【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第391話【目覚めたその場所は】★イラストあり

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ……最後にカレンティア・オラージュ・リィンベールを抱いたのはいつだったかな?

 

 あの子達が生まれて、

 俺はその時に記憶を取り戻して、

 セレンの暴走を聞いて、

 グロリアがドラゴン化したと聞いて、

 それで飛び出したローエを追い掛けて、

 みんなでなんとかセレンを止めて、

 今度はグロリアを人間に戻す方法を探そうとしたらディアマード家が現れて、

 

 そして……――――

 

 ――――思えば忙しくて、家族の時間なんてまったくなかったな……

 

 子育てはローエたちに任せっきりにしてた。

 あげく、そのローエたちが必要になって連れ出して、

 またリリーベールさんに子供を押し付けてしまった。

 

 仕事と家族を両立するのって、本当に難しいことなんだな。

 

 家を留守にしてた父フォレッドに対して、いつもなんで帰ってきてくれないのか不思議に思ってた時期がある。

 

 今ならそんな父の気持ちが、痛いほど分かる。

 帰りたくても帰ることができない悔しさ。

 我が子を置いて逝ってしまう悔しさ。

 

 ごめんなカレン、オラージュ、リィン……

 

 無責任な親で……本当にごめん……

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 パチパチと火の爆ぜる音が聞こえてきた。

 頬に当たる熱を感じて、ゼクードは目を開けた。

 ぼやける視界がゆっくりと鮮明になっていき、満天の星が広がっていくのが分かった。

 

 なんて綺麗なんだろう……

 相変わらず無責任に綺麗な夜空だ……

 

 ゼクードは思わずその夜空に見惚れてしまった。

 間を置いてから、自分がいま横になっている事を自覚し始め、意識もしっかり覚醒してきた。

 

 ……

 

 …………?

 

 俺……生きてるのか?

 

 意識が回復したと同時にそんな疑問が沸いてきた。

 

 モクモクと隣で立ち昇っていく煙が夜空に吸い込まれていくのが見えた。

 

 そういえば誰かが火を焚いている。

 誰だろう?

 

 ……え!?

 

 ゼクードは目を疑った。

 傍らでは地面に座り込んだアグリスが火を焚いていた。

 

 コイツは確かディアマード家の一人じゃ!?

 なんでコイツがここに!?

 

 驚愕してアグリスを見ていると、当の彼女と目が合ってしまった。

 

「あら。やっとお目覚め?」

 

「お前……!」

 

 アグリスに戦意が無いことは雰囲気で分かったが、この状況の理解ができなかった。

 すぐに身体を起こしたゼクードは装備の確認をする。

 ロングブレードが無くなっていた。

 安全策のために取られたか!?

 

「おい! 武器を返せ!」

 

「盗ってないわよ! あんた最初から何も持ってなかったし」

 

「なんだと!?」

 

 確かにアグリスは長剣を持っていなかった。

 隠してる可能性もあるが、それにしてもアグリスも何も武器を持っていない。

 

 まさかブラックホールに吸い込まれた時に全部落としたのか?

 

 ゼクードは自分の持ち物を確認したが、残っていたのはサバイバルナイフの一本だけだった。

 

 最悪だ……いや、むしろナイフだけでもあって助かったと言うべきか?

 これさえあれば野外での生活は何とかなる。

 

 いや!

 駄目だろ!

 国王様の遺品【ブレイブエルガンディ】が無くなったんだぞ!?

 

 朝になったらどこかに打ち上げられてないか海岸沿いを探さなければ!

 

 そして一番気になってることがある。

 それは。

 

「なぜ俺を助けた?」

 

「………………べつに」

 

 アグリスは薪を追加しながらそっぽ向いた。

 答える気がないらしい。

 

 やはり状況が分からないゼクードは辺りを見回した。

 

 夜で遠くまでは見渡せないが、近くに波打ちする海岸が見えた。

 陸地には草原が広がり、木が何本も孤立して立っている。

 

 なんというかひどくサッパリした光景だった。

 

 遠くに光が見えるが、あれはなんだ?

 随分と高い位置にある光だ。

 山?

 山頂から煙と赤い光が僅かにだが見える。

 火山ってヤツか?

 

 聞いたことはあるけど見たのは初めてかも。

 っていうかここはどこだ?

