【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第430話【消えたシエルグリス】

 リザークが討伐された後、彼に洗脳されていたA級ドラゴンたちは我を取り戻し各々の生活に戻っていった。

【ヒュンペリアの森】に残るドラゴンや、どこかへ去るドラゴンたちもいた。

 

 その一方でさすがにダメージの色が強かったミオンとレィナを休ませるため、グロリアはセレンに乗って例の洞窟へ戻った。

 

 オルテンシアとレジーナによって避難民や代表者たちが皆殺しにされたと聞いているが、この目で見るまでは信じられない。

 

 ……信じたくなかったが、現実は残酷だった。

 本当にみんな殺されていた。

 洞窟内は地獄絵図で血まみれの惨状となっていた。

 女子供でさえみんな死んでいる。

 

「どうしてこんなことができるの……」

 

 洞窟内で佇みながらグロリアは呟いた。

 背後に立つセレンが顔を曇らせる。

 

「私が悪いの。私が……ここに逃げ込まなければ、こんなことには……」

 

「お婆ちゃんが悪いわけないでしょう! 襲ってきたのはアイツらなんだから」

 

 グロリアが言い切るがセレンの曇り顔は晴れない。

 割り切れないセレンをよそに、ミオンとレィナは凄まじいことをしていた。

 

 こんな死体だらけの場所で寝ているのだ。

 ケガの手当をしたら血を流しすぎたとか言って、洞窟内に残っているベッドを拝借してすぐ寝た。 

 

 よくこんなところで寝られるなと思う。

 こんな血の匂いでムセそうな場所で……

 

 ドラゴンが彷徨く外で寝るよりよっぽど気楽だとミオンが言っていたが、それにしたってこんな場所で……

 

 ミオンもレィナもこれまでにかなりの狩りを経験しているベテラン中のベテランだからか。

 メンタルの強さは底無しである。

 

 そもそも常人ならば死んでてもおかしくない量の血を流しているのに。

 人間の皮を被った化け物である。

 

 

 セレンが死んだ人間たちを弔おうとしていたのでグロリアもそれを手伝った。

 まだ1歳にもなってなさそうな赤子の死体を埋めた時は涙で前が見えなくなった。

 

 セレンも泣いていた。

 子供や赤子の死は何故こんなにも苦しいのだろう。

 縁もゆかりもない子供と赤子なのに。

 

 ……そうか。

 縁もゆかりもない子供相手でもこれだけ悲しいなら、母ローエがあれだけ涙を流し、自分をしつこく追いかけて来たのも……今なら分かる気がする。

 

『……人間ってのは変なことをするな。わざわざ埋めるのか』

 

 すでに夜と化していた洞窟の外で見張りをやってくれていたナイトが言ってきた。

 リィは彼の隣で寝ている。

 グロリアはスコップを地面に突き刺して「まぁね」と返した。

 

「その方が寝やすいらしいのよ。人間って」

 

『そうか』

 

「ねぇグロリア。これからどうするの?」

 

 土葬と黙祷を終えたセレンが問う。

 言われたグロリアは腕を組んで悩んだ。

 

 徐々にドラゴン化しつつある自分の身体。

 正気こそ失う気配はないが、それもドラゴン化の進行によってどうなるか分からない。

 

【エルガンディ王国】に帰還してみんなの安否を知りたいが、この身体が今後どうなるか分からない以上、みんなに近づくのは危険かもしれない。

 

 けど、やっぱりみんなの安否が気になる。

 みんなアタシと同じように別の大陸に飛ばされているなら帰還していない可能性が高い。

 

【シエルグリス王国】で戦っていたメンバーがみんな飛ばされているならお父さんやお母さんたちも帰還していないはず。

 オラージュたちのことを考えたら、やっぱりアタシは一回は絶対に帰還するべきな気がする。

 

 妹たちをリリーベールさんに任せっきりなのはマズイ。

 身内なら他にもレミーベールやオフィーリアが居てくれるが、彼女たちはもうすぐお腹も大きくなって子供を生む。

 

 そうなるとオラージュたちの育児はやっぱりリリーベールさん任せになってしまう。

 迷惑を掛け過ぎだ。

 やはり一回は帰還して家族の安否を確認しないと駄目だろう。

 

