【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「イケない人ね。人の子作りを邪魔するなんて」
「いいじゃないオルテンシア。獲物が増えたわ」
二人はナイトを睨みながら迫ってくる。
「気をつけてナイト! アイツらメッチャクチャ強いわよ!」
『誰に言ってるんだ? お前はリィを連れて下がっていろ。すぐに終わらせる』
「す、すぐってどれくらい?」
『10秒だ』
フォン!
っという風圧が起こるとナイトは消えていた。
違う。
消えたんじゃない。
アタシが目で追えてないだけだ。
速すぎる。
あの速さに反応できるのはお父さんかカーティスかネオくらいだ。
並の人間が追える速度じゃない。
でもあのオルテンシアとレジーナも只者じゃない。
ナイト一人で大丈夫だろうか?
バクンッ!
奇妙な音と共にオルテンシアの顔半分が吹き飛んだ。
「――――……え?」
「オルテンシア!?」
レジーナが驚愕すると次の瞬間ナイトに首を掴まれた。
「あがっ!」
刹那にナイトの腕から電流が走る。
それは一瞬でレジーナの全身を焼いた。
「ぎぃいやあああああああああああああああああああ!」
レジーナの髪や皮膚が発火して燃え尽きる。
黒い焼死体と化したレジーナをナイトは無言で投げ捨てた。
投げ捨てられたレジーナは今にも倒れそうなオルテンシアに当たった。
オルテンシアは倒れ、レジーナの下敷きになった。
そこにトドメと言わんばかりに蒼い火球を発射。
「熱い! いやあああああああああああああああああ!」
オルテンシアの断末魔が燃え盛る炎の中から聞こえた。
あっという間に黒コゲにされ動かなくなったオルテンシアとレジーナ。
死んだことを確認したナイトは振り返りグロリアとリィの元へ戻ってきた。
本当に瞬殺。
相変わらず悪魔的な強さだ。
オルテンシアとレジーナがまるで相手になってない。
強い……やっぱりコイツ……凄い……
ホントに10秒くらいで片付けちゃった……
「ぉ……おかえりなさい……」
『ふん……リィ行くぞ』
素っ気ないのも相変わらずだった!
「ちょ、ちょっと待ってよナイト!」
『なんだ?』
「助けてくれてありが――――」
『礼はいらん』
コ、コイツ……ほんっと愛想の悪い奴よね。
けど強いのは確かだ。
ここはなんとかお願いしてみよう。
「……ねぇナイト。やっぱり……一緒についてきてくれない?」
正直ダメもとで聞いていた。
人間と関わるのを避けているナイトがこれを良しとしてくれるはずない。
だけど今回のようにまた誰かに襲われたら、ナイトのような強い味方が居てくれた方が安全だ。
「アタシいま武器なくて……そもそもアンタほど強くないからさ。あんなのがまだこの大陸に彷徨いてたらヤバいし、傍に居てほしいっていうか」
オルテンシアとレジーナ。
コイツらがいるってことは、まだどこかに他のディアマード家がいるかもしれない。
それこそヴォルドレイクとか。
あんなのに襲われたら自分を守り切れる自信はない。
だから……ナイトが側に居てくれたら助かるのだが……
「それにやっぱ、一人だと寂しいじゃない? アンタが側に居てくれたらアタシもいろいろと安心なのよ。だから、お願いナイト」
ナイトなら強いから自分が竜の血で正気を失ってもしっかりトドメを刺してくれそうだ。
そういう意味でもナイトが側に居てくれるのは安心感がある。
だから…………
…………
……?
?
すぐに確固たる否定が来ると予想していたグロリアは、不自然な沈黙の間にチラリとナイトの顔を盗み見た。
何を思ったのか?
押し黙ったナイトの横顔がそこにあった。
それを見た傍らのリィがすかざず口を開く。
『パパ……わたし……グロリアと一緒に行きたい』
『……』
リィの言葉にナイトは一瞥した。
少し前と違ってナイトはリィの言葉を一蹴しなかった。
それどころか悩む気配さえ見せてきた。
何があったのだろう?
