【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第37話【先生の家庭】

 ローエとフランベールの旅は順調だった。

 道中ドラゴンとの遭遇も特になく、おかげで日が暮れる前に【竜軍の谷】へ到着することができた。

 

 道のない草原を走り続け、何度か馬を休憩させたにも拘らずだ。

 

 ローエとフランベールは【竜軍の谷】の近くにある大岩の裏にキャンプを設置した。

 ここなら少なくとも大きいA級ドラゴンは入ってこれない。

 入口の幅が馬一頭分しかないから安全な方である。

 

 草木で入口を隠せばベビードラゴンやドラゴンマンからも多少は誤魔化せるはず。

 大岩の裏は入口に反して広く、馬をしっかり休ませる空間もあってちょうど良かった。

 

 ローエはマグナムハンマーを置き、フランベールも大弓を大岩に立て掛けた。

 

 二人は日が沈む前に焚き火の準備をし、明日の【竜軍の谷】探索のために休息を取る。

 

「先生。ご迷惑を御掛けしますわ」

 

 焚き火を挟んだ向かいで座るフランベールにローエは言った。

 

「ううん。人命が掛かってるもの。これくらい当然よ」

 

 フランベールは優しい笑みを浮かべながらそう返してきた。

 ローエも笑って「ありがとうございます」と返し、焚き火に薪を追加する。

 

「それにしても妙ね」

 

 フランベールの突然の言葉にローエは「え?」と顔を上げた。

 

「【竜軍の谷】が目と鼻の先にあるのに、ドラゴンの鳴き声1つ聴こえてこないわ」

 

「あ……」

 

 ローエも言われて気づいた。

 すっかり夜になった星空を見上げる。

 確かにドラゴンが集まる【竜軍の谷】で鳴き声が聴こえてこないのはおかしい。

 

 ここのドラゴンは好戦的でピリピリしているはずなのに。

 ドラゴン同士でケンカが絶えない場所でもあるから、威嚇の鳴き声がまったく聴こえないのは本当におかしい。

 

 聞こえるのは焚き火の弾けるパチパチという音のみ。

 不自然なまでに静かだ。

 

「もしかしたら、一昨日の襲撃でみんなここから出ていった可能性はありません?」

 

 ローエが言うとフランベールも同意して頷いた。

 

「うん。それはあるね。S級ドラゴンに命令されたならあり得るよ」

 

「誰もいないなら【アンブロシア】の探索も簡単になりますわ。なんだがラッキーが続いていて怖いですわね」

 

 ドラゴンに遭遇せずここまで難なく来れたこと。

【竜軍の谷】にはドラゴンがいない可能性があること。

 なんだか上手く行きすぎてて怖い。

 このまま【アンブロシア】もすぐに見つかって上手く帰還できればいいのだが。

 

「大丈夫よローエさん」

 

「え?」

 

「どんなに上手く行ってても油断しないこと。それさえしっかり守っていれば最悪の事態は必ず避けられるから。ね?」

 

「……そうですわね」

 

 フランベールの言うとおりだ。

 最悪の事態は必ず油断から発生する。

 明日は気を引き締めていこう。

 

 とはいえ、こうしてる今でも妹のリーネは死に近づいている。

 早く【アンブロシア】を採って帰還したい。

 気持ちが昂って困る。

 

「そういえばローエさん。出発前にカティアさんに何を渡してたの?」

 

「え? ええ、いつも隊長に渡しているパンですわ。危うく渡し忘れるところでしたの」

 

 見送りに来てくれたカティアの分も作っておいたが、ちゃんと食べてくれるだろうか?

 ま、どっちでもいいですけど?

 本命はゼクード隊長ですし。

 

「なるほどね」と納得したフランベールは木製コップでエールを飲んだ。

 ローエも習ってエールを飲む。

 すると飲み終えたフランベールが口を開く。

 

「そういえば、ローエさんはゼクードくんのことどう思ってるの?」

 

「え?」

 

「一人の男性として見た場合。ゼクードくんはどうかな?」

 

 これは面白い話題だ。

 昂る気持ちを紛らわせるとローエはすぐに乗った。

 

「そうですわねぇ~。彼は顔もなかなか可愛いですし、実力も本物ですわ。どうせ嫁ぐなら彼みたいに強い男性の方が良いですわね」

 

 あとはあの可愛い娘にすぐデレデレするところさえ治せれば完璧なのですが。

 

「じゃあローエさんも早くゼクードくんと『約束のキス』をしちゃえば良いよ」

 

『約束のキス』……ああ、そういえば【エルガンディ王国】の口づけはそんな意味が込められていた。

 今さら思い出したローエはフと笑う。

 その手があったな、と。

 

「ふふふ、そうですわね。キスさえしてしまえば隊長はもうわたくしと結婚するしか無くなりますわ。その案いいですわね。採用ですわ」

 

 ……ん?

 ちょっと待て。

 さっきフランベール先生は、ローエさんも、と言った?

 

「採用してくれて嬉しいわローエさん。ならわたし達いつか家族になるね」

 

 満面の笑みを浮かべながらフランベールは言った。

 そこに冗談を言っている気配はない。

 

「え、あの……え? 家族?」

 

「うん。わたしも昨日ゼクードくんとキスしたの」

 

「んなああああああああああああ!?」

 

 思わず絶叫してしまった。

 しかしそれをすぐにフランベールに口を塞がれ止められてしまう。

 

「んむう!?」

「シ──ッ! ロ、ローエさん! こんなところで大声出しちゃダメよ!」

 

「ご、ごめんなさいですわ……」

 

 いやでも、今のは叫ばずにはいられない情報だった。

 まさかフランベール先生がゼクードとすでにそんな関係に発展していたとは。

 

 たしかにフランベール先生はゼクードに好意的な面がたくさんあったから、もしかしたら気があるのかもと思ってはいた。

 しかしまさかキスまで進展していたとは驚きである。

 

「S級ドラゴン戦で助けてもらったからお礼をしようと思って、何がいい? って聞いたらキスしてほしいって言うから」

 

「そ、それでキスしてあげたんですの?」

 

「うん。ゼクードくんなら大好きだし、いいかなって」

 

 あぁ、やはりこの人、どこかゼクードに甘いと思っていたが大好きだったのか。

 そこまで思いを寄せていたのなら納得である。

 詳細は知らないが。

 

「まさか先生に先を越されているとは思いませんでしたわ。それならわたくしは諦めるしかないですわね……」

 

「え、なぜ?」

 

「いやなぜって、先生がもうゼクードとキスしてしまったのなら、わたくしが付け入る隙はありませんわ」

 

「?」

 

 フランベール先生が見事なくらいに大きい『?』を頭の天辺に出している。

 

 あれ?

 この空気はなに?

 なんでわたくしが変なこと言ってるみたいになってますの?

 

「あ、もしかしてローエさん……お母さん一人だけ?」

 

「いやそりゃそうでしょう!? 先生なにを言ってますのさっきから?」

 

「ああ違うの。わたしは母が4人いるから、ちょっと。あ、正確には1人なんだけど」

 

 え、お母さんが4人も?

 

「まさか先生の御家族は……」

 

「うん。わたしの父は4人の奥さんを持ってるの」

 

 まさかの一夫多妻!

 

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