【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「あのゼクードとネオが二人掛かりでやっとなドラゴンが居てもダメだったのね」
ミオンの問いにグロリアは頷く。
「はい。おそらくナイトは一人だけなら突破できたんだと思います。アタシとリィを守りながらの前進だったから無理ができなかったんだと……」
『ねぇねぇグロリア』
ずっと腕の中に抱いていたリィが声を出してきた。
おそらくレィナとミオンにはリィが唸り声を出したようにしか聞こえなかっただろう。
現にリィが喋った途端にレィナとミオンがわずかにビクついたのだ。
危険はないと言っても言葉の通じないドラゴン相手では仕方ない。
「あぁごめん。どしたの?」
『パパが待ってるよ。早く戻ろう?』
「あー……じゃあどうしようかな」
ドラゴンの言葉が分かるセレンはともかく、レィナとミオンを連れて行くのは大丈夫なのだろうか?
ここで待っていてもらうべきか?
「どうしたの? その子ガゥガゥ言ってるけど」
やはりミオンの耳にはリィの言葉は唸り声にしか聞こえないらしい。
不思議なものだ。
血が変わっただけで聞こえるものまで変わるなんて……
いや、そんなことよりもリザークの件だ。
これはどうするべきなのか?
ナイトやリィにとって悪いヤツじゃない以上、リザークを討伐するのは得策じゃない。
最悪ナイトが敵になる。
かと言って、このまま帰還しても代表者になんて説明すればいいのか?
どうしよう……八方塞がりだ。
押すことも退くこともできなくなってる。
泣けてくるわね……
「えぇ実は……ナイトが森の奥で待ってるらしいんです。なので皆さんはここで待っててください。ちょっと話をつけてきます」
正直もうこれしかない。
リザークと対面して話をする。
これはアタシにしかできないことだろう。
これ以上、避難民を襲わないでほしいと頼み込むしかない。
そう決意して踵を返すとレィナに肩を掴まれた。
「待ちなさいグロリア! 森の奥は大勢のドラゴンで危険なんでしょう? なんでそんな場所にわざわざ戻るの? そのナイトってドラゴンがこっちに来ればいいじゃない。そのリィって子に伝達を任せて呼んだ方が安全よ」
そうだった。
【ヒュンペリアの森】には大勢のA級ドラゴンが徘徊しているんだった。
ここは森の出入口付近だから居ないが、奥に進めば間違いなくまた大群に襲われる。
いくらレィナとミオンの協力があっても、さすがにあの数を相手に突破するのは厳しいだろう。
ここのドラゴンたちはやたらと動きがいいから。
「それは……そうなんだけど……せめてリザークに話をつけてからじゃないと帰れないっていうか……」
「リザークって?」
ミオンに聞かれグロリアはすぐに答える。
「ここでは『歌のドラゴン』って呼ばれているS級ドラゴンです。そのドラゴンの名前がリザークなんです。アタシは避難民の人達にリザーク討伐を依頼されています。だからこのまま帰還するわけにはいかなくて……」
そんなグロリアの言葉にセレンを始めとし、レィナとミオンまでもが暗い顔になった。
どうしたというのだろう?
よく分からない沈黙が起こり、そして間もなくセレンが口を開いてきた。
「グロリア……あのね……」
「セレン。私が言うわ」
何かを言おうとしたセレンを片手で制したのはミオンだった。
「洞窟にいた避難民はみんな死んだわ」
「………………え?」
みんな……死んだ?
ミオンの言ってることが理解できなく、一瞬ミオンの言葉を疑うことさえした。
しかし当のミオンは淡々と続ける。
「オルテンシアとレジーナを覚えてる? あいつらに洞窟を襲撃されたの」
「え、あいつらまだ生きてたんですか!? ナイトが倒したはずなのに!」
「……! ……ええ、生きてた。なんとか私とレィナが倒したけど、そのときにはもう、みんな殺されてたわ」
「そんな……妊婦の人や赤ちゃんだっていたんですよ!? その人たちも?」
青ざめるグロリアに悲しい顔でミオンは頷いた。
信じられない。
皆殺しじゃないか。
なんであの時ナイトに殺されたはずなのに生きてんのよ……
「……だからアンタが無理してリザークと戦う必要はもうないのよ。依頼した人たちがもう……この世にいないから」
悲しいが、確かにミオンの言うとおりなんだろう。
避難民たちとの関係は竜人様という誤解から始まった関係だったが、こんな結末を迎えるとは。
だがこの最悪の結末のおかげで八方塞がりだった現状が解決してしまった。
守るべき避難民を失ってはリザークと戦う意味もない。
ナイトとリィを敵に回さなくてよくなる。
皮肉にもゴチャゴチャになっていたグロリアの立ち位置がスッキリしてしまった。
まったく喜べないが……
「……ねぇリィ。ナイトを呼んできてくれる?」
★
森の消火作業を終えて、なんとか事なきを得た。
ナイトとリザークは拓けた森の中で一息吐き、会話を弾ませていた。
リザークはリイスの兄。
ならば彼女の死を伝えねばならない。
セレンに殺されてしまったこと。
リィが唯一助かったたった一匹の娘であることも。
『そうか……リイスは死んじまったのか……』
リザークはその巨体を器用に動かし空を見上げた。
『辛いこと思い出させてすまないな。ナイトさん』
『いえ……』
本来ならリザークに伝える気はなかった。
しかし会ってみればリザークというオスは聞いていたより遥かに気さくで丸いオスだった。
リイスから聞いていた話とはまったく違う。
リイスの話ではリザークというオスは極めて傲慢で、やたら縄張り意識が強く、そして実の妹であるリイスにも度々暴力を振るっていたらしい。
しかしどうだ?
