【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第396話【騎士を辞める】

 ――――時は少し遡り、ゼクードが目覚めた時刻とほぼ同じ頃……

 

 ゆっくりと晴れていくまどろみ。

 そのまどろみの向こうにはオレンジ色の景色が広がっている。

 

 誰かに身体を揺さぶられ、半ば強引に意識が回復していくのを感じた。

 

「ローエ! しっかりしろ! ローエ!」

 

 聞き覚えのある声に叩かれ、ローエは目を開けた。

 赤い髪のポニーテール。

 ライトブルーの美しい瞳。

 真紅の鎧を身に纏った女性がそこにいた。

 

「ん……………………カティア?」

 

 ようやく覚醒したローエは横になっていた身体を起こした。

 それを見て安堵したカティアが口を開く。

 

「大丈夫か? どこか痛くはないか?」

 

「ぇ……ええ……大丈夫ですわ」

 

 正直、頭がちょっと痛かったが、触ってみると包帯が巻かれていた。レジーナとの戦いで負傷した傷だ。

 どうやらカティアが傷の手当てをしてくれたようである。

 ありがたい。

 

 ローエは一呼吸の間をおいてから周りの景色を見た。

 夕焼けに染まる草原が広がっていた。

 草木が点々と生えており、遠くに煙が立ち込める山が見えた。

 

 あれは……火山というやつかしら?

 エルガンディに火山なんてありましたっけ?

 ここはいったい?

 

「わたくし……なんでこんな場所に?」

 

「覚えてないのか?【シエルグリス】で戦ってたら空に巨大なブラックホールが現れただろ?」

 

「あ! そうですわ! あれに吸い込まれて! ……え? 何が起こったんですの!?」

 

「わからん。あんなデカいブラックホールだ。ゼクードがやったとは思えないが……」

 

「じ……じゃあここは、どこなんですの?」

 

「わからん。見たこともない景色だ。少なくとも【シエルグリス】の付近でもないし、【エルガンディ】の付近でもない」

 

「そんな……みんなは?」

 

「それも分からん。見つけたのはお前だけだ。あとはこれ」

 

 カティアが脇に置いてあった長剣を見せてきた。

【ブレイブエルガンディ】だ。

 夫の愛剣である。

 

「それ……ゼクードの剣ですわね」

 

「ああ。近くに落ちていたんだ。拾ったはいいが肝心のゼクードが見当たらない」

 

 確かにゼクードの姿はどこにもない。

 フランベールの姿も。

 カーティスやレィナたちの姿もない。

 あれほどの激戦だったのに、今はたったの二人だけとは。

 

 ローエの【ヴェルデリボルバー】と

カティアの【クリムゾングレイス】は無事だった。

 両方とも主の手元にある。

 

 武器が手元にあるのは安心だが、ゼクードが手ぶらだと確定している。ドラゴンに襲われないか心配だ。

 

「剣が落ちてるならきっと近くにいるはずですわ! 探しましょうカティア!」

 

「待て! もう陽が沈む。今から動くのは危険だ」

 

「で、でも……」

 

 確かにカティアの言うとおり、もうすでに夕方だ。

 今からあっという間に夜になって視界が悪くなる。

 夜の外での行動はあまりにも危険だ。

 

「気持ちは分かるが待つんだ。明日の朝すぐに探そう。大丈夫。ゼクードならそう簡単には死なんさ。私たちの夫なんだからな」

 

「んもぅ……ゼクードだって人間ですのよ?」

 

「わかってる。今は無事を祈るしかない。とにかく先に薪を集めるぞ」

 

「わかりましたわ」

 

 ……――――そして夜になった。

 

 カティアが焚き火に薪を投げ、火を維持していく。

 当のローエは用意した丸太に座って周囲を見た。

 

 あれから少し周ってみたが、この大陸にはドラゴンがいないのだろうか?

 まったく遭遇しなかった。

 

 代わりに熊に襲われたが素手でブッ飛ばしてやった。

 A級ドラゴンと比べれば可愛いもんである。

 

「不思議な大陸ですわね。ドラゴンがいないなんて」

 

「この辺にいないだけかもしれん。油断はするなよ」

 

 カティアに言われ、ローエは焚き火に視線を戻した。

 

 パチパチと薪が弾ける。

 その音が妙に心地良い。

 

 だが不意にローエは我が子たちの事を思い出した。

 エルガンディのリリーベールに預けたオラージュ・カレンティア・リィンベール。

 

 その3人を思い出したローエは身の毛がよだつような不快にとらわれ、全身が震えるのを感じた。

 

 自分はまた子供たちを置いてきてしまった……

 

 経緯がどうであれ、事実は事実。

 

 仕方がないことだと言えばそうなのだが、それは大人の事情。

 果たしてオラージュたちがそれに納得してくれるのか?

