【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第409話【ナイトの精一杯】

 朝が来て、草原に鳥のさえずりが聞こえ始めた。

 東から太陽が昇り、月はその光に負けて西側に沈んでいく。

 青い空の下でグロリアが震えながら目を覚ました。

 

 やたら寒いと思えば焚き火が消されていた。

 いや自然鎮火したのかもしれない。

 

 どちらにせよグロリアの身体は冷え切っており、両手で自分を温めるハメになった。

 

「う〜……寒っ……」

 

 起き上がり、身体にチラチラと付いた砂を払った。

 

『目が覚めたか』

 

 見張りのナイトが言った。

 ずっと起きていたらしい。

 

「おはよー。アンタ寝てないでしょ? なんで起こしてくれなかったのよ。交代したのに……」

 

『いらん。お前と交代しても安心して寝れん』

 

「んな! どーいう意味よ!」

 

『お前じゃ弱すぎるという意味だ。それより獲物を狩ってきた。食え』

 

「獲物?」

 

 グロリアはナイトが指す方角を見た。

 牛が倒れている。

 そこにはリィが美味しそうにその牛を食べていた。

 

 バキバキと音を立てて骨ごと牛の肉を食いちぎっていくリィ。

 口の周りは血だらけで、それなのにリィが笑顔という絶妙に恐ろしい光景だった。

 

 そうだった。

 これが彼らの日常なんだ。

 人間のように獲物を焼いたり切ったり加工したりしない。

 

『早くしないとリィに全部食べられるぞ? アイツはああ見えて大食いだからな』

 

「ぃ、いやぁ〜アタシ……そんなにお腹は……」

 

 グゥ〜……

 

 空気を読まない腹の虫が鳴いた。

 グロリアは(このドアホーッ!)と自分の腹に向かって怒鳴った。  

 グロリアの腹の虫を聞いたナイトがジッと見てくる。

 グロリアはダラダラと冷や汗を流した。

 

『……リィのために我慢してくれるのは嬉しいが、食っておけ』

 

 単純に寄生虫とか怖いから生で食いたくなかっただけなのにナイトが勘違いしてくれた。

 しかも良い方に。

 

「そ、そうじゃないんだけど……せめて……焼いてほしいって言うか……」

 

『なんだそういうことか。おいリィ』

 

『うぇ?』

 

『そこをどけ。牛を焼く』

 

『は〜い。あ! グロリアおはよう!』

 

 顔面を牛の血まみれにしながらリィがグロリアの胸に飛び込んできた。

 

「ぬああああ! ちょっとちょっとっ!」

 

 グロリアの胸に頬ずりするリィ。

 そのせいで胸のプロテクターに血がベットリとついてしまった。

 

(うあ……最悪……)

 

 なんだかんだオシャレ好きのグロリア故に、リィのこの血まみれ攻撃はかなり堪えた。

 かと言ってリィを怒るわけにもいかず、やりようのない、どうしようもない感情が頭の中でグルグル回った。

 

 

 そしてナイトが焼いてくれた牛を美味しく頂いたグロリアは人間の住む場所を目指して徒歩を開始した。

 グロリアを挟んで右にナイト。左にリィが並ぶ。

 

「そういえばリィ。昨日の夜ね。ナイトと話してたんだけど」

 

 グロリアがそう切り出すと、隣のナイトがギロッと睨んできた。

 余計なことを言うなという感じの目だったが、グロリアは無視した。

 

「ナイトはアンタのことちゃんと愛してるってさ」

 

『え!?』

 

『おいグロリア! キサマッ!』

 

「そんなに怒らなくてもいいでしょう? こーいうのはちゃんと伝えておいた方が良いに決まってるんだから」

 

『パパ……』

 

『チッ……』

 

 ナイトはリィの視線を振り切るようにそっぽ向いた。

 娘相手だと妙にヘタレね、とグロリアは思った。

 まぁ、いきなりカミングアウトされるとはナイトも思ってなかったのだろう。

 

 これでグロリアに対するナイトの信用はゼロだろう。

 それはそれで仕方ないとして。

 

「あとねリィ。ナイトは別にアンタが嫌いで喋らないんじゃなくて、何を喋っていいか分からないだけなのよ」

 

『分からない?』

 

「そ。ナイトは生まれた時にお母さんを――――」

 

『グロリア黙れ!』

 

「じゃあアンタが話す?」

 

『誰だろうが話す必要はない!』

 

「リィには知る必要があるわ。じゃないとアンタとリィはずっと不仲のままよ? アンタがどういう父親なのかリィが分からないからこうなってるんじゃない。自分の娘に理解されるのがそんなに不快なの?」

 

『……』

 

 ついにナイトが押し黙った。

 どうやら思うところはあったようだ。

 

「……。リィ。ナイトはね。ずっと一人だったのよ。アンタのお母さんと出会うまでは」

 

『お母さんと……?』

 

「リイスって名前だったわよね。ナイトがそのドラゴンと出会って、これでも喋れるようになった方なんだって」

 

『え、そうなの!? え!? これで!?』

 

『悪かったな』

 

「アンタのお父さんはそーいうお父さんなのよ。だからリィもその辺は理解してあげて? お父さんは会話がド下手糞なのよ」

 

『う、うん……』

 

「アタシのお父さんも似たようなところあってね? 戦いに関しては最強なんだけど、他が全然ダメダメなのよね」

 

 父ゼクードの事だが、ナイトよりはお喋りだ。

 どっちかっていうと家庭面に難がありまくる人だ。

 料理とかいろいろ料理とか。

 

「そーいう意味ではナイトもそっくりよね。戦いに関しては最強だけど、会話が全然ダメ。その辺のドラゴンの方がよっぽど会話上手なんじゃない?」

 

『うるさい』

 

『パパ……』

 

『……なんだ?』

 

『……今日食べた牛さん。パパが焼いてくれたら凄く美味しくなった』

 

『そうか』

 

 また単語で終わらせようとするナイトにグロリアが脇を小突いた。

 

(なにやってんのよバカ! リィが勇気出して会話切り出してくれてんのよ! もっとちゃんと返しなさいよ!)

 

(うるさい! いま考えてる!)

 

 グロリアとナイトはアイコンタクトで喧嘩し、そしてナイトは口を開いた。

 

『……焼いた方が好きなら、今後は言え。いつでも焼いてやる』

 

『うん……』

 

『……リィ』

 

『?』

 

『…………今は、これが精一杯だ。許してくれ』

 

『! パパ……!』

 

 さすがのグロリアも驚いた。

 あのナイトが会話不足を謝っている。

 何よりその言葉はリィに対して真剣だという姿勢の表れでもあった。

 

 それがリィにも伝わったらしく。

 

『パパ……ありがとう』

 

 本当に嬉しそうにリィが笑った。

 いつの間にかリィはナイトの隣に寄っていた。

 険悪な雰囲気はもうなく、この親子の壁は無くなったように見える。良かった。

 

 やっぱり伝えなきゃいけないことってあるわよね。

 親子でもお互いを理解しなきゃいけないんだから。

 

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