫がいきなり弾け飛んだ。
「!」
オルテンシアは驚いた。
瓦礫を吹き飛ばして中からレィナが出てきた。
血だらけでかなりのダメージを負っている。
だが、まだ立てるとは予想外だ。
「呆れた……丈夫な女ね」
「あなたを殺すまで死ぬつもりはないわ」
「あらそう怖いわぁ……。怖いからドラゴンになっちゃおうかしら」
言ってオルテンシアの身体が光った。
「見せてあげるわ。私のドラゴンの姿を」
嗤ったオルテンシアの身体が光に包まれた。
それはセレンの時と同じ。
人間がドラゴンへと変貌するときに発せられる謎の光だ。
生々しい肉の増殖音が鳴り響き、オルテンシアの姿が次第に光から開放された。
頭部はドラゴン。
首から下は女性の身体で竜鱗に覆われている。
さらに下半身は蛇のように長く、脚はムカデのように多脚となっていた。
こんなドラゴンは見たことない。
レィナは全身の毛が立つような悪寒を感じた。
「うふふ……どぉ? これが私のドラゴンの姿。怖くて言葉にならないかしら?」
「気持ち悪い!」
「は?」
レィナは口をついて出てしまった。
本音が。
「気持ち悪い! めっちゃくちゃ気持ち悪い!」
「な……な……なんですって!?」
オルテンシアが眼を極限まで広げ驚愕する。
敵とは言え女性相手に気持ち悪いを連呼するのはさすがに失礼かと思っていたのだが、あまりにオルテンシアのドラゴン形態が気持ち悪くて無理だった。
もうなんか……生理的に無理!
「気持ち悪い! 中途半端に人間な部分残してるのも余計に気持ち悪い! もうこれ一言で言うなら…………気持ち悪い!」
「何回も言うな!」
さすがに温厚な口調だったオルテンシアも、ここまで罵倒されれば口調を荒げてしまった。
「私を怒らせるとただじゃ済まないわよ!【氷剣弾雨】!」
またあの氷剣を空から降らす魔法だ。
氷剣が降り始めるとオルテンシアも爪を使って地面に穴を掘って消えた。
まずい!
止まってたら下からやられる!
気づいたレィナは降り注ぐ氷剣を捌きながら走った。
この氷魔法の範囲外に逃げて、下から奇襲してくるであろうオルテンシアに備えねば!
そう思っていたのだが目の前に穴が空いてオルテンシアが飛び出てきた!
「!」
「どこ行こうっての!」
刹那の瞬間に尻尾の薙ぎ払いがレィナに直撃した。
「きゃあっ!」
それは多脚の蹴りも混じっておりレィナを軽く吹き飛ばし地面を転ばせる。
「くぅっ!」
「これでトドメよ!【アイスレイン】を強化した最強の氷魔法【アイスメテオ】!」
オルテンシアが空へ咆哮した。
すると上空から巨大な氷塊が多数落下してきた。
それはあまりにも大きい質量だった。
家一件分はあるであろう氷塊が【シエルグリス】に降り注ぎ、住宅街を一瞬で破壊していく。
その中にレィナも巻き込まれていた。
「きゃあああああああああああああああああ!」
氷塊が地面にぶつかり地鳴り地鳴り地鳴り地鳴り地鳴り!
轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音!
衝撃に次ぐ衝撃が重なり【シエルグリス】の一角である南西の住宅群が一気に壊滅していく。
生きるもの全てを押し潰す【アイスメテオ】の威力にオルテンシアは満足した笑みを浮かべた。
これがドラグーンの……今ある自分の得た力。
自分は選ばれたんだ。
この圧倒的な力に!
なんて爽快なのかしら!
この世の全てを潰せそうな気分だわ!
「うふ! うふふ……やり過ぎちゃったかしら?」
圧倒的な力に酔いしれながらオルテンシアはレィナに語り掛けた。
レィナからの返事はない。
当然だ。
生身の人間が【アイスメテオ】を凌げるはずがない。
こんなものを喰らえば誰でも即死する。
氷塊の大きさと、密度と、それによって発生する衝撃波。
それら全てを完全回避できるものか。
この勝負は勝った。
おそらくレィナの遺体は見つからないだろう。
何故なら氷塊によってミンチになってるだろうから!
「あははははっ! いい気味だわ! あとで息子さんに言っといてあげる。あなたのお母さまはとても頑張っていましたよって!」
「なに勝った気になってんのよ!」
「!?」
氷塊の影からレィナが飛び出した!
