【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
グロリアを助けたのは斧の一撃だった。
首が切断されたA級ドラゴン。
それを蹴り飛ばしてグロリアを救ってくれた。
いったい誰が? とグロリアは視線を上げた。
そこには髪の青い女騎士が立っていた。
「お姉さん大丈夫?」
「……!? ア、アンタは……!」
グロリアは戦慄した。
その女騎士は見たことがあったからだ。
あのディアマード家の女騎士が一人……メルセーヌ・ディアマード!
あのエルガンディとシエルグリスを襲撃した凶悪一家ディアマード家の一員だ。
何故ここに?
いや、前にオルテンシアとレジーナにも遭遇している。
この大陸でメルセーヌと鉢合わせてもなんら不思議ではない。
『なんだアイツは?』
『この臭いは……!』
ナイトはともかくリィは気づいたようだった。
このメルセーヌから漂う血の臭いが、先のオルテンシアとレジーナと同じだと言うことを。
しかし時が悪い。
強化されたA級ドラゴンで包囲されているこの状況ではロクな詮索もできない。
「空に逃げるよ! 乗って!」
一方的に言い放ったメルセーヌはドラゴン形態へと変身した。
その間にもA級ドラゴンは逃すまいと迫ってくる。
それもさっきより多い数で。
ワラワラと巨木の影から沸いてくる。
その数はもはや100を優に越えている。
いやもっといる。300以上だ。
いや! 500!
増えてる!
グロリアたちに選択の余地はなかった。
「……っ! ナイト! リィ! 彼女に乗って逃げるわよ!」
『チッ!』
ナイトはメルセーヌの背中に飛び乗った。
グロリアもリィを抱えて乗り込む。
メルセーヌはすぐさま巨大な翼を羽ばたかせ浮上!
しかしA級ドラゴンも追撃をやめない!
地上から火球を乱射してくる。
「しっかり掴まって!」
メルセーヌに言われ、彼女の背中の突起物を掴んで必至に耐えた。
メルセーヌは火球の弾雨をローリングしながら華麗に回避していき、ついには射程外へ逃れた。
攻撃が止んだことを確認したメルセーヌは高度を維持して飛行速度を落ち着かせる。
下には依然として【ヒュンペリアの森】が広がり、向かいにはメルセーヌの高度と同じ高さの巨大樹がそびえ立つ。
「なんとか振り切ったみたいね〜。まったく無茶するよ。そんな人数であの集団に挑むなんてさ」
メルセーヌが呆れたように言う。
対するグロリアは締まりの悪い顔した。
「……それは完全にアタシのせいよ。あんまりにも何も考えてなかったわ」
そのグロリアの言葉が意外だったのか、ナイトとリィがこちらを見る気配を見せた。
実際、ナイトが味方にいるからと慢心していたのは事実だ。
ナイトが居ればなんとかなると思っていた。
けれど現状は圧倒的な数の前に進めず逃げる羽目になった。
少し考えれば分かるはずだったんだ。
一個の王国を滅ぼすほどのS級ドラゴン。
そいつは配下のドラゴンを強化して操る能力がある。
ならばその主力となる配下のドラゴンが半端な数ではないことくらい安易に想定できたはずなのに……
お父さんやカーティスなら、こんな事態はすぐに想定して迂闊に突っ込まなかっただろう。
今まで頭を使うのは姉のレミーベールに任せてきた。
そのツケが今になって回ってきた気分だ。
「反省してるならいいけど。どうする? このままあの巨大樹に連れてってあげようか?」
メルセーヌに言われ、グロリアたちにとってはありがたい申し出だったが。
「いやソレはありがたいけど、アンタなんでアタシを助けたのよ?」
「なんでって……目の前で食べられそうになってたから」
「やっぱり! アンタもアタシ狙いでしょ!」
「な、なんでそうなるのよ!?」
「ここに来る前にオルテンシアとレジーナにも狙われたのよ!」
「あぁ……あの二人と会ったんだ。よく無事だったね」
「そこのナイトに助けてもらったのよ」
「ふ〜ん。ならあの二人は死んじゃったんだ?」
「そうね」
「なるほど……で、どうするの? 巨大樹に行く?」
思わぬ返しにグロリアはガクッとなった。
あまりにもアッケラカンとしている。
身内が死んだのになんだこの反応は。
「ア、アンタね! 身内が死んだのに何なのよその態度!」
「なんで怒ってるの?」
「なんでって……」
コイツ正気なの?
