【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
【エルガンディ王国】の街中は信じられないくらいの静けさだった。
人間の気配がまったくないのだ。
建物の窓は全て閉められており、覗こうにも鍵が閉められている。扉もだ。
「静か過ぎるな……」
思わず俺はそう口にした。
後ろのカティアたちも同意だったらしく、静かに頷く気配を見せた。
「みんなもしかしてエルガンディから脱出したのかな?」
フランベールの言葉にローエが「まさか。外にあれだけのA級ドラゴンが囲んでますのよ? さすがに何百人も見つからずに脱出は難しいはずですわ」と返す。
するとカティアも口を開いてきた。
「我々と同じく川から脱出した可能性もあるが……さすがに時間が掛かり過ぎるか」
各々が考察している間にグリータの館に着いた。
相変わらず大きい家だ。さすが領主。
そう思いつつ俺はグリータ家の扉をノックした。
コンコン……
返事はない。
ドアノブをガチャガチャ回すが、やはり鍵が閉められていた。
「ローエ。頼む」
「了解ですわ」
ドアノブを握ったローエは一息に力を込め、
バキャッ!
っと瞬時にドアノブを破壊した。
さすがの握力である。
そしてローエはそのまま扉を開けた。
中は真っ暗だったが、ギラリと光る黒い巨砲が見えた。
大砲!?
「くらえ!」っと誰かの声が響き大砲が火を吹いた!
「んなっ!?」
寸でのところで砲弾を躱したローエ!
流れ弾と化した砲弾は向かいの建物に直撃して大爆発する!
「え!? あなたは!?」
「え!? あなた、え、なんで!?」
大砲を撃った当事者が避けて倒れたローエを見て驚愕した。
危うく死ぬところだったローエも撃った当事者を見て驚愕した。
「ローエ! 無事か!」
嫁が大砲で撃たれそうになった俺は冷や汗を流しながらローエに駆け寄った。
後ろのカティアとフランベールは武器を展開して大砲を撃った当事者を狙う。しかし!
「な、あなたは!?」
「あなたは……リベカさん!?」
カティアとフランベールが驚愕した。
こんな室内で大砲を撃ってきたのはまさかのリベカ・リベールだった。
シエルグリスの大臣がなぜグリータの館の入口で待ち伏せなどを?
「リベカさん!? なんでグリータの家に!?」
倒れたローエを起こしながら俺は聞いた。
「も、申し訳ありません! てっきりレグが来たのかと……」
待ち伏せを謝罪するリベカの後ろからグリータとガイスまで姿を現した。
「おおゼクード! みんな無事だったのか!」
「グリータ! それにガイスさんも!」
「ゼクードくん! 無事で良かった! 帰還してたんだな!」
まさかグリータの館にグリータ本人だけでなくガイスさんやリベカさんまでいるとは。
しかも待ち伏せによる待機砲撃までしているとは。
「ええなんとか。みなさんも無事で良かった」
俺がそう言うと隣でローエが「いきなり撃つなんて酷いですわ! せめて味方か確認してから撃ってくださいまし!」と怒る。
「ほ、本当にすみません! 気が張り詰めていて……」
「本当にすみませんローエさん。どうか許してください」
リベカとグリータがひたすら謝って誤射を謝罪する。
「すまない。この待ち伏せ作戦を考えたのは私なんだローエさん。罰なら私に……」
ガイスにも言われ、ローエはフゥと一呼吸した。
危うく死にかけたが、グロリアたちを育ててくれたガイスやグリータにこうまで頭を下げられれば許すほかなかった。
彼らも並々ならぬ状況に置かれてこうしていたのだろうし。
「いえ、もういいですわ。それよりオラージュたちは…………今の状況を聞かせてくださる?」
「オラージュたちなら心配はない。みんなリリーベールと共に【ヨコアナ】へ避難しているよ」
ローエの問いに答えたのはガイスだった。
「良かった……」っとローエが安堵して胸を撫で下ろした。
カティアとフランベールの表情も見てわかるほどに強張りがなくなっていた。
我が子の安否を知れたのはとても大きい。
できるだけ平静を保とうとしていた俺もやっと肩の力が少しだけ抜けた。
「今のエルガンディは空っぽだ。残っているのは我々だけだよ」
ガイスの言葉に俺は驚いた。
街中で人の気配がまったくなかったのはそういうことか。
「これだけ包囲されているのによくヨコアナへ避難できましたね」
俺が言うとグリータが頷く。
「ついさっき避難させたんだ。オレたち領主の家には必ずヨコアナへ通ずる地下道が設置されている。もしものための避難経路だ。過去にこうして包囲され、モタモタしているうちに何万の命が散ったからな」
あの【人類敗北の日】のことか。
二年前……いやもう二十年前のことか。
