【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第393話【再会! しかし……】

 ゼクードたちが連れて行かれたのは森の奥にある山と山の狭間だった。

 

 青空に届きそうなほど高い山が集落を囲んでおり、それが城壁の代わりとなって外敵の侵入を阻んでいる。

 

 建物はどれも木製で質素だが、山の斜面に穴を掘って扉を付けている箇所も見える。

 坂の多い集落だがエルガンディ出身のゼクードには斬新に見えた。

 

 自然と一体化したような集落だ。

 のどかで妙に落ち着く。

 

 集落に入れば住民たちがゼクードとアグリスを見てイチイチ目を丸くするのが見えた。

 

 よそ者は珍しいらしい。

 

「ここが我々の住む集落ハサカだ」

 

 先頭を歩く大柄の男が言った。

 彼の後ろを歩くゼクードは遠くに見える湯気が気になった。

 

「良い集落ですね。遠くに見える湯気はなんですか?」

 

「温泉だ」

 

「おんせん?」

 

 聞いたことない言葉だ。

 ゼクードはアグリスに視線を向けるが、彼女も知らないと首を振った。

 

「なんだ知らんのか? ベイグナートにもあったはずだがな」

 

「あはは……なにぶん不自由な奴隷だったもので」

 

「簡単に言えば自然に湧き出る風呂だ」

 

「自然に? 地面からですか?」

 

「そうだ。ここを集落にした理由の一つでもある」

 

「なるほど……」

 

 温泉……か。

 昔あったエルガンディの大浴場とか、シエルグリスの大浴場とはちょっと違うのかな?

 自然から湧き出る風呂だなんて想像もつかない。

 凄いなぁ。

 

 

 ガシャン! カチャ!

 

 重い鉄製の音が鳴り響いた。

 そこは山の傾斜に空けられた横穴に鉄格子を組み込んだ牢屋である。

 

 ゼクードとアグリスは問答無用で牢屋へ案内されたのだった。

 

「今から村長を呼んでくる。そこで大人しくしていろ」

 

 大柄の男がそれだけ言って去って行った。

 そしてアグリスが怒鳴る。

 

「ちょっとおおおお! 牢屋に直行されちゃったじゃない! どーすんのよこれ!」

 

 牢屋の外には村が広がり、歩く住民たちがアグリスの怒声に驚いて見てくる。

 

「いちいちうるさいって。そう慌てるな。村長を呼んでくるって言ってただろ? それまでのんびりしてようぜ」

 

「本当に連れてくるか分かんないでしょ!? このまま放置されるかもしれないじゃない!」

 

「そんときゃ牢屋をぶっ壊して逃げるまでさ。だれもお前がドラゴンに変身できるなんて知らないんだから」

 

「あんた……私を便利屋か何かだと思ってない?」

 

「思ってるよ?」

 

「……」

 

 アグリスが本日何度目かの溜め息を吐くと、牢屋の奥から声が聞こえた。

 

「あの……どなたですか?」

 

 !

 

 今の声は!

 

 横になっていたゼクードが飛び起きた!

 

 今の声は間違いなく!

 

「フランか!?」

「え?」

 

 奥を見ると、そこには確かに愛妻のフランベールが立っていた。

 淡い金髪に碧眼の瞳。

 青い弓使い専用の騎士装備は間違いなくエルガンディのそれだった。

 

 無事だったんだ!

 

 ゼクードは胸の奥が熱くなるのを感じてフランベールに抱きついた。

 

「きゃっ!?」

「フラン! よかった! 無事だったんだな!」

「……………………」

 

 あれ?

 フランベールが抱きしめ返してくれない?

 なんで?

 

「あの……あなたは……誰ですか?」

 

「え!?」

 

 フランベールの衝撃の言葉にゼクードは目を限界まで開けて身体を離した。

 

「ぉ、おいフラン……嘘だろ? 俺を忘れたのか? ゼクードだよ。ゼクード・フォルス」

 

「ゼクード……フォルス……?」

 

 首を傾げるフランベールにワザとらしさがない。

 まさか、今度はフランが記憶喪失に!?

 

「じ、じゃあレミーの事は?」

 

「レミー?」

 

「俺とお前の娘だよ。レミーベールって言う!」

 

「娘…………わたしには娘がいるんですか?」

 

 嘘だろ……娘のことまで忘れてる!

