【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
先手を打ったのはリザークだった。
巨体に似合わぬ速度で繰り出される大爪のラッシュ。
それを紙一重で避け、避け切れぬ一撃は己の爪で捌くナイト。
あのナイトが避け切れないほどの一撃を放っている。
ナイトの強さを知るグロリアにはもはやそれが異常事態だった。
あのリザークというドラゴンはナイトの速度について行っている。
信じられない。
ナイトと戦えるヤツなんてそれこそ父ゼクードや弟カーティスくらいだと思っていたのに。
しかしナイトも負けてはいない。
ラッシュを掻い潜りリザークの脇を爪で一閃した。
リザークの血が噴き出すものの、傷はすぐに完治した。
とんでもない再生能力である。
ああもう!
卑怯なのよその再生能力!
S級クラスならだいたい備わっている再生能力にグロリアは拳を握り締めながら苛ついた。
自分もこの再生能力で何度も助かっているからこそ逆に厄介さも理解している。
『ちっ……速い再生だな』
『リイスには無かったろ? アイツはとことん恵まれなかったメスだからな』
『口には気をつけろ』
『おーおー。どうやら相当アイツに惚れ込んでるらしいな? なら教えてやろうか? あの下品なメスの本当の正体ってやつをよ』
『なんだと?』
『アイツは自分の弱さを誤魔化すためにいろんなオスと交尾したメスだぜ?』
!?
戦闘を見守って聞いていたグロリアは驚愕した。
とんでもない事実を突きつけられ、ナイトじゃないのに胸を抉られるような絶望を感じた。
自分の妻が他の男と、それも複数の男と寝たと言っている。
こんな残酷な現実があるのか。
『ママが……?』
セレンに抱きかかえられているリィにも聞こえたらしい。
リィの顔も驚きに満ちていた。
子供にはあまりにも辛い事実。
これが本当ならリィはナイトの子供ではない可能性すら……
『リイスには三匹のガキがいたろ? ガナー・ゲイル・ブレイドってな。あいつらはそれぞれ種違いのガキどもなんだぜ?』
さらに追い打ちの事実。
ナイトは黙ったままで、リザークはさらに続けた。
『強そうなオスを見つけては交尾し、弱いガキは平気な顔して捨てていく。そんで残ったのがあの三匹のガキどもってわけだ』
三匹の子供?
ってことはリイスは最低でも三匹のオスと子供を作っているということになる。
ドラゴンって一夫一妻が基本だったはず。
リイスは違ったってこと?
そんなグロリアの疑問が晴れる前にリザークが話し出した。
『お前はアイツに惚れ込んでるみたいだがな? アイツにとってお前は都合のいいオスに過ぎねぇんだよ。愛なんて感情はこれっぽっちも無(ね)ぇ!』
『……』
ナイトは黙ったままだった。
どうして何も言い返さないの?
ナイト……もしかしてショックで……
『言いたいことはそれだけか?』
『あ?』
静かに響くナイトの言葉。
リザークは目を鋭くし、後ろで見守るグロリアたちは虚を突かれたようにナイトを見た。
『俺がリイスの事を何も知らないと思っているのなら、それは間違いだ』
『なんだと? テメェまさか知ってて一緒に居たってのか?』
『当たり前だ』
言い切ったナイトにグロリアは驚きを隠せなかった。
リイスの正体にショックを受けたと思っていたのに。
知っててリイスと一緒に居たの?
本当に?
