【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「まさか本当にあの化け物を倒すなんて……」
女村長が嬉しさを通り越して唖然としていた。
誰もが敵わないと思っていた火山の化け物をしっかり討伐してきたのだから。
「これが証拠ですわ」
村長の自宅でローエがテーブルの上に甲殻を置いた。
ローエいつの間に! でも助かった。
大柄の男がそれを見て女村長に頷く。
「……確かに。あの化け物の甲殻です」
「そうか。ありがとうみなさん。本当に困ってたから助かったよ」
「いえ。こちらこそフランが脱走してしまったらしくてご迷惑をお掛けしました」
ゼクードが先頭に立って頭を下げた。
後ろで同じくフランベールも「本当にすみませんでした」と頭を下げる。
フランベールを縛っていたツルはもう解いてある。
何故ならもう記憶が回復したことを話したからだ。
「いや、いいんだ。記憶が戻ったんだろう? それなら結果的に良かったじゃないか。そちらのお二人もゼクードさんの奥さんだって?」
「はい。こちらがローエで、そっちがカティアです」
「まさか本当に3人も花嫁がいるとは驚いたよ。しかもみんなべっぴんさんだね」
「ありがとうございます。自慢の妻たちです」
「ふふ……本当にありがとう。今日はゆっくり身体を休めてくれ。今夜はご馳走を用意しよう」
「ありがとうございます村長さん!」
「礼を言うのはこっちだよ。気にしないでおくれ」
そして女村長の指示で集落ハサカでは宴が行われた。
ドラゴンの脅威が去ったことで、みなの眼に活力がみなぎっていた。
たくさんの人間に礼を言われ、美味しい食事もご馳走してもらった。
それだけでもありがたいのに女村長は集落自慢の【温泉】をゼクードたちに貸し切りにしてくれた。
※
宴を終えて案内されたのは集落の奥にある温泉。
夜空に立ち昇る湯煙が松明によって照らされて綺麗だった。
床や湯船は木製の板でしっかり補強されていた。
長方形のシンプルな湯船だが夜空を一望できる。
温泉の色は乳白色でそこが見えないほど真っ白だった。
「これが温泉か~」
肩にタオルを掛けて下は一切隠してないゼクードが言った。
「凄い……天然のお湯だ……」
フランベールも胸も下半身も隠していない。
片手にタオルを持っているのみ。
「素晴らしいですわ! さっそく入りましょう!」
ローエもまったく同じで胸も下半身も隠していない。
カティアもだった。
みんな揃って夫婦なので今さら隠すところなどない。
全裸でも美しいローエ・カティア・フランベールを拝みつつ、眼福したゼクードは温泉に足を浸からせてゆっくりと腰まで身を落とした。
「あ〜これ気持ちいい〜」
乳白色の温泉がゼクードの筋肉を温めて癒やしていく。
シエルグリスの激戦から今日まで碌なケアが出来てなかったから特に気持ちいい。
「ああ……身体が癒やされていく……」
カティアも身を浸からせて歓喜の溜め息を漏らした。
透き通りのない真っ白な温泉のせいでカティアの胸などがまったく見えないのが残念だ。非常に残念だ。
俺の目の保養が。
「見てみんな。夜空が綺麗だよ」
目の保養の代わりとでも言うようにフランベールが空を見上げて言ってきて。
ゼクード・ローエ・カティアもその夜空を見上げる。
「本当ですわね。いい眺めですわね……」
「そうだな……」
「……」
そこからみんな沈黙した。
夜空を見上げて思い出すのは子供たちの顔。
カレンティア・オラージュ・リィンベール。
あの子達も今、この夜空を見上げているのだろうか?
