【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

380 / 448
第390話【ゼクードVSヴァルドレイク】

 住民の誘導を終えたレイゼは【シエルグリス】を見た。

 城壁越しから火の手が見え、黒煙が立ち昇っている。

 さらに轟音と地鳴りが立て続けに響き、中でまだ戦闘が続いていることを示していた。

 

「【シエルグリス】が……」

 

 隣でリベカが悲しい声を出している。

 他の住民たちも戦火に破壊されていく故郷を見て泣き崩れている者がたくさんいた。

 

 レイゼもこの国の女王だ。

 彼らの気持ちは痛いほど分かる。

 だが、奴らに支配されるよりはマシだと割り切っていた。

 

 壊されたらまた作ればいい。

 そうやって【シエルグリス】は何度も蘇ってきた。

 今はただ弟ゼクードたちの奮闘に感謝する。

 

「伯母ちゃん!」

 

 グロリアだ。

【シエルグリス】周辺のA級ドラゴンを掃討してくれていたようだ。

 おかけでこうして安全に外に退避できた。

 

「グロリア! 怪我はねぇか?」

 

「アタシは大丈夫! それよりお父さんたちの戦闘が予想以上に激しいわ。伯母ちゃんたちはもっと離れた方がいい!」

 

 たしかに……

 さっきから火球の雨だったり氷柱の雨だったりと、やたら広範囲な攻撃が見えたりした。

 

 いつこっちに届くかヒヤヒヤする。

 ここはグロリアの言うとおりにするべきか。

 

「わかった! おいみんな! もっと離れるぞ! 戦える奴は壁を作れ! 手の空いてる奴は動けない奴の手を貸すんだ!」

 

 レイゼの指示にリベカや住民や騎士たちが迅速に動き出した。ロジェールも怪我人を運ぶ。

 それを見てグロリアはレイゼに言う。

 

「伯母ちゃん。アタシは逃げ遅れがいないか最後の確認をしてくるわ!」

 

「おいおい! それじゃお前が戦闘に巻き込まれるかもしれないだろ!」

 

「だからこそアタシが適任でしょ? 巻き込まれても逃げるくらいならできるわ」

 

 なるほどな。

 ある程度の戦闘力をもったグロリアなら巻き込まれてもなんとかなる可能性は高い。

 

 逃げ遅れを見つけた時も守る力がないと外へは連れていけない。

 確かにここはSS級騎士のグロリアが適任だ。

 

「……そうだな。なら頼むぞ!」

 

「うん!」

 

 グロリアが【シエルグリス】の城門へ向かっていくのをレイゼは静かに見送った。

 そしてレイゼも怪我人に肩を貸して移動の補助に徹した。

 

 だが……何故だろう。

 この時レイゼは胸騒ぎがしていた。

 何かが起きそうな、嫌な予感が。

 

 

 煌めく剣閃と散る火花。

 ゼクードとヴァルドレイクの一閃が交錯を描き、斬光の軌跡は曲線と直線を幾重にもぶつけ合う。

 

 ここは【シエルグリス】の王城前。

 中央広間で戦っていたのがいつの間にかここへ流れていた。

 

「よくも……よくもやってくれたな……ゼクード・フォルス」

 

 怒りを露わにしたヴァルドレイクがゼクードを睨む。

 ゼクードも睨み返して言葉を返した。

 

「何もかもそう上手くいくと思うなよ。お前たちはここで終わりだ」

 

「終わりはしないさ。私がここに居る限りは」

 

 言ったヴァルドレイクが片手を空へ掲げた。

 すると周辺が急に暗くなり、ゼクードは空を見上げる。

 空には巨大な黒い渦が発生しており、それが太陽の光を遮っていた。

 

「な……! あれは!」

 

「お前も闇魔法の使い手なら分かるだろう。あれは私が生み出した【ブラックホール】だ」

 

 ブラックホール!?

 闇魔法の!?

 質量が違いすぎる!