 少なくともエルガンディの大陸ではない気がする。

 

「ここはどこだ?」

 

「知らないわよ」

 

「なんで知らないんだ! お前の親父が飛ばした大陸だろ!」

 

「私は巻き込まれたのよ! お父様の魔法に!」

 

「巻き込まれたって言っても飛ばす場所は選べるって言ってたぞ!」

 

「だから知らないって言ってるでしょ! なによあんた! 助けてあげたのに礼の一つも言えないわけ!? これだから平民は嫌いなのよ!」

 

「何が礼だ! ふざけるな! 勝手に助けたのはお前だろう! 人様の国をメチャクチャにしておいて何様のつもりだ!」

 

「な、何様って!」

 

「助ければ恩を感じてもらえるとでも思ったか? 甘いんだよ考えが!」

 

「ムカつく男ね! 本気で殺してやろうかしら!」

 

「ふん。お前一人に俺がやられるか。ナイフ一本でもお前ぐらい簡単に殺せる。あんまり人を舐めるなよ?」

 

 冗談ではない本気の怒を込めた眼で睨むと、アグリスはゴクッと生唾を飲んだ。

 

「……っ! くっ! ムカつく……」

 

 意外とすんなりアグリスは引っ込んだ。

 身の程を弁えてるようだが、それ故に余計に助けた理由が不明になった。

 

「……そもそもなんで俺を殺さなかったんだ? 気絶してる間にやってしまえばいいものを」

 

「……」

 

 またアグリスは目を背けて黙ってしまった。

 なんだコイツは?

 意図がまったく読めない。

 

 ……少し状況を整理するか。

 

 ゼクードは焚き火で身体を温めながら思考した。

 

 ヴァルドレイクと戦っていたが、ヤツの魔法【オーバーブラックホール】が完成してみんな吸い込まれてしまった。

 

 海に吐き捨てられたが海岸にうまいこと打ち上げられて、そこのアグリスに救出されたという流れだろう。

 

 他のみんなが見当たらないのは別の場所に吐き捨てられた可能性が高そうだ。

 

 俺のようにうまいこと助かってくれてればいいが……

 

 あとシエルグリスがどうなったかも気になる。

 エルガンディもだ。

 

 最後に見たあのレグがヴァルドレイクを捕食する光景……

 

 あのレグの裏切りにも等しい行為にはなんの意味があるのか?

 

 糧になれと言って捕食していたのは覚えている。

 

 レグはヴァルドレイクの力を捕食して取り込んだのか?

 

 自分の心臓の能力が分かったとも言っていたし、もしその能力が捕食した相手の能力を得ることなら大変なことになる。

 

 レグは個人でもかなりの強さを持っていた。

 それにヴァルドレイクの力が重なったらとんでもないことになる。

 

 やばいな……エルガンディとシエルグリスが心配だ。

 

 何とかして帰らないと。

 

 そういえばアグリスはレグがヴァルドレイクを食ったこと知ってるのか?

 

「おい」

 

「…………なによ」

 

「レグがヴァルドレイクを食ったこと知ってるか?」

 

「は?」

 

 なにそれ知らない……

 

 っとアグリスの顔がすでに物語っていた。

 とは言え聞き取れなかった可能性もあるのでもう一度言ってみることにした。

 

「レグが・ヴァルドレイクを・食ったこと・知ってるか?」

 

 一時の沈黙が訪れた。

 

 アグリスはポカンと口を開けて止まり、しばらくして冷や汗を頬に流した。

 

「な……なに言ってるのあんた?」

 

「やっぱ知らないか。まぁ先に吸い込まれてたもんなお前」

 

「ちょっと! くだらない嘘つかないで! なんでレグがお父様を食べるのよ!」

 

 やっと話を理解したらしいアグリスが立ち上がってきた。

 ゼクードは耳をほじりながら見返す。

 

「知らねーよ。心臓の暴走じゃないか?」

 

「暴走!?」

 

「だから言ったろ? 竜の心臓は自我を乗っ取る危険な物だって」

 

「嘘…………じゃあレグは、心臓に乗っ取られたの!?」

 

「あの狂いっぷりを見る限りそうだろうな。なんにせよ……あれはもうお前の知ってるレグじゃない」

 

「そんな……」

 

 膝から崩れたアグリスは俯いた。

 パチパチと爆ぜる焚き火の音だけが虚しく響く。

 

「私……どうしたらいいのよ……」

 

「?」

 

「お父様に裏切られて……レグは心臓に乗っ取られて……」

 

 アグリスは震えていた。 

 涙をポタポタと流していた。

 あまりに惨めで見てられなかったが、ぜんぜん同情する気にもなれず、ゼクードは視線を焚き火に落とした。

 

 向かいで泣き崩れるアグリスにゼクードは溜め息を吐いた。

 一つだけ誤解があるから解いておこう。

 

「……ヴァルドレイクは別にお前を裏切ってた訳じゃないぞ?」

 

「………………え?」

 