ゼクード・ローエ・カティア・フランベールは……偶然にも同じことをこの時に考えていた……
「エルガンディは大丈夫かな……子供たちが心配だ……」
「うん……そうだね……」
ゼクードの言葉にフランベールが重い口調で応えた。
そんな二人を見て、カティアとローエが顔を見合わせ頷く。
「ゼクード……そのことなんだが……」
「ちょっと……聞いてほしいですわ……」
カティアとローエ。
二人がいつになく真剣な顔であることを語ってきた。
それは――――
「騎士を辞める!?」
これだった。
思わぬカティアとローエの言葉にゼクードは驚きを隠せなかった。
「ああ。無事に帰還できたら育児に専念しようと思っている。我々は周りに迷惑を掛けすぎただろ?」
……確かに、その通りだ。
俺たちは雪のドラゴンの時から子育てに関しては他人に頼ってばかりだった。
特にリリーベールさんには頭が上がらない。
グリータやレィナちゃんリーネちゃん。
ガイスさん。
それにカーティスやグロリア・レミーベールも。
俺たちフォルス家は四人もいて、一人も子育てに専念していない。
端から見れば育児放棄にしか映らないだろう。
騎士の仕事は危険だ。
今回のようにまた帰れなくなることもある。
きっとこれからもこんなことが起こるだろう。
ならば何故、我々フォルス家はみんなして騎士を続けているのか?
極端な話、ゼクードだけでもいいのだ。
騎士を続けるのは。
今回はさすがにディアマード家という相手ゆえに精鋭が必要だった。
今回の件はもうどうしようもない。
けれどもうこれ以上は子育てを無下にできない、と。
カティアとローエはそう言っているのだろう。
「……そうだな。けど……いいのか? カティアはそれで……」
「いいんだ。私の騎士道はもう半分は自己満足だ。そんなものより今はカレンティア達を優先してやりたい」
「リリーさんにこれ以上育児を押し付けるわけにはいきませんわ。だからわたくしは帰還したら騎士を辞めます。家事と育児に専念しますわ」
「ローエ……」
「すまんなフラン。勝手にこんな話を決めて……」
「ううん。わたしも同じこと考えていたからむしろ嬉しいよ。やっぱり二人もそう思ってたんだって……」
「やはりフランもか……」
「うん。わたしも火山の帰りにずっと悩んでたの。おかげで脱走の件を直前まで忘れてたけど」
「じゃあフランも……騎士を辞めるのか?」
ゼクードが聞くとフランベールは迷いなく頷いた。
「うん。やっぱり今のわたしたちって、親としてはあまりに無責任だと思うから……」
「そうか……」
親として無責任……か。
グロリアにも言われたことだ。
実際その通りなんだから仕方ない。
でもフランベールたちが子育てに専念してくれるなら、それはそれでありがたい。
「みんな引退か……俺はまだまだなんだろうけど」
「お前ほどの男に引退なんてあるわけないだろ? 諦めて死ぬまで戦うんだな」
「カティアが悪魔みたいなこと言ってるぞ!?」
「恨むなら自分の才能を恨みなさい」
「ローエまで!?」
「ゼクードくんみたいな強い人はこの世界に必要だよ。きっとこれからも……ずっと」
「需要があるのは嬉しいけど、ジジィになったらさすがに前線から離れたいなぁ……」
温泉の縁に両手を乗せながらゼクードは言った。
するとカティアが肩に湯をかけながら口を開く。
「どうだろうな。お前がジジィになる頃にはカーティスもジジィになってしまっている。次世代がちゃんと育っていることを祈るしかないな」
「次世代……か。そうだよなぁ……カーティスとネオも、俺がジジィの時はあいつらもジジィだもんなぁ……」
氷漬けで同い年になってしまったデメリットがこれか。
カーティスもネオも頼りになるから、あの二人が次世代だったら楽だったのに。
「じゃあわたし、育児が落ち着いたらまた騎士学校の先生やろうかな? ゼクードくんのために」
「お? いいなそれ【フランベール先生】復活だな」
……そういえば俺とフランって、元は生徒と教師の関係だったな。
今思い返すと懐かしい……
「騎士学校の再建はいい考えだな。次世代の強化にも繋がる。だがその前に今は我々が無事に帰還できるかどうかだ……」
カティアが言うと、ゼクードは顎を撫でる。
「それなんだがアグリスに乗って【ベイグナート】って街に行ってみようかと思ってる。今は情報を集めるしかないからな」
「【ベイグナート】?」
