【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第434話【あああああああああああああー!】

【エルガンディ王国】の主城。

 その二階には王の寝室がある。

 アグリスはそこで身を休めていた。

 

 ランプの光が月光と重なる。

 天蓋付きのベッドで腰を下ろしたアグリスは溜息を吐いた。

 

 レグが自分の事を忘れていたことが何よりショックだった。

 カーティスやネオの事は覚えているみたいだったのに。

 家族である自分の事は……まるで初見であるかのような反応だった。

 

 正直に言うとレグの事は好きだったから、忘れられたのはかなり堪えた。

 さらにドレス以外の家族……オルテンシア・レジーナ・メルセーヌの姿もない。

 そしてやはりヴァルドレイクの姿もなかった。

 ゼクードの言った通り、本当にレグが食べてしまったらしい。

 

 ……父を失い、最愛の兄には忘れられ、姉妹たちも帰ってこない。

 結局、自分は一人ぼっちだった。

 この大陸に帰ってきたのに、待っていたのはさらなる孤独だった。

 

 これがドラゴンの心臓に手を出した者の末路というのか。

 結局何も手に入ってないじゃないか。

 確かに力は手に入った。

 

 でもその代償でみんなおかしくなった。

 レグも、ドレスも、そして……私も?

 

 私はまだ……おかしくなってない。

 自分を持ってる。

 でも……何も持っていない。

 何も、残ってない。

 

 いま目の前にいるドレスも、そう遠くない未来で死ぬ。

 じゃあ残される私は?

 

 アグリスはそっと自分のお腹を撫でた。

 少し前にドレスに抱かれ、植え付けられた種の存在を感じる。

 

 ドレスに植え付けられたのは【竜子(りゅうし)】というものらしい。

 それを植え付けられた者は【竜ノ苗床】と呼ぶらしい。

 

 ドレスいわく【竜子】とは永遠に死なず、永遠に私の中で泳ぎ続ける精子とのこと。

 

 女性は妊娠し出産すると、当然また新しい卵子が作られる。

 その都度、男性と性行為をして種を貰い、卵子と出会わせる必要がある。

 

 だがこの【竜子】というものは永遠に子宮内を泳いでいる。

 性行為は最初の一回だけでいい。

 そして、つまり……ドレスとまぐわった私は永遠に妊娠する身体になった。

 

 もう受精しているのだろうか?

 絶対に妊娠するというドレスの種だ。

 もうとっくに私の卵子と融合しているかもしれない。

 

 皮肉なものだ。

 自分に残されたものがドレスとの子供だとは。

 傍から見れば女と女なのに、その間に子供が生まれようとしている。

 

 これも……人外の力に手を染めた者の末路か。

 

 はは……なんだ……私も、とっくにおかしくなってた。

 

 自分のお腹にドレスの子を宿そうとしている。

 女同士で、しかも姉妹の赤ちゃんだ。

 ドラグーンとドラグーンの子供。

 自然の摂理から外れた行い。

 

 あげく生まれた子供はレグが食べるようなことも言っていた。

 どうしてそんなことをするのかも説明されてない。

 

 あぁ……ディアマード家はもうメチャクチャだ。

 なにをどうすればいいのかも分からなくなってきた。

 

 帰りたい。

 何もかも無責任でいられたあの頃に戻りたい。

 作り笑いで私の機嫌を取ってくる平民たちも、今思えば懐かしい。

 

 無能で一人では何もできない自分。

 そんなことで悩んでいた過去に還りたい。

 人間だったあの頃に帰りたい……

 

 叶わぬ恋だと知りながらもレグに思いを寄せていた過去の自分。

 優しい父や母たちに囲まれていた自分。

 帰れるものなら帰りたい。

 ぼんやりとした優しさに包まれていたあの頃に。

 

 頬を伝う雫が衣服に落ちた。

 それを見たドレスが目を丸くする。

 

「アグリスさん? どうしたんですか?」

 

 心配そうに顔を覗き込んで来る。

 今のドレスも過去のドレスの人格ではない。

 レグの血で蘇生し形成された繁殖用の人格だ。

 

 元のドレスとは特に仲が良かったわけでもないし、悪かったわけでもない。

 普通だった。

 たまに会えば喋る