【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
メルセーヌは信じられない光景を見てしまった。
空から奇襲を仕掛けていたセレンを食い止めたのだが、彼女の背中に潜んでいた弓使いの女騎士フランベールがレグへの狙撃を成功させてきたのだ。
たった一発でだ。
しかも【シエルグリス】を一望できるほどの高度でだ。
標的となるレグの大きさは、ここからでは豆粒のような大きさだ。
ハッキリ言って1ミリでもズレたら当たらない距離だ。
射程だってギリギリのはず。
こんなのを一発で当てるなんて……
あの青い女騎士は何者なの?
彼女を乗せて飛んでいるセレンは、あのときはわたしが後ろについて追いかけ回してた。
だからグラグラしてたはず。
とても精密な狙撃ができる状況ではなかった。
なのにあの女騎士は……レグに当てたのだ。
人質のロジェールに当てずに。
彼女が弓を引いて狙いを定めるまで2秒か3秒しかなかった。
化け物だ。
こんな化け物が【エルガンディ】に居たなんて。
しかもこの女!
「ぐっ! うっ!」
メルセーヌはセレンと交戦していた。
ここは【シエルグリス】の遥か上空。
空を舞う二匹のドラゴンが交差している。
その真下ではゼクードたちが他のドラグーンたちと激しい戦闘を繰り広げている。
あちこちで黒煙が上がり、あちこちで大爆発が起こっている。
【シエルグリス】全体がもはや戦場と化していた。
そんな中メルセーヌはセレンの背中に陣取る弓使いフランベールの狙撃を何発も叩き込まれていた。
精度が高すぎて避けられない。
ズラシ撃ち。
先読み撃ち。
そんな類の狙撃技を恐ろしいレベルで連発してくる。
しかも氷の矢だ。
氷の魔法の使い手ならフランベールに弾切れはない。
さらにあの矢は竜鱗を軽く貫通してくる。
恐ろしいまでの【気】の高さだ。
メルセーヌも火球で応戦するが、なぜかセレンにはまったく効いてない感じだ。
あの女……どんな竜鱗してるの?
堅すぎじゃない?
なんにせよこのままじゃマズイ。
遠距離だとフランベールの土俵だ。
ここは接近して仕留める!
メルセーヌはフランベールの狙撃を受けながらも突撃した。
多少の傷ならすぐに回復する。
だからこそ狙撃を無視して接近したメルセーヌは、セレンに肉薄して両腕を掴んだ。
「きゃあっ!」
「捕まえたぁあ!」
メルセーヌが嗤い、ドラゴン形態同士が空中でもみくちゃになる。
だが次の瞬間!
メルセーヌの身体のあちこちに痛みが走った。
「いっ!?」
それはセレンの攻撃ではない。
セレンは両腕を塞がれている。
何もできないでモガイているだけだ。
しかしそんなセレンの背中に居たはずのフランベールが居なくなっていた。
「【竜斬り・剣舞】!」
メルセーヌの身体を這うようにフランベールの剣技が炸裂した。
斬られた箇所から血が吹き出る。
「うあああっ!?」
メルセーヌは苦痛で顔を歪ませる。
見ればフランベールは氷の双剣を手にしていた。
魔法で形成したらしい。
こ! この女!
弓だけじゃなくて双剣も使えるの!?
驚く間もなくフランベールの剣が次々と飛んでくる。
この巨体では不利だとメルセーヌは人間の姿に戻りセレンの背中に着地した。
すると目の前でフランベールも着地する。
空を飛ぶセレンの背中でフランベールとメルセーヌが顔を合わせた。
「お義母様! このまま飛んでてください! すぐに終わらせます!」
「うん! 気をつけてねフランベールさん!」
セレンの言葉を受けたフランベールは双剣を構えてメルセーヌを見据えた。
セレンの背中は風が強く、フランベールの髪とマントを靡かせる。
向かいに立つメルセーヌは忌々しい顔でフランベールを睨む。
「……双剣も使えたんだ? てっきり弓だけかと思ったよ」
「むかし騎士学校で先生をやってたからね。武器は一通り使えるわ」
「へぇ……凄いじゃん」
「ところであなた……素手でいいの?」
「まさか」
メルセーヌは全身を光らせると竜人形態へ変貌した。
青い竜鱗に全身を覆わせ、両腕と両足に氷のブレードが形成させた。
極めつけ背中に翼を生やし、それにも氷のブレードを形成させる。いわゆる六刀流だ。
「悪いけどドラゴンの力をフルに使わせてもらうよ」
「問題ないわ。その方が遠慮なく狩れるから」
メルセーヌとフランベールが睨み合い、間合いの一歩外まで迫る。
こんな高速で飛ぶセレンの背中では、下手な飛び道具は当たらない。
ましてフランベールの弓は大弓。
まともに使える距離ではない。
だから二人とも近接戦闘の武装をした。
メルセーヌもフランベールも。
セレンが【シエルグリス】の上空を飛び続け、緩くカーブを描いたその時!