「わざと巻き込んでたのは事実だけど、シエルグリスに落とすつもりではいたと思う」

 

「…………なんで分かるのよ」

 

「本人がそう言ってたからだよ。俺たちは海へ捨てる。でも家族はシエルグリスに落とすって」

 

「でも落としてないじゃない! こんなどこかも分からない場所に落とされてる!」

 

「それはレグのせいだろうな。ブラックホールを操作する前に食われて、落とす先をちゃんと指定できなかったんだろう。ま、だから俺も助かったんだろうけどな」

 

「……」

 

「だからヴァルドレイクはお前を裏切ってないよ。そこだけはまぁ……信じていいんじゃないか? 知らんけど」

 

「……」

 

 ゼクードの言葉にアグリスは泣き止んだ。

 励ましにはなったようだ。

 

 敵に何やってんだ俺は……

 っとゼクードは反省する。

 

 こんな奴を励ます必要なんてないのだが。

 

「……ねぇ」

 

「ん?」

 

「あんたこれからどうするの?」

 

「そりゃエルガンディに帰るよ。みんなが心配だからな」

 

「どうやって?」

 

「さぁな。それを模索しながら動くしかない」

 

「そう……」

 

 アグリスは涙目を擦ってから焚き火に薪を追加した。

 

「そういうお前はどうするんだ?」

 

「……とりあえず姉さんたちを探そうと思う」

 

 姉さんたち……というと、あの他の女騎士たちか。

 ローエたちと戦ってたはずだが、どうなってたんだろう?

 ローエたちが負けるとは思えないが……いや、みんな吸い込まれていたな。なら無事なのは確かだ。

 

「……そうか。まぁみんなシエルグリスで戦ってたからな。一緒にブラックホールに吸い込まれてる可能性は高いだろ。ドラグーンならどっかで生きてるかもな」

 

「うん……だと、良いんだけど。その……」

 

「なんだ?」

 

「何をどうすればいいか、分からなくて……こんな状況は初めてだから……」

 

「俺だって初めてだよ。でもこんな時はとにかく動くしかない」

 

「だから、なにをどう動けばいいか分からないって言ってるのよ」

 

「なんだよ? 大貴族さまは一人で行動もできないのか?」

 

「……」

 

 黙ってしまった。

 このアグリスって女騎士はどうやら一人で行動したことがないらしい。

 

 !

 待てよ?

 もしかして。

 

「……お前まさか。俺を助けたのって」

 

 そのゼクードの一言にアグリスがビクッと肩を震わせた。

 図星だったようで顔を一気に真っ赤にしてきた。

 

「なによ! 悪い!? 右も左も分からないんだからしょうがないでしょう!」

 

「ダっっっサいなぁ〜お前。よくそれで平民だのなんだの言えたな? ええ?」

 

「ぐっ!」

 

「つまりあれか? 一人じゃ心細いから誰でもいいから仲間を作りたかったんだろ?」

 

「ち……ちが……」

 

「一人で行動できないとか……お前いったい何歳だよ?」

 

「じゅ、18……」

 

 うっわ……

 俺より年上かよ……マジでダサいなコイツ。

 いや正確には俺の方が年上なんだろうけど。

 

 しかし俺の周りの女騎士って年上多いなぁ。

 レィナちゃんも年上になっちゃったし。

 まぁどうでもいいか。

 

「18でそれはちょっとダサいなぁ。ほんっとにダサい。もうなんていうこう……ダサい。ダサいとかしか言いようがないな。ダサい」

 

「――――っ! うるさい! 悪かったわね!」

 

「あ〜大声出すな。ドラゴンが寄ってきたら面倒だろ」

 

 この大陸にドラゴンがいるかは定かではない。

 現にこんな見通しのいい場所なのにA級ドラゴンの気配がまるでないのだ。

 

 この大陸にはドラゴンが存在しないのだろうか?

 不思議なもんである。

 

「とにかく! 私はあんたについていくから!」

 

「ついてくんなよ敵同士なのに! どっか行けよ!」

 

「一人は無理! せめて誰かを見つけるまで一緒にいさせてよ! お願いだから!」

 

 一緒にいさせてよ、とはまた魅力的な言葉だ。

 ただその言葉の発信者が敵なので不愉快で傍迷惑な言葉になってしまっているが。

 

「だから大声出すなって。……じゃあとりあえず朝になったらあの火山を目指す。ついでに海岸沿いを歩いて俺の武器も探す。いいな?」

 

「……うん。わかったわ」

 

「言っとくが俺はお前を許してないからな? 変な真似したら心臓を引き抜く。覚えとけ」

 

「わかってるわよ……」




アグリス・ディアマードのイメージイラスト

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