【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「こ……こいつは」
アグリスは牢屋にさらに近づき、中で倒れるカーティスを見た。
やっぱりカーティスだ。
間違いない。
身体に感じた恐怖は勘違いじゃなかった。
前にオフィーリアと戦っていたときに乱入してきてズタズタにされたんだ。
こいつのあまりの強さに手も足も出なかった。
こんな化け物が今はこんなにも瀕死になっている。
いったい何があったのだろうか?
レグにやられたのだろうか?
……だとしたら、ザマァみろ。
言葉にはしないが胸の奥に湧いた。
嘲笑ってやりたい気分にもなったが、その前に当のカーティスがギロッと目を開けてアグリスを睨んできた。
「ひっ!」
凄まじい殺気をぶつけられたアグリスは思わず怯んだ。
その殺気に反応してドレスがササッとアグリスを守るように前に出る。
なんて殺気なの……
死にかけの人間が出す殺気じゃないわ。
さすがあのゼクードの養子なだけあるわね。
ん?
でもこの匂いはゼクードの匂いだ。
あとあの赤い女騎士……カティアの匂いも混じってる。
どうなってるの?
この匂いの感じは本当に親子の匂いだ。
養子じゃないの?
本当にゼクードの息子なのコイツ?
「お前は……ディアマード家の!」
重傷のカーティスが言った。
身体を起こそうとしているがダメージが大きくてそれも叶わない様子だった。
「ふ、ふん……ザマァないわね。その傷、レグにでもやられたのかしら?」
「……」
カーティスからの反論はない。
どうやら図星のようだ。
やっぱりレグにやられたんだ。
ならレグはここエルガンディに必ずいる。
「ディアマード家の生き残りか……」
今度はネオが喋ってきた。
こいつもかなりの重傷だが、よく喋れるものだ。
「だったら何? 勝負でもする? ブレスで丸焼けにしてあげてもいいけど?」
「ああ……そうしてくれた方が助かるな」
「な……なんですって?」
ネオの言葉にアグリスは怪訝な顔をした。
こいつ、虚勢を張っているだけだろう。
しかし隣のカーティスもまるで異論はないようだった。
なんなのコイツら?
ブレスで焼かれた方が助かるって、どういうこと?
「おい」
「!?」
いきなり背後から聞こえた声にアグリスはビクついて振り向いた。
ドレスも気づいてなかったらしく慌てて乱入者からアグリスを守ろうとするが。
「あ……」
アグリスはその乱入者の姿を見て眼にジワリと涙を浮かべた。
ドレスと同じ金髪で、父と同じ紅い瞳の男。
ずっと会いたいと願っていた兄のレグ・ディアマードがそこに立っていた。
「レ……レグ……ぁあレグ! 会いたかった!」
歓喜のあまりに飛びついて抱きつこうとした。
しかしレグはそんなアグリスを躱した。
「きゃんっ!」
抱きつきを回避されると思ってなかったアグリスはそのまま床に派手に転んだ。
ドレスが慌てて駆け寄る。
当のレグは顔を険しくしてアグリスを睨む。
「馴れ馴れしい奴だ。おいドレス。ソイツはなんだ?」
……え?
馴れ馴れしい?
ソイツはなんだって……え?
「はい。【竜ノ苗床】となったアグリスさんです」
「……っ! ほう! そうか! それは失礼した!」
……なん、なんで?
レグが……私のこと……忘れてる?
嘘でしょ?
「でかしたぞドレス。セレンではないが、まぁいいだろう。それと、アグリス……だったな? この匂い……うむ、確かに竜の心臓を持っているな」
「ぇ……ぁ……はい……」
「素晴らしい。ならばドラゴンの出産にも耐えうる。よき母体として永遠にオレの餌を産み続けるがいい」
……え?
餌!?
餌って、どういうこと?
私が産んだ子供を食べるってこと?
そんなまさか……
「ドレス。お前はその命尽き果てるまで母体を死守しろ」
「はい」
ドレスはペコリと頭を下げて答えた。
アグリスは頭が混乱し、何がどうなっているのか訳が分からなくなっていた。
レグが自分のことを忘れている。
これはゼクードが言っていた竜の心臓の暴走によるものなのだろうか?
