【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
ことごとくナイトに反論を封じられたグロリアは、若干の苛立ちを覚えながら洞窟の方角を見た。
すると奥から騎士が数名現れた。
増援である。
パニックになった民を邪魔そうに掻き分けながらこちらに向かってくる。
「やば……ナイト! リィ! ちょっとどこかに隠れてて!」
『え!?』
『隠れる……だと?』
ナイトほどのドラゴンだと心外だったのだろう。
人間相手に背を向けるのは。
しかしこれ以上の殺戮は勘弁してほしい。
「お願い。話をつけたら後で合流するから」
『なぜ俺が人間から……』
「ナイト! お願いだから!」
『!』
これ以上にない腹から出した怒声だった。
さすがのナイトも驚き目を丸くする。
「アタシ……アンタのこと嫌いになりたくないの。だからお願い。言うこと聞いて……」
『…………ふん』
肩を落としたナイトはため息混じり踵を返した。
リィを捕まえて一瞬で消え去る。
やはり凄まじい速度だ。
「竜人様!」
後から来た数名の騎士たちがグロリアとセレンの元へ着いた。
「大丈夫ですか!? 竜人様!」
「は……はい……大丈夫です。わたしは……」
セレンの目は死んだ3人の騎士たちに注がれた。
地面を血まみれにして倒れた3人の騎士たち。
その3人はみんな首からは上が無い。
ナイトに一瞬でやられたから。
相手が悪かったとはいえ、あまりにも呆気ない最後である。
この3人は……
「……ダメだ……首から上が無くなってる。即死だ……」
「くそ……うちの精鋭トリオだぞ。こんな呆気なくやられるなんて……」
「あの黒いドラゴン……とんでもねぇ化け物だ」
他の騎士たちが殺られた3人の騎士を見ながら口々にざわめいている。
その光景に、グロリアは胸を締め付けられる思いが込み上がった。
3人の騎士たちの遺体は運ばれ、そこには血溜まりだけが残った。
「グロリア……」
セレンが寄ってきた。
相変わらず幼い見た目の祖母である。
「お婆ちゃん……」
お互いナイトの殺戮を間近で見せつけられたせいか、言葉が出てこなかった。
しかし近くで聞いていた一人の騎士が「お婆ちゃん?」と首を傾げる。
それを見たセレンが「ああ」と顔を上げた。
「彼女はグロリアです。わたしの孫なんですけど……」
その一言が余計だった。
周りの騎士たちが一斉に「孫!?」と視線をグロリアに集中させて来た。
グロリアはあちゃ〜と顔を片手で覆う。
セレンはどうにも口が軽いのだろうか?
いや、正直なんだろう。
説明が面倒なことになってきた。
当のセレンも今さら気づいたらしく「あ」と間の抜けた声を漏らしていた。
「ど、どういうことですか? どう見ても彼女の方が年上に見えるのですが……というか、身内だったのですか?」
当然である。
スタイル抜群の19歳であるグロリアと、13〜15歳くらいのセレンと比べれば一目瞭然である。
100人中100人がこの騎士と同じ反応をするだろう。
「あ、いや、えっと……」
自分で撒いた種だが、セレンは説明できずにあたふたしていた。
グロリアはハァと溜め息を吐いてから助ける言葉を放つ。
「お婆ちゃんは竜人様よ? だから歳は取らないのよ」
「え!?」っとセレンが驚き、他の騎士たちも同じ気配を見せた。
構わずグロリアは続ける。
「アタシはちょっとだけ人間の血が入ってるから成長したの。それだけよ」
「な……なるほど」
「まさか竜人様に子孫がいるとは」
どうやら納得してくれたようである。
正直、竜人様なんて存在は知らないし、セレンはそんな高尚な存在でもない。ほとんど嘘だ。
孫なのは本当だが。
「では先程の黒いドラゴンを追い払えたのは?」
「なんか会話してなかったか?」
騎士に聞かれ、グロリアは肩を竦める。
「アタシとお婆ちゃんはドラゴンの言葉が分かるの。これ以上ここに近づくなって言っておいたから大丈夫よ」
「ど、どうして討伐してくれなかったのですか! あんな危険な奴は倒してくれた方が我々としては……」
「無理言わないでよ。あいつ馬鹿みたいに強いのよ? あんなのに勝てる奴なんてアタシのお父さんか弟くらいだわ」
「! ならその御父上さまと弟さまをお呼びすれば!」
「いま行方不明なの」
「そんな……」
落胆する騎士たちにセレンが慌てて付け足す。
「で、でも! さっきグロリアが言ったとおり、あのドラゴンはもうここへ近づいてきません。こちらから手を出さない限りは大丈夫ですよ」
「竜人様……」
「そ、それより例のドラゴンの方が問題ですよね? 王国を襲ったあの……」
セレンに言われて騎士たちはハッとなる。
「そうですね。あの【歌のドラゴン】はまだ我々を探している。早急に手を打たないと王国復興もままなりません」
【歌のドラゴン】?
っとグロリアは腕を組んだ。
聞いたことあるような、ないような……
前にシエルグリスを襲ったあのドラゴン?
ドラゴンが歌うのだろうか?
まるでリィのようだ。
リィが国を襲うわけない。まだまだ子供のドラゴンだ。弱すぎる。
確かナイトの奥さんが【歌のドラゴン】って呼ばれてたわね。
それと同じ……
……いや、待って?
この大陸は確か、ナイトの奥さんの故郷だったはずよね。
もしかしてその奥さんの親戚とか?
