【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
女村長から正式にドラゴン討伐の依頼を受け、ゼクードはアグリスを連れて集落ハサカを出発した。
食料や水などを準備し、火山までの地図も貰った。
基本的な物は調達できたが問題は武器の方だ。
集落ハサカには石系の武器はあるものの、ミスリルやオリハルコンなどの武器はない。
黒曜石というのも見せてもらったが期待外れで、あれならまだ普通の鉄の方がマシなレベルだった。
そんなこんなで結局……一番強い武器は自前のサバイバルナイフということになり、武器は貰ってこなかった。
使えない武器を担いでも重量が増えて体力を消耗させるだけだからだ。
このサバイバルナイフはミスリル製だ。
少なくとも石や黒曜石よりも切れ味と耐久性はある。
問題はこんな短い刃渡りでドラゴンの竜鱗を突破できるのか、ということだ。
単純に考えれば無謀だが、俺の闇魔法と組み合わせてなんとかするしかないだろう。
ぶっつけ本番でなんとかする。
それくらいの経験は積んできたはずだ。
フランベールのためにも頑張らないとな。
「ねぇ」
集落ハサカを出て草原を歩く中。
後ろをついてくるアグリスが声を掛けてきた。
また文句か? っと思いつつゼクードは振り返る。
「なんであそこまでして集落の連中に媚びを売るの? 暴れてあのフランって女を助け出せればそれで良かったんじゃないの?」
「後先考えろよ。いつでも帰れる拠点は持っておくに越したことはないんだ。右も左も分からないんだから味方は多い方がいい」
「ふ〜ん……」
「それにフランベールを取り戻してもエルガンディに帰るための方角が分からないだろ?」
正直、移動手段はアグリスがいるから無理矢理乗せてもらえばいいんだけど、どっちに向かって飛べばいいかが分からない。
現在地と方角を調べるのも今後の課題だ。
「そうね……方角さえ分かれば飛んですぐなんだけど」
「いや、まぁ、すぐかは分からんけどな。でもそういうわけだ。長居をするハメになるかもだから味方と拠点は作っといたほうが良いんだよ」
それに今は割と凄い体験をしているのも事実だ。
ナイトが言っていた別の大陸の人間と会えたのだから。
こんな状況でもなかったらもっと楽しんでるのにな。
「あんたって意外と考えてるのね」
「意外とってなんだよ。これでも隊長だぞ?」
「あと『お父さん』でもあるのよね?」
「あ?」
「あのフランって女の夫なんでしょう? 子供も二人いるって話」
「あれ? 知らなかったか? 俺に子供がいるの」
「ううん。知ってた。本当なのかちょっと疑ってたわ。あんたって今何歳なの?」
「17」
「え!? 17!? 嘘でしょ!?」
まぁみんなこんな反応するよね。
お約束っていうか。
「30代じゃないの!?」
いやなんでだよ!?
初めてだよそんな返し!
