【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
噴煙が火山の頂上から吹き上げる。
麓まではヌルかった気温も、あちこちでマグマが流れる岩石の道では凄まじい高温だった。
さすがに火山の経験がないゼクードはこのあまりの高温に驚きを隠せないでいた。
暑いだろうことは予想していたが、桁が違った。
汗が止まらない。
地面に滴った汗は一瞬で蒸発する。
道の脇に流れるマグマはグツグツと煮え滾っており、泡のようなものが破裂すると、そこからまた熱風が吐き出される。
このマグマに足を踏み外せば即死だろう。
火山って……もしかして素人が踏み込んでいい場所じゃないのかも?
メチャクチャ足場も悪いし、こんなところで狩りなんて無理だろ。
なんとかして火山のドラゴンを草原まで……いやせめて火山の麓まで引きずり出せないだろうか?
でないと戦いにくいのもそうだが、俺の体力が持たない。
「はぁ……はぁ……」
「ね、ねぇゼクード……あんた大丈夫?」
「ゼクードさん。大丈夫ですか?」
ゼクードの後ろを歩くアグリスとドレスが言った。
ゼクードは虚勢を張らずに首を振った。
「無理……ぜんぜん大丈夫じゃない……暑すぎここ……」
二人の顔を見ながら言うと、ゼクードはあることに気づいた。
「っていうか、お前らなんでそんな平気なの?」
これである。
ゼクードはもう汗ダラダラなのに対してアグリスとドレスは汗一つ搔いてない。
「たぶんドラゴンだから?」
「ドラゴンですから」
涼しい顔して答えてくる二人にゼクードは溜め息をついて額の汗を拭った。
「今だけちょっと羨ましいよ……まさか火山がこんなに暑いとは思わなかった……汗が止まらねぇ……」
「だからあの村長さん水をたくさん持たせてくれたのね。私の分もあげるから飲みなさいよ」
アグリスに革袋の水を渡され受け取った。
今だけアグリスが天使に見えた。今だけ。
キツイときに優しくされると人はこうもチョロくなるのか、とゼクードは気づいた。
「ありがとう……助かるよ……うわ、ぬる!」
「我慢しなさいよ。しょうがないでしょ。こんな場所じゃ」
「うぇ〜……飲んだ気にならねぇや……」
ぬる〜い水を飲みながらゼクードはさらに火山の奥へ進んだ。
すると山頂に近づくにつれ、地面の雰囲気が徐々に変貌していることに気づいた。
黒々とした地面。
所々で赤い溶岩が見える。
なんだあれは?
ヘドロみたいだ。
いやマグマか?
マグマが冷えて固まった地面なのかこれ?
すげぇな……。
好奇心から足で蹴ってみても堅いのだけ分かった。
鉄のように堅い。
マグマは冷えるとこんなに堅くなるのか。
道の右手にはマグマの湖が広がっている。
相変わらず凄まじい熱気だ。
「暑いし、足場は悪いし、ここでの戦闘は避けたいな……」
「そうね……でも肝心のドラゴンはどこにいるのかしら?」
アグリスが言うと同時に空から強烈な殺気を感じた!
「ゼクードさん! 上です!」
次いでドレスの声が弾けるが、ゼクードはすでに対応していた。
全身真っ黒で隕石のようなドラゴンがゼクードに直下してきた!
それを見たゼクードはナイフを抜刀!
前転で避け、ゼクードは受け身を取る。
「ゼクード大丈夫!?」っとアグリス。
「大丈夫だ! けど……あいつ堅いぜ!」
「え!?」
「避けたついでに5〜6回斬ってやった! でも刃が通らなかった! ヤバいぞコイツ!」
「嘘でしょ!? あんたの技量で斬れないなんて!」
アグリスが心底驚くが、ゼクードも同じだった。
まさか【真・竜斬り】か通用しないなんて。
いくらミスリル製のサバイバルナイフとは言え、ここまで刃が通らないのはちょっとショックだ。
くそ……
オリハルコンの武器なら斬れたかもしれないのに。
内心でそう吐き捨てながら火山のドラゴンの形状を見た。
ソイツはまるで隕石のようにゴツゴツしていた。
全身を黒い岩石で守っているようだ。
あいつまさか……マグマを全身に塗って堅めたんじゃ?
よくあんな姿で飛べるもんだ。
反則だろ。ドラゴンっていつもいつも。
「ふふ……現れましたね。食らってあげます!」
ドレスが右腕をドラゴンの腕に変化させて突撃した。
それを見た火山のドラゴンがマグマを吐く!
