【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第410話【正当防衛】

「ちょ、ちょっと……なによ……これ……」

 

 グロリアは震える声を絞り出した。

 ナイトの案内で向かった南西の先。

 そこには…………滅びた王国の成れの果てがあった。

 

 真っ黒に焦げた城壁が広がり、破壊された城門の先には異臭の充満する廃墟があった。

 

 焦げた死体や肉片になった死体などが至るところに倒れており、そのどれもにカラスが集っている。

 

 数日を要して辿り着いた場所が廃墟だった。

 

 まさか別大陸に来てまでこんな光景を見せられるとは思わなかった。

 

『だから言っただろう? 【人間の居た場所】だと』

 

 ナイトの言葉に耳を貸す気にはなれず、グロリアは破壊された城門へ歩み寄る。

 

「この破壊具合……ドラゴンにやられたんだわ。しかもA級じゃない。S級クラスのドラゴンね。この大陸にもS級ドラゴンがいるなんて……」

 

 人間がドラゴンに負けるとこうなる、というのを生で見たのはこれで二度目だ。

 初めて見たのは【ハーティシオ王国】である。

 その元凶が祖母の身体という悪夢のような経験だったが。

 

「けっこう最近やられたみたい……もしかしたら生存者がいるかも!」

 

 即座に思い至ってグロリアは半壊した城門を潜って町中へ入った。

 

「誰かー! 誰か居ませんか! 助けに来ました! 聞こえていたら声を上げてください!」

 

『なにをやってるんだお前は』

 

 ナイトが後から追いついてきて聞いてきた。

 彼の後ろにはリィもいる。

 リィは顔をかなり歪ませていた。

 この廃墟に充満する死臭が鼻を刺すのかもしれない。

 

「ナイト。生存者がいるかもと思って……」

 

『生き残りならどこに居るか知ってる』

 

「え、本当!? って、なんで知ってるのよ。ま、まさか……」

 

『勘違いするな。これは俺の仕業じゃない。別のドラゴンだ』

 

「良かった……アンタって短気だからてっきり……」

 

 グロリアは心底安堵した。

 そりゃ友達が大量殺人者だったら嫌に決まっている。

 国の滅んだ元凶で、祖母の次は友達だなんて冗談は笑えない。

 

 だから良かった。

 ナイトじゃなくて本当に。

 

『何が良かったのかは知らんが、俺はすでに何人もの人間を殺している。それを忘れないことだ』

 

「そ、そんな怖いこと言わないでよ……」

 

『事実だ。俺はお前ら人間の味方じゃないんだぞ』

 

 冷たいナイトの言動に突き放されたような感覚を覚えたが、これも彼なりの線引(せんびき)なのだろう。

 深く関わりすぎない。

 心も決して開かない。

 

 それでいいのかもしれない。

 言葉は通じるけれど、アタシたちは結局、別種族だから……

 

『それよりどうするんだ? 行くのか? 人間の生き残りがいる場所に』

 

「……うん。案内して。もしかしたらアタシの身内もいるかもしれないし」

 

 

 滅びた王国からさらに南西へ。

 道中に森があり、その森を抜けた先には山があり、そこに穴が空いているのが見えた。

 

 どうやらあそこに人間の生き残りがいるらしい。

 

「ねぇナイト。案内してもらってて悪いんだけど、なんで人間の生き残りがいることを知ってるの? あと場所も」

 

『奴らの臭いをリィがたまたま見つけてな。辿ってみたら人間どもの巣窟だった。臭いの逆方向を辿ってみたらあの滅びた場所だった。それだけだ』

 

「なるほど……」

 

『あれ? この匂(にお)い……』

 

「どしたのリィ? ……え!?」

 

 グロリアも鋭い嗅覚で気づいた。

 この人間のものと思われる臭いに混じって、もう一つ覚えのある匂いを見つけたのだ。

 

 この人間とドラゴンの匂いが入り混じったおかしな匂いは!

 

「これ……まさかお婆ちゃん!?」

 

『どうした?』

 

『パパ! セレンの匂いがするよ!』

 

『なんだと!?』

 

 ナイトが驚愕するが、グロリアはむしろリィの言葉でセレンの匂いだと確信できた。

 

「やっぱりこれお婆ちゃんの匂いね!」

 

『おい! どういうことだ! セレンは死んだはずだぞ!』

 

 ナイトに言われ、グロリアはハッとなる。

 

「あ、そっか。二人は知らないのよね。実は――――」

 

 

 

「違うんです! わたしは違うんです――――っ!」

 

 

 

 突如として聞こえてきたのはセレンの声そのものだった。

 それに驚いたのも束の間。

 別の声も聞こえてきた。

 

「待ってください竜人様!」

「我らをお助けください竜人様―――――――っ!」

 

 竜人様!?

 

 グロリアは声のした方角へ振り向くと、そこにはセレンが逃げるように走っており、その後ろには多数の人間がセレンを追い掛けていた。

 

 ちょっと待って!

 何この状況!?

 なんでお婆ちゃんが竜人様とか呼ばれてんの!? 

 今度は何したのよお婆ちゃん!

 

「お婆ちゃん!」

 

「え? ……あ! グロリア! グロリアー!」

 

 半泣きのセレンがグロリアを見つけ一目散!

