【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第418話【再戦! レィナVSオルテンシア】

 全身を竜鱗で覆ったオルテンシアは竜人形態で抑えている。

 狭い洞窟内ではオルテンシアはドラゴン形態にはなれないのだろう。

 これで彼女の戦闘力は半減……するわけでもない。

 

 彼女の素の戦闘力を知っているレィナは油断しなかった。

 レィナが距離を詰める間にオルテンシアは斬られた腕を再生させ、背中に生えた無数の脚を蠢かせる。

 

 その無数の脚は一つ一つが鋭利な棘を有しており、まさに無数の槍を所持している様なものだった。

 肉薄するレィナを迎撃するようにオルテンシアは背中の脚を突き出す。

 それは棘を利用した刺突の乱舞。

 

「!」

 

 もう少しで自分の間合いだったのにレィナは飛び退いた。

 迫り来る棘の乱舞を氷刃で切り払い、間合いを取って棘の射程外へ陣取った。

 しかしオルテンシアは即座に大口を開け、次の瞬間には炎のブレスを吐いてきた。

 

「いっ!?」

 

 ブレスは狭い洞窟内を埋め尽くすほどの広範囲で、上下左右に逃げ場はなかった。

 レィナは慌てて踵を返し逃げる羽目になる。

 迫りくる炎に追いつかれそうになったその時、脇道を見つけたレィナはそこへ飛び込んだ。

 

 轟っ! と炎のブレスが通路を通り過ぎていき次第に鎮火した。

 地面に突っ伏したレィナはすぐに立ち上がりオルテンシアに備えてアイスソードを構えた。

 脇道から顔を出して見れば、洞窟内に転がっていた死体が燃えて焼死体と化していた。

 自分も直撃したらああなると想像してゾッとする。

 火傷はもう勘弁だ。

 

「ねぇ……悪いケど邪魔シないでクれる?」

 

 洞窟の奥からオルテンシアの声が聞こえてきた。

 ツカツカと足音を立ててこちらに寄って来ている。

 角待ちして奇襲を仕掛けようとレィナは壁に背をつけて耳を澄ませた。

 

「私……セレンに種付けシなくちゃイケないのよ」

 

 種付け?

 種付けって……繁殖行為のこと?

 何言ってるのコイツ?

 

 種付けされる側のセレンはともかく、種付けする側のオルテンシアは女だ。

 種なんてどこから出すのか。

 やれやれ……竜の心臓でついに頭もおかしくなったか。

 まぁ……もともとまともな思考でもないのだろうが。

 

「出てきなサい。さモなくば……」

 

 そこからオルテンシアは静まり返った。

 不気味な静けさが洞窟内に染み渡り、聞こえるのは奥で戦っているらしいミオンとレジーナの戦闘音だけ。

 

 ……いや、なにか聞こえる。

 その音は背にしている壁から聞こえた。

 近づいてくる!

 

 レィナは咄嗟に壁から離れた。

 バコォンと土壁を突き破って来たのはドラゴン形態になったオルテンシアだった。

 

「あら避けチゃったノ? 残念ネ」

 

 そうだった。

 こいつは穴を掘って移動するのが得意だった。

 狭い洞窟内なんてオルテンシアには関係なかったんだ。

 オルテンシアはまたも竜人形態となり、無数の脚を背中に生やして襲い来る。

 

 両腕をも竜の腕と化し、爪は長く鋭利に。

 そんな豪腕と圧倒的な手数の脚を交互に使い攻めてくる!

 それをなんとか捌いてみせるレィナだが。

 

 く、なんて猛襲なの……!

 

 激しい攻撃の前にレィナは防戦一方となり、徐々に押し込まれた。

 押し込まれた先は松明だけが光源となる脇道の奥だった。

 そこは大きな広間で行き止まりとなっていた。

 食料庫らしく、あちこちに木箱や樽などが置かれている。

 

 やってしまった。

 背後は行き止まりだ。

 ここでブレスを撃たれたらひとたまりもない。

 

「ねぇアなた……子供を生んだコとはアる?」

 

「は? ……ふざけてるの?」

 

 さすがのレィナも血管がキレそうになった。

 人の息子を半殺しにしておいて子供を生んだことはあるか、だと?

 この醜悪女が!

 

「ふざけテないわ。私時間がナいのよ。モうセレンは諦メるわ。あナたでいい」

 

 オルテンシアの目付きが変わり、攻撃がさらに激しくなった。

 

「あなタに私の子供ヲ生んデもらうわ!」

 

 コイツ……本気で言ってるの!?