しかしドレスがそれを躱しながら突き進んでいった。
それはゼクードが見ても凄まじい反応だった。
「【ドラゴンクロー】!」
小柄なドレスに不相応な巨腕。
それを思いっきり薙ぎ払い爪で攻撃する。
それによってぶっ飛ばされたドラゴンがマグマに落ちて半身を浸からせた。
あんな10メートルはある重そうなドラゴンをぶっ飛ばすとは。
ドレスの攻撃力はローエに匹敵するようだ。
これは頼もしい。
そう思って見ていると、マグマから立ち上がったドラゴンが怒りの咆哮を放った。
「凄く怒ってる……やっぱりドレスが手を出したんだ……」
「分かるのか?」
ゼクードの問いにアグリスは頷く。
「『またおまえか』って言ってる」
そう言えばアグリスやドレスは竜の心臓のおかげでドラゴンの言葉が分かるんだったな。
なら……
「アグリス。奴と交渉は無理そうか? できれば戦いたくないんだが」
「無理よ。あんなに怒ってると話どころじゃないわ。近づいたら殺されるわよきっと」
やっぱ駄目か。
楽したかったのに。
「やれやれ。ならやるしかねぇか……」
溜め息混じりにゼクードはドラゴンを見た。
マグマに浸かった右半身だけ赤熱していた。
どうやら全身に塗ったマグマが熱によって溶解したらしい。
なるほど。
熱した部分は溶けて柔らかくなるのか。
攻撃するのはかなり危険だが、あれがマグマの鎧を突破する唯一の鉄壁の穴だ。
「勝算はあるの? ゼクード」
「ここじゃ不利だ。まずは逃げながら奴を火山の麓まで誘導する」
「うん。それから?」
「奴の身体を覆っている黒いヘドロみたいなのがあるだろ? あれたぶんマグマが冷えて固まったやつだ。奴はそれを身体に塗って防御力を上げている」
「頭いいわね……」
「感心するな! それより火山の麓についたらお前俺に【プロミネンス】を撃て」
「はぁ!? ……あ、まさか!【カオスエンチャント】?」
「そうそれだ。奴のマグマを溶かして削ぎ落とす。お前も炎魔法でガンガン攻撃しろ。マグマを熱して溶かすんだ。そうすればマグマの鎧を突破できる」
「わかったわ。ならさっそくドラゴンを誘導しないとね」
「ぐぅあっ!」
いきなりドレスが吹き飛ばされてきた。
彼女はアグリスの隣で受け身をとり態勢を立て直す。
「ドレス! 大丈夫?」
「大丈夫です。あの堅さでこのスピードは手強いですね。ドラゴン形態を使います」
「待ってドレス! その前に奴を火山の麓まで誘導するのを手伝って! ここじゃ足場が悪すぎるの!」
「なるほど。わかりました。ところでゼクードさんはどこに?」
「え?」
気づいたら居なくなっていたゼクードだが、当の本人はすでにドラゴンへ接近していた。
ゼクードはナイフに超濃度の【気】を纏わせ、ドラゴンの右半身をすれ違いざまに斬り付けた。
傍目には一閃!
実際には秒間に十!
それ以上もの斬を放っている!
そのゼクードの凄絶なる動作をアグリスとドレスは目で追えなかった。
二人は何が起きたのかを理解しない。
ただ唖然とし、アグリスとドレスは口を開けた。
「あ……あいつ……凄い! やっぱり本当に強かったんだ!」
「ナイフであれほどの戦闘力とは……恐ろしい方ですね」
感動するアグリスと、冷静なドレス。
そんな二人をよそに、ゼクードはドラゴンに対して凄まじい数の斬撃を決めた。
それによって右半身のマグマが弾け飛び、ドラゴンの竜鱗が露出する。
その竜鱗がゼクードの斬波によってピシッと音を立て亀裂が走った。
そこから出血し、痛みを感じたらしいドラゴンがゼクードに怒りの咆哮を放つ。
黒く固まったマグマの翼をゼクードに薙ぎ払う。
それをムーンサルトで避けたゼクードだが、ドラゴンは口からマグマを吐いて追撃してきた!
「い! 吐けんのかよ!」
ビックリしてさらにバックステップでマグマを避けた。
ビチャッ! っと地面にマグマが付着し蒸気が上がる。
あんなもん食らったら即死だな。
火球の方がまだ可愛い。
ゼクードはさらに下がりながらドラゴンが追いかけてくるのを待った。
出血までさせたドラゴンはやはりゼクードをターゲットにして追い掛けてきた。
よし食い付いた!
このまま麓まで連れ回してやる!
だがドラゴンは空へ浮上してマグマを吐き散らしてきた。
当たれば即死は免れない超高熱の液体を。
「うっわ! あぶね! おい! 汚ねぇぞ! 走って追い掛けて来いよ! 飛ぶな!」
「ドラゴン相手に何言ってんのよ! 早く麓まで降りるわよ!」
アグリスに言葉で叩かれながらゼクードはドレスと共に火山を降りた。