【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「それにしても……ここはどこなんでしょう? 見たことない風景ですね……」
見知らぬ草原を歩きつつ、後ろのレィナが言った。
「エルガンディの付近にこんな場所ないの?」
「ありません。そもそも海も遠いですし」
若干の期待をレィナにしていたミオンは内心でガッカリした。
レィナならここがどこか知ってるかもと思ったのだが。
「まいったわね……早くしないと夜になっちゃうわ」
「キャンプは視野に入れておきましょうミオンさん」
「そうね……でもキャンプはできるだけ目立つ場所でやった方がいいかも」
「え?」
「他のみんなもこうやって彷徨ってる可能性があるでしょ? 愚行だけど焚き火の光でこっちを見つけて寄って来るかもしれないわ」
「それだと私達も危なくないですか?」
「アタシとアンタしかいないから大丈夫よ」
ミオンもレィナもベテランの女騎士だ。
そこらへんのA級ドラゴンが何匹現れたようが相手にはならない。
「私サバイバルナイフしか武器ないんですけど……」
「アタシには仕込み剣(ブレード)があるから。守ってあげる」
「ど、どうもです……」
「急いでシエルグリスに帰らないと……レイゼちゃんたちが心配だわ」
とは言ったものの……
右も左も分からないこの場所では、むしろミオンとレィナこそ危険な状況なのも事実だ。
食料を確保しつつ、水も確保しつつ、現在地を割り出さねばならない。
ドラゴンから身を守りながら。
相方がレィナで良かったと思いながら、ミオンは宛もなく草原を前進した。
南東へまっすぐに。
※
「ぅ、ぐっ! はっ! はぁ! はぁ! あああ!」
落とされた首をくっつけ、なんとか回復させたオルテンシアは過呼吸を繰り返した。
あの黒い人型ドラゴンに黒焦げにされた身体を再生能力で無理矢理に回復させる。
「くそ! あのドラゴンめぇえ! くそ! くそおおお!」
隣でキレ散らかすのは姉妹のレジーナ。
彼女もまたあのドラゴンにやられたらしく、黒焦げの身体を無理矢理に再生させていた。
「はぁ……はぁ……落ち着きなさい……レジーナ……」
「落ち着いてられっか! はぁ……はぁ……あいつのせいで今にも死にそうよ! くそ!」
それはレジーナだけでなく、オルテンシアも同じだった。
この身体はレグに血を分けてもらってなんとか生き返った身体に過ぎない。
竜の心臓はとうに無くしており、レグに与えられた血の力のみで動いている。
故に寿命も短い。
再生能力を使えばそれはさらに身体の負担となり寿命を短くする。
「再生に力を使いすぎたわ……早く、強い獲物を、捕食しないと……朽ちてしまう……」
あまりに大きすぎるダメージを回復させてしまった。
傷が治っても……この身体を維持している【血の力】が残り少ない。
「捕食なんて……間に合わないわよ……その辺の女を襲って、子孫を残したほうが賢明だわ……」
レジーナの言う通りかもしれない。
今の自分たちには男性と同じ能力がある。
いわば女性に種を植え付ける能力だ。
一度きりの能力だが、植え付けてしまえば必ず子孫を残せる。
できるだけ強い母体が望ましい。
それこそドラゴンの力を持った母体が。
「……そう考えると……グロリアを取り逃がしたのは本当に勿体ないことをしましたね……あの子の身体なら、強い子孫を残せたでしょうに……」
「グロリアもそうだけどセレンもよ。アイツらに【竜子】を植え付けられれば……」
「無い物ねだりしても仕方ないですね。ここは普通の人間の女性で我慢しましょう。何も残せず朽ち果てるわけにはいきませんからね」
「そうね……それがせめてものレグ様への恩返しになるのかな……」
そう……生き返らせてくれたレグ様への恩返し。
なぜレグ様が自分を生き返らせてくれたのかは分からない。
そもそも自分が何者だったかさえ思い出せない。
私は……何者だったんだろう?
覚えているのはオルテンシアという自分の名前と、
レジーナ・ドレス・メルセーヌが姉妹ということだけ。
なぜ心臓を無くしたのかさえ覚えてない。
なぜレグ様は……こんな私を……
『そうか……俺のことは覚えてないか……ならいい。命は繋いだ。あとは自分で繋いでいけ。俺はゼクードへの復讐に忙しいんでな。これ以上は構ってやれん……達者でな』
それだけ言い残してレグ様は去っていった。
あんなに悲しい顔をしていたのは理由があるのだろう。
きっと我々に記憶がなかったから……
我々はレグ様の……なんだったんだろう?