 なんだかんだ正気を失わないこの身体を信じて向かうしかないか。

 お父さんたちがまた帰還しなかったら、それこそオラージュ・カレンティア・リィンベールたちはアタシが守らないと。血の繋がった姉妹だし。

 

「エルガンディに向かうわ。やっぱりみんなの安否が気になるもの」

 

 グロリアの答えにセレンも「うん。そうだね」と頷く。

 

「ナイト。悪いんだけど前の大陸まで案内役をやってもらえない?」

 

 嫌がるだろうなと思いつつグロリアは聞いた。

 しかし意外。

 ナイトの返事は『いいだろう』の一言だけだった。

 

「え……いいの?」

 

『お前には世話になったからな』

 

「お婆ちゃんの背中に乗ってもらうけど、それでも?」

 

『リィを守った奴だ。構わん』

 

「ナイト……っ! ありがとう!」

 

『ふん……どのみち、もうこの大陸に用はないからな』

 

「そっか……」

 

 それでもいい。

 まだもう少しだけナイトとリィと一緒に居られるのが凄く嬉しかった。

 身体のドラゴン化が進んでいる今……いつか本当のドラゴンになってしまってもナイトとリィだけは側に居てくれそうな気がする。

 

 おそらく母ローエもそうだろうが、彼女の場合は自分よりオラージュたちを愛してほしい。

 

 

 

 最初は斬新だった空の旅もさすがに飽きてきた。

 俺はいま変身したドレスに乗せてもらって飛行しているが、下は太陽光を反射する海が広がるばかりで変わり映えしない。

 

 もはや何時間飛んでいるかさえ忘れたが、こうも変わり映えしない海の景色が続くと退屈この上ない。

 空を飛ぶという凄まじいことを経験しているのにこの飽きっぷり。

 人間というのは刺激が続かないと飽きる生き物のようだ。

 

 俺の後ろに座っているローエたちも会話らしい会話がなくなって目が死んでいる。

 あまりにも退屈なせいだ。

 アグリスはドレスに追従するように後ろを飛行している。

 

 何時間も飛んでるけどアグリスもドレスも疲れないのだろうか?

 ドラグーンの体力は底なしか?

 まぁそれはそれで便利で助かるが。

 

「なぁドレス。あとどれくらいでシエルグリスに着くんだ?」

 

 ビュービューと風がうるさいので俺は少し大きめの声で言った。

 ドレスは前を見ながら答える。

 

『もう目の前ですよ』

 

「え!?」

 

 言われた俺は慌てて前を見直した。

 まだかなり遠いが確かに陸地が見えた。

 

「ホントだ! 陸地だ! みんな! 着いたぞ!」

 

 退屈すぎて目が死んでいるローエたちを呼び、彼女たちは気力を回復させて身を乗り出してきた。

 下の景色が海から地上に変わり、山から森へ、そして草原へと変わっていく。

 

「おいゼクード。このままシエルグリスに行って大丈夫か?」

 

 問うてきたのはカティアだった。

 彼女の言いたいことは分かる。

 シエルグリスはもしかしたらレグに支配されている可能性があるからだ。

 

 あの時、戦える俺たちがみんなヴァルドレイクのブラックホールに飲まれて別の大陸に飛ばされた。

 残ったのはそのヴァルドレイクを食ったレグ。

 それからオルテンシアも生存しているかもしれない。

 

 レジーナはローエが、メルセーヌはフランベールが倒したと言っているから大丈夫だとして、レィナが戦っていたオルテンシアだけは分からない。

 

 アグリスとドレスはここにいるから大丈夫だが、問題はレグとオルテンシアだ。

 この二人が存命で、精鋭を失ったシエルグリスを支配している可能性がどうしてもある。

 

 この場合、またレイゼやロジェールなどを人質にされたら手が出せなくなる。

 

「そうだな……ドレス。もう少し高度を下げてくれ」

 

『待ってください。なにか……おかしいです』

 

 ドレスが鼻をクンクンさせながら言った。

 すると人間のゼクードにも変な臭いが空気中に含まれていることに気づいた。

 妙な異臭がする。

 焦げ臭いような、それでいて尿にも似たような異臭。

 なんだこれは?

