【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第425話【避難民の末路】

 あの変態ドラグーンを一瞬で灰にした。

 自分の身体から出たピンクの炎の威力に戦慄するグロリア。

 しかしザマァ見ろと思う気持ちもあって灰になったメルセーヌを一瞥した。

 

 果たして、グロリアはドラゴン化した自分の手を再度確認した。

 まるでナイトのような黒い竜鱗に覆われている。

 この竜鱗が先程の氷の棘から手を守ってくれた。

 生身の手では大ケガ間違いなしだったのに傷一つない。

 

 気持ち悪い、という感情より……いよいよ自分の身体が本格的にドラゴン化を始めたという絶望感の方がやはり強かった。

 そしてまたも脳裏に出てくるのは母ローエの顔だった。

 

 本来なら生みの親より育ての親。

 ここで思い出すのは自分を育ててくれたリリーベールやレィナやリーネの3人のはずなのに。

 ……きっとローエが一番面倒くさいのを脳は知っているからなのだろう。 

 前に嫌というほど体験したから。

 

 グロリアは溜め息混じりに力を抜くとはドラゴンの腕が消えて元の人間の腕に戻った。

 なんとなくホッとしたグロリアは、しかしそこで悩んだ。

 

 これは隠しておくべきか?

 みんなに……

 特にお母さんには知られたくない。

 

 ……いっそこのままエルガンディへは帰らない方がいいのではないだろうか?

 きっとお母さんやみんなは悲しむだろうけど、こんな身体を見せるくらいなら、このままナイトたちと一緒に……

 

『グロリアー!』

 

「!?」

 

 森の奥から現れたのはリィだった。

 無事だった彼女に微笑むグロリアは飛び込んで来るリィを抱き締めた。

 

「良かったリィ! 無事だったのね!」

 

『こっちのセリフだよ! グロリアずっと気絶してて危なかったんだから!』

 

「え? そうなの?」

 

『そうだよ! メルは?』

 

 メル……とはメルセーヌのことか。

 グロリアは灰が積もっている地面を指差した。

 

「あれが元メルセーヌよ。アタシを襲ってきたから返り討ちにしたの」

 

『ええ!? メルセーヌやっぱり悪いヤツだったの!?』

 

「そうね。残念だったけど……」

 

『そっか……』

 

「ところでナイトは?」

 

『あ、パパならリザークおじさんと一緒にいるよ』

 

「は!? 戦ってんの!?」

 

『ううん。リザークおじさん悪いヤツじゃなかった。今パパと一緒に森の火を消してるよ』

 

 悪いヤツじゃない!?

 うわ……最悪だわ……

 これじゃあ代表者から引き受けた依頼が達成できないじゃない……

 

 ナイトに倒してもらおうと思ってたのに……

 リィのおじさんなら殺すわけにもいかないし……

 はぁ……ほんっと、ろくなことないわ……

 

 お先真っ暗な自分の人生を悔やんでいると、突如として辺りが暗くなった。

 何事だ? っと空を見上げると桃色のドラゴンが太陽を遮って飛んでいた。

 

 あれはセレンだ。

 どうしてここに?

 

「グロリアー!」

 

 セレンの背中から手を振っている人影が見えた。

 

「あ! レィナおばさん!? 無事だったんだ!」

 

 レィナの他にもう一人見えた。

 それは見覚えのあるピンクのツインテールで、一発でミオンだと分かった。

 

 げ……あのヒステリー女だ。

 いつかのイメージが払拭されずにいたため思わず怪訝な顔をしてしまった。

 

『グ、グロリア……リィどうすれば?』

「アタシから離れないで。大丈夫。ちゃんと説明するから」

『ぅ、うん……』

 

 レィナとミオンにはリィの声は聞こえない。

 おそらく勘違いしてくるだろうから、ちゃんと説明しないと。

 

 そしてセレンが地面に着地すると、レィナがすぐに降りて駆けてきた。

 

「グロリア! 良かった無事で!」

 

「レィナおばさんこそ!」

 

 互いの無事を確認すると、人間の姿に戻ったセレンもやってきた。

 

「グロリア! 良かった本当に! まだ森に入ってなかったのね!」

 

「え?」

 

 まだ森に入ってなかったのね?

 言われてからグロリアは気づいた。

 ここはもう【ヒュンペリアの森】の出入口付近。

 こんな森と外の狭間でメルセーヌと戦っていたのか。

 

「【ヒュンペリアの森】にはA級ドラゴンが何千といるって聞いて助けに来たのよ。けど必要なかったみたいね」

 

 ミオンに言われてグロリアは事情を察した。

 けどなんでセレンが【ヒュンペリアの森】にA級ドラゴンが何千といることを知っていたのだろう?