『ダメって言っても……わたし行くから』
リィの反抗的な言葉にグロリアはビックリした。
さすがに怒るのでは? っとグロリアはナイトを恐る恐る見た。
しかし当のナイトはやや俯き、地面を見下ろしていた。
なんか、さっきまでの二人と雰囲気が違くない?
本当に何があったんだろう?
するとナイトが重い口をついに動かした。
『一端の口を聞きやがって……』
ナイトはリィを睨み、リィも負けずと父を睨んだ。
そんな険悪な親子に挟まれ訳も分からないグロリアが冷や汗を流す。
え? え?
なに?
ケンカしてんの!?
これ、もしかして親子ケンカしてるの!?
なんで!?
『……パパと一緒に居ても、つまんないもん』
「ちょ、ちょっとリィ!? 何言ってんのよアンタ!」
『だそうだグロリア。悪いが話し相手になってやってくれ。俺はお前らの後ろを歩く』
「ナイト……」
どうやらついてきてくれる事になったようだが、ナイトとリィの親子関係に亀裂が走っているようだった。
★
頼もしい味方を得たグロリアは拓けた草原を歩いていた。
目的地はナイトが言っていた『人間が居る場所』。
この大陸にも王国があるのかもしれない。
そこで情報を集めて、なんとかしてエルガンディ王国へ帰らないといけない。
だが、その前に……
「ねぇリィ。なんであんなこと言ったのよ」
グロリアの傍らで飛ぶリィに視線を向けた。
『だってパパ……ちゃんとお話してくれないもん。わたしが何か言っても『ああ』とか『そうか』とか、そんな返事しかしてくれないし……』
そのパパであるナイト本人はグロリアとリィから少し離れた後方を歩いている。
気を使ってくれているようだが、せっかく3人でいるんだから3人で会話すればいいのに、グロリアは思った。
「まぁアイツは確かに口下手よねぇ。ぶっきらぼうだし。強くてカッコいいんだけど、それで台無しになってる感あるわ」
『うん。パパってさ……たぶんわたしのこと嫌いなんだと思う』
「え?」
『一人じゃ狩りもできないし、戦いでも役に立たないし……』
「ナイトがそう言ったの?」
『言ってないけど……』
そうでしょうね。
ナイトがそんなことをリィに言うわけない。
ナイトはあのセレンから自分を犠牲にしてまでリィを守ろうとしてた。
子供が役に立たないのなんて当たり前だし、それは人間もドラゴンも変わらない。
「……わかったわ。ならアタシが聞いといてあげる」
『え?』
「アンタに言えなくてもアタシになら言えることもあるでしょアイツ」
『ぃ、いいよそんなの! 怖いからやめて!』
「怖いって何が?」
『それは……その……』
「お父さんの本音を知るのが怖いの?」
コクン、とリィが頷いた。
確かに相手の本音を知るのは大人でも怖いもんだ。
知らない方が幸せというのも確かにある。
でも……
「大丈夫よリィ。親ってさ……アンタが思ってるよりずっとしつこいわよ?」
『……しつこい?』
「そ。アンタから離れようとしたら今度はナイトがアンタに引っ付いてくるわよきっと」
『そうかな……』
「まぁ今夜聞いてみるからアタシに任せて」
『……うん。ありがとうグロリア』
※
そして夜を迎えた。
この大陸で初の夜だ。
寒かったので焚き火をしたらナイトに『外敵を呼び寄せるだけだぞ!』っと怒られたが「ならアンタがアタシとリィを守ってくれればいいでしょう」っと無理矢理黙らせた。
それからリィが寝静まるのを待ってから、例の会話を切り出した。
「――――っていうことがあってさ。アンタもうちょっと娘との会話がんばりなさいよ。寂しがってるじゃないあの子」
『……』
ナイトは答えない。
目を瞑り、沈黙を守っている。
どこかバツの悪そうな顔だが。
パチパチと焚き火の弾ける音だけが響き、返事をしないナイトにグロリアが痺れを切らす。
「ねぇ聞いてるの?」
『……ああ』