 

「デ……デカすぎるだろ!?」

 

 シエルグリスを覆いそうなほど巨大な渦だ。

 あれだけ巨大だと全てを吸い込むんじゃ!

 

「竜の心臓によって強化された【オーバーブラックホール】だ。あれは全てを吸収し、排出先を自分で描くことができる」

 

 なんだよそりゃ!?

 

「例えるならお前を吸収し、排出先は海のド真ん中……ということも可能だ」

 

「……っ!」

 

 海のド真ん中に排出された溺れ死ぬしかない!

 卑怯すぎるだろその能力は!

 

「さぁ……どうする? こうしてる間にも【ブラックホール】は大きくなっていくぞ」

 

 確かに見れば空の黒い渦は徐々に広大化している。

 今から走って逃げても範囲外に逃げられず吸い込まれそうだ。

 

「お前の子供たちはどうなる! 巻き込むつもりか!」

 

「言ったはずだ。排出先は選択できると」

 

 ヴァルドレイクは動じない。

 排出先が選択できるということは敵と味方の区別がデキるということ。

 

 ゼクードたちは海へ。

 レグたちはシエルグリスへ。

 ということが可能ということか。

 

「くっ!」

 

 ゼクードは歯を食いしばりヴァルドレイクに突っ込んだ。

【オーバーブラックホール】を止めるには術者であるヴァルドレイクを早急に倒すしかない!

 

 ゼクードは大きく踏み込みヴァルドレイクに一閃!

 しかし難なく受け止められた。

 

「焦り出したなゼクード・フォルス。目に見えて太刀筋が悪くなったぞ」

 

「黙れ! どこまでも汚い奴だ!」

 

「焦りは余計な緊張を生み、判断力を鈍らせ、実力を大きく落とす。お前という男を評価しての対策だ。悪く思うなよ」

 

「ああそうかい!【真・竜斬り・竜獄斬】!」

「【ディアマードアーツ・ブレイドパーティー】!」

 

 互いの大技が衝突して爆発にも似た火花が散った。

 それはもはや100合か。

 ぶつかって一秒にも満たない斬撃の交差。

 

 一刻を争うゼクードの本気の竜獄斬。

 ヴァルドレイクの本気のブレイドパーティー。

 フルパワーの斬撃と斬撃。

 

 それは互角ゆえに相殺する。

 

「さすがだな。あのフォレッドの息子なだけある。だがフォレッドはこんなものではなかったぞ?」

 

「なに?」

 

「年老いた奴の実力は今のお前と同じくらいだった。だが過去の奴は格が違った。たった一人で何頭もの上級ドラゴンを討伐していただけあって、な」

 

 なるほど。

 さすが俺の親父だ。

 こんな状況でなければもっと喜んでやれたのにな!

 

「それを聞いて安心したぜ。つまり俺はもっと強くなれるってことだな!」

 

「くっく! 面白い奴だなゼクード・フォルス。だがフォレッドは強さという点で私が唯一尊敬した男だ。容易く超えられると思うなよ!」

 

「あんたに言われたくないね!」

 

 ガッキィンと甲高い音を立ててゼクードはヴァルドレイクの長剣を弾いた。

 

「ぐっ!」

 

 ヴァルドレイクは大きく後退する。

 

 いける!

 

 あの【オーバーブラックホール】を維持してかつ大きくしているなら、それ相応の消費をしているはずだ。

 

 これはピンチだが、逆にチャンスでもある!

 ヴァルドレイクを仕留めろ!

 全力の全力で行くんだ!

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 ゼクードは吼えた。

 全身の力を振り絞り、何もかもを出し切るように吼えた!

 

 間に合わなければ全滅するんだ!

 それだけは絶対に阻止するんだ!

 こいつさえ倒せればそれでいいんだ!

 

 なにも残すな!

 ぶっ倒れてもいい!

 ヴァルドレイクを倒せ!

 

 俺よ!

 限界を超えろ!

 

「おおおおおおおお!【真・竜斬り・轟】!」

「諦めろ!【ディアマードアーツ・スマッシュ】!」

 

 力技と力技がぶつかり合う!

