【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
ドレスの背に乗って向かった先は故郷【エルガンディ王国】。
先の【シエルグリス王国】消滅があったから心配ではあったが、俺たちの故郷は無事だった。
消滅していない。健在だ。
街を守る城壁が確認でき、城門も開いてはいない。
良かったと安堵するが、それは一瞬で絶望に塗り替えられた。
【エルガンディ王国】の周囲にはA級ドラゴンが何百と群がっていたのだ。
晴れた空の下で奴らはのびのびとしている。
中には欠伸をしているドラゴン。
中にはメスとイチャイチャしているドラゴン。
中にはケンカしているオスのドラゴン二匹もいた。
「いつか見た光景だな」っとカティアが言った。
「ああ」と俺は短く返す。
ディアマード家に制圧されたシエルグリスもこんな状態になっていた。
やはりレグに支配されているようだ。
分かりやすくて判断し易いが、おかげでエルガンディからかなり離れた場所に着陸するハメになった。
今いるここはエルガンディから遠く離れた草原だが大きな岩と木がある。
それらに身を隠しながらエルガンディを見る。
視察には絶好の場所だった。
「シエルグリスのように消滅こそしてなかったけど、中がどうなってるか……」
フランベールが心配そうに言う。
するとローエが俺に口を開いてきた。
「どうしますのゼクード? 強行突破?」
「いや……確かにあれくらいなら突破は容易だけど数だけは多い。レグに気づかれたらまた誰かを人質にされて戦えなくなる可能性がある。まずは王国内部に侵入してどうなってるかを探ろうかと思う」
「そうだな。見たところ戦塵が立ってるわけでもないし黒煙も上がっていない。王国内部で戦闘が起きてるわけではなさそうだ。だがそれ故に不自然だな」
カティアの言葉に俺は同意して頷く。
「だから調べる必要がある。今のエルガンディの状況を」
アスレイ陛下が捕まっているのはおそらくだが確実だろう。
頭さえ抑えておけば俺たちは迂闊に攻められなくなるからだ。
しかし俺が最後に見たレグは完全に正気を失っていた。
あんな状態でまともに人質を取ったり王国を制圧したりできるのだろうか?
今のレグが人間のように計画的に動けるとは思えない。
それが唯一の隙となればいいが、念には念を入れよう。
「みんな。作戦を伝えるぞ。まずは何とかしてエルガンディ王国に侵入し情報を集める。レグには見つからないようにする。いいな?」
「それはいいんですけど、レグに見つからないようにどうやって侵入しますの?」
ローエの疑問にカティアも口を開く。
「それだ。あれだけのA級ドラゴンを躱しながら城壁を越えるのは無理があるぞ? アグリスらに乗って越えるのも見つかる危険性の方が高い」
「頭硬いなぁ。A級ドラゴンにも嗅ぎつけられない便利な侵入ルートがあるだろ?」
俺が自信満々に言うと、突如としてフランベールがキョロキョロしだした。
「あれ? アグリスとドレスは?」
「え?」
フランベールが他人相手に『さん』付けしないというレアなケースを見たが、そんなことより確かにアグリスとドレスの姿が見えなかった。
さっきまでそこに居た気がするんだが。
「あいつら! 逃げやがったか!」
俺は舌打ちした。
逃がすくらいなら殺しておけばよかった。
もうエルガンディに帰還できたし用済みだったから。
レグと合流する気か?