「またそれ。アンタほんっとに『ああ』しか言わないのね」
『俺に会話を期待するな。だからお前に頼んだんだぞ』
「それじゃダメなのよ。あの子、アンタの愛に飢えてるじゃない」
『……』
またナイトは押し黙った。
丸太に座っていたグロリアは腰を上げ、地面に座っているナイトの隣に座った。
草のない土の地面は冷たく、グロリアのお尻を冷やす。
それでも我慢してナイトの側に寄った。
「アンタお父さんなんだからさ。そこはもう少し努力しないとダメよさすがに」
『……』
「リィはアンタともっと喋りたいだけなのよ。お父さんに甘えたいだけなの。あの子にしてみれば、お母さんがいないからアンタしかいないのよ」
『……………………分からないんだ』
「え?」
『俺は生まれた時……目の前で母さんがすぐに死んだ。だからすぐ一人になった。ゼクードと戦って気が付いた時には母さんの死体と兄妹たちの死体の山しかなかった』
「……っ!」
『そこから一人彷徨って俺はリイスと出会った。アイツのおかげで俺は……少しは喋れるようになったつもりだ。だが……』
「リィの望むレベルには達してなかってことね……」
『いや……というより……親子の会話というのがどういうものなのか……これが分からん。リイスなら知っていたんだろうな。アイツには既に子供が居たからな』
「え!? じゃあそのリイスさんって既婚者だったの!?」
『……なんだその……キコンシャって?』
「ああいや……えっと……ようするにアンタの前に別のオスと一緒にいたってこと?」
『そうなるな』
「嫌じゃなかったの?」
『何がだ?』
「え……いや……ほら人間のオスってさ、そーいうの嫌がる人多いから」
『くだらん……半端なオスが多いということだ。本当に一緒に居たいなら、そんな些細なこと気にもならんはずだがな……』
平然と言ってのけるナイトに、グロリアは胸の奥が妙に熱くなるのを感じた。
これを本気で言える男が人間には何人いるんだろう?
それはたぶん、きっと、数えるほどで……
「……ナイト。アンタのそーいうところ、ほんっとカッコいいわ」
言われたナイトはさすがに虚を突かれた顔をグロリアに向けた。
グロリアはそんなナイトを見つめ返す。
「アンタが人間だったらアタシ……絶対にアンタのこと好きになってた」
『なんだ急に』
「アンタがドラゴンで残念って話」
言い終えてからグロリアはハッとなった。
なに言ってんだろアタシ……
アタシがこんな身体になったのは、元はと言えばナイトに殺されかけたせいなのに。
そんな奴をカッコいいって感じちゃった。
はぁ……アタシ……頭までドラゴンになってきちゃったのかしら?
まぁいいか。
もう昔の話だし。
今はとにかくナイトとリィの親子関係の回復ね。
「……アンタの欠点はやっぱり子供との会話ね。明日から3人で喋りながら歩くわよ」
『俺を入れるな』
「ダーメ。アタシが会話を先導するからアンタはちゃんと受け答えしなさい。こんな風にアタシとは喋れるんだから大丈夫よ」
『……』
「アタシが間にいればアンタも少しは喋りやすいはずよ。そうやって少しずつ慣れていきましょう。ね?」
『……わかった』
「よし! それじゃあアタシもう寝るわ。見張りヨロシクね」
『ああ』
グロリアは立ち上がって焚き火の近くに寝転がった。
雑魚寝である。
テントも何もないから仕方ないのだが、地面が冷たい。
焚き火が無かったら死ぬ気がする。
「あ、そうだ……ねぇナイト」
『まだ何かあるのか?』
「アンタ……リィの事はどう思ってるの?」
『どう?』
「愛してるか愛してないか」
『愛してるに決まってるだろ』
思わぬ即答だった。
やはり親ってのはこんなもんなのだろう。
みんな……なんだかんだ子供が大切なんだ。
ローエの事を思い出しながら、グロリアはゆっくりと眠りに落ちた。