【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
一方セレンは。
「それ本当なんですか!?」
叫んだ拍子に腰を上げた。
座っていた椅子がガタンと倒れ、洞窟内にその音を響かせる。
テーブルを挟んだ向かいで代表者がギョッと目しばたかせる。
「は、はい。本当ですけど……」
セレンはさすがに怒りを覚えた。
今しがたグロリアたちが向かった【ヒュンペリアの森】には何千というA級ドラゴンの大群がいるらしい。
それも例の【歌のドラゴン】によって強化されているとか。
そんな肝心な情報を今になって話してきた代表者に、さすがのセレンも寛大にはなれなかった。
いくらあのナイトという強い味方がいたとしても、相手があまりにも多すぎる。
孫のグロリアの命が心配だった。
「なんでそれを先に言わないんですか! そんな大群がいる場所にあの子を向かわせるなんて!」
「で、ですが! 彼女はあなた様の孫で竜神様なのですよね!? でしたらあれくらい……」
「……っ!」
代表者に苛立ちを覚えたセレンは歯を食いしばり、外へ向かって走り出した。
「あ! 竜神様! どちらへ!?」
※
洞窟の出入口には見張りが二人いる。
自分もその一人だった。
騎士になった途端にあの歌のドラゴン率いる大部隊に襲われ、両親と妹を無くした。
そして……あの地獄のような戦場で自分だけ助かり、今に至る。
もっと早くあのセレンという竜神が現れてくれていれば、両親は……妹は助かったかもしれないのに……
自分だけ助かって、これから何を守れと言うのか……
「隊長……これから我々はどうなるんでしょうか……」
答えなんて分かり切っていたが、聞いてしまっていた。
生きる気力を失いかけている自分には、何かの言葉が欲しかった。
「どうもこうもない。ここで身を隠しながら再構するしかあるまい」
にべもない、とはこのことか。
隊長の言葉は素っ気なかった。
仕方ない。
隊長も、嫁さんと……まだ5歳になったばかりの息子さんを失っている。
彼も守るものを失って辛いはずだ。
「もっと早くあの竜神様が来てくれていればこんなことには……」
さっき思ったことが喉から出てきてしまった。
しまったと思ったときにはもう遅かった。
すると隣の隊長が大きく溜息を吐いた。
「お前はあの小娘たちを本当に竜神だと思ってるのか?」
「え?」
「竜神なんて『おとぎ話』だ。存在しない。彼女は竜神様なんかじゃない」
ああ、そうだった。
この人はもともと神様やら死神やらの架空の存在を嫌う現実的な石頭の人だった。
ちょっと前の自分ならロマンのない人だと一蹴するが、今はちょっとだけ彼の気持ちが分かる。
神様なんていない。
居たらこんなことにはならないはずだから。
とはいえ、あのセレンを竜神ではないと言い切るその根拠はなんなのだろう?
「お言葉ですが隊長……あのセレンという女の子はドラゴンに変身していましたよ?」
「あんなもん魔法に決まってるだろ」
「魔法?」
「その方がよっぽど説得力がある。存在しない神様よりはな」
確かに。
魔法なんてどれだけ種類があるか分かり切っていない。
しかも女性には、女性にだけ使える魔法も存在している。
だからドラゴンに変身する魔法だって実はあるのかもしれない。
ふむ……確かに隊長の言う通り。
竜神様より魔法の方がよっぽど説得力を感じる。
「じゃあ……あのセレンって子は……嘘を?」
「阿呆。彼女は最初から竜神じゃないと否定していただろう。それをあの代表が聞かずに持ち上げてお祭り騒ぎにしちまったんだ。気の毒なもんだよ。あのセレンって子は」
……それはその通りなのだが、国王様がお亡くなりになられていきなりトップに立たされたのが今の代表だ。
代表者に選ばれた理由も単純で、この生き残りの中でもっとも地位が高かっただけに過ぎない。
追い詰められた現状でいきなり代表者にされたんだ。
彼の精神面も相当に疲弊していたに違いない。
そんな彼がセレンを竜神と祭り上げるのも分からなくはなかった。
「えと……じゃあ、あの後から来たグロリアって人はセレンさんの孫じゃないということですか?」
「あっっっったり前だろ!!! どこをどう見たら祖母と孫に見えるんだ! 逆でも無理があるわ!」
「で、ですよね〜」
確かに無理があるとは思っていた。
仮にセレンとグロリアが竜神様でも、だ。
まぁセレンは純血の竜神で、グロリアには人の血が入ってるからどうのとかいろいろと言ってた気がする。
あれも嘘だったのか。
「眼の色が同じだったから姉妹かなんかだろう。あのグロリアって女騎士はセレンの話に合わせて面倒を避けたってとこだ。大方な」
「なるほど……」
「ほら! サボってないでちゃんと見張れ! またあの黒い人型ドラゴンが来たらどうすんだ!」
「あ! はい!
隊長に言われた自分は手にした望遠鏡を覗いた。
すると遠くの森から人影が見えた。
「ん? 隊長! 人影二人!」
「なに?」
その人影が森を抜けて姿が露わになる。
女性だ。
青い髪の女性と、赤いツインテールの女性。
見たことない鎧を着ている。
「女性二人です。鎧を着ていますが……我々アークハイムの物ではありませんね……グランジーヴァの騎士でしょうか?」
「バカ言うな。あの薄情な貴族しかいない国が救援に来るわけ無いだろ!」
隊長に怒鳴られた次の瞬間に洞窟内からセレンが走って出てきた。
「ん? 竜神様? どうされたんです?」
「あの!【ヒュンペリアの森】に――――」
言いかけたセレンが目を大きく開けた。
その視線の先には先程の女性二人。
彼女たちを見たセレンは一気に顔を青くした。
「あ、あれは……!」
セレンが畏怖した声を絞り出すと、向かいの女性二人もセレンを見つけたらしくニヤリと笑っていきなり加速し出した!