あの日の教訓を活かして地下道を作っておくとは考えたな。
「じゃあここからヨコアナへ直行できるということか」
「そうだ。すぐに行きたいだろうが少しだけ待ってくれ。今のこのエルガンディが置かれている状況を説明したい」
「頼むよ」
すると俺たちの前にリベカさんが来て口を開いてきた。
「みなさん……シエルグリスはご覧になりましたか?」
……あれか。
跡形もなく消滅していたが。
「ええ……ここに来る前に先に寄りましたから」
「そうですか」
暗くなるリベカさんに俺は問う。
「リベカさん。あれは何があったんですか?」
「あなた方が巨大なブラックホールに吸い込まれた後レグ・ディアマードがやったんです。彼は巨大なドラゴンに変身して、巨大なブレスを撃ち放ちました」
「まさか……そのブレス一発で!?」
リベカさんが頷く。
「【ブラックノヴァ】。彼はそのブレスをそう呼んでいました。あれ一発で、シエルグリスは……跡形もなく吹き飛びました」
「【ブラックノヴァ】……一発って……セレンの比じゃないじゃないか」
「ゼクードさん……レグ・ディアマードがシエルグリスを吹き飛ばしたのは我々への見せしめだったようなんです。自分の力を証明し、歯向かう気を起こさせないために」
まるで砂を噛むようにリベカさんは語り続ける。
「シエルグリスを失った我々はそのままレグ・ディアマードに捕まりました。逃げれば皆殺しにすると脅され、エルガンディまでの同行を余儀なくされました」
そういうことだったのか。
それでシエルグリスの大臣たるリベカさんがここにいるのか。
でも待てよ?
「……あの、姉さんは?」
聞くとリベカさんの顔が少し曇った。
「レイゼ女王はご無事です。しかし今現在レグに捕まっています」
「なんだって!?」
驚く俺たちにグリータが前に出て来る。
「女王だけじゃないんだゼクード。落ち着いて聞いてほしい。実はアスレイ陛下・レミーベール王妃・ロジェール王女・オフィーリア。そして……カーティスとネオも捕まっている」
「カ、カーティスとネオまで!? あいつら帰還してたのか!?」
「幸いなことにエルガンディに落ちてきたよ」
「あの二人が居てなんでこんなことに……」
「……レグがやってきて戦いになった。もちろん迎え撃ったのはその二人さ。しかし結果は惨敗。傷ひとつ付けられずに終わったよ」
嘘だろ!?
あの二人が束になって傷ひとつ付けられないだと!?
「ぉ、おい冗談じゃないぞ! カーティスとネオだぞ!? あいつら俺と同じくらい強くて……!」
「……我々はそれを間近で見せつけられました」
リベカさんの言葉が真実を物語っていた。
嘘を言っている様子はない。
「エルガンディ最強の騎士と、シエルグリス最強の騎士が成す術なく蹂躙される様。その光景はみんなの希望を奪い、心を折るには十分でした」
リベカさんが言って、グリータが俺を見ながら頷く。
「だけどゼクード。お前が帰還してくれて良かった。お前がいればみんな希望を取り戻すに違いない」
勘弁してくれグリータ……
いくら俺でもカーティスとネオが二人掛かりで勝てなかった相手じゃ……
いや、やめておこう。
俺が弱音を吐いたらみんなの士気に関わる。
なんとかするしかない。
「……。グリータ。カーティスとネオは無事なのか?」
「いや無事じゃない。重傷中の重傷だ。まともに動けないだろう」
「なら早急に助けよう。レミーとオフィーリアだってお腹に赤ちゃんがいるんだ。何か作戦は?」
「すまんゼクード……。正直に言うと、無い」
「……」
「レグが強すぎるんだ。カーティスとネオが束になっても勝てない相手じゃ、オレたちにはどうにも……」
ま、そうだろうな。
今回ばかりは相手が悪すぎる。
王国を一発で消し飛ばす【ブラックノヴァ】。
カーティスとネオを圧倒する戦闘力。
こんな化け物、グリータたちにどうにもできないのは当然だ。
「いや、一般人をヨコアナへ避難させたのはとんでもなく大きな戦果だよグリータ。守る対象は少ない方が戦いやすいからな」
「ゼクード……」
「よし! ならまずは捕まってるレミーたちを優先しよう。レグとの交戦はぜったいに回避だ。カーティスとネオが二人掛かりで勝てないなら俺にも勝機はない。まずはみんなを助けてヨコアナへ身を隠そう。レグを倒すのはその後で考える」
俺が言うとグリータが驚きながら口を開く。
「……やっぱりお前でもレグには勝てないのか?」
「無理だな。俺でもカーティスとネオを同時に相手したら負けるよ。でもレグは勝ってしまったんだろ? ならもう俺より強いよレグは」
「く……」
レグが相当の手練れであることは知っていた。
しかしカーティスとネオを圧倒するほどではなかったはず。
この短期間でどうやってそんなにパワーアップしたのだろう?