……悩んでも思い出せない。
仕方ないと割り切り、オルテンシアはレジーナを連れてグロリアたちの匂いを辿って南西へ向かった。
★
「た……たっか〜……」
グロリアは目の前に立つ超巨大な木を見上げて言った。
ここは例の【ヒュンペリアの森】の出入口だ。
数ある巨木の内の1つを今こうして見上げているのだが、想像を遥かに越えた大きさだった。
軽く100メートル以上はある。
エルガンディの城壁より高い。
見上げていると首が痛くなる。
代表者にデカいとは聞いていたが、これほどとは……
『ここがリザークの縄張りか』
グロリアの後ろからナイトが言った。
するとリィが森の奥を指差す。
『ねぇねぇパパ。グロリア。あの森の真ん中にある大きな木に行ってみようよ』
森の真ん中に見える巨木。
それはこの【ヒュンペリアの森】の中でもひときわ大きな巨大樹だった。
もはや300メートル以上はある。
あんな巨大な木は自分の大陸では見たことがない。
下手な山や城より大きい。
「あそこにリザークがいるの?」
『わかんない!』
「アンタね……」
『奴があの巨大樹の天辺にいるのは間違いないだろう』
ナイトが言い切った。
グロリアは首を傾げる。
「なんで分かるのよ?」
『リイスの話では奴はやたら縄張り意識の強いドラゴンらしい。高いところから雑魚を見下ろすのも好きだったとか』
「嫌な奴ね。ならとりあえずあの巨大樹の麓まで行ってみましょうか」
そう言ってからグロリアは後悔した。
セレンを連れてくれば良かったと。
あんな巨大樹の麓まで行ったところで、どうやって上に登るのか?
セレンを置いてきたのは失敗だった。
それにこの【ヒュンペリアの森】に充満する殺気。
グロリアは森の先を見据えると、巨木の影からA級ドラゴンが何体も顔を出していた。
1体や2体じゃない。
何十体といる。
グロリアは斧を抜刀し、ナイトは爪をギラつかせた。
『どうやらリザークの取り巻きのようだ』
「ただで通してくれなさそうね」
言ってから、A級ドラゴンどもがグロリアたちに襲い掛かってきた!
先行で飛び掛かってきた2匹をナイトとグロリアはそれぞれ切り払う。
さらに4体が飛び込んで来るが、ナイトが目にも止まらぬ爪の一閃で同時に撃破した。
『グロリア。俺が前に出る。リィを任せるぞ』
「わかったわ! 任せて!」
ナイトが先行し、何十体と襲い来るA級ドラゴンを蹂躙する。
やはり凄まじい戦闘力だった。
A級ドラゴンの群れがまるで相手になってない。
やっぱりナイトが味方で本当に良かった。
そう思いつつナイトのうち漏らしをグロリアは撃破していく。
しかしA級ドラゴンの動きがやたら俊敏だった。
目も赤く光っている。
まるで過去のドラゴンゾンビを思わせる目の赤さだ。
なんなのよコイツら。
A級ドラゴンのくせに速い。
もしかしてリザークに強化されてるの?
ここが奴の縄張り内なら有り得るか……
内心で納得していると、A級ドラゴンが左右から上からと次々と襲い掛かってくる。
いったい何体いるんだ?
奴らは巧みに巨木を使って猿のようにピョンピョンと飛び込んで来る。
おかげでSS級騎士のグロリアでも対処が大変だった。
ナイトが最前線でA級ドラゴンを蹴散らしているが、敵の数は増えていく一方だった。
森の奥から次々と出てくる。
ナイトという強者に畏怖することなく突撃してくるのだ。
リザークの歌で強化され、恐怖もなくなっているのかもしれない。
しかしこれはこれでヤバい。
今にして思えば王国を滅ぼすほどの数のA級ドラゴンを従えているリザークだ。
この広大な【ヒュンペリアの森】には何千体と強化されたA級ドラゴンが配置されている。
いくらこちらにナイトがいると言っても、あまりにも多勢に無勢。
無謀過ぎたかもしれない。
ナイトのうち漏らしをまた薙ぎ払って撃破したグロリアは、すでに自分たちが数の暴力で囲まれていることに気づいた。
「ヤバ……囲まれてる」
するとナイトもグロリアとリィの元へ下がってきた。
『くそ。キリがない。なんて数だ』
四方を囲まれたナイトたちに、A級ドラゴンがタイミングを合わせて飛び込んで来た!
しかしナイトの凄絶なる爪撃によってその全てを両断する。
だがグロリアとリィにまた複数のドラゴンが襲い来る。
グロリアがそれらを捌くと、また別のドラゴンが複数。
さらにまた複数のドラゴン!
さらにまた!
さらにまた沸いてくる!
「ああもう! 数が多すぎ! 押すことも引くこともできないじゃない!」
『グロリア! あぶない!』
リィの叫びにハッとなったグロリアは、真上から来るA級ドラゴンに押し倒された。
「うぐっ!」
『グロリア!?』
ナイトが気づいてすぐに駆けつけようとするが、A級ドラゴンの群れが壁を作る。
リィも慌ててグロリアを襲っているA級ドラゴンに体当たりしたがビクともしなかった。
A級ドラゴンがグパァと大口を開けると、グロリアの顔を――――
ザシュッ!
A級ドラゴンの顔が斬撃音と共に落ちた。
え?
グロリアを助けたのは斧の一撃だった。
首を切断されたA級ドラゴンを蹴飛ばしてグロリアを救ってくれた。
いったい誰が? とグロリアは視線を上げると、髪の青い女騎士が立っていた。
「お姉さん大丈夫?」
「……!? ア、アンタは……!」
グロリアは戦慄した。
その女騎士は見たことがあったからだ。
あのディアマード家の女騎士の一人……メルセーヌ・ディアマード!