もしくは姉か。兄か。
親とか?
グロリアは嫌な予感がした。
★
洞窟の内部は長い直線となっていた。
随所にランプがあり、そして脇道がある。
そこが各自の部屋となっているようだった。
直線の突き当りまでいくと広場があり、そこで待っていた人物とグロリアは顔を合わせる。
彼はこの洞窟の代表者らしく、鎧を着ていることから騎士でもあることがわかった。
てっきり国王と話すことになると思っていたグロリアは拍子抜けした。
しかし逆に気を張らなくて済むとも言えた。
当たり障りのない挨拶を済ませた代表者は、グロリアとセレンにあることを話す。
「我々にとって【竜人様】とは『おとぎ話』だけの存在でした。ドラゴンの強さに憧れた人間がドラゴンの力を手にして人間を救うという物語です。竜人様とはそのおとぎ話の主人公なのですよ」
セレンを困らせていた竜人様の出どころが分かった。
まさかの架空の存在だったとは。
「なるほどね。で、実在したから助けてほしいってお婆ちゃんに頼んでるってわけなのね」
「ええ。見ての通り我々はもう瀕死です。国王様も死に、生き残りは我々を含めても1000人いるかどうかで……」
……今さらっとヤバいこと言ったわね。
国王様も死んだって……
そりゃ国としても瀕死だわ……気の毒に。
「……その歌のドラゴンだっけ? そんなにヤバい奴なの?」
「それはもう……奴の単体としての強さも凄まじいですが、何より奴は取り巻きを揃えて、それらを強化する能力を持っていたんです」
やっぱり聞けば聞くほど少し前に【シエルグリス】を襲ったドラゴンに似ている。っていうか同じだ。
嫌な予感がするわ。
やっぱりリイスの親戚とか姉弟とかだったりするのかしら?
もしそうだったら倒しづらい相手ね……
最悪ナイトと敵対しちゃうかも……そうなったら無理だわ。
「我々が安全に暮らすため、その【歌のドラゴン】を討伐してほしいのです。それをお願いしていたのですが、セレン様が……」
「だ、だってわたし……そんなに強くないですから……」
視線を向けられ困るセレンにグロリアは手を上げて代表者の視線をこっちに向けさせた。
「とりあえずアンタたちの願いはわかったわ。その【歌のドラゴン】を討伐すればいいのね?」
「はい。騎士としては情けない限りですが、どうか……お願い致します。我々をお救いください……」
深々と頭を下げる代表者。
竜人様と、その孫に下げる頭は、とても真剣で、しかし弱々しかった……
こうして見ると見捨てるなんてことはさすがにできない。
こちらには今あのナイトが味方についてる。
彼の助力があれば【歌のドラゴン】を倒すこともできるだろう。
その【歌のドラゴン】が身内でなければ、だが。
※
代表者との話を終えたグロリアはセレンを連れて洞窟の外へ出た。
入口を出た先で立ち止まり、空を見上げる。
道中でたくさんの避難者を見たが、みんな活力を失っていた。
絶望的な空気が蔓延していて辛かった。
「……? どうしたのグロリア?」
後ろのセレンに聞かれ、グロリアはゆっくり口を開いた。
「あぁ、うん……昔のエルガンディもこんな感じだったのかなって、思ってさ」
「え?」
「アタシが生まれる前にお父さんとお母さんたちはドラゴンの大軍に負けたらしいのよ。そして【ヨコアナ】って地下洞窟に逃げて暮らしてたそうなの」
「!? そんなことがあったなんて……」
「驚きよね。お父さんたちにそんな敗北の歴史があるなんてさ。……でも本当にたくさんの人が死んじゃったらしいわ。それこそ何万の人口が1日で1000人以下になるほどにね」
「せ……」
「あんなに強いお父さんが居たのに戦局を覆すことができなかった。だからきっと相当な大軍だったんだと思う。大軍の前では個人の力なんて小さいってカーティスも言ってたから……」
「……」
「お父さんたちはその【ヨコアナ】で2年も鍛錬して反撃の機会を伺ってたそうなの。そしてしっかり取り返した」
「さすがゼクードね……」
「うん……お父さんもそうだけど、お母さんたちも凄かったんだと思う。現にあの世代の騎士たちってみんなやたら強いしね。おかげでアタシたち世代はSS級騎士になっても弱い弱いって言われて嫌になるけどね」
そうグロリアが肩を竦めるとセレンは苦笑して返した。
「っと、こんな話してる場合じゃなかった。お婆ちゃんはここで留守番ね。アタシはこれからナイトとリィと合流して【歌のドラゴン】の討伐に向かうわ」
「え!? る、留守番!? そんな! 一人にしないでよ!」
「いや別にちゃんと迎えに来るって。そんな子供みたいな顔しないでよ」
「だ、だって……こんな知り合いが一人もいない場所で留守番なんて……」
「んなこと言ったってお婆ちゃん戦えないでしょ? ていうかここの人たちを助けた時はどうやって戦ったの?」
「え? どうって……変身して思いっきり体当たりしたよ?」
「体当たり……」
「そしたら相手がわたしを見てビックリして逃げて行ったの。おかげで助かったけど……」
「お婆ちゃんにビビって逃げたの!? なんか思ったより大したこと無さそうな奴ね。1対1が苦手なのかしら? まぁいいや。とにかくお婆ちゃんは邪魔だからここで待ってて。終わったらエルガンディに帰るための翼になってもらうから」
「そ、そんなぁ……」