「そんな街があるらしい。エルガンディの方角さえ分かれば飛んで行けるんだがその方角が分からない。こんな時は分からないなりに動きまくるしかない。そのためにこの集落ハサカを救ったんだ。ここを拠点にさせてもらえば野垂れ死ぬことはないしな」
最悪……帰還できない場合でもココに住めばなんとなる。
口には出さないが、最悪のケースを想定しても集落ハサカを救うのは絶対条件だった。
「さすがですわゼクード。よく考えてますのね」
「惚れ直した?」
「ふふ、これ以上は無理ですわ」
「そりゃ残念」
とは言いつつ、ローエが俺のことを最高に愛してくれているのが分かって嬉しかったりもする。
「レグの件もある。できるだけすぐにエルガンディに帰還したい。みんなが心配だ」
「レグがどうかしたのか?」っとカティア。
「ああそっか……みんなは知らないんだな。実は――――」
※
「なるほど……レグも心臓で暴走していたのか。それで父親のヴァルドレイクを食ったと」
「あのブラックホールはヴァルドレイクの仕業だったんですのね」
「そうなんだよ。皮肉にもレグのおかげで俺たちは助かったわけだけど……アイツをこのままにしておくのは危険だ。カレンたちの事もある。早く帰還してエルガンディの状態を知りたい」
「そのためにも動きまくるしかないってわけだね」
フランベールに言われゼクードは頷いた。
「そうだ。情報もなく海に飛んで迷子になれば死ぬだけだからな。急ぎたいけど今は情報を探す。それに俺たちがこうして集まれたんだ。カーティスやレィナちゃん達もこの大陸に落とされてる可能性がある。仲間を探す意味でもこの大陸を回るのは大事さ」
「ゼクード。もしすぐ帰還する方法が見つかったらどうする? 先にエルガンディへ帰還するのか?」
「ああ。そこは迷いなくいったん帰ろう。みんなもエルガンディの状態や、子供たちの事が心配だろ?」
「ええ。もちろんですわ」
「先にエルガンディへ帰れたら状況によっては俺がまたカーティスたちを探して回るよ。みんなは子供たちを頼む」
「……わかった」っとカティアが頷きゼクードは続ける。
「あのブラックホールに飲まれたのはカーティス・レィナちゃん・ネオ・ミオンさんだ。俺たちを含めて最高クラスの騎士ばっかりだ。そんな簡単に死にはしない。グロリアと母さんも半ばドラグーンみたいな能力を持ってる。きっと大丈夫だと思うんだ。探せば必ず見つかるさ。それに他の大陸に回ることでグロリアの治療法も見つかるかもしれない。母さんだって……」
「……どう転んでもやることいっぱいですわね。あなたは」
苦笑してローエが言った。
どうやら俺の視点で見てくれてるみたいだ。
「はは、そうだな……けどまぁ、俺にはそれしかないからな。戦うことしか得意じゃないし、みんなみたいに家事とか育児とかできないから……」
「いいんだよゼクードくん。誰にでも出来る事と出来ない事があるんだから。わたし達はやっぱりゼクードくんほど戦えないし、ゼクードくんがいなかったら死んでた場面の方が多かった。でもわたし達もゼクードくんには出来ない事をたくさんやれるから……」
「そうだな〜。フランみたいな狙撃は俺には無理だ」
「えへへ……それはわたしの唯一の自慢……いやそこじゃなくて! わたし達は料理・洗濯・掃除・育児……それから赤ちゃんを生んであげられるよ。これは男のゼクードくんが逆立ちしても出来ないからね」
「いやもう料理・洗濯……の時点で負けまくってるよ。俺なんて【戦闘】だけだし」
「特化型の人間とはそんなものだろう? まぁカーティスのような完璧超人も稀にはいるんだろうが……我が息子ながら化け物だな」
「あいつ本当に俺とカティアのいいとこ取りしてるよな。次世代にもカーティスほどの逸材が生まれてくれれば俺も楽できるんだが……」
「ふ、そうだな。なら今のうちに三人目でも作っておくか?」
「え?」
「名案ですわね。いないなら作ればいいだけの話ですもの」
「そうだね。三人目はみんな男の子がいいね。ゼクードくん似の」
「え、こ、ここでするの?」
「貸し切りなんだろ? なら問題ない」
「もうわたくし達は騎士を引退する身ですもの。遠慮なく妊娠できますわ」
「いや、でも、レグの件がまだ……」
「それはゼクードくんがなんとかしてね」
「あ、はい……」
その後ゼクードはローエ・カティア・フランベールと三人目の子作りに励んだ。