【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
朝が来た。
森と草原に小鳥がさえずり始める。
「あー、よく寝た」
ゼクードは「んん!」っと背伸びをした。
清々しい朝だった。
澄んだ空気を取り込み気分も爽快だ。
何より溜まっていたものを全て出し切った次の日の朝だ。
身体がめちゃくちゃ軽い。
快適だ。
こんなに気持ちのいい朝は久しぶりな気がする。
ゼクードはローエ・カティア・フランベールが眠る家をチラリと見た。
誰も出てくる様子はない。
みんなまだ寝てるなぁ……
昨日はちょっと本気を出し過ぎたかな?
最後は3人ともヘバッてたからなぁ……
ゼクードは頭をポリポリと掻きながら集落の様子を見た。
まだ朝日が昇りかけでやや暗いし誰もいない。静かだ。
俺だけやたら早起きしてしまったらしい。
暇だな。
集落をちょっと散歩するか?
あ、そうだ。アグリスの様子を見に行くか。
決めたゼクードはアグリスに割り当てられた小屋へ脚を運んだ。
そして小屋の扉をノックする。
「アグリス? 起きてるか?」
……返事がない。
やっぱりまだ寝てるのか。
そう思いつつ何となくドアノブを回してみると、なんと開いた。
鍵が開いてる?
……まさか! 逃げたんじゃ!
ゼクードは慌てて小屋の扉を開いた。
するとそこには――――
「……っ!? え? え! え!?」
――――美女と美女が!
アグリスとドレスが抱き合って寝ていた!
毛布から露出している肩は素肌。
まさか、もしかして、こいつら全裸!?
ゼクードは思考がスパークした。
この二人まさかそんな関係だったのか!?
っていうかなんでここにドレスが寝てるんだ!?
こいつ集落の外にいるはずじゃ!?
いやいやそれよりこれマジで二人とも全裸なの!?
昨日の夜なにしてたの!?
え? 一緒に寝てただけだよね?
別にそんなんじゃないよね?
するとクンクン……っとアグリスが鼻を鳴らした。
ゼクードの匂いに気づいたアグリスはパチッと目を開けた。
「あ」
「あ」
ゼクードとアグリスの目がバッチリと合った。
「……」
「……」
訪れた静寂。沈黙。
それは……凄まじく長く感じた。
「な……な……な……っ!」
アグリスがようやく覚醒してきたらしく、事態を理解するにつれ顔を真っ赤にしてきた!
怒鳴られる! っと危険を察知したゼクードは素早く部屋から退避した。
「邪魔してごめん」
バタン!
「ちょっと! 違うからね!? ねぇ!? 変な誤解しないでよ!? ねぇ!? ねぇってば! ゼクード!!!」
「わかったから早く服着ろって!」
※
ゼクードにドレスとの添い寝を完璧に見られた。
泣きそうになるほど羞恥心が沸いてくる。
アグリスは半べそをかきながら衣服を着ていった。
「ああもう最悪っ! なんでよりによってあいつに見られちゃうのよ……! ドレスも起きなさい!」
「うゃ?」
ドレスは起きない。
イラッときたアグリスは彼女から毛布を剥ぎ取った。
すると扉越しにゼクードの声が聞こえてきた。
「おい別にそんな無理に起こさなくていいって。急ぎの用とかないんだから」
「はぁ!? じゃあ何しにここに来たのよ!」
「いや様子を見に来ただけだよ……」
「なんでわざわざそんなことするのよ!」
「なんでって……早起きして暇だったから……」
「最低!」
「なんでだよ! 誰にも言わねぇって! それにほら、その、女同士でも別にいいじゃないか」
「うっさい喋んな!」
身なりを整え終えたアグリスの足元でドレスが寒さに耐えかねて目を覚ました。
彼女はもちろん全裸である。
「あ……アグリスさんおはようございます〜。昨日は凄く良かったです〜」
「凄く良かった!?」っとゼクード。
「ああああああああああああ! もうやめてええええええ!」
静かだった朝はアグリスの悲鳴で賑やかになった。
★
「アグリスさん……わたし……なんで殴られたんですか……?」
「ドレスはべつにいいよ。なんで俺まで殴るんだこの野郎。身の程弁えろよこの野郎……」
集落の外でドレスとゼクードは愚痴った。
二人とも頭に大きなタンコブが出来ている。
アグリスの拳骨のせいである。
「うるさいって言ってんのよ。また殴られたいの?」
アグリスに凄まじい形相で睨まれ、ゼクードとドレスは「いえ……」と押し黙った。
「まったく……で? これからどうするつもり?」
場を仕切り直したアグリスがゼクードに聞くと、ゼクードはタンコブを乗せたまま真顔になった。
「それなんだが……おいドレス」
「はい?」
タンコブを乗せたままドレスが振り向く。
「お前ってどこから来たんだ?」
「【シエルグリス】から来ました」
やっぱりか。
でないとおかしいもんな。
まさかと思って聞いてみてよかったぜ。
「やっぱりか! よーし! 方角は分かるか?」
「ここからずーっと東です」
「なるほど東か! 助かった〜……おいアグリス」
「乗せろって言うんでしょ? わかってるわよ」
「お? いやに素直だな?」
ちょっと前は乗せるの嫌だとか言ってたくせに。
「べつに……レグがどうなってるか心配だし、それに……」
「それに?」
「本当にレグが暴走してるなら……あんたじゃないと止められないと思うから」
「……なるほどな」
レグの実力はあのヴァルドレイクに匹敵する。
アグリスもディアマード家の一人だからよく分かっているのだろう。
竜の心臓で暴走したレグ……か。
俺一人で対処できるだろうか?