「おい! さすがにそんな老けてないだろ俺!」
「いや老けてるとかそんなレベルの話じゃなくて! おかしいでしょ!? あんたあのカーティスって男の父親でしょう!?」
「おお」
「あんたで17歳ならカーティスは何歳なのよ!」
「あいつ確か19だぜ? 俺より年上になっちまったんだ」
「……………………ちょっと何言ってるか分かんない」
「なんで分かんねぇん…………いや、そうだよな。分からんよな普通は。すまん」
「も、もういいわ。本当にワケ分かんない。ようするに複雑な家庭ってことね」
「まぁ………………そうだな」
たぶんアグリスは俺とカーティスの関係を養子か何かだと勝手に補完したらしい。
違うのだが、まぁいいや。説明も面倒だし。
普通に血の繋がった親子なんだがね。
「じゃあやっぱりあのフランって女が妻なのも嘘なの?」
「なんでそうなる。フランは俺の正式な妻だよ。嘘じゃない」
「え……じゃあ子供が二人いるのも?」
「だから本当だって。しつこいな」
「いやだってさ……」
「そんなことより今回の件。お前のこともアテにしてるからな? アグリス」
「何がアテにしてるからよ。勝手に巻き込んどいて」
「しょうがないだろ? 俺このサバイバルナイフしかないんだから。お前もドラグーンの力でちゃんと戦えよ?」
「ほんっとに私を便利屋としか思ってないのね!」
「なんだよ……なら都合の良い女って言ったほうがいいか?」
「余計悪いわ!」
「いいから手伝え。火山のドラゴンさえ倒せれば集落ハサカで落ち着くことができるんだから」
「はぁ……もう、わかったわよ。言っとくけど私【炎属性】だからね?」
「マジか? こりゃ火山のドラゴンに有効じゃなさそうだな……」
火山のドラゴンだから火には強そうだし、これはまいったな。
「せめてもう少しまともな武器があれば良かったんだがなぁ……それかもう1人くらい仲間がいれば……」
言うとゼクードの背後からいきなり気配が。
「お困りのようですね?」
バッ! っとゼクードは振り返った。
アグリスも振り返り、そのいきなり現れた人物を見て目を限界まで開いた!
「ド……ドレス!?」
ゼクードとアグリスのもとに現れたのはいつぞやの女騎士……ドレス・ディアマードだった。
【竜軍の森】で一度だけ戦ったのを覚えている。
ほんの一瞬だが見覚えもあった。
コイツもここに飛ばされていたとは。
「ドレス! よかった! 無事だったのね!」
アグリスが歓喜しドレスに抱きついた。
しかし当のドレスはキョトンとする。
「? どちら様ですか?」
「え!?」
アグリスが驚愕した。
もちろんゼクードも。
おいおい、まさかコイツまで記憶喪失なのか?
ブラックホールから放り出された時に頭から落ちたのかもしれないが。
「ちょ! 冗談やめてよドレス! 私よ! アグリスよ! アグリス・ディアマード! 私たち家族でしょ!?」
「申し訳ありませんが、あなたのことは存じません」
「そんな……」
この素振り……やっぱりコイツも記憶喪失だな。
いや、待てよ?
コイツの場合はもしかしたら竜の心臓に乗っ取られている可能性があるな。
レグの件もあるし、なにより碌な記憶が残ってないのがセレンと似ている。
「アグリスさん……でしたね? あなたの事は存じませんが、あなたの匂いは好きです。食べてしまいたいくらいに」
「え!?」
「ふふ……冗談ですよ」
「……じょ、冗談言ってる目じゃなかったけど?」
やはりセレンの時と似ている。
このドレスという女騎士はすでに【心臓の人格】に乗っ取られている。
たぶん、本当のドレスはセレンと同じく中に押し込まれているのかもしれない。
なんにせよ警戒せねばならない。
心臓に正気を奪われた人間は恐ろしく強くなるから。
あのセレンでさえあの強さだった。
とは言え、まだどっちかは分からない。
本当に記憶喪失かもしれないし、ここは様子を見るか。
「あなたは後回しですアグリスさん。それより火山のドラゴンを討伐するんですよね? 及ばずながらワタシもご助力いたします」
ドレスの思わぬ言葉にゼクードは目を鋭くした。
「なんでそれを知ってるんだ?」
「はい。集落に連れていかれるあなた方を見ていました。アグリスさんの匂いが気になったので後をつけたんです。集落には身を潜めて侵入しました。そして牢屋の前でのあなた方の会話を聞きました。だから知ってるんです」