 まるで親を見つけた子供のように必死に駆け寄って来た。

 ほぼタックルに近い勢いで抱きついてきたセレンを、グロリアはしっかりと受け止めて抱きしめた。

 

「良かったグロリア! 無事だったのね!」

 

「お婆ちゃんこそ! でもどうしたのこれ? また何やらかしたの?」

 

「ま、また!? 違うよ! わたしあの人たちがドラゴンに襲われてたから変身して助けただけで……」

 

「え!? 変身しちゃったの!? 人前でドラゴンに!?」

 

 コクンとセレンは頷いた。 

 

「もしかして人型の形態?」

 

 コクンとセレンは頷いた。

 

 なるほど。

 だから竜人様と呼ばれて追いかけられてたんだ。

 でもそれにしたって相手ももう少し怖がるもんじゃないかしら? 

 

「うわあ! ドラゴンだ! ドラゴンがいるぞ!」

 

 セレンを追い掛けていた内の一人がナイトとリィを指して叫んだ。

 

 あ、やば!

 

「騎士を呼べ!」

「2匹だけだ! 勝てるぞ!」

 

 これはまずいわね。

 

 グロリアは慌ててその民たちに説明しようと前に出るが、当の民たちはナイトに近づこうとはしなかった。

 すると一人がセレンに「竜人様! お願いします!」っと言った。

 

「ええ!?」っといきなり押し付けられたセレンは驚愕する。

 

 セレンは向かいのナイトを見てハッと顔を青ざめさせた。

 

「あ……あなたは……」

 

『キサマ……生きていたのか。しぶといメスだ』

 

 爪をギラつかせたナイトの前にグロリアが立った。

 

「待ってナイト。今のセレンは敵じゃないわ。攻撃しないで」

 

『ふん……それくらい奴の雰囲気で分かる。中にいるもう一人のお前はどうした?』

 

 ナイトが言っているのはセレンの心臓の人格の事だろう。

 それはセレンも察しているようで。

 

「わ、わかりません。ゼクードに心臓を抜かれてからはぜんぜん出てきません」

 

 そう答えたセレンにナイトは怪訝な顔を向けた。

 どこか納得していないような目で睨まれ、セレンは縮こまる。

 

「騎士さま! あそこです!」

 

 洞窟の中から民が出てきてそう叫んだ。

 すると鎧を着た如何にもな騎士が三人ほど飛び出してきた。

 三人の騎士たちはナイトを見て走りながら軽口を叩く。

 

「国を襲ったドラゴンじゃねぇな」

「えらく小さいドラゴンだぜ。こりゃ楽勝だな」

「油断するな! 見たことないタイプだ。新種かもしれん」 

 

 それぞれがナイトを目指して接近し、武器を展開!

 一人は大剣。一人はランス。一人はハンマーだ。

 

 ナイトと戦う気だ!

 止めないと!

 

 そんな気に駆られたグロリアは彼らの前に両手を広げて立ちはだかった。

 

「ちょっと待ったああああ!」

 

「うお!?」

「なんだアイツは!」

「か、かわいい……じゃねぇ! 何してんだ! 邪魔だどけ!」

 

「どかない! アンタら死にたいの!? あの黒いドラゴンと横の小さいドラゴンは敵じゃないから手を出さないで!」

 

 グロリアの言葉に、しかしそれでも三人の騎士たちは止まらなかった。

 騎士たちはグロリアの横を素通りしナイトに迫る。

 

「あ! ちょっと!」

 

「話なら後で聞いてやる」

「まずは竜人様を助けなきゃならねーんだ」

「竜人様! いまお助けします!」

 

 言われたセレンはナイトが彼らを睨みつけていることに気づいて慌てて声を上げた。

 

「ダ、ダメです! 来ないでください! 殺されちゃいますよ!」

 

「このチビドラゴンが! 竜人様から離れろ!」

 

 ランス使いの騎士が突撃してきた。

 左右に大剣使いの騎士と、ハンマー使いの騎士が展開する。

 それに対しナイトは爪を光らせる。

 

「殺さないでナイト! お願い!」

 

 ……そんなグロリアの叫びも虚しく、三人の騎士たちは首から上が無くなった。

 ブシャアと草原に血の雨が降り注ぐ。

 

「う、うわあああああああ!」

「き、騎士たちがやられた! 一瞬で!」

「きゃあああああああ! 竜人様助けてえええええ!」

 

 ナイトの殺戮劇は民たちを一気にパニックにした。

 ある者は洞窟へ。

 ある者は草原のどこかへ。

 ある者は腰が抜けて倒れている。

 

 セレンも腰が抜けて立てなくなった者の一人だった。

 

「ぁ……ぁぁ……」

 

 ナイトの殺気と迫力にセレンは震えて後ずさる。

 お尻が地面を擦る。

 そんなセレンをナイトが見ていると、グロリアが凄まじい形相で寄ってきた。

 

「ナイト!」

 

 グロリアの怒声にセレンとリィはビクついた。

 しかし当のナイトはチラリと眼を一瞥しただけだった。

 

「なんで殺したの? アンタの強さなら殺さなくたって無力化できたでしょう!?」

 

『何度言わせる気だ。俺はお前らの味方じゃないんだぞ。人間相手に手加減するわけないだろう』

 

「それは! そうだけど……でも……」

 

『俺がお前を殺さずにおいてやってるのはリィに関する恩があるからだ。それを忘れるな』

 

「だったら! だったらアタシの言うこと聞いてくれてもよかったじゃない! 殺さないでって言ったのになんで!」

 

『先に仕掛けてきたのは奴らだ。俺は自分の身を守っただけだ。俺になんの非がある?』

 

 そのナイトの一言によってグロリアは黙らざるを得なくなった。

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