 

 怒り心頭だったレィナも、オルテンシアの悪寒に当てられて一気に冷めた。

 オルテンシアはまるで冗談を言っている目ではない。

 本気でレィナを孕ませようとしている。

 あれは女の目じゃない!

 

 オルテンシアの猛攻がレィナを襲う。

 背中に生えた無数の脚は槍のごとく。

 強靭な腕には鋭利な爪。

 

 オルテンシアはそれら全てを使ってレィナを戦闘不能にしようとする。

 ブレスを使ってこなくなったのは、単純に母体となるレィナを焼死体にしないためかもしれない。

 

 そのためブレスを封じて圧倒的手数でレィナを弱らせる魂胆だろう。

 しかしそれが甘い。

 ブレスを使えば逃げるしかなくなるレィナに対してそれを封じてしまうのは完全な愚策だ。

 

 レィナをなんとしても孕ませようとするオルテンシアだが、それがこの勝負の決定打になってしまった。

 

 オルテンシアの猛攻に晒されるレィナだが、彼女も伊達に死線を潜り抜けてはいない。

 あらゆる攻撃に対して最善の防御と弾きと受け流しを繰り出す。

 

 対人戦において双剣は攻守に優れた万能な武器だ。 

 左手に持った双剣の片割れで徹底的に守りを固め、右手の一本で鋭い反撃を入れていく。

 二刀流の基本中の基本の立ち回りだ。

 

 触手のように迫り来るオルテンシアの脚は次々に切り落とされその手数を落としていく。

 狭い洞窟内でもリーチのない双剣にはなんの影響もなく、たとえ壁を背にしていてもレィナは退かない。

 

 守りを固めた二刀流を崩すのは容易ではない。

 それこそオルテンシアが勝手に封じている炎のブレスを撃つしかないのだが。

 

「私に手数は無意味よ。さっきのブレスを撃ってきたら?」

 

「クッ! ぃ、イイカゲンに! ぉ、オトナしくなさい!」

 

 見ればオルテンシアはかなり息が上がっていた。

 顔も余裕をなくしており、焦っているのが丸わかりだった。

 何より勝手に辛そうである。

 

「はぁ……ハぁ……そ、そんな……身体が……もう……」

 

 ガクンと態勢を崩したオルテンシアは片膝をついた。

 すると髪が抜け落ち、肉が青く変色して腐り始めた。

 

「なっ!?」

 

 オルテンシアの変異を目撃したレィナは驚愕した。

 

「ぁ、ァァ……か……身体ガ……あのドラゴンに、ヤラれナケレば……コンな、コトには……」

 

 ボトッと目玉が落ちた。

 地についていた片膝も崩れ、オルテンシアの肉体は地面に倒れて朽ちていく。

 

「暗い……クラい……お願イ……ワタしの……子供を……生ん――――」

 

 オルテンシアの言葉は途中で消えた。

 肉体が朽ち果て、そこは血溜まりになった。

 その血溜まりにはオルテンシアの遺骨だけが残る。

 

 とんでもないオルテンシアの最後を目の当たりにしたレィナは生唾を飲んだ。

 

 これが竜の心臓に身を捧げた者の末路か。

 最後に女を求めて死ぬ様は控えめに言っても哀れであった。

 

「……何から何まで気持ち悪い奴だったわね」

 

 氷の双剣を消したレィナはそう独りごちた。

 なんとか勝利を収めたレィナだが、洞窟の奥ではまだ戦闘音が響いている。

 

 ミオンが戦っているのだろう。

 加勢に行くべきか?

 いや、こんな狭い洞窟内ではかえって邪魔になってしまう。

 

 自分はセレンの護衛に付くべきだろう。

 ミオンほどの手練れならば遅れを取ることはないはず。

 そう思ったレィナは壁に掛けられた松明を手にして洞窟の出口を目指した。

 

 その道中で見たものは……あまりに無惨な光景だった。

 オルテンシアとレジーナによって殺された騎士たちの死体。

 鎧を見るに【エルガンディ】でも【シエルグリス】でもない。

 

 どこの国の騎士かは分からないが惨い。

 巻き込まれたらしい女子供まで死んでいる。

 松明で照らし、改めて見た洞窟内はあまりにも悲惨だった。

 

 生き残りはいないのか?

 レィナは生存者の確認をしながらセレンの元へと向かった。

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