その声が弾けると同時にオルテンシアの左腕が吹き飛ぶ!
「なっ! この! まだ生きてたのね!」
「あなたを殺すまでは死なないって言ったでしょ!」
刹那に返しの一閃!
オルテンシアの槍を持つ右腕さえも吹き飛ばされた!
「……っ! レ、レィナァアアア! 調子に乗ってぇえええ!」
激昂したオルテンシアは大口を開いてブレスを放とうとした。
しかしレィナは地面に突き刺さった氷塊の影に隠れ、次々と移動していく。
おかげでオルテンシアは狙いがつけられずにブレスを放つことができなかった。
「【フリーズ】!」
レィナが氷の単発魔法を撃ち、オルテンシアの両眼に被弾させた。
「きゃあああああああああ! 眼がああああああ!」
のた打ち回るオルテンシアは悲鳴を上げた。
そしてレィナの匂いから遠ざかろうとする仕草を見せた。
「逃さないわよ!」
双剣を構え、氷塊を蹴ってオルテンシアの懐に突っ込むレィナ!
だがオルテンシアも匂いでレィナの位置を把握したらしく、大きく魔法を咆哮した!
「【氷剣弾雨(アイスソードレイン)】!【氷剣回転剣舞(アイスソードダンサー)】」
また空から氷剣の弾雨が始まった。
さらに二つ目の魔法はオルテンシアの周囲に氷剣を展開し、術者の身を守るように回転を始めた。
自己防衛のようだが。
「これでどう! 近づけるものなら近づいてみなさい!」
オルテンシアが吼えた。
確かに空からの弾雨を突破しながらオルテンシアを守る氷剣をも突破するのは至難の業だ。
手数の少ない武器ではおそらく攻略不可能だっただろう。
だがレィナの武器は双剣。
これ以上にない手数を出せる武器だ。
そしてその手数を最大限に発揮できるレィナだけの奥義もある!
レィナは突撃をやめない。
氷剣の雨の中へ自ら飛び込み、オルテンシアを守る周囲の氷剣さえ見据える。
そして蘇る記憶。
リーネを救うために死ぬ寸前まで戦ったレグナとリイドの事を。
力及ばず返り討ちに遭い、見るも無惨な重傷の姿に変えられていた息子二人。
その蘇った記憶にレィナは開眼し、双剣に持てる最大限の【気】を纏わせた。
双剣を逆手に持ち!
奥義の構えを取る!
そして放つ!
怒りの連続剣!
「【真紅の舞】!」
父クロイツァーの奥義!
娘のレィナに引き継がれ、そしてそれは息子のレグナにも引き継がれている。
だが同じ奥義でも使い手の技量によって大きく差が出る。
レィナの【真紅の舞】は洗練されている。
氷塊に映る残像も紅く冴え、
それが血飛沫だと気づいたときには……
オルテンシアは全てを斬り裂かれていた。
「え…………?」
全ての氷剣が砕け散り、全ての脚が斬り裂かれ、オルテンシアの胸も抉られていた。
「終わりよ」
冷酷に告げたレィナの片手にはオルテンシアの心臓が脈を打っていた。
心臓とオルテンシアを繋ぐ血管は全て切断され、次の瞬間にはレィナの手によって握り潰された。
「ぅ……がふっ! ま、負けたの……私……?」
心臓も、身体も、そのほとんどを切断され失ったオルテンシアが吐血しながら言った。
「驚いた。まだ生きてるの?」
「や、やだ……死にたくない……これから、なのに……まだ……まだ、始まってすら……ごふっ!」
「少しでも生きたいなら喋るのやめたら? ま、どのみち心臓を潰したから長くはないでしょうけど」
「……っ! お父様の作る王国で生きたかったのに……見てみたかったのに……こんなの……あんまりよ……!」
涙を浮かべたオルテンシアだが、レィナはそれを見て嗤った。
「いい気味ね」
「!」
「頑張って倒して良かったわ。本当に」
「………………あなた…………良い性格……してるわ」
「人を怒らせるってこういうことよ? あの世に行っても覚えておきなさい」
「ふん……………あなたの息子だけでも……あの時……殺せてたら…………いい気味だったのに……ね…………――――」
心臓を失い、再生能力を失ったオルテンシアは出血が止まらずそのまま息絶えた。
「嫌な女。あなたには地獄がお似合いよ」
キン……と双剣を納刀しながらレィナは吐き捨てた。