 

「必要なかったなんてとんでもない。ぶっちゃけそのA級ドラゴンの大群に襲われて酷い目にあったんです。危うく死ぬところだったし」

 

 グロリアはミオンに敬語で話した。

 ネオの母親というのは知っているから、間違いなく年上だと思ったからだ。

 見た目は自分と大差ないのが悔しい。

 何歳なんだろこの人……

 

「やっぱり! あぁ……無事で良かった……本当に……」

 

 セレンがこれでもかと安堵してくる。

 やはり孫の安否をよほど心配してくれていたみたいだ。

 胸を撫で下ろすセレンを見たレィナとミオンが小さく笑う。

 するとミオンがグロリアの腕の中にいるリィを見た。

 

「その子がリィ?」

 

「え? 知ってるんですか?」

 

「ここに来るまでにセレンから聞いたわ。ナイトの事も。その子の事も……」

 

 まさかナイトの事まで。

 それなら話は早いとグロリアは思った。

 

「それなら説明は不要ですね。アタシはそのナイトとリィを連れて森に入ったんですけど、あまりのA級ドラゴンの大群に押されて撤退を余儀なくされました」

 

「あのゼクードとネオが二人掛かりでやっとなドラゴンが居てもダメだったのね」

 

 ミオンの問いにグロリアは頷く。

 

「はい。おそらくナイトは一人だけなら突破できたんだと思います。アタシとリィを守りながらの前進だったから無理ができなかったんだと……」

 

『ねぇねぇグロリア』

 

 ずっと腕の中に抱いていたリィが声を出してきた。

 おそらくレィナとミオンにはリィが唸り声を出したようにしか聞こえなかっただろう。

 

 現にリィが喋った途端にレィナとミオンがわずかにビクついたのだ。

 危険はないと言っても言葉の通じないドラゴン相手では仕方ない。

 

「あぁごめん。どしたの?」

 

『パパが待ってるよ。早く戻ろう?』

 

「あー……じゃあどうしようかな」

 

 ドラゴンの言葉が分かるセレンはともかく、レィナとミオンを連れて行くのは大丈夫なのだろうか?

 ここで待っていてもらうべきか?

 

「どうしたの? その子ガゥガゥ言ってるけど」

 

 やはりミオンの耳にはリィの言葉は唸り声にしか聞こえないらしい。

 不思議なものだ。

 血が変わっただけで聞こえるものまで変わるなんて……

 

 いや、そんなことよりもリザークの件だ。

 これはどうするべきなのか?

 ナイトやリィにとって悪いヤツじゃない以上、リザークを討伐するのは得策じゃない。

 

 最悪ナイトが敵になる。

 かと言って、このまま帰還しても代表者になんて説明すればいいのか?

 

 どうしよう……八方塞がりだ。

 押すことも退くこともできなくなってる。

 泣けてくるわね……

 

「えぇ実は……ナイトが森の奥で待ってるらしいんです。なので皆さんはここで待っててください。ちょっと話をつけてきます」

 

 正直もうこれしかない。

 リザークと対面して話をする。

 これはアタシにしかできないことだろう。

 これ以上、避難民を襲わないでほしいと頼み込むしかない。

 

 そう決意して踵を返すとレィナに肩を掴まれた。

 

「待ちなさいグロリア! 森の奥は大勢のドラゴンで危険なんでしょう? なんでそんな場所にわざわざ戻るの? そのナイトってドラゴンがこっちに来ればいいじゃない。そのリィって子に伝達を任せて呼んだ方が安全よ」

 

 そうだった。

【ヒュンペリアの森】には大勢のA級ドラゴンが徘徊しているんだった。

 ここは森の出入口付近だから居ないが、奥に進めば間違いなくまた大群に襲われる。

 

 いくらレィナとミオンの協力があっても、さすがにあの数を相手に突破するのは厳しいだろう。

 ここのドラゴンたちはやたらと動きがいいから。

 

「それは……そうなんだけど……せめてリザークに話をつけてからじゃないと帰れないっていうか……」

 

「リザークって?」

 

 ミオンに聞かれグロリアはすぐに答える。

 

「ここでは『歌のドラゴン』って呼ばれているS級ドラゴンです。そのドラゴンの名前がリザークなんです。アタシは避難民の人達にリザーク討伐を依頼されています。だからこのまま帰還するわけにはいかなくて……」

 

 そんなグロリアの言葉にセレンを始めとし、レィナとミオンまでもが暗い顔になった。

 どうしたというのだろう?

 よく分からない沈黙が起こり、そして間もなくセレンが口を開いてきた。

 

「グロリア……あのね……」

「セレン。私が言うわ」

 

 何かを言おうとしたセレンを片手で制したのはミオンだった。

 

「洞窟にいた避難民はみんな死んだわ」

 

「………………え?」

 

 みんな……死んだ?

 ミオンの言ってることが理解できなく、一瞬ミオンの言葉を疑うことさえした。

 しかし当のミオンは淡々と続ける。

 

「オルテンシアとレジーナを覚えてる? あいつらに洞窟を襲撃されたの」

 

「え、あいつらまだ生きてたんですか!? ナイトが倒したはずなのに!」

 

「……! ……ええ、生きてた。なんとか私とレィナが倒したけど、そのときにはもう、みんな殺されてたわ」

 

「そんな……妊婦の人や赤ちゃんだっていたんですよ!? その人たちも?」

 

 青ざめるグロリアに悲しい顔でミオンは頷いた。

 

 信じられない。

 皆殺しじゃないか。  

 なんであの時ナイトに殺されたはずなのに生きてんのよ……

 

「……だからアンタが無理してリザークと戦う必要はもうないのよ。依頼した人たちがもう……この世にいないから」

 

 悲しいが、確かにミオンの言うとおりなんだろう。

 避難民たちとの関係は竜人様という誤解から始まった関係だったが、こんな結末を迎えるとは。

 

 だがこの最悪の結末のおかげで八方塞がりだった現状が解決してしまった。

 守るべき避難民を失ってはリザークと戦う意味もない。

 ナイトとリィを敵に回さなくてよくなる。

 

 皮肉にもゴチャゴチャになっていたグロリアの立ち位置がスッキリしてしまった。

 まったく喜べないが……

 

「……ねぇリィ。ナイトを呼んできてくれる?」

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