 

 リリーベールも呆れているのではないだろうか?

 

 また子供たちを置いて帰ってこない最低な親だと。

 

 なにをやっているんだろう……わたくしは…………

 

 これではまたグロリアに叱られる。

 カーティスもレミーベールも、口には出さないだけで思っているかもしれない。

 

 今にして思えば……なぜわたくしはまだ騎士をやっているんだろう?

 

 わたくしが騎士になったのは病弱だったリーネを救うため。

 

 とうの昔に達成したのに、我が子を預けてまで騎士として戦う自分は何なのだ?

 

 まだ19歳という未成年の身だが、子供はすでに二人いる。

 正確には6人もいる。

 そんなに生んでいるにも関わらず、なぜいつ命を落とすか分からない最前線で戦っているのだろう?

 

 今になって自分という母親を見つめ直してわかった。

 

 最低だ……自分は。

 

 今ここにいることこそ、我が子たちに対する真剣さが足りない証拠だ。

 母親としての自覚も足りなかったんだ。

 

 本当にグロリアやオラージュたちを愛しているなら、とっくに騎士なんて辞めているはずなんだ。

 

 自分が死んだら子供たちがどうなるか、分かっていたはずなのに……

 

「………………カティア」

 

「ん……なんだ?」

 

「わたくし達また……子供を置いてきてしまいましたわ」

 

「………………私も同じことを思っていた」

 

「そう……」

 

 カティアも同じことを考えていたらしい。

 そんな些細なことに妙な嬉しさを感じながら、ローエは夜空を見上げる。

 

「ねぇカティア……あなたにだから言いますわ」

 

「ん?」

 

「わたくし……無事にエルガンディへ帰還できたら、そのときはもう……………………騎士を辞めますわ」

 

「!?」

 

 カティアの目がこれでもかと見開かれた。

 そんな彼女の目を見る気にはなれず、ローエはすぐに視線を焚き火に落とした。

 

「わたくしにはもう騎士を続ける理由がありませんもの。ゼクードには追いつけないし、自分の限界も……感じてきてますし……」

 

「ローエ……」

 

「それに……思ったんですの。今こうして自分の命を危険に晒すことそのものが母親として自覚が足りないことなのだと」

 

「!」

 

「愛してるって口では言っても……行動が伴ってない……こんなの、グロリアに怒られて当然でしたわ……」

 

「……」

 

「わたくしはもう騎士を辞めて、ちゃんと母親になって、あの子たちを自分の手で育てて、たくさん愛してあげたいですわ。グロリアたちには出来なかったから、せめてオラージュたちには……」

 

「驚いたな……」

 

「え?」

 

「私も今、まったく同じことを考えていた。最初から最後まで」

 

「カティア……」

 

「ここまで同じ思考だと怖いな。たぶんフランも同じことを考えてそうだが」

 

「……そうですわね。でもカティア……あなたまで騎士を辞めることなんて無いんですのよ? 子供の事ならわたくしに任せて。あなたはゼクードに追いつきたいんでしょう?」

 

「そうだが……私のは追いつけない背中をずっと追い続ける騎士道だ。そんなものちゃんと子育てが終わってからでもいいだろう?」

 

「カティア……本気なの?」

 

「本気だ。さすがに私たちは親として無責任すぎた。今の私は……あの父(クロイツァー)よりも……」

 

 カティアも不意に父クロイツァーを思い出し、いつか言われた言葉を思い出した。

 

『女はどんなに鍛えたところで男には敵わん。男を越えようとすれば、それこそ男の何百倍もの努力と時間が必要になる。それだけの労力を費やしても、いずれは子供を妊娠し、出産し、育児で前線を離れるのなら、女騎士など最初からいない方がいいんだ』

 

 ゼクードから聞いたあの言葉。

 今になって響くクロイツァーの言葉だ。 

 あのときは暴言だと思っていた言葉が、今のカティアには重くのしかかってくる。

 

 心のどこかで分かってはいたが、認めたくない自分がいたのも確かで……

 

 これを覆せるほどの実力も持てなかった自分に返す言葉はない。

 

 それでも、自分が戦ったことで救われた命はあったはずだ。

 

 女騎士として強さを求め、そしてゼクードと出会った。

 

 彼の強さに惹かれ、愛して、子を成して、今がある。

 

 女騎士になったことそのものが無駄だった、ということはない。

 そう思いたい。

 けど………………

 

「我々は……周りに迷惑を掛けすぎている。一度ちゃんと母親にならねばならないな」

 

「カティア……」

 

「私もエルガンディに帰還できたら、しばらく騎士を辞めよう。それがグロリアとカーティスとレミーベールに対する贖罪だ」

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