【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
凄まじい速度でオルテンシアとレジーナが迫って来る。
二人の眼中にはセレンしか写っていない。
彼女たちの紅い瞳には悍ましい狂気すら感じる。
セレンは何故か女としての危機感を覚えた。
例えるなら発情した男性に見つめられるあの悪寒に似ている。
好きでもない相手に卑しい目で見られるあの感覚。
相手は女性なのに、何故?
「隊長! あの二人走ってきますよ!」
「なに!? 止まれ!」
隊長の指示は聞かず、オルテンシアとレジーナは止まらない。
我先にとセレンに向かっている。
「見つけたわよセレン! さぁ! アタシに抱かれなさい!」
「レジーナ! 彼女は私の母体ですよ!」
「早い者勝ちよ!」
抱かれなさい!?
母体!?
な、何を言ってるの!?
彼女たちから感じる悪寒の正体はこれなのか?
オルテンシアとレジーナは何故かセレンの身体を狙っているようだった。
それを感じ取ったセレンは全身が震えた。
に、逃げなきゃ!
逃げなきゃ何かされる!
きっととんでもないことをされる!
「隊長! 奴ら止まりません!」
「セレン様は中へ避難を!」
「は、はい!」
隊長に言われたセレンは震える身体にムチを打って洞窟内へ逃げた。
「ベルズ! 奴らを抑えるぞ!」
「はい隊長!」
隊長と若い騎士が剣を抜刀してオルテンシアとレジーナに向かった。
相手はドラゴンではなく人間。
しかも女性だ。
男性二人がかりならば問題ないと隊長は思っていた。
しかし不運なことに。
オルテンシアとレジーナはもう人の身ではない。
人外そのものの化け物。
身体能力も竜の心臓でかなり強化されている。
セレンも強化されているが、肝心の戦う術を知らないのでその強靭な身体を活かせないでいる。
その点オルテンシアとレジーナは元はハーティシオの女騎士。
それもかなりの腕前を持つ方の騎士だ。
そんな化け物に普通の騎士である隊長と若い騎士が敵うはずもなく、呆気なく彼女たちの【爪】で斬り裂かれた。
武器はない。
腕を竜の物に変貌させ、その爪を振るったまでだ。
隊長と若い騎士の惨殺死体が地面に倒れ、それを気にも止めることなくセレンに向かっていく二人。
それを見てしまったセレンは恐怖した。
そして今更ながら後悔もした。
洞窟内に逃げたらここに避難している人たちも巻き込んでしまう。
ここには女子供はもちろん。
お年寄りもいるのだ。
騎士だけではない。
「セレェエエエエエエエエン!」
「ニガしませんよ! ゼったいにぃいいいい!」
時はすでに遅かった。
レジーナとオルテンシアがすぐそこまで迫って来ている。
洞窟を出て逃げる暇はなくなっていた。
「セレェエエエエエエエエーン! オトナしく抱かれロォオオおおおお!」
「あなたの子宮が! カラダが! 必要ナノヨォオオオオオオ!」
「ひぃっ!」
もはやレジーナとオルテンシアは狂気そのものだった。
狂ったように走り、セレンを追い掛けてくる。
捕まったら最後だ。
間違いなく犯される!
あの二人はもう女じゃないんだ!
きっと中身はドラゴンのオスと化している!
「だ、誰か! 誰か助けてぇええええええ!」
腹の底から叫んだ。
恐怖した心が爆発した。
セレンは無我夢中で洞窟の奥へと逃げていく。
オルテンシアとレジーナもより加速してセレンに迫ってくる。
足はセレンの方が遅い。
徐々に距離が詰まりつつあるその時!
「何事だ!」
「竜神様の声だ!」
「竜神様! どうされました!?」
洞窟内で待機していた騎士たちが駆けつけてくれた。
セレンはすぐさまオルテンシアとレジーナたちを指差す。
「あ、あの二人が私を狙ってるんです! 助けてください!」
彼らでは勝てないことを分かっていたのに、セレンは言ってしまっていた。
藁にもすがる思いだったから。
「なんだアイツらは!?」
「腕がドラゴンみたいに!?」
「いけっ! 奴らを止めろ! 竜神様を守れ!」
騎士の一人が叫び、他の騎士たちが抜刀してオルテンシアたちに立ち向かって行った。
「竜神様は奥へ!」
「はい! ご、ごめんなさい!」
守ってくれる騎士たちを背にセレンは奥へと逃げた。
その背後からは次々とやられていく騎士たちの悲鳴が。
「ぎゃあ!」
「ぐあっ!」
「があああ!」
「ひぎゃあ!」
セレンは耳を塞いだ。
涙を流し、込み上がってくる恐怖をなんとか抑え、とにかく奥へと逃げた。
それでもまだ騎士たちの悲鳴が響き続けている。
どんどんどんどん殺されていってる。
もうやだ!
助けてゼクード!
お願い! もう一度助けに来てゼクード!
お願い……だから……
そのゼクードの母親でありながら、なんと情けないことだろう。
そう思いつつも、助けを求めずにはいられなかった。
ゼクードならあの二人を止められるはずだから。
叶わぬ救援を胸に秘めながら走っていると、ついに行き止まりに当たった。
そこはちょっと前に代表者と喋っていた広間。
テーブルとベッドとクローゼットと、あとタルがある。
先程の代表者は見当たらない。
もしかしたらさっきの騎士たちの中に居たのかもしれない。
そんなことを思う間に騎士たちの悲鳴の響きが近くなっていることに気づいた。
セレンは慌てて入口の扉を閉めた。
木製で頼りない壁だ。
こんなのすぐに破られそうだ。
思い至ったセレンは先程のテーブル・ベッド・クローゼット。そしてタルを扉に添えてバリケードにした。
これなら簡単には入って来れないはず。
しかし次の瞬間!
扉ではない土の壁が轟音と共に破砕した!
隣接していた隣の部屋から貫通したらしい。
穴の空いた壁からはレジーナが顔を出した。
「見〜つけた!」
「ぃ、いやぁあああああああああああああ!」
セレンは逃げ出した。
しかし逃げ場はなかった。
唯一の逃げ道である扉はバリケードで固めてしまっている。
今から解いている暇はない。
もう一つの逃げ道はレジーナの後ろの穴!
行けるはずもない。
もはやこれまでだった。
セレンは壁に背をつけた。
完全に追い詰められた。
もう助けも来ない。
「大丈夫よ。痛くシナイからぁ!」
レジーナが飛び掛かってきた!
刹那!
扉ごとバリケードが爆発した!
「きゃあ!」
「なっ!?」
レジーナが驚いた。
セレンも驚いた。
爆発により黒煙が生じ、そこからミオンが飛び出す!
「んなっ!?」
「『エクスプロード』!」
奇襲!
ミオンの鉄拳がレジーナの頬にめり込み爆発!
「ぎゃあああああああああ!」
レジーナが吹き飛び壁に叩きつけられた。
ミ、ミオンさん!?
思わぬ救世主にセレンは驚愕した。
しかし声を掛ける間もなくレジーナがすぐに復帰し、ミオンの両肩を掴んで壁に叩きつけ返した。
「邪魔スンじゃないワよアンタぁああ!」
「ぐっ! こいつっ!」
ミオンも力負けはしていない。
レジーナの両肩を掴んで押し返し壁に叩きつけた。
叩きつける度に壁に亀裂が走っていく。
それを何度も繰り返す。
「セレン! 逃げて! 邪魔!」
「は、はい!」
ミオンに言われ、セレンはなんとか広間を脱出した。