【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「おいキサマ。私の息子の妻が世話になったようだな」
シエルグリスの東側にてアグリスはカティアという赤い女騎士に狙われていた。
初対面のはずだが、このカティアという女の匂いには心当たりがあった。
こ、この女の匂い!
あのカーティスってヤバい男とまったく同じ匂いだ!
まさか……姉? 妹?
いや、でもゼクードの匂いがしない!
てことはカーティスの母親?
いくらなんでも若すぎない!?
でも息子って言ってるし……どうなってるの!?
「……なんのことかしら? 覚えてないわ。平民の事なんて」
「なるほど。やった方は忘れるというのはあながち間違いでもないようだな」
「だったら何? 思い出させて見る? 力づくで」
「思い出す必要はない。どうせここで狩るんだからな」
「あ〜ら怖い」
とは言ってもこの女……前に戦ったあの細い目の鎌女よりよっぽどヤバい雰囲気が出てる。
明らかに格上だわ。
どうしよう……オルテンシアもレジーナも今はいない。
レグも……きっとあのカーティスに抑えられている。
一人でやるしかないか。
アグリスは全身に竜鱗を纏い、肩から手先を炎の翼へと変貌させた。
ドラゴン形態は大きすぎてどうしても動きが鈍重になる。
しかも骨格も変わるから動きづらい。
だから結局のところこの人間に近い竜人形態が一番使いやすいのだ。
難点があるとすれば両腕をこのように火の翼にしてしまうと武器が持てないという点。
しかしそれを補って余りある火力を秘めるのがこの翼の強さだ。
「悪いけど私……手加減とか器用なことデキないから最初から本気でいくわよ」
「口上はいい。かかってこい!」
「後悔しなさい!【ヴァンフレイム】!」
炎の翼を薙ぎ払うと灼熱の竜巻が発生した。
建物の瓦礫を飲み込んで燃やし尽くすその竜巻は、カティアに向かって凄まじいスピードで向かってくる。
もちろんカティアは左に避けて前進!
アグリスに向かって突撃してくる。
「【レッドストレート】!」
カティアが避けるのを予測していたアグリスは左右の翼から巨大な炎の奔流を発射した。
人間一人なら軽々と飲み込む巨大な火柱。
それが竜巻を挟んで通過する。
カティアは避けていない。
反応が遅れて直撃したのかもしれない。
この熱線に直撃したら人間なんて軽く灰になるだろう。
あっけない最後だったわね。
「はぁああああああああああああああああ!」
!?
なにこの叫び!?
どこから!?
それはカティアの叫び。
熱線を大盾で防御しながらこちらへ突っ込んでくる!
嘘でしょ!?
あの盾、なんで溶けないの!?
いくらオリハルコンでも!
まさか……盾に【気】を!?
「【ドラゴンスティンガー】!」
熱線を突破してみせたカティアが銃槍を突き放つ!
カティアとアグリスの距離はまだ数メートルある。
しかしカティアの放った突きの波動がアグリスの左翼を消し飛ばした!
「ひあっ!」
あまりの威力にゾッとしたアグリスは迫りくるカティアに恐怖を感じて後退した。
しかしカティアの方が圧倒的に早かった。
空へ逃げる前にアグリスはカティアの間合いに入ってしまう。
「逃さんぞ!」
「ひっ!」
「【竜突き・連牙】!」
それは一瞬で十連にも及ぶ連続突き。
アグリスの両目を一瞬で潰し、肩を貫き、両足さえも穿った。
「あがっ! 痛い! やめてぇえええ!」
「黙れ悪党が!」
トドメの大盾によるシールドバッシュ!
ブチかまされたアグリスは地面に倒れた。
「あ……ぐっ!」
なによコイツ……マジでメチャクチャ強いじゃない……
今までの奴らはなんだったのってレベルだわ……
私一人じゃ無理だ……
ドラグーンの力を持ってしても、やっぱり私は……
レグ……
倒れるアグリスの頭をカティアが踏みつけた。
「うっ!」
「死ぬ前に一つ答えろ」
「な……なによ……」
「私の娘にも、お前たちのような半分ドラゴンとなってしまった子がいる。その子を人間に戻したい。方法はないのか?」
「は…………はぁ?」
信じられない言葉だった。
なんでわざわざ人間に戻る必要があるのか?
というか、なんであっちにもドラグーンがいるのか不思議だ。
「答えろ」
「……答えてあげたら、見逃してくれるのかしら?」
「お前に選択権はない。答えないならどのみち殺す」
「ふ〜ん……アンタの娘さんに対する愛なんてその程度なのね」
「言いたいことはそれだけか? さっさと答えろ」
ダメだ……この女に挑発は効かない。
どうすれば……
「そんなの……あるわけないでしょ。そもそもなんでせっかく心臓に適合したのに人間に戻る必要があるわけ? 意味わかんない」
「ゼクードから聞かなかったのか? 竜の心臓はいずれお前たちの自我を蝕む。そして自分でない別の生き物になってすべてを破壊するんだ。普通の精神なら人間に戻りたいと思うはずだがな?」
あぁ……あの黒騎士が言っていたやつか。
確かセレンがそれで暴走して故郷【ハーティシオ】を滅ぼしたって言ってた。
「私は思わないわ。どうせ元の人間に戻ったって。また役に立てない私に戻るだけだもん」
「なんだと?」
「そこまで強いアンタには分からないでしょうね。女の私が強くなろうとどれだけ努力したか。どんなに頑張ってもレグに勝てなくて、お父様にも期待してもらえなくて」
「!」
アグリスの怒を含んだ声にカティアの身体がピクリと震えた。
そして当のアグリスは全身を赤く光らせた。
それを見たカティアは危険を察知してアグリスから離れる。
するとアグリスは全身から炎を噴射した!
危うくカティアは巻き込まれるところだったが、難を逃れた。
しかしアグリスは全身から炎を纏ったまま迫ってくる。
「惨めで嫌になるのよ! そんな私がすがったのがこの心臓なの! 人間に戻りたいなんて思うわけないでしょうが!」
「馬鹿者が! そんなものにすがって自分を無くしていたら同じだろうが! なぜ最後まで努力をしない!」
「アンタはレグの強さを知らないからそんなことが言えるのよ! 天才って実在するのよ! 私の半分も努力しないで強くなる天才が!」
叫ぶアグリスは翼による猛攻をカティアに続ける。
カティアは険しい顔を浮かべてアグリスの攻撃を捌き続ける。
「天才が実在するのは知っている!」
「知った風なことを!」
「私も未だにその天才に勝てずにいる! あげく! 息子という天才にも抜かれた!」
「!」
「だから! お前の気持ちはよく分かる! 私だって何度もこの女の身体を呪った! 頑張って強くなっても……結局いつも置いていかれる。お前の抱えている虚しく惨めな気持ちは痛いほど分かるさ!」
「だったら!」
「だがな! 勝てないからと努力を放棄するのは間違ってるんだ! そんなものは最初から覚悟の上だろう! 私たちが選んだ道はそういう道だ! 努力が報われるなんて生優しい道じゃない! 永遠に天才を追い続けるのがこの地獄の道だ! そんな覚悟もないなら最初から騎士になどなるな!」
「この……言わせておけばああああああああああああ!」