『はっ! こりゃとんでもねぇ物好きな野郎だぜ。あんな下品なメスの何が良い!』
『リイスは――――』
※
『私はたくさんのオスとまぐわって来ました。ガナー達もその子供です』
『そうか』
『子供だって谷底に突き落として這い上がってきた子たちだけを愛しました。それがガナー達です』
『そうか』
『……そうかそうかって。他に何か言うことはないんですか?』
『何をだ?』
『私が他のオスとたくさんまぐわって来たことを、何も思わないんですか? 子供を谷底に突き落としたことも』
『? ああ』
『あなたは……やっぱり変わってます』
『見た目は自覚している』
『見てくれの話じゃありません! 普通は私のようなメスは下品と罵るはずです! あなただって本当はそう思ってるんでしょう!』
『思ってない』
『嘘です!』
『嘘だったらもうお前の側にはいない。あと俺は嘘が苦手なんだ。知ってるだろ?』
『……』
『俺も最初はお前の声が母に似ていたから近づいた。だが今は違う』
『え……』
『今は単純にお前と一緒に居たい。お前といると俺は満たされるんだ。お前は何もない俺に何かを与えてくれる』
『そんなの……私は……』
『俺はお前の生き方も肯定する』
『!?』
『お前のすべてを受け入れたい。それくらいお前の事が好きだ。リイス』
『な……な…………』
『お前はお前のままでいい。今後も好きなだけオスとまぐわえばいい。好きなだけ子供を生めばいい。俺はお前のやることすべてを受け入れて肯定する』
『なん……なんで…………』
『ただ最後に俺の元に帰ってきてくれればそれでいい』
『!』
『心配するな。お前がどんなメスだろうと俺はお前の味方だ。リイス』
『……………………………………………――――ナイト……私……あなたの子供を……産みたいです』
※
『リイスは俺にいろんなものをくれた。リィもその一つだ』
ナイトの過去を聞いたグロリアはこれ以上にないほど目を大きくした。
セレンもリィも。
強いオスを求め、強い子供を求め、ある意味でもっともメスらしいメスだったリイス。
そんな彼女に、自分でも汚いと思っている生き方を全肯定してくれるオスが現れた。
最後のリイスの言葉『あなたの子供を産みたい』は、ナイトにしか言ったことがない本当の気持ちだったんだろう。
人間とドラゴンでは価値観が違うが、自分がリイスならきっと同じことを言っていたと思うから分かる。
でもリイスはなぜそこまでして強い子供を欲しがっていたんだろう?
人間に勝つため?
『テメェ頭おかしいんじゃねぇのか? いくら好きだって言ってもあんな汚ぇメスを受け入れるなんてよ』
そんなリザークの呆れ声を、ナイトは鼻で嗤った。
『お前は綺麗なメスしか抱けないのか?』
『……テメェ今、なんつった?』
リザークの全身に血管が浮かぶ。
逆鱗に触れたらしい。
しかしナイトは言い切った。
『見た目の割に小さいオスだと言った』
『テメェええええええ!』
ガンッ!
っと地面を踏んだリザークの足から衝撃波が発生した。
しかしその衝撃波を片手を振って軽く切り裂いたナイトは、次の瞬間に雷を落とした。
『ぐあぁあああああああ!』
雷の直撃を受けたリザークは膝をつく。
空を見ればいつの間にか黒雲が渦巻いていた。
とっくに戦闘の準備をしていたらしい。
『なんで雷が! ちっきしょおおおお!』
雷を食らってもまだ生きているリザークの前にナイトが立った。
『罰が当たったんだ』
『なんだと!?』
『リイスがあんなにも強い子供を欲したのはお前がリイスを追い出したからだ』
え!?
リザークが、リイスを追い出した?
なんで?
兄妹なんじゃ……
驚きの連続でグロリアは頭がこんがらがる。
『お前は実の妹に暴力を振るっていたらしいな? あげくリイスがやっとの思いで手に入れたい獲物もその場で横取りしたとか』
グッと息を呑むリザーク。
どうやら本当のようだ。
最低だ。自分の妹に暴力や横取りをしていたなんて。
『最初はお前の猫被りに騙されたが、よく分かった。リイスはやはり嘘なんかついていなかった。お前がリイスのすべてを狂わせた元凶だ!』
ナイトの拳がリザークの頬をブチのめした!
『ぶっふぉおあああああああ!」
圧倒的な体格差をものともしないナイトの腕力。
リザーク相手にあえて爪を立てずに殴り飛ばしたのは、生かしてリイスの痛みを思い知らせるため。
ぶっ飛ばされ近くの巨木にブミ当たったリザークは怒りに目を血走らせて起き上がる。
ナイトの怒りの一撃をくらって気絶さえしないとは。
やはりこのリザークというドラゴンはS級ドラゴンの中でも別格なのかもしれない。
『♪〜♪〜♪』
リザークが何かを歌ったかと思うと次の瞬間にはナイトの目の前に現れた!