思いつく限りでは捕食されたヴァルドレイク。
あの時レグはこう言っていた。
『オレのカテにナッテください! チチウエぇえええええ!』
オレの糧になってください。
そう叫びながらヴァルドレイクを捕食していた。
あれが急激なパワーアップの原因ならば説明はつく。
奴は捕食を繰り返すとパワーアップする能力を持っているのかもしれない。
だとすると【エルガンディ王国】の周囲に展開されていたA級ドラゴンどもは見張りではなく餌?
腹が空いたら奴らを食べてパワーアップしていくのだろうか?
もし本当にそうなら時間が経てば経つほどレグはパワーアップしていく。
そうなるといよいよ人間の勝てる相手じゃなくなる。
まいったな……
カーティスたちを助け出してヨコアナへ逃げ、鍛錬してこちらもパワーアップを図るべきかと思ったが、そんな悠長なことはしてられないかもしれない。
「ゼクードくん。レグにはカーティスとネオの斬撃がまるで効いていなかったんだ」
ガイスか情報をくれた。
カーティスとネオの斬撃が効かない……か。
【真・竜斬り】が効かないとなるとやはり【
幸い【エルガンディ王国】が戦場になるなら長剣のスペアは山程ある。
わざわざこの傾国の長剣である【ブレイブエルガンディ】を使わなくても大丈夫だな。
「レグは圧倒的な竜鱗を纏っている。速さも尋常じゃなかった。我々ならともかく……あのカーティスくんとネオくんでさえ反応できずにやられていた」
またもガイスの情報に俺は驚愕した。
速さもあるのかよ。
【真・竜斬り】を無効化する竜鱗と、王国を一発で消し飛ばす【ブラックノヴァ】の攻撃力。
そしてSSS級騎士の反応を上回るスピード。
なんだよこれ……
反則じゃないか……
こんなのどうやって勝てばいいんだよ。
レグが理性を失っていることにも賭けたが、どうにも正気はあるみたいだし、隙がない。
「正真正銘の化け物ですね。どうやって勝とうか……」
どうやって?
どうやって勝つんだこれ?
まったく思いつかない。
下手にレグを刺激すれば【ブラックノヴァ】を撃たれて終わりだ。
強すぎる。
今までのドラゴンはなんだったんだ? となるレベルだ。
あのナイトですら可愛く見えてくる。
「ねぇゼクード。こんなに強い相手ならまたヨコアナへ逃げてみんなで鍛錬して強くなるしかないんじゃありませんの?」
「それは無理だよローエ。俺も考えたけど……レグは今が一番弱いかもしれないんだ」
俺の言葉に虚を突かれ、みんなの視線が集まる。
「どういうことですか?」っとリベカ。
「俺はレグと戦ったことがあります。ほんの一瞬ですが、それでもここまで圧倒的ではありませんでした。奴はきっとパワーアップしたんです。自分の父ヴァルドレイクを捕食して」
「なんだって!? 自分の父親を食ったのか!?」
グリータが驚き俺は頷く。
「ああ。俺がブラックホールに飲まれる瞬間、奴はヴァルドレイクを食っていた。オレの糧になれと叫びながらな」
「糧……まさか奴は捕食して強くなるとでも言うのか!?」
問うカティアに俺はまた頷く。
「そうでないとカーティスとネオの敗北に説明がつかない」
「だからか。レグは今が一番弱いかもしれないってのは」
「そうだよグリータ。だからモタモタしていたら人間の敵う相手ですら無くなる」
「けど……実際どうするんだ? カーティスもネオも倒れて、頼みのお前でさえ勝てないなら、どうすれば……」
「落ち着けよグリータ。今はとにかく目先の仲間を助けるんだ。囚われてる人間の名前をもう一度教えてくれ」
「……アスレイ陛下。レミーベール王妃。レイゼ女王。ロジェール王女。オフィーリア。カーティス。ネオの計七人だ」
「ありがとう。でもなんでオフィーリアちゃんまで捕まってるんだ? あの子は王族でもないし、カーティスみたいなSSS級騎士でもないぞ?」
「あぁ……オフィーリアが一緒に捕まったのはゼクード……お前の孫を身籠っているからなんだ」
「なんだと!?」
「カーティスがやられた時、オフィーリアが庇うようにレグの前に飛び出したんだ。その時に匂いで気づかれたらしい」
「匂いでそんなことまで分かるのか。けどなんで俺の匂いにそんな……」
「心臓が疼くって言ってたぞ」
「心臓?」
「ああ。そう言ってた。なにか心当たりはあるか?」
「……アイツの心臓ってドラゴンだろ? 有り過ぎて分からないな」
「だろうな」