 

「ぃ、いるよ! 二人いる! レミーベールとリィンベール! 二人とも俺とお前の娘だよ!」

 

「…………」

 

 フランベールは困った顔をして黙ってしまった。

 ゼクードのあまりの必死さに申し訳なくなったのかもしれない。

 

 まさか……俺の次はフランが記憶喪失になるなんて……

 

「やっぱりお前ら仲間だったのか!」

 

 隠れていたらしい大柄の男か現れて言った。

 ゼクードとフランベールの一部始終を見ていたらしい。

 

 これは……最悪だ……

 

「村長! やっぱりこいつら仲間でした! 捕まえて正解です!」

 

 大柄の男がゼクードとフランベールを指差しながら言った。

 呼ばれた村長が彼の後ろから現れゼクードを見た。

 ゼクードも村長を見た。

 

 驚いたことに……村長とは目が覚めるほど美しい美女だった。

 まさかの女村長である。

 青い長髪に赤いローブが特徴的である。

 あと胸も大きい。服の上からでも分かるほどに。

 

「あんたらかい? あの火山の化け物を刺激したのは。余計な事をしてくれたね」

 

 女村長が溜め息混じりにそう言ってきた。

 何もしてないと反論しようとしたが、ゼクードよりも先にアグリスが怒っていた。

 

「なにもしてないわよ! まだ火山にも行ってないし、その化け物とも遭遇してないっての!」

 

「仮にそうだとしても。そこの女がやったことの責任は取ってもらわないとね。仲間なんだろう?」

 

 女村長がフランベールを見ながら言う。

 するとゼクードは真顔になり疑問を口にした。

 

「おいちょっと待て。本当にフランがその火山の化け物を刺激したのか?」

 

「見たわけじゃないさ。ただ、化け物が暴れだしたタイミングと、その女が現れたタイミングが一致するんだ。この集落の者はみんな化け物の危険さを知っているし、手を出してはいけないことも知っている。やるとしたらあんた達のような余所者しか有り得ないんだ」

 

「証拠もないのに決めつけかよ!」

 

 ゼクードが吐き捨てると大柄の男が睨んで口を開いてきた。

 

「ではこの状況はどう説明する? 火山の化け物は暴れに暴れ、俺たちはまともに狩りもできなくなってしまった。奴と遭遇したら死ぬ。歯が立たない。奴一匹のために、何人死んだか……」

 

 そりゃそんな貧弱な装備じゃドラゴンには勝てないだろ。【気】だって使えないだろうし。

 ドラゴンを舐めすぎだ。

 

 そう内心で思いつつも、そもそもここに住む彼らはドラゴンという存在を知らないような雰囲気がある。

 

 さっきから火山の【化け物】としか呼ばないところを見るに【ドラゴン】という名前を知らない気がするのだ。

 

 今までドラゴンに遭遇したことがないのなら、あの貧弱な石の槍とか、小さな弓矢とかの説明もつく。

 大柄の男が装備しているレザー製の鎧もだ。

 あんなものじゃドラゴンの攻撃は防げない。

 

 いや、今の問題はそこじゃないか。

 問題は……

 

「……なぁフラン。君は化け物に手を出したのか?」

 

 問題はこれだ。

 本当にフランベールが火山の化け物に手を出したのかどうなのかだ。 

 

「いえ……わたしは……気づいたら草原にいて、歩いてたら、捕まって……」

 

 恐る恐る答えるフランベールだが、大柄の男と女村長は顔を険しくした。

 

「嘘をつくな!」

「口ではなんとでも言える。私達は彼女の言葉を信用できないね」

 

 二人の怒声にフランベールはビクつき黙ってしまった。

 そんなフランベールの肩に手を置いたゼクードが口を開く。

 

「まぁ……そっちからしたらそうだろうな。けど俺はフランを信じるよ」

 

「え?」

 

 フランベールは虚を突かれたかのようにゼクードを見た。

 なぜ? っとその瞳が問うていた。

 そんな眼差しを送るフランベールにゼクードは安心させるように優しい顔で接した。

 

「フランは俺の大切な妻なんだ。当たり前だろ?」

 

「ゼクードさん……」

 

 ほんのり頬を赤くしたフランベールはどこか初々しい。

 すでに俺との子供も二人も生んでるのに、こんなに初々しいフランベールを見たのは久しぶりかもしれない。可愛い。

 

「……じゃあ夫婦仲良く牢屋暮らしということで良いんだね?」

 

 女村長が話を締め、この場を去ろうと踵を返した。

 しかしゼクードは呼び止める。

 

「待て! このままじゃ何も解決しないだろ! その火山の化け物はどうするんだ?」

 

 ゼクードが聞くと、女村長は足を止めた。

 しかしその問いに答えたのは大柄の男だった。

 

「どうもできん。奴の皮膚は恐ろしく堅い。鉄や黒曜石の刃でも貫けないんだからな」

 

 黒曜石?

 なんだそれ?

 聞いたことのない鉱石だな。

 

 オリハルコンより凄いのかな?