 後先考えない渾身の力を込めたゼクードの一撃はヴァルドレイクを押した!

 

「なにっ!?」

「うおおおおおおらあああああ!」

 

 撃ち合いに負けたヴァルドレイクは吹き飛ぶ。

 しかし即座に受け身!

 

「おのれ!」っと顔を上げると、すでにゼクードの刃が首に!

 

「うぐっ!」

 

 斬り上げ!

 首の切断こそできなかったが、僅かに痛みが走った。

 

 なに!? 

 首に痛みが!?

 

 後退しながらヴァルドレイクは驚愕した。

 ちゃんと竜鱗を纏って受けたのにダメージがあったから。

 

「おおおおおお!」

 

 ゼクードは尚も怒涛の勢いで迫りくる!

 

「調子に乗るな小僧ぉっ!」

 

 神速の撃ち合いが始まった!

 それは光の如く!

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

 剣術を極めた男二人の雌雄を決する時!

 フォレッドに憧れた男とフォレッドを尊敬した男!

 その力量に大差はない!

 

 二人の斬撃が城や建物を切り崩していく!

 そこに人が居れば間違いなく首が飛ぶ!

 

 上空のブラックホールはさらに大きくなっていく!

 ゼクードに許されたのは全身全霊で撃ち込むことのみ!

 温存などしない!

 

 このヴァルドレイクを倒すためだけに全てを吐き出す!

 

 ゼクードは押す!

 押していく!

 

 焦りは消せない!

 ならばもう押して押して押しまくるしかないのだ!

 

 ここで負ければ仲間たちがみんなが死ぬ!

 

 刹那にカレンティア・オラージュ・リィンベールの顔を思い出し、ゼクードはさらに踏み込みを強くした!

 

 自分のために戦う者は弱い。

 何故ならいつでも投げ出せるからだ。

 家族のために戦うゼクードは逃げられない。

 逃げたら家族が死ぬからだ。

 

 ここで差がつく。

 どんなにキツくても踏み止まらねばならない大黒柱たる責任!

 

 幸せと共に増える責任!

 それが男を強くもするのだ!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 ついにゼクードの刃が届いた!

 ヴァルドレイクの服が裂けていき、次第に鮮血が舞う。

 

 馬鹿な!

 私の竜鱗を貫通してきただと!?

 まさかコイツ!

 この土壇場で【気】を上げてきているのか!?

 

「うおおおおああ!【真・竜斬り】!」

 

 ヴァルドレイクの腕が吹き飛ぶ!

 

 違う!

 もはや【真・竜斬り】の切れ味ではない!

 これはフォレッドが使っていた【極・竜斬り】の域に達している!

 

 この土壇場で!

 この男は成長したと言うのか!?

 

「【真・竜突き】! 届けえええええ!」

 

 ゼクードの刺突はヴァルドレイクの残った左手に掴まれ止められた!

 しかし押すのをゼクードはやめない!

 ギジギシとゼクードの突きがヴァルドレイクの胸に迫る!

 

「ぐぅううううっ! 終わらせん! 終わらせはしない! まだこれからなんだ! 我々は!」

 

「終わりなんだよ! お前の建国も! ドラグーンも! 全部!」

 

「おのれゼクード・フォルス! キサマだけはあああああああああ!」

 

 ふわ……

 

「っ!?」

 

 ゼクードの足が浮いた。

 刺突の威力が一気に萎えて止まった。

 ブラックホールが完成し、吸い寄せられていく!

 

「身体が!」

 

 上空の黒い渦に吸い寄せられ浮いた。

 ゼクードは慌てて近くの建物の出っ張りに掴まる。

 それを見たヴァルドレイクが冷や汗を流しながらも嗤ってみせた。

 

「は…………ははははっ! 私の勝ちだなゼクード・フォルス! お前はこれで終わりだ!」

 

「【ダークマター】!」

 

 苦し紛れの黒い球体を発射!