二人は踏み込んだ!
剣閃が入り乱れ、互いの氷の刃が花吹雪のように結晶を散らす。
女騎士二人の呼吸が空気を一度揺らすまでに約十合を斬り結ぶ。
手数では圧倒的にメルセーヌが有利だったが、その刃がフランベールの肌にギリギリ届かない。
腕・脚・翼のブレードをフルに使っても寸でのところで弾かれる。
やっぱりこのフランベールって女騎士は強い。
それは弓で狙撃されている時から分かっていたが、これほどとは。
遠距離も近距離も卓越していて隙がない。
こんなの……どうやって勝てばいいの?
メルセーヌは迷い。
その迷いが太刀筋に現れたのかフランベールにパリィされて剣の撃ち合いを止められた。
「……っ! ……やるじゃん。これだけの攻撃を捌くなんてさ」
「……」
フランベールは怪訝な顔でメルセーヌを見返した。
当のメルセーヌは構わず続ける。
「でもわたしなんかと互角じゃね〜? 他のお姉様たちには勝てないよ? わたし……このディアマード家で一番弱いから」
「やっぱりそうなんだ」
どこか納得したような声音でフランベールが答えた。
それと同時にメルセーヌの六本のブレードに亀裂が走り、その全てが破砕した。
「え!?」
壊……れた?
全部!?
なんで!?
「戦ってて分かったよ。あなたの練度は低いって」
「な!?」
「あなたが背負ってた武器は斧だった。なのに実際に使ったのは氷で形成した六本のブレード。この時点でおかしいと思ってた」
「……なにが言いたいのよ!」
「わたしが怖かったんでしょう?」
「!」
ドクンと竜の心臓が高鳴った。
それは図星を突かれた高鳴りでもあった。
「人は怖い時……凄く逃げるか・凄く守りを堅めるか・凄く武装するかのどれかをやるの。あなたがとった行動は武装。あの六本のブレードはあなたがわたしに対して感じた恐怖そのものだった。ちがう?」
返す言葉もない。
勝てないという恐怖心は確かにあった。
それが原因でパリィされもした。
空を飛べば狙撃で一方的にやられ、接近すれば競り負ける。
当たった相手があまりに悪かった。
「……さっすが先生。よく見てらっしゃる」
「自分の弱さを自覚して持ってる力をフル活用するのは良いことだと思う。狩りならそれが大事だし、使えるものは使わなきゃダメ。卑怯という言葉も存在しないから。でも対人は別。あなたは一番熟練してるはずの斧を手放すべきではなかった」
「うるさいな! どのみち斧でも勝てなかったよ! あんたがわたしよりも遥かに格上だって気づいてた! でもね! あんたなんかお父様の足元にも及ばないよ! 今のうちに粋がっておくといいわ! 最強のお父様があんた達を皆殺しにするから!」
あまりに惨めだと、メルセーヌも吼えながら思った。
心が完全に負けを認めていた。
このままやり合っても、この女騎士には勝てない。
いっそここは逃げて、お父様かレグに助けを求めるしかないかもしれない。
お父様とレグならフランベールに勝つなんて造作もないこと。
逃げてでも勝ってやる!
メルセーヌはそう決意し、背中の翼を広げようとした。
するとその時フランベールがメルセーヌの後ろを指差す。
「そのお父様って……あなたの後ろにいる人のこと?」
「え!?」
なぜここにお父様が!?
でも助かった!
これで勝てる!
メルセーヌは後ろを振り向いた。
助けてお父様!
しかし、
そこには誰もいなかった。
ドスッ!
「――――!?」
メルセーヌの心臓が氷の巨槍によって貫かれた。
振り向いたメルセーヌをフランベールが後ろから刺したのだ。
氷の巨槍【アイスジャベリン】で。
「ごめんなさいね。これは狩|りだから」
「あ! あん……た…………っ!」
ゴフッ! っとメルセーヌは血塊を吐き出した。
恨めしそうにメルセーヌはフランベールを睨む。
当のフランベールは申し訳無さそうな顔で口を開く。
「卑怯だなんて言わないでね? 人間を辞めちゃったあなたが悪い」
「はは…………それが……先生のやることなの…………」
吐血し苦笑したメルセーヌは倒れ、セレンの背中から落ちていった。