『ッシャア!』
『チッ!』
寸でのところでリザークの爪を躱した。
しかし掠ったらしく、ナイトの腕から少し血が吹き出る。
さっきとは比べ物にならない速度で動いてきた。
「な、なにアイツ……急に動きが……」
グロリアの隣でミオンが驚きを口にした。
グロリアにもリザークの動きは見えなかったがミオンでも見えなかったようだ。
ナイトでギリギリなら仕方ない。
『ほぉ……よく躱したな』
『キサマ……まさか歌で』
『察しがいいな。そうさ! これがオレの奥の手!【全能の歌】よ! この歌はオレの全てを強化する! さぁ! 最後まで立っていられたら褒めてやるよぉおおおお!』
リザークの猛襲が始まった。
右から左から上から下から。
止まらぬ方位無法の爪撃がナイトを斬り刻んでいく。
対するナイトも持ち前の反応でリザークの爪を捌いているが、徐々に傷を増やしていく。
「押され出したわ……」
レィナが言うとミオンは「くそ。援護に回りたいけど割り込めない」と歯を食いしばる。
レィナとミオンでダメならグロリアやセレン・リィでは話にもならない。
どうすればいいの?
このままじゃナイトが押し切られて殺されてしまう。
『♪〜♪〜♪』
突如として聴こえてきたリィの歌声。
それは先ほど聴いたリザークの歌とまったく同じ音色だった。
刹那!
ついさっきまで防戦一方だったナイトが一気に形勢逆転した。
『【ドラゴンクロー・クロス】!』
銀の気を纏ったナイトの爪撃がリザークの胸部に十字に刻まれ血を吹き出した。
『ぐああああああああ!?』
リザークが片膝をつき、リィを睨みつけた。
『こ、このガキ……またオレの歌を!』
リィはリザークの『全能の歌』をたった一回聴いただけでマスターしたらしい。
とんでもない記憶力だ。
忌々しく睨んでくる叔父リザークに対してリィはベーっと舌を出してそれを返事にする。
ブチブチブチィ! っと音を立てて血管を浮かばせるほどキレたリザークは『死ねクソガキがああああ!』っとブレスを放った。
だがそれも竜人化して竜鱗を纏ったセレンに防御されリィには届かない。
「無駄ですよ! あなたのなんて痛くも痒くもないんですから!」
『て、てめぇ……っ!』
「自分の姪に手を出すなんて恥を知りなさい!」
『黙れ! よそ者にとやかく言われたくねぇんだよ!』
そんなやりとりをしている間にリザークの胸の傷が癒えた。
やはり再生が早い。
だが同じく強化されたらしいナイトとの力量の差はあった。
リザークの繰り出す攻撃がことごとく躱され、ナイトの攻撃はことごとく当てられた。
繰り返し使われる再生能力はリザークの体力を大きく奪っていき、ついには息切れを誘発した。
『はぁ……はぁ……は、あああ! クソが! このオレが、こんな虫けらに!』
『お前の負けだリザーク』
『舐めてんじゃねぇ! まだだ! まだ……あ……』
リザークは立とうとするが力が入らず転倒した。
身体は再生能力のおかげで無傷なのに体力がもう残っていないらしい。
無敵に見える再生能力も長期戦には不向きらしい。
『終わりだ』
ナイトが爪を振り上げた。
『ま、待て! 待ってくれ! オレが悪かった! 命だけは勘弁してくれ! な、なんならお前の下僕になる! だから命だけは!』
『見苦しい』
冷たく言い放ったナイトはリザークの眉間に爪を突き刺し電流を流し込む。
『ぎゃあああああああああああああああ!』
リザークの全身に雷が走り全細胞を焼き尽くしていった。
一瞬で焼死体と化したリザークの意識はこの世を去る。
【ヒュンペリアの森】の支配者はこの日、ついに絶命した。