 

 そんな疑問を抱いていると、ゼクードに背を向けたまま女村長が腕を組んだ。

 

「あれは人間の適う相手じゃない。あれと比べたらクマやイノシシなんて可愛く見えるくらいさ」

 

 ドラゴンと比べたらそりゃクマやイノシシなんて犬っころ同然だよな。

 

 やっぱりこの人たちはドラゴンと遭遇したのはこれが初めてなんだ。

 やっと分かってきたぞ。

 この大陸のレベルが。

 

「だったら村長さん。ここは俺に任せてくれないか?」

 

「……なんだって?」

 

「俺とアグリスがその火山の化け物を狩ってくる」

 

「ちょ! なんで私まで!」

 

 怒るアグリスを無視してゼクードは続けた。

 

「無事に狩ることができたらフランを牢から出してやってくれ」

 

「無理だ。お前みたいな子供に何ができる。相手は本物の化け物だぞ!」

 

 大柄の男に言われ、ゼクードは肩を竦める。

 

「わかってるよ。でも俺たちは化け物の相手には慣れてるんだ。何度も戦ってるからな。狩り方も知ってる」

 

「何が狩り方だ! ここから逃げるための嘘だろ!」

 

 やっぱそういう風に捉えられるよな。

 相手から見れば俺はこの集落のために戦うメリットがないように見えるだろうし。

 

「違う。信じてもらうためにフランはここに置いていく」

 

「なに!?」

 

「彼女は記憶を失ってる。一緒に来ても足手まといだ。だからここで預かっていてほしい」

 

「何を勝手に決めているんだお前は! いい加減にしろ!」

 

「フランは俺の妻だ! 彼女を置いてここから逃げるわけにはいかない。それじゃダメか?」

 

「……っ! 村長……!」

 

 戸惑う大柄の男は女村長を見た。

 当の女村長は腕を組んだままゼクードに振り向く。

 

「その女が本当にあんたの妻だって証拠は?」

 

 痛いとこを突かれたな。

 

「それは……ないけど……」

 

「じゃあダメだね。信用できない。化け物を刺激するだけ刺激して逃げる可能性がある」

 

 マズイな。

 なんとかしないと。

 どうやって信用を得る?

 

 相手を説得するには信用が必要だが、それが今ない。

 いっそここは大人しくして、夜にでもフランベールを連れて逃げればいいのだが……

 それだとまた右も左も分からない未知の大陸を右往左往するハメになる。

 

 エルガンディへ帰ろうにも方角が分からない。 

 自分たちの現在地も分からないから余計に帰れない。

 簡単には帰れないだろうから、生活できる拠点はほしいのだ。

 

 この問題を解決すればきっとこの女村長を味方にできる。

 トップの信用を得てしまえば集落に住むのは容易になるはず。

 

 生活面を整えてからエルガンディへ帰る方法を探す方が絶対に確実だ。

 

 だからここはなんとしてでも火山の化け物を狩ることを許可してもらわないとダメだ。

 

 事件が発生しているのは、今の俺にとっては友好関係を築く好都合なものだ。

 

 だから考えろ。

 この女村長を説得するのに必要なことを。

 

 ……そうだ!

 

「……お兄さん。その化け物ってのは、この鉄格子のように堅い鱗に守られてるんだろ?」

 

 大柄の男に言うと彼は頷いた。

 

「ああ。そうだ。奴にはいっさいの攻撃が効かん。弓矢さえも弾く」

 

「そう。あいつらの鱗は並大抵の攻撃を弾く。だから!」

 

 ゼクードは持っているサバイバルナイフを抜いて【気】を纏わせた。

 そして一呼吸の間に鉄格子をサバイバルナイフで斬ってみせた。

 

 キンッと音がすると、三本の鉄棒に複数の線が入り、次の瞬間にはバラバラに一閃された。

 

「な!?」

「鉄を……!」

 

 女村長と大柄の男が驚愕した。

 

「今のは【竜斬り(ドラゴンぎり)】という対ドラゴン剣技の一つだ。ドラゴンを相手にするには、こんな鉄くらい簡単に斬れるほどの攻撃力がいる」

 

「お……お前……いったい……!」

 

 大柄の男がゼクードを凝視する。

 女村長も腰を抜かしていた。

 

「お兄さん。あんたさっき俺みたいな子供に何ができるって言ったな? これで信じてくれないか?」

 

「……っ!」

 

 大柄の男はゴクリと生唾を飲んだ。

 ゼクードの発する威圧感に冷や汗を流し始めた。

 

「お……お前いったい……何者なんだ!?」

 

「ベイグナートの奴隷だってば。それより火山の化け物だ。奴を討伐する許可をくれ。そして成功したらフランを牢から出してやってほしい。頼む」 

 

「……っ。そ……村長……どうしましょう……」

 

「………………本当に、あの化け物を倒してくれるのかい?」

 

「もちろんです。約束します」

 

 ゼクードはまっすぐ女村長を見てそう言い切った。

 

「…………」

 

 対する女村長もゼクードを見つめる。

 ゼクードの曇りひとつないパープルの瞳に女村長の顔が映った。

 

「…………わかった。何人も死人が出ていて本当に困ってたんだ。食料の確保もままならなくてね。だからどうか……よろしく頼むよ」

 

「わかりました。必ず」

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