アグリスめ……妙に静かだと思ったら逃げる隙を窺ってたのか。
ただのアホだと思ってたが油断ならない奴だ。
まぁいい。
これならこっちも気兼ねなく剣を向けられる。
次会ったら絶対に殺してやる。
悪党に掛ける情けはないからな。
※
「……アグリスさん。良かったんですか? あの人たちと離れて」
後ろを歩くドレスに聞かれ、アグリスは草木を掻き分けながら返事をする。
「良いのよ。あのまま一緒にいたら用済みで殺されるだろうしね。アンタも私も……」
ゼクードたちが【エルガンディ王国】に気を取られてる間に側を離れる。
これに成功して今は近くの森に身を隠すことができた。
ゼクードたちはさすがにそろそろ気づく頃だろうが、ここまで来れば追ってきやしないはず。
できるだけ離れてから空に飛んでエルガンディへ向かおう。
アグリスがゼクード達の目の前で空に飛ばなかったのは、あの弓使いの女騎士フランベールを警戒してのことだった。
あのフランベールは以前とんでもない狙撃術を披露した。
動き回るセレンの背中で長距離狙撃をしてレグに当てていた。
あれが怖かったからこうして離れてから浮上することを考えたのだ。
フランベールの狙撃を躱しながらエルガンディへ迎えるとは思えなかったから。
「それに……早くレグに会いたいの」
「レグ様に? どうしてですか?」
「どうしてって……兄妹だからに決まってるでしょ?」
「きょうだい……?」
ドレスがキョトンとしながら首を傾げてきた。
さすがのアグリスもガクッと肩を落としてしまう。
まさか『兄妹』という単語を知らないとは。
前のドレスは戦闘狂だったけど、このドレスはただのアンポンタンね。
「アンタね……レグとちゃんと血が繋がってるのはアンタの方なんだからね?」
「え? そうなんですか?」
「そうよ。だって私とレグは腹違いの兄妹だもん。アンタとレグはお母さん同じよ?」
「へ〜……」
「……興味なさそうね?」
「はい。今のわたしはアグリスさんを守れればいいです。私の赤ちゃんを生んでくれる大切な母体ですからね」
「あっそ……」
ぜんぜん嬉しくない。
確かにドレスを受け入れて母体にはなってあげたが……
まぁ……どんな理由にせよ、ドレスが何も言わずにこうしてついてきてくれたのは嬉しかった。
独りぼっちになるよりぜんぜんマシだし。
「とりあえずレグに会いに行きましょう。暴走してるかどうか確かめないと」
本当に暴走していたらゼクードたちに任せておけばいいんだ。
そのためにわざわざドレスに乗せてここまで連れてきたんだ。
※
アグリスはドレスと共にドラゴン形態に変身してエルガンディへ飛んだ。
ゼクードたちに発見されないようわざわざエルガンディ王国の反対側まで移動したのだ。
これなら空を飛んでもゼクードたちからは遠すぎて見えないはず。
『ドレス。レグはエルガンディのどこにいると思う?』
『わかりません!』
『アンタに聞いた私がバカだったわ!』
そんなこんな言ってる間にエルガンディに接近してきた。
地上では
威嚇しているようだが、それにドレスが反応して威嚇し返した。
するとものの見事に縮こまるA級ドラゴンたちに、アグリスは思わず吹きそうになった。
だが間もなくエルガンディの城壁を過ぎた。
エルガンディ内部は静まり返っており、人影がまったくない。
こんなまだ日が昇っている時間帯にも関わらずにだ。
何があったんだろう?
目を凝らしてよく見ると、とある一軒家の窓から一般人の顔が見えた。
目が合ったかと思うとその一般人は慌ててカーテンを閉じてしまった。
どうやら人影がないというよりみんな建物に閉じ籠もっている様だった。
いったい何があったのかは知らないがこれは好都合だ。
アグリスはエルガンディの城へ向かってまっすぐに飛んだ。
ドレスもそれに続き、二人は城の正門前に降りた。
城の門前だと言うのに警護の騎士一人さえいない。
「……静かね。どうなってるの?」
「わかりません」
「アンタそればっかりね……」
頼りないドレスに呆れつつ、アグリスは城の正門を開けた。
大きな音を立てて空いた正門の奥は少し長めの廊下となっていた。
そこを踏破した先には広いホールがあり、そこに不似合いな長方形の牢屋がど真ん中に置かれていた。
「な、なにこれ……なんでこんなところに牢屋が?」
「わかりません」
ドレスを無視しつつアグリスは牢屋に近づいた。
辺りには誰もいない。
静まり返った城内の不気味さ。
それは牢屋の存在という不自然さによって、不気味さに拍車を掛ける。
恐る恐る近づくにつれ、その牢屋には二つの影があることに気づいた。
そしてやたら血なまぐさい。
!
こ、この匂いは!
アグリスは戦慄した。
身体が覚えているのだ。
いつか自分を斬り刻んだ男の匂いだ。
アグリスは震えながらも前に進み、牢屋の中身を見る。
そこにはあの父がゼクードに次いで警戒した二人――――
『カーティス・フォルス』と『ネオ・ラザ』が血だらけになって倒れていた。