【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第401話【帰りの翼】

 笑い合うローエ・カティア・フランベールを見ていたゼクードは安堵した。

 

 そしてすぐさまゼクードはドレスの方へ視線を向けた。

 共通の敵である火山のドラゴンを倒したんだ。

 これから奴の本性が出てくるはず。

 

 アグリスが食われないか警戒しないと。

 

「ちょ! ドレスなにやってんの!?」

 

 そのアグリスの悲鳴のような声が弾けた。

 何を騒いでいるのかと思えば、ドレスはドラゴン形態のまま肉片になった火山のドラゴンを食っていた。

 

「なにって……食べてるんです。アグリスさんも食べますか?」

 

「い、いらない……」

 

「そうですか」

 

 ドン引きするアグリスを気にもせずドレスは肉片を口へ運んでいく。

 臓器だろうがなんだろうが構わず食べていく。

 彼女の大口の周りには血が大量に滴っていた。

 恐ろしい光景である。

 

「アグリス!」

 

「ゼ、ゼクードぉ……」

 

 駆け付けたゼクードにアグリスは青ざめた顔を向けてきた。

 ドレスがドラゴンを捕食している光景が相当ショックだったようだ。

 

 まさか本当に食べるなんて思ってもいなかったのだろう。

 普通の人間ならドラゴンを生で食すなんて有り得ない。

 ましてやこんな血だらけのままなんて。

 

「ゼクード……ドレスが……ドレスがあんな……」

 

「本当にドラゴンを食べるなんて思ってなかったんだろ?」

 

「だって……」

 

「見てのとおりだよ。心臓に支配された人間はみんなああなる。中身もドラゴンになるんだ」

 

「…………やっぱり……私も、ああなるの?」

 

「今さら怖くなったのか? 覚悟の上だったんだろ? まさか心臓移植もお父様任せだったのか?」

 

「……」

 

 アグリスは反論しない。

 どうやら当たりのようだ。

 

 おいおい……娘に心臓移植を強制したのかヴァルドレイクは?

 同じ父親として信じられない男だ。

 くそ。この手で倒してやりたかったな。

 

「……まぁ、なんだ。気を許すなよアグリス。ここからだぞ。奴の本性が出てくるのは。絶対に俺から離れるなよ?」

 

「ぅ、うん……」

 

 心臓移植が強制だったのなら……まぁ、多少同情の余地はある。

 あるけど、アグリスが【エルガンディ】と【シエルグリス】にしたことが消えるわけじゃない。

 

 主犯がヴァルドレイクというだけで、その一員だったアグリスも同罪だ。

 

 悪いなアグリス。

 利用するだけ利用したら、お前には消えてもらう。

 ドラゴンになれる時点で殺す以外に抑え込む方法がないからな。

 

「ふ〜、美味しいかった〜」

 

 満足そうな声を上げたのはドレスだった。

 人間の姿に戻り、血だらけの口元を袖で拭う。

 

「ゼクードさんありがとうございます。あなたが細かく斬ってくれたおかげで食べやすかったです」

 

「そりゃ良かった」

 

 別にお前のために細かく斬ったわけじゃないんだけどな。

 そう内心でツッコミを入れていると、ドレスの目がアグリスを捉えて不敵に細くなった。

 

「さて……」

 

 ニコリと笑うドレスの視線はアグリスを舐めるようだった。

 次の獲物を見定めたような、捕食者の目だ。

 

 ……来やがった!

 

 察したゼクードはアグリスを自分の後ろへやって長剣を構えた。

 そんな臨戦態勢のゼクードを見たドレスは微笑んだ。

 

「集落に帰りましょっか」

 

 ガクッ! っとゼクードとアグリスが肩を落とした。

 拍子抜けとはこのことか。

 さっきまでのヤバい雰囲気が微塵もなかった。

 

「あれ? どうしたんですか?」

 

 キョトンとするドレスにゼクードは「いや……」と返すしかなかった。

 

 おかしい。

 殺気もなにも感じない。

 ニコニコしてて無邪気だ。

 

 何もしてこないのか?

 それとも、俺がいるから諦めたか? 

 

「ゼクード」

 

 カティアの声が聞こえて顔だけ振り向くと愛妻3人がこっちに来た。

 

「あ、みんな」

 

「フランよりソイツらを優先するとはどういう了見だ?」

 

 カティアがやや不機嫌に物申してきた。

 確かにフランベールの元へ真っ先に行きたかったが、どうしても帰りの翼……アグリスが心配だったのだ。

 

「それは本当にごめん! アグリスが居ないと俺たち帰れないからさ」

 

 すると以外にも答えてくれたのはフランベール本人だった。

 

「ふふ、大丈夫だよゼクードくん。ゼクードくんがそういう行動する時って必ず理由があるもんね。それよりあそこ蹴っちゃってゴメンね。大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫! まだ子作りはできるよ」

 

 本当は死ぬほど痛かったけど。

 

「なら良かった~! 子作りできなくなったら大変だったもんね」

 

「子作りって……」

 

 何かをイメージしたらしいアグリスが赤面して縮こまる。

 そんな初々しいアグリスをカティアは睨む。

 

「ゼクード。なんでコイツらと一緒に行動しているんだ? 説明しろ」

 

「ああべつに。アグリスとは同じ場所に落とされたんだ。んであっちのドレスとは後で合流したんだ。そして今に至るってわけ。このアグリスってお嬢様は一人ぼっちが寂しくて俺に引っ付いて離れなかったんだよ」

 

「んなっ!」

 

 アグリスがゼクードの説明に驚愕するが、構わず続けた。

 

「一人じゃ何をすればいいか分からないって言うから連れてるんだ。こいつドラゴンになって空も飛べるし、いざって時は使える」

 

「なるほど帰還用か。それなら確かに納得するしかないな」

 

 納得したカティアに対してアグリスが噛み付いた。

 

「帰還用って何よ! 物みたいに言わないでくれる!?」

 

「黙れ!【エルガンディ】【シエルグリス】にあれだけのことをしておいて対等だと思うなよ? 殺されないだけありがたいと思え!」

 

「……っ! く……っ!」

 

 自分の立場を思い出さされてアグリスは歯を食いしばって黙った。

 そんな彼女をニコニコと見守るドレスにローエが口を開く。

 

「あなた、ドレス……でしたわね? さっきから他人面してニコニコしてますけど、あなたもですわよ?」

 

「? はい」

 

 ドレスは目を丸くしてとりあえずの返事をしてきた。

 ローエの言っている意味が分かっていない様子だった。

 

「……ケロッとしてますわね。何なんですの彼女は」

 

 ローエがゼクードの元へ来て小声で言う。

 ゼクードはそれに対して答えた。

 

「ああ、あのドレスは心臓に乗っ取られてる。セレンの時と同じだ」

 

「!」

 

 ローエ・カティア・フランベールの顔が急に険しくなった。

 

「てことは……」

 

 確認するようにフランベールが言うと、ゼクードは小さく頷いた。

 

「ああ。シエルグリスでの戦いの記憶はもう無いだろう。あいつはもう別人だと思ったほうがいい」

 

「なるほど……了解ですわ」

 

「みんな。気分が乗らないと思うがアグリスを守るようにしてくれ。ドレスがアグリスを捕食しないか心配なんだ。あいつ……アグリスの匂いにつられてここにいるんだ。それがどうにも気に掛かる」

 

「わかった。帰りの翼を失うわけにはいかんからな。不本意だが気を配ろう」

 

「ありがとうカティア。ローエとフランも頼むぞ」

 

「了解ですわ」

「了解だよ」

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