『あの狂いっぷりを見る限りそうだろうな。なんにせよ……あれはもうお前の知ってるレグじゃない』
不意にゼクードの言葉を思い出し、身の毛もよだつ不安が一気に押し寄せてきた。
さっきまでなかった孤独感が胸の奥から湧いてくる。
「アグリス。長旅で疲れているだろう。好きな部屋を使うといい。ここはもう我々の国だからな」
一方的に言い放ったレグはカーティスとネオがいる牢屋へと歩を進めた。
倒れたままのカーティスとネオはまたも殺気の籠もった眼をレグに向ける。
しかしレグはまったく動じない。
「くく、よぉ……カーティス。ネオ。どうだ? お前たちのために作らせたオリハルコン製の牢の寝心地は?」
「……」
「……」
カーティスとネオは答えない。
睨むだけである。
そんな二人にレグは嘲笑った。
「弱いってのは罪だなぁ? 二対一にしてやったのに負けたもんなぁ? 平民共の目の前でこのオレに」
「……っ!」
「……!」
ギリッと歯を食いしばるカーティスとネオ。
……本当にレグがこの二人をボコボコにしたんだ。
あの時は互角に見えたのに、今はそんなにも圧倒的なの?
でも、なんで?
「喜べカーティス。ネオ。お前らは予定通り明日……平民共の目の前で処刑する!」
「殺すならここで殺せ!」
ネオが噛みつく。
「ダメだな。平民共をオレに服従させるにはお前らのような希望となる人間を処刑するのが手っ取り早い。お前らは見せしめなんだよ。オレの建国の第一歩としてな」
「この外道が……!」
カーティスが吐き捨てるがレグは嗤った。
「オレに負けたお前らが悪いのさ。敗北ってのはそういうものだ。明日はまずカーティス。お前から殺してやるよ。オレの心臓がお前を殺したくてしょうがないらしい」
「なんだと……?」
「お前の匂いが気に食わないんだとよ。この心臓は以前ゼクードと同じような黒い鎧を着た男に狩られたらしくてな。その男の匂いとお前の匂いが似ていて腹が立つそうだ」
「……!」
カーティスは何か思い当たる節があるらしく顔を険しくした。
「ふ……まぁ明日を楽しみにしていろ。ただでさえお前たちの敗北で平民共の心は擦り減っている。そこへお前たちの処刑が重なれば平民共の心は完全に折られる」
くくく、とレグは嗤いながらカーティスとネオを見やった。
「あのとき勝ってればこうはならなかったのになぁ? お前らのあの本気の踏み込み。大したものだったぜ? あまりにも凄い速さでびっくりしたよ。はーはっはっはっは!」
「く……」
「……」
高笑いするレグが、歯を食いしばるカーティスとネオに最後の一言を残した。それは……
「あまりにも速すぎて……止まって見えたけどな」
★
俺はローエたちと共に草原で夜になるのを待っていた。
レグに見つからずに【エルガンディ王国】へ侵入するにはまず夜になるのを待つ他なかった。
【エルガンディ王国】を取り囲むように、城壁の外には見張りのA級ドラゴンが何百と彷徨いている。
「だから正門からの侵入はまず不可能だ」
太陽光を遮る岩陰で集まりながら俺はローエたちにそう言うとカティアが口を開いてきた。
「ゼクード。私が囮になって奴らを引き寄せようか? 最悪レグに見つかっても全員が見つかる事態は塞げる」
「ダメだ。それは俺も考えたけど、その作戦だと必ず誰かが死ぬ。俺でも人質を前に出されたら終わりだからな」
「ではどうするんだ? 正門以外での侵入路なんてないだろ?」
「あるよ。任せとけって」
※
そして夜になり、俺たちは【エルガンディ王国】の状況を探るため、内部への侵入を開始した。
侵入路となるスタート地点は【エルガンディ王国】から離れた森の中。
そこに流れる川を使うのだ。
「なるほど。川か」
カティアが感心したように言う。
「そ! この川はちょうどエルガンディの中を通る。川の中なら匂いも嗅ぎ取られないからな」
「さっすがですわゼクード!」
「ホント! よく思いつくよね。頼りになるなぁ」
ローエとフランベールの言葉に気を良くしつつ俺は先に川へ足を浸けていく。
「へへ、任せとけって。俺が先行するからしっかり付いてこいよ」
「了解だ」
「了解ですわ」
「了解よ」
なんだか懐かしい彼女たちの『了解』を聞き、俺は川へ浸かった。
冷たい水があっという間に鎧の隅々にまで浸水し、体温を奪っていく。
同時に重たくなる身体を感じた。
しかし足は付く深さだ。
俺は流れに従いゆっくり前進していく。
ローエ・カティア・フランベールも続いて川へ入り俺についてくる。
みんな水面ギリギリで顔を出している。
俺ほど余裕がない。
「みんな大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですわ。思ったよりギリギリですけど……」
そういえばみんな俺より年上だけど、俺より身長低いんだったな。
みんな爪先立ちでやっと川から顔を出してる感じだ。
「……! みんな、息を吸え。潜るぞ」
A級ドラゴンの気配を察知した俺はそう指示を出した。
彼女たちはすぐに反応し、スッと息を吸って水中へ潜る。
俺もすぐに潜り、平泳ぎで一気に進んだ。
重たい鎧と武器のせいで泳ぎにくいったらありゃしなかったが、そこは持ち前の筋肉で誤魔化した。
ローエたちも女ながらに高い身体能力の持ち主。
重たい装備をしながらも泳ぎの速度は低下しない。
泳ぎで一気に進み、城壁の下を潜り抜けた。
俺はゆっくりと水面から目を出し、周囲を確認する。
誰もいないな。よし!