……いや、もともと心臓に竜の物を入れてるヤツだ。
まともなはずがない。
きっともうおかしくなってるんだ。
ならばまともに付き合う必要もないか。
ただコイツもアタシを狙ってくる可能性はありそうね。
あのオルテンシアとレジーナと同じなら、アタシを食べようとしたり、なんか……孕ませようとしてきたりとか……
うぅ……いま思い出すだけでもゾッとする。
警戒しとかないと。
ソレに今ここで揉めて落とされでもしたらたまったもんじゃないわ。
「……や、なんでもないわ。ならこのまま巨大樹に向かってくれる? あそこに居座ってるドラゴンを倒さなきゃいけないのよ」
「あのドラゴンを倒すんなら協力するよ〜。わたしもアイツを倒したいから」
『何故だ?』っとナイト。
「あのドラゴン美味しそうだから」
そのメルセーヌの返しにグロリアはやはりと思った。
コイツもオルテンシアたちと同じだ。
心臓を無くしてレグに血を分けてもらって生きてる。
だから定期的に強いドラゴンの血を補給せねば死んでしまう。
こうやって協力してくるのもアタシたちを利用するために決まってる。
いつ裏切って来るか分かったもんじゃない。
だが現状、メルセーヌに乗せてもらった方が賢明なのも事実だった。
地上から巨大樹を目指すのはあまりにも無謀すぎる。
あのA級ドラゴンの大群を突破できない。
いったんここはメルセーヌを頼ろう。
でも警戒だけはする。
もしかしたらコイツもアタシの身体を狙ってるかもしれないから。
★
メルセーヌの背に乗って巨大樹へ向かうグロリア一行。
グロリアをリーダーにナイト・リィ・メルセーヌという不思議なメンバーが完成した。
お父さんが見たらどんな顔をするだろう?
きっと目を丸くするに違いない。
そんな想像をしていると、巨大樹はすぐそこまで迫っていた。
見れば巨大樹の上に鳥の巣のようなものが見えた。
巨木を集められて形成されたそれの中心には巨大なドラゴンの姿が見える。
かなり遠目だが緑の竜鱗に覆われた巨体と、それに見合った巨大な翼と鋭利な爪と角が伺えた。
あれがリザークか。
そうグロリアが判断した時、隣のナイトが叫んだ!
『避けろ!』
「え?」
間の抜けたメルセーヌの声。
それは刹那の瞬間に爆音に飲まれた。
鼓膜が破れそうになる轟音と衝撃がグロリアたちを襲う。
「きゃあっ!」
『ちぃっ!』
『うわあっ!』
何!?
何が起こったの!?
何かを食らった!?
見ればメルセーヌは身体中から黒煙を上げて白目を剥いていた。
やっぱり何かを食らったらしい。
リザークのブレス!?
この距離から!?
「ちょ、ちょっとメルセーヌ!? 目を開けて!」
グロリアが叫ぶがナイトもまた叫んだ!
『また来るぞ! 避けろ!』
そんなナイトの声が気絶したメルセーヌに届くはずもなく、リザークの長距離ブレスがまたもメルセーヌに直撃する。
凄まじい精度と弾速だ。
見てから避けられるものじゃない。
あれに反応できてるのはナイトだけだ。
何発も被弾したメルセーヌは地上へと落下した。
乗っていたグロリアたちも一緒に落ちていく。
「きゃあああああ! メルセーヌお願い! 目を覚まして!」
グロリアの叫びは再び放たれたリザークのブレスによって掻き消された。
トドメと言わんばかりに前より強めのブレスだった。
それはメルセーヌの身体に直撃すると大爆発を起こし、グロリア・ナイト・リィさえも吹き飛ばした。
「きゃあああああああ!」
『くそおおおおおお! リィイイイイ!』
『パパァアアアアア!』
それぞれ別方向に吹き飛ばされた。
グロリアは巨木に突っ込んで全身を叩きつけられながら落ちていく。
目に大きな枝が刺さって眼球が潰れ、激突した際に腕が折れ、足が折れ、衝撃で内蔵がやられ、頭をぶつけて頭蓋が砕け、全身の至る所を損傷して落下した。
地面に叩きつけられたグロリアはすでに気絶していた。
激痛のための防衛反応だろう。
腕と足がもげかけたグロリアからは血が広がっていく。
普通の人間ならばとっくに死んでいる状態だが、グロリアは生きている。
セレンから受けた竜の血がグロリアを即座に回復させていく。
破損した脳も、折れた手足も、割れた頭蓋も、やられた内蔵も、潰れた眼球も。