カーティスとネオの協力も必須な気がする。
あいつら武事だろうか?
「ゼクードさん」っとドレスが手を挙げた。
「ん?」
「ゼクードさんには『火山のドラゴン』を倒してもらった恩がありますから、わたしの背中にお乗せしましょうか?」
「そりゃあ〜ありがたい。けどアグリスでいいよ」
さすがに今まさに心臓に意識を乗っ取られているドレスに乗る気にはなれなかった。
※
そしてゼクードはすぐに行動した。
ローエ・カティア・フランベールを叩き起こし、集落ハサカの人々に挨拶を済ませ見送ってもらった。
ドレスの存在と、アグリスの変身を見られるわけにはいかないので十分に集落から離れるため、ゼクードはアグリスやカティアたちを連れて草原を歩いた。
「こんなすぐに帰還する方法が見つかるとはな」
カティアが言うとフランベールが頷く。
「良かったよね。リィンたちが無事か、エルガンディやシエルグリスが無事か、みんなの状態とか気になることたくさんあるから」
「そうですわね。みんな……無事だといいのですけれど……」
ローエが心配そうに言う。
この三人はもうエルガンディに帰還したら騎士を辞める身だ。
カレンティア・オラージュ・リィンベールの育児を優先すると言っていた。
だからレグとの戦いでも巻き込むわけにはいかない。
……いや、レグが相手では正直この三人はもう戦力にならないだろう。
相手が悪すぎる。
だからこうして家庭の守りに徹してくれるのは夫として本当にありがたい。
やはりレグとの決戦はカーティスとネオだ。
あの二人しか俺についてこれないだろうし、あの二人しかレグと張り合えないだろう。
これから起こる戦いはそんなレベルの戦いだ。
……そんなことを真剣に考えていたら、アグリスはジトッとした目つきでゼクードを見ていた。
まるで汚物を見るような目だった。
「なんだよその目は?」
「……………………べつに」
アグリスはそっぽを向いた。
頬が赤い。
え?
なにその仕草?
まさかコイツ……俺に惚れたのか?
こんな扱いしてるのになんで?
っていうか、なんで今なんだ?
っていうか、女として見てないって言ったろうに。
っていうか、なにもそこまでモテなくていいのに俺。
「おいアグリス……お前まさか……」
「う! ああもう……あんまり近づかないでよ……」
「なんだお前……」
近付いたら離れる。
子供みたいなリアクションだなぁ、と内心で呆れていると、後ろからカティアたちが追いついてきた。
「なんだ? 揉め事か?」
カティアが言うとアグリスが「う……」っと呻いてカティアから距離を取った。
その露骨な態度にカティアが怒る。
「おいなんだ貴様! 失礼だぞ馬鹿者!」
「しょ、しょうがないでしょ! あんた達みんな臭うんだから!」
臭う?
え? カティアたちが?
昨日温泉でキレイにしたからそんなはずないんだけどな。
「に、臭うだと!? 馬鹿を言うな。昨日キレイに洗ったぞ」
「そうですわよ。失礼ですわね」
「そっちの臭いじゃないっ! あんた達三人からゼクードの臭いがするのよ! 下半身から!!」
その場の空気が凍った。
俺も、カティアも、ローエも、フランベールも、みんな沈黙して止まってしまった。
全員が赤くなって言葉を探している最中、ドレスだけ無邪気に笑っていた。
「みなさんも昨日、交尾してたんですね」
「やかましい! 交尾って言うな!」
「ふぇ……」
カティアに怒られドレスは縮こまる。
いまドレスのヤツ『みなさんも』って言ったな。
やっぱこいつらそういう関係なのか。
ドレスがアグリスにしたいことがあるって、それだったのか。
いやはや良かった良かった。
てっきり捕食かと勘違いしてた。
まさか女同士のまぐわいだったとは。
……あとアグリスがなんで俺たちから距離を取るのかやっと分かった。
そういうことか。
そう言えばドラゴン化したコイツら嗅覚が優れているんだったな。
この場合はマジで厄介というか、余計な能力だ。
「ま……まぁとにかく……アグリス。そろそろ変身して乗せて――――」
「無理。やっぱドレスに乗って」
「えぇ……」
こうしてゼクードたちはドレスに乗ってこの大陸を後にし、エルガンディのある大陸を目指した。