【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
避難民たちの【隠れ家】に置いていかれるセレンの顔は、まるで祖母とは思えないほど寂しそうだった。
あのピンクのつぶらな瞳をウルウルさせて見つめられた時はさすがにまいったが、心を鬼にして置いてきた。
セレンは身体こそ誰よりも頑丈になってるけど戦いの術をまったく知らないド素人なのだ。
だから連れてきても戦力にはならない。
移動のために連れてくるという考えもあるにはあったが、あのセレンの背中にナイトが大人しく乗るとは思えなかった。
だからここは早く依頼された【歌のドラゴン】を討伐して、問題を解決してあげた方が早いと判断した。
正直……こんな見知らぬ王国の避難民たちを助けている場合ではないのだが、見捨てるわけにもいかない。
グロリアは一本の斧を貰い肩に乗せて合流地点へ歩いた。
「――――というわけで、ここから東にある【ヒュンペリアの森】に行くことになったわ」
草原のド真ん中でナイトとリィに合流したグロリアが言った。
ナイトとリィはちゃんとグロリアを待っていてくれていた。
なんだかそれが妙に嬉しい。
『あの巨木だらけの場所か。そこに例のドラゴンがいるのか?』
「そうよ。【歌のドラゴン】って呼ばれてたわ。なんでも歌で仲間を強化するんだって。なんかリィとそっくりね」
グロリアはワザとらしくナイトに言った。
もしかしたらナイトの奥さん……リイスの親戚か姉弟か親かもしれないからだ。
もし血縁関係のドラゴンだったならば最悪だ。
ナイトの助力は得られないかもしれない。
だから嫌な予感がしていた。
どうか知り合いじゃありませんように……
『そっくりで当然だ。その【歌のドラゴン】とやらはリイスの兄【リザーク】だからな』
グロリアの願いはあっけなく崩れた。
やっぱりナイトは知ってるみたいだった。
「兄!? やっぱり繋がりがあったのね!」
『ああ。俺とリィがわざわざこの大陸へ来たもう一つの理由でもある。そのリザークに一目会おうと思ってな』
『伯父ちゃんに挨拶するんだ〜』
リィが楽しみそうに言っている。
これはマズい……もしかして今回戦うのアタシ?
国を滅ぼすほどのヤバいドラゴンなのに単騎で?
いや無理無理無理無理!
んなことできるのなんてそれこそお父さんかカーティスくらいだって!
でもナイトに義理兄と戦わせるのも……
ああ……どうしよう……アタシ一人で勝てるかな……
「……いや、でも……いや……そ、それだと戦い辛くない? っていうか、アンタの奥さんのお兄さんなら倒せないじゃない……」
やっぱ止めとこうかなこの依頼。
セレンだけ連れ去ってエルガンディに帰るのも……
と、思いつつ、さすがにそれは人として生きていけなくなると思い踏みとどまった。
いくらドラゴン化した身とはいえ、心まで人間を捨てたら終わりだ。
人生腐っても人間腐らすなって言うし……
『ふん……どうだろうな。それは奴の出方次第だ』
「え? どういうこと?」
『リイスはリザークと喧嘩別れしたらしくてな。リイスは酷く兄を嫌っていた。リイスが兄を思い出したくないと言うから、深くは聞かなかったが……どうにも粗暴な性格が気に食わなかったらしい』
え……てことは……もしかしたらクソみたいな性格のドラゴンだったらナイトが倒してくれるかも?
いやでも、どんなに性格悪くても自分の嫁の兄貴を殺すかな?
あーもう、お先真っ暗になってきたわ。
けど、まぁ……やるだけやろっか。
やっぱりあの避難民たちを見捨てる気分にはなれないし。
最悪アタシだけでもリザークと戦うしかないわね。
そう簡単に死ぬ身体じゃないし、なんとかなるでしょ。
「そうなんだ……じゃあそのリザークってのに会ってみるまでは分からないってことね」
『そういう事だ。行くぞ』
「うん! リザークと戦闘になったらよろしくねナイト! アタシとリィは後ろで全力で応援するから!」
『ああ。そうしてくれ』
※
『ネオ! アンタだけでも!』
ブラックホールに吸い込まれる寸前に放ったミオンの言葉。
あれは自分でも驚くほど自然に出た言葉だった。
自分よりネオを助けたかった。
ネオだけでも助かってほしかった。
自分なんてどうでもよかった。
こんな気持ちは初めてだったかもしれない。
自分は今まで息子のネオにここまでの感情を抱いたことがあっただろうか?
