【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
火球によって燃え広がっていく巨木。
あれは放っておいたら火事になるな、とメルセーヌは思った。
早急に消火した方が森のためなのだろうが、赤い目をした下級ドラゴンたちは巨木の影から次々と姿を現してきた。
どうやら消火をする気もさせる気もないらしい。
メルセーヌにとってはこんな森が火事になろうが知ったことではないので問題はないが、燃え広がって脱出が困難になるのは避けたかった。
早く安全なところへ出て、せっかく手に入れたグロリアという最高の母体に種を植え付けてしまいたい。
あのヤバそうな雰囲気の黒い人型ドラゴンが居ない今がチャンスでもあるのだ。
種付けさえ成功すれば自分の役目はこれで終わりになる。
何も思い残すことなく死ねる。
わざわざここの上級ドラゴンを倒して捕食しなくても済む。
自分が何者だったかさえ思い出せない今は、ただ子孫を残すという本能に従うしかない。
だからグロリアが気絶している間に種付けを済ませてしまいたいのだが、下級ドラゴンの群れがそれを許してくれない。
メルセーヌは飛び掛かってくる下級ドラゴンを爪で引き裂き、左右から迫ってくる敵を斧で横一閃。
リィに近づこうとする敵も、顔面を掴んでそのまま竜の腕力で握り潰す。
空を飛んで逃げたいところだが、巨木より上に行くとまた例の上級ドラゴンに狙撃される。
この下級ドラゴンが蔓延る森の中を突っ切るしかないのだ。
「チビちゃん! グロリアを傷つけないでよ!」
『わかってるよ! うわあっ!』
また火球が飛んできた。
リィを庇うようにメルセーヌは前に立ち、その火球を竜の腕で弾き返した。
火球は別の下級ドラゴンにぶち当たり大きく怯ませる。
その怯ませたドラゴンの後ろからまた増援。
何匹もの下級ドラゴンがワラワラと湧いて来た。
どうやら完全にこちらの居場所が知れ渡ってしまったみたいだ。
次から次へと敵がやってくる。
敵はメルセーヌを見つけるなり火球を乱発してきた!
リィとグロリアが背後にいるから避けられないメルセーヌは斧と竜の腕をフルに使って火球を弾いていく。
『うわわわわ! 凄い数だよ!』
「くっ! このままじゃマズイね……」
やりたくなかったが、グロリアを守るためには仕方がない。
メルセーヌは全身に力を込めてドラゴンへと変身した。
そしてそのままグロリアをリィからひったくって低空飛行を開始する。
『あ! ちょっと! 待ってよ!』
「チビちゃんは飛べるでしょ? 自力で付いてきて。でなきゃ置いてくわ」
『そんな!? さっき護ってくれるって!』
無視したメルセーヌは低空飛行の速度を上げた。
リィとの差がどんどん開いていく。
もとよりリィは置いていくつもりだった。
グロリアにしか興味はない。
このドラゴンの力を感じる素晴らしい母体を傷つけまいとしっかり抱きしめて飛行した。
自分の真下には下級ドラゴンの群れがこちらを揃って睨んでいた。
あるヤツは吠えて、あるヤツは火球で狙ってきた。
それらを回避しながら【ヒュンペリアの森】の出口を目指す。
刹那! 巨木を避けたらすぐに次の巨木が目の前に!
「……っ!」
寸でのところで躱した。
翼がカスッた。
巨木にぶつかりそうになりヒヤッとした。
あんまり速度を出すのも考えものだが、これだけ騒ぎになるとあの黒い人型ドラゴンが嗅ぎつけてくるかもしれない。
最悪、あの狙撃上手の上級ドラゴンが自らやってくる可能もある。
急がないと。
メルセーヌはそびえ立つ巨木を回避しながら低空飛行を続けた。
※
メルセーヌから落下したナイトは無事に着地し、はぐれたリィとグロリアを探している最中だった。
遠くで爆音を捉えたナイトは巨木の根っ子を飛び越えて疾走する。
リィとグロリアが襲われているのかもしれない。
急いで向かわねば危ない。
無事でいてくれリィ……グロリア!
まさか自分が人間を助けるために走ることになるとは思いも寄らなかった。
前にも一度助けたが、分からないものである。
グロリアは一度ナイト自らが殺した人間だ。
その殺した人間を二度も助けるなんて、リイスが聞いたらなんて言うだろう?
もっとマシな作り話をしてくださいと、お前は笑うだろうか?
そんなことを思いながら前進していると、不意に上空からただならぬ気配が迫ってきた!
『!』
ナイトはすかさず回避運動を行いバックステップ。
凄まじい風圧を起こしながら現れたのは緑の竜鱗を纏った大型ドラゴンだった。
『おいおい……やべぇ気配を追ってみればなんだこのチビは?』
リイスに似た外見で瞳はオレンジ色。
大きさはメスのリイスよりも大きい20メートルほど。
上位のドラゴンというだけあってナイトを圧倒する巨体だった。
こいつはまさか……
『お前がリザークか?』
『ああ? オレのことを知ってんのか?』
どうやら本当にリイスの兄であるリザークだったようだ。
匂いは分からないか、外見は確かに似ている。
リイスを大きくした感じだ。
『知っている。リイスから聞いた』
『リイス……だと?』
『悪いが後にしてくれ。連れが助けを待っている』
『おおっと! そうはいかねぇな。オレの縄張りに勝手に侵入したんだ。ただで済むわけねぇよなぁ?』
『二度も言わせるな。後にしろ。リイスの娘が襲われているんだ』
『テメェ誰に向かって口を聞い………………リイスの娘?』