【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第402話【竜ノ苗床】

 火山から草原へと足元が変わり、青空の下で草木が風に靡いた。

 

 どうすればいいんだろう……私。

 

 集落ハサカへ帰る道中にて、アグリスはそう思った。

 前を歩くゼクードの背中を見つめ、小さく溜め息を吐く。

 

 このままゼクードたちについて行ってもいいのだろうか?

 イイように利用されるだけされて、エルガンディについたら用済みとなり殺されるかもしれない。

 

 やっぱり隙を見て逃げるしか……!

 

 でも……

 

 アグリスは自分の後ろを歩くドレスを見た。

 彼女と目が合って、ニコリと笑い返される。

 

 ……ドレスはもう本当に、自分の知っているドレスではなかった。

 ドレスは私のことを『アグリスさん』だなんて呼ばない。

 そもそもドレスはドラゴンの肉が嫌いだった。

 あんな生で未処理のドラゴンの肉を食べるなんて有り得ない。

 

 ……頼れる身内を得たと思ったらこれだ。

 ドレスがまともだったら、彼女と二人で逃げることも出来たのに……。

 

 やっぱり一人で行動するのは怖い。

 みんなに会いたい……オル姉さん……レジ姉さん……

 レグに会いたい……いつもみたいに助けてよレグ……

 

 味方が一人もいない今が辛い……

 

「おいアグリス。大丈夫か?」

 

 声を掛けてきたのは前を歩いていたゼクードだった。

 

「べ、べつに……」

 

「顔色が悪いぞ? 具合でも悪いのか?」

 

「大丈夫だって……」

 

「そうか? 辛かったら言えよ?」

 

「……」

 

 なによ……

 心配してくれるのは私が飛べるからってだけのくせに。

 利用価値がなかったら、殺してるくせに。

 

 アグリスはゼクードの背中を睨んだ。

 しかしゼクードは……振り向いて答えてはくれなかった。 

 

 

 集落ハサカを隠す大岩の狭間へ来た。

 時間にしてみれば数時間で日帰りできる距離だからありがたい。

 エルガンディだとどこへ行くにしてもやたら遠いから。

 

「やっと着いたな。ここが例の集落さ」

 

 ゼクードが言うとローエが目を丸くした。

 

「こんな場所に人里があるなんてビックリですわ」

 

「だろ? ナイトの言っていた通り……世界は広いんだなって思ったよ」

 

 ……そういえばナイトとリィはもう別大陸に行ってしまったんだよな?

 元気にしてるかな?

 また会えたら…………いや、まぁ、言葉分からんし会わんでいいや。元気ならそれで。

 

「ね、ねぇゼクードくん。今さらなんだけどわたし集落入って大丈夫かな?」

 

 フランベールに聞かれ、ゼクードは首を傾げた。

 

「え? なんで?」

 

「実は牢屋をブチ破って脱走しちゃったから……集落の人たち怒ってると思うの……」

 

「ろ、牢屋をブチ破ってって……そんなローエみたいなことしちゃったの!?」

 

「ちょっとどういう意味ですのそれ!」

 

 ローエが怒ってきた。

 おお怖い。

 口は災いの元である。

 

「あの時のわたしは記憶がメチャクチャになってて暴走してたから……その……」

 

「なるほどねぇ……それは確かに普通にマズイかもな……」

 

 このままフランベールを連れて帰ったらそれはそれで騒ぎになりそうだ。

 かと言ってフランベールをここに置いていくわけにもいかないし……さて、どうしたもんか。

 

「ゼクード。私にいい考えがある」

 

 カティアが手を上げてきた。

 みんなの視線が彼女に集中する。

 

 

 そしてフランベールは、カティアがその辺で採ってきた植物のツルで腰と腕をグルグル巻きにされた。

 

「これでよし」

 

「いやカティアさん。これわたしなんか悪いことしたみたいになってるよ……」

 

「集落の人たちから見れば悪いことしたんだから我慢しろ。もう二児のお母さんだろ?」

 

「いやそう言われても……お母さん関係なくない?」

 

 ションボリするフランベールにゼクードは口を開いた。

 

「まぁでもこれなら脱走したフランをついでに捕まえてきたってことにできるな」

 

「ですわね。第一印象は大切ですもの」

 

「うぅ……」

 

 観念したフランベールを後に、ゼクードは少し離れたところにいるドレスを見た。

 

「それとドレス」

 

「はい?」

 

「お前はここにいろ。集落には入るな」

 

 言うと、ゼクードの言葉に驚いたのはアグリスだった。

 

「な!? ちょっとゼクード! なんでそんなこと言うのよ!」

 

「アグリス。今回の元凶はコイツだぞ?」

 

「それはそうだけど! べつにそんな、黙ってれば分からないわよ!」

 

「よく考えろよ。火山のドラゴンを刺激したのは自分ですって簡単に言ってしまうような天然だぞ? 集落の中でそれを言われたら俺たちみんなまた牢屋行きだ。巻き添えはごめんなんだよ」

 

「そ、それは……そうだけど……」

 

「わかりました」

 

「え、ドレス……?」

 

「ここでのんびり待ってますよ」

 

 ドレスがあっさり承諾してきた。

 そんな彼女にゼクードは肩を竦める。

 

「べつに待ってなくてもいいんだぞ? 集落にさえ入らなければどこへでも行けばいい。一緒に行動する必要はもうないんだからな」

 

「そうですね。でも私はアグリスさんとどうしてもしたいことがあるので……それまでは」

 

「したいことって何?」っとアグリス。

 

「いえソレハ……ちょっとお教えデキません」

 

「な、なによそれ……」

 

「私のことはお気になさらずどうぞ集落へ。ゆっくり休んでください」

 

 ――――……あなたはセレンさんと同じ大切な母体……

【竜ノ苗床】になれる方ですから……

 

 ん?

 今あいつ、なんて言った?

 ゼクードは最後のドレスの言葉が聞き取れなかった。

 最後だけやたら掠れるような小声だった。

 

「え? なんて?」

 

 当のアグリスも聞こえなかったようだ。

 ドレスはとぼけた顔で首を傾げる。

 

「ん……なにか聞こえましたか?」

 

「え、いや……最後になんか言ってなかった?」

 

「何も言ってませんよ。さぁどうぞ。ゼクードさんたちがお待ちです」

 

「あ……うん」

 

 ドレスはアグリスの近くにいながら手を出さなかった。

 それどころか普通に見送ってきた。

 アグリスとしたいことがある、とはなんだ?

 やはりまだ怪しいな。

 こうしてアグリスと離れさせて正解だったかもしれない。

 

「ねぇゼクード……ドレス最後に何か言ってなかった?」

 

 隣までやってきたアグリスに小声で訪ねられ、ゼクードは首を振る。

 

「言ってたけど、ボソボソ言ってて聞き取れなかった」

 

「そう……」

 

「したいことがあるとか言ってたな。やっぱりドレスには油断するなよアグリス」

 

「うん。わかってる」

 

 そう言いながらゼクードはドレス以外のみんなを連れて集落ハサカへと入って行った。

 

 残されたドレスはアグリスの背中を見送りながら、妖艶に微笑む。

 

 その微笑みには誰も気づかなかった。

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