淡々と説明するドレスに人間味を感じない。
なにかゾッとするような雰囲気を醸し出すドレスに、ゼクードはそっとアグリスの側に寄った。
記憶喪失の人間が出す雰囲気じゃない。
やはりコイツは心臓に乗っ取られている可能性の方が高そうだ。
アグリスの匂いにつられて来たところ見るに、コイツはもう本能的にはドラゴン化していると見ていいだろう。
だからゼクードはアグリスの側に寄った。
何か不意打ちされてもすぐに守れるように。
アグリスが居ないとエルガンディへ帰ることができなくなる。
不本意だがアグリスをやらせるわけにはいかない。
「経緯は分かったが、なんで協力してくれるんだ?」
「利害の一致です。ワタシも補給のためにあの火山のドラゴンを狙っています。思ったより手強いドラゴンでして、一人では手を焼いていました。そこへあなた方が――――」
「おいちょっと待て! まさか火山のドラゴンを刺激したのはお前なのか!?」
「そうですよ?」
「テメェ!」
一気に熱くなったゼクードはドレスの胸ぐらを掴んだ。
それを見たアグリスが慌てて仲裁に入った。
「ま、待ってゼクード! やめて!」
アグリスに押されゼクードはドレスから離れさせられた。
「どけアグリス! そいつのせいでフランが捕まったんだぞ!」
「そ、それはそうだけど……!」
「集落の人間だって何人も死んでるんだ! 許せるわけないだろ!」
「お願いだから待ってゼクード! 話をさせて!」
「……っ!」
「ねぇドレス。なんで火山のドラゴンに手を出したの?」
「お腹が空いていただけですよ?」
「この野郎!」
「やめてってばゼクード!」
「お前もいい加減にしろ! いくら家族だからって庇うなこんな奴!」
「庇うわよ! あんたにとっては他人でしょうけどね! 私にとっては大切な家族なのよ!」
「他人どころか敵なんだよお前らは!」
「ドレスは記憶を失っているのよ! それでちょっとおかしくなってるだけよ!」
「……違う! 記憶喪失じゃない! コイツは竜の心臓に正気を奪われているんだ! レグと同じくな!」
「え!? そ、そうなのドレス!?」
「さぁ? 何を言っているのか分かりませんが……ワタシを信じられませんか? 仲間割れをしている場合ではないはずですが?」
「誰が仲間だ!」
ゼクードが前に出ようとするとまたアグリスに手を引っ張られた。
「ああもう! いちいち怒らないでよ! お願いだから少し時間をちょうだい! ねぇ!」
「バカ! 何をしてくるか分からないぞコイツ! もうお前の知ってるドレスじゃない!」
「だから時間をちょうだいって言ってるのよ! それに火山のドラゴンはどのみち倒さなきゃいけないんでしょ!? だったらドレスの加勢もあった方がいいじゃない!」
「それはそうだが……」
「ね? 今は3人で協力しましょう? 後のことはドラゴンを倒してからすればいいじゃない……」
アグリスめ……
セレンの例を知らないからこんなことが言えるんだ。
でも確かに戦力も武器も不足している現状でドレスの加勢は大きいが……そもそもコイツのせいだし。
「ねぇゼクード。お願い……」
「……わかったよ」
これは言っても聞かなそうだ。
もう勝手にさせよう。
俺もまずはフランベールを助けなきゃならないからな。
「ふふ……よろしくお願いしますね」
ドレスがニッコリと笑いながら言う。
ゼクードはそんな彼女の笑顔を不快に感じながら睨む。
そしておもむろにアグリスの側へ寄り耳打ちした。
「……おいアグリス。あんまり俺から離れるなよ?」
「ぇ……え!?」
「奴の狙いが【火山のドラゴンの捕食】なら、同じドラゴンのお前も狙いの対象になってるはずだ」
「!」
「討伐が終わった時こそ気を許すなよ? 怖くなったらとにかく俺の側に居るんだ。必ず守ってやる。俺もお前が居ないと困るからな」
「……! わ、わかったわよ……」
「……なに赤くなってんだよ。女として見てないって言ったろ?」
「うっさい! ほんっとムカつくわねあんた! 死ねばいいのに!」
「わかったから行くぞ」
「ああもう! ……年下のくせに!」
そんなやりとりをしながら先行する二人を見て、ドレスはただクスクスと笑っていた。