俺は近くの岸に手を付き、重たい身体を水中から引き上げる。そしてすぐさま後続のローエたちを待った。
先に来たローエの手を掴み、岸に引き上げる。
続けざまにカティアとフランベールも引き上げた。
みんなびしょ濡れだが、侵入には成功した。
ここは前にオフィーリアちゃんが隠れて泣いていた石橋の下だ。
懐かしいが、懐かしんでる場合でもない。
ここは【南の領地】。
【エルガンディ王国】の街中は静まり返っている。
ホーホーとフクロウの鳴き声と、キーキーという虫の鳴き声しか聞こえてこない。
月明かりしか頼れないほどの夜ならば仕方ないか。
慎重に石橋から顔を出して周辺を確認する。
どの家も光はついていない。
人影も一切ない。
A級ドラゴンも徘徊してない。
レグが彷徨いてる気配もない。
奴は城か?
「ゼクードくん。まずはリリーベールさんの家に向かってほしい」
突然フランベールが言ってきた。
理由はすぐに察したが俺は首を振る。
「気持ちは分かるけどダメだ。まずはグリータの家に向かう。いまここがどんな状況なのか知りたい」
「ゼクード! オラージュ達が心配じゃありませんの!?」
「心配だよ。けどここでミスしたらどうなるか分からないんだろ。まずは状況の把握が最優先だろ。グリータが無事かも分からないんだ」
「それならオラージュ達にも同じことが言えますわよ! 無事かも分からないんですのよ!?」
「そうだよゼクードくん! せめて先にリィンベールたちの安否を確認させてよ!」
フランベールまで……
リィンベール達はリリーベールさんに預けてある。
つまりガイスさんの【北の領地】へ向かわねばならない。
あまりにも遠すぎる。
そんな悠長な事をしていてレグに見つかったら終わりだ。
何も分からないから早急に情報がほしいのに。
「いや、二人の気持ちは分かるんだけど……」
「おいローエ。フラン。こんな時にワガママを言うな」
助け舟を出してくれたのはまさかのカティアだった。
「リリーベールさんの家は【北の領地】にある。ここからは真逆になる。遠すぎるんだ。そんな距離をウロついてレグに見つかったらどうなる?」
「そ、それはそうですけど……」
「カティアさんはカレンティアが心配じゃないの?」
なかなか引き下がらないローエとフランベール。
しかしカティアも引き下がらなかった。
「心配に決まってるだろ。だからこそレグに見つかるわけにはいかんのだ。見つかって子供たちを人質に取られたらどうなる? シエルグリスでも平気でそれをやった連中だぞ?」
「……っ!」
「そもそもとっくに人質として捕まってる可能性もあるんだ。グリータ団長も。子供たちも。ならば近い方から当たっていくのが正しいだろ」
「……そう、ですわね」
「……うん」
さすがのローエとフランベールもそこまで言われて冷静になったらしく引き下がった。
危うく喧嘩になりそうだったから助かった。
俺はカティアに小声で礼を言う。
「助かったよカティア。ありがとう」
「ああ、任せておけ」