目の前にいるリザークは妹リイスの死を聞いて、空を見上げて悲しい顔を浮かべている。
妹の死をちゃんと悲しんでいるのだ。
とてもリイスの言う粗暴なオスには見えない。
リイスが俺に嘘をついていた?
いや、リイスも長年会ってないと言っていたから、その年月で丸くなった可能性もあるかもしれないか。
『リィはアイツの忘れ形見ってことか……』
『ええ。そうです』
リザークが敬語を使うので、ナイトもそれ相応に対応した。
ドラゴン界隈でも礼儀は存在する。
『……リイスとオレはここで生まれて育った。こんな風に他と違ったせいで親に捨てられてな。酷いもんだったぜ』
『その話はリイスから聞いています。……心中、お察しします』
『ありがとよ。けどまぁ、そこはなんとかリイスと協力して食い繋いだよ。幸いこの通り身体は強かったんでな』
『ずっとここで暮らしていたんですか?』
『ああ、今さら離れられんよ。どこへ行っても異端だのなんだのと蔑まれるんでな。見たところナイトさんもオレたちと同類だろう?』
『そうですね。他の群れに馴染んだことはありません。迎えられたことも』
『だろうな。どこも余所者には厳しいもんだ。それが普通じゃない異端となれば尚の事』
『……』
『だからオレはここで縄張りを作り、のんびり暮らしてるってわけさ』
『なるほど』
ここでいったん会話が止まった頃にリィがやってきた。
『パパ!』
『リィか。グロリアはどうした?』
『大丈夫だった! でもセレンと、あと知らない人が二人も来てた』
『なに!? 敵か?』
『ううん。グロリアは味方だって言ってた』
『味方?』
ヤツの味方なら……もしかしたらゼクードかもしれない。
またアイツと顔を合わせるのは気が進まないな。
『おーおー! 君がリィちゃんか? ん?』
リザークが身を乗り出してリィを見てきた。
あまりの巨体にリィがビックリしてナイトの背に隠れた。
『こらリィ! オジさんだぞ。挨拶しろ』
ナイトに叱られ渋々出てきたリィは口を開いた。
『こ、こんにちは……』
『こんにちは。リザークだ。はは、本当に小さい時のリイスにそっくりだな。親子ってのは本来こんなにも似るもんなんだな』
妙に重い言葉を繰り出したリザークは続ける。
『んー? しかしリィから人間の臭いがするな。そのグロリアだのセレンだのは人間の名前かい?』
『うん……』
『そうか。オレの縄張りに人間が……ね』
殺気!
……を募らせるかと思ったが、リザークは意外にも冷静だった。
『もしかして狙撃したときに一緒にいたナイトさんの連れかい?』
『ええ。そうです。ヤツらにはすぐ森から出ていくよう言っておきます。なのでどうか攻撃だけは……』
ナイトなりに精一杯グロリアとセレンを庇った。
リザークはかなりの手練れだ。
ナイトにはそれが気配だけで分かっていた。
グロリアが戦ったところで返り討ちに合うだけ。
ナイトも助けに入ることができない以上、もうグロリアには退いてもらうしかない。
あのゼクードもいるならリザークと張り合えるかもしれないが、その場合はナイトはリザーク側に付かねばならない。
そうなるともはや地獄絵図だ。
説得して帰らせよう。
そしてグロリアと会うのもこれで最後にしよう。
これ以上、人間と関わるべきじゃない。
お互いのために。
『いや、いいよナイトさん』
『は?』
『せっかくだしここへ連れて来なよ』
『え!?』
『気になるじゃないか。なんで人間と一緒にいるのか』
『それは……』
ナイトが説明に困っているとリィが前に出てきた。
『あ、あのね! グロリアとセレンは人間だけど、ドラゴンの言葉が分かるの!』
『ほう? それはまた異端な人間が居たもんだな。ぜひ会わせてくれないかい?』
『いいけど……オジさん何もしない?』
『あっちが何もしなかったら、ね』
『わかった! なら呼んでくる!』
リィが飛び立とうとしたが、リザークが止めた。
『ああ待って待って! リィは残ってオジさんと喋ろうよ。いろいろ話をしてみたい』
『え? でも……』
リィは困惑しながらナイトを見た。
ナイトはフゥと一息吐いてから踵を返す。
『せっかくオジさんと会えたんだ。話しておけ。グロリアたちは俺が案内する』
『えぇ……』
なんか凄く嫌そうなリィにリザークが焦る。
『いやいやそんな嫌そうな顔しないでよ。わかった。オジさんの歌を教えてあげよう。どうだい?』
『え、歌? 本当に?』
さっきまで嫌そうだったのにあっさり歌に釣られてしまった。
こういうところはまだまだ子供である。