ない。
いや……あった。
まだネオが小さくて、お母さんお母さんと後ろを付いてきてたあの頃だ。
まだ自分より弱かったあの頃のネオ。
あの頃の息子に対しては、確かにあったはずの……あの感情。
アタシは……いつの間にか無くしてただけなんだ。
アイツの才能に嫉妬して……母親ってのが何なのか分からなくて……
いつまでもアタシは子供で……
でもブラックホールに吸い込まれる寸前に出た言葉は、決して嘘じゃない。
もう大した未来のない自分なんてどうでもよかった。
ネオさえ無事ならそれでよかった。
これが……これこそが普通の母親が持つ感情なのだろうか。
39年生きてきたけど、やっと分かった気がする。
ネオ……どうか……無事でいて……
「ん……」
砂浜に埋まるミオンが、風によってその身体を浮かせていく。
背中を撫でていく風は適温だ。
背中を温めていく熱は太陽光のそれと分かるほどほんのりとミオンを覚醒させていった。
「……ここは?」
まどろみを抜けた視界の先には海が見えた。
波打ち際で指の先が濡れている。
海に打ち上げられたのだろうか?
それにしては全身がまったく濡れていない。
「痛……っ」
ミオンはゆっくりと重い身体を立ち上がらせた。
サラサラと砂が鎧のあちこちから落ちていく。
それらを手で叩きながら周りを見た。
綺麗な浜辺だった。
白い砂にライトブルーの海がザザーンと波打ちしている。
絶景だが、見覚えのない場所だ。
「どこなのここ? シエルグリスは?」
ミオンはドレスという女騎士を仕留めて、他の仲間の加勢に向かおうとしていた。
その時に空から黒い渦が現れ、それに吸い込まれた。
そして気がつけばこんなところにいた。
いったいここはどこなの?
シエルグリスはどうなったの?
ネオは?
みんなは?
少し放心しながらもミオンは浜辺を沿って歩いた。
歩きながら気づいたが武器の鉄球が無くなっていた。
食料や水もない。
あるのは左右の篭手に仕込んだ剣のみ。
あるだけマシと思いつつ歩き続けると、ミオンと同じく砂浜に埋まった人影があった。
黒いポニーテールが見える。
「レィナ!? レィナ!」
ミオンは駆け寄って砂を急いで掻き分けた。
半身がほぼ埋まっていたレィナを掘り起こしたミオンは、彼女の頬をペチペチと叩く。
「レィナしっかりして! レィナ!」
目を覚まさないレィナに、さらに強めにペチペチする。
ペチペチ!
ペチペチ!
「レィナ! こんなとこで寝てたらドラゴンに襲われるわよ! 起きなさい!」
ペチペチ!
ペチペチ!
ペチペチペチペチペチペチ!
「レィナ! 起きて! レィナ! レィナ! 起きて! 起きなさい! 起きて! 起きろ! 起きなさいって! レィ〜ナ! 起きろっつってんでしょ! 起きろって! レィナ! レィナ! レィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナレィナ!」
ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバッチン!
※
「いや〜助かりましたミオンさん。変な川を渡ろうとしたらお父さんにビンタされまくる夢を見ましたよ。ところでなんか私の顔やたら腫れてません? メチャクチャ痛いんですけど……」
「さぁ? 虫にでも刺されたんじゃない?」
「あ〜なるほど」
無事に目を覚ましたレィナの顔はリスのようになっていた。
腫れすぎて頬がプクプクになっている。
完全にミオンのやりすぎによるものなのだが、あえて言わない。
「そんなことより此処がどこなのかを調べないといけないわ。武器も食料もないし、早めに動かないとマズいわよ」
「そうですね」