 しかしヴァルドレイクには当たらない。

 当然のように回避された。

 

「足掻くな! このまま海の藻屑にしてやる! あの世でフォレッドと見ているがいい。我々の建国をな!」

 

「くそっ! ヴァルドレイク――――ッ!」

 

「はーっはっはっはっ! はははははは! はーっはっはっはっは!」

 

 愉快に嗤うヴァルドレイクにゼクードはただ叫ぶしかなかった。

 もはや打つ手がない。

 

 街の瓦礫や建物が吸い上げられていくのが見える。

 その中には金髪のツインテールの女騎士が!

 

「いやあああああ!」

 

「グロリア!?」

 

「お父さん! 助けて! いやああああああ!」

 

「グロリアああああああああ!」

 

 手を伸ばすも届かず。

 娘グロリアはブラックホールに飲み込まれた。

 

「ゼクード――――ッ!」

「ゼクードくん! あああああ!」

 

 今度はセレンとフランベールだ!

 

「母さん! フラン!」

 

「た、助けてゼクード! 戻れない! いやあああああ!」

「ゼクードくん! やだ! やだああああああ!」

 

「母さああああん! フラアアアン!」

 

「きゃああああああ!」

「か、身体が! くそおおおお!」

 

「ローエ! カティアアアア!」

 

 愛妻二人も!

 そこにはアグリスの姿も見えた!

 

「やぁ!? お父様! どうして!? いやあああああああああああ!」

 

 そんな悲鳴を上げながらアグリスはブラックホールに吸われていく。

 

「と、父さあああああん!」

 

「!? カーティス!」

 

「くそっ! うわああああああああああああああああ!」

 

「カーティス――――ッ!!!」

 

 ついには息子カーティスまで吸い込まれていった。

 それを追い掛けるようにレィナもミオンもネオまでも!

 

「いやああああああ! グリータアアアアアア!」

「ネオ! アンタだけでも! くっ! あああああ!」

「か、母さん! うわああああああ!」

 

 みんなブラックホールに飲み込まれ、最後に残ったのはゼクードだけだった。

 

「あぁクソ! クソ! ちくしょう! ちくしょおおおおおお! なんでだよ! なんでこんなあああああ!」

 

「ゼクード・フォルス! お前の敗因は【私の力を甘く見すぎた事だ】!」

 

「っ! ヴァルドレイク……ッ!」

 

「あの世で反省会でもすることだな!【ディアマードアーツ・ソードウェイブ】!」

 

 飛ぶ斬撃がゼクードの掴んでいる建物に直撃し、ついにゼクード本人も空へ吸い寄せられていく。

 

「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 その時だった!

 

 地面から漆黒のドラゴンが現れヴァルドレイクを押し倒した!

 

「な!?」

 

「父上エエエエ! やっとワカリマシタ! オレの心臓の能力がアア!」

 

「レグ!? お前、まさか!」

 

「オレの糧にナッテください! チチウエぇえええええ!」

 

「や、やめろ! 離せえええええ! 私はお前の父ぎゃあああああああああああああ!」

 

 その光景を見てしまったゼクードは絶句した。

 

 レ、レグ!?

 あのドラゴンはレグなのか!?

 ヴァルドレイクを父上と呼んでた!

 

 嘘だろ!?

 なんで息子が父親を食う!?

 どうしてこんな……!

 

 まさか心臓の暴走か!?

 

 いや、でも待てよ!

 これでヴァルドレイクは死んだ!

 これなら【ブラックホール】も止まるはず!

 

 そう思ったのだがゼクードの上昇は止まらない。

 

【ブラックホール】が止まらない!?

 ダメだ!

 吸い寄せられる!

 

 くそ! くそ! 止まれよ!

 

 また子供たちを置いていくわけにはいかないんだ!

 頼む!

 止まってくれ!

 

 頼む!

 

 頼む止まってくれええええええええええええええ!

 

 しかしゼクードの願いも虚しく。

 ブラックホールに飲まれる。

 全身が奇妙な浮遊感に包まれた瞬間、ゼクードの意識は途絶えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。