 

 俺は飛行で流れゆく景色の先を見つめると、そこには巨大な穴が空いていた。

 広い草原のど真ん中にポッカリ空いた巨大な穴だ。

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 穴の底には水が溜まっており、抉れた地層は青黒く焦げているように見える。これが臭いの原因か。

 

「なんだこれ……こんなのこの大陸にあったのか?」

 

『おかしいですね。ここにシエルグリスがあったはずなんですが……』

 

「は!?」

 

 ドレスの言葉に俺たちは驚愕した。

 慌ててもう一度地上の大穴を見直す。

 やはりシエルグリスの面影など一つも残っていない。

 

 建物、城どころか城壁さえ残っていない。

 王国だったという原型がそもそもない。

 まるで最初から王国なんてなかったかのようだ。

 

「ぉ、おい……嘘だろ?」

 

 俺は真相をドレスに求めるが、ドレスは厳ついドラゴンの顔のまま首を振った。

 

「嘘じゃないです。ここには確かにシエルグリスがありました。わたしはここから飛び立ったんです」

 

 淡々と告げるドレスに嘘をついてる様子はなかった。

 特に今のドレスは嘘をつくのも下手という特徴がある。

 さらに言うならばシエルグリスこそ無いが、周囲の景色がシエルグリスで見たことがあるそれだった。

 

 やはり本当にここにはシエルグリスがあったんだ。

 それが何らかの理由で消滅した。

 いったい何があったんだ?

 

 ここで最後に俺が見たのは……

 

『父上エエエエ! やっとワカリマシタ! オレの心臓の能力ガアア! オレのカテにナッテください! チチウエぇえええええ!』

 

 竜の心臓が暴走してヴァルドレイクを食らったレグ。

 アイツが何かしてこの惨状を?

 アイツの心臓の能力はこれなのか?

 王国一つを消し飛ばす能力なのか?

 だとしたら……だとしたらどうやって勝てばいいんだそんなのに?

 

 いや、待て、それよりもみんなは!?

 姉さんは!?

 

「ドレス! 俺たちを降ろしてくれ! 姉さんたちを探す!」

 

「待ってゼクードくん! まずはエルガンディに急ぎましょう!」

 

「なんでだよフラン! 姉さんたちが助けを待ってるかもしれないだろ!」

 

「落ち着いて。レイゼさんたちはあの時かなりシエルグリスから離れてた。この大穴があの時すぐに出来た穴なら巻き込まれてはいないはずだよ」

 

 フランベールに言われた俺はハッとなった。

 確かにレイゼたちはみんな避難していた。

 しかしこの凄まじい大穴を空けた技は、周囲への被害も半端じゃなさそうだ。

 本当に無事ならいいんだが……

 

「ねぇゼクード。ここにレグがいないのも気掛かりですわ。エルガンディで何かをしてるのかもしれませんわよ」

 

 ローエに言われて頭が冷えた俺は頷く。

 

「……確かにそうだな。ごめん。取り乱した」

 

「良いんですわ。肉親が心配なのは当たり前ですもの」

 

 ローエのフォローに救われる思いを感じつつ、彼女たちの心境も考えるべきだったと俺は反省した。

 エルガンディで何かが起こっていた場合、俺たちの子供たちが心配になってくる。

 オラージュ・カレンティア・リィンベール。

 それにグリータやレミーベールたち。

 

 レグがシエルグリスを滅ぼしたと仮定して、次に狙うのはエルガンディ。

 

 ……嫌な汗が吹き出てきた。

 もしとっくにエルガンディが滅ぼされていたら、子供たちは……みんなは……

 

 俺と同じ不安を抱えているらしいローエ・カティア・フランベールも顔色が悪い。

 無事を祈るしかないが、相手が国一つを消滅させるほどのヤツでは希望さえ持ちにくい。

 それでもエルガンディに向かわねば。

 まだ死んだと決まったわけじゃない。

 しっかりしろ俺!

 

「……っ! ドレス! このままエルガンディに向かってくれ! ここから北東だ!」

 

『わかりました』

 

「最高速で頼む!」

 

『ではしっかり捕まっててください』

 

 翼を羽ばたかせ一気に加速していくドレス。 

 それに黙って追従するのはアグリス。

 彼女は険しい顔つきでゼクードの背を睨む。

 

『……逃げるなら今しかないわね』

 

 ぼそりと呟いたアグリスの言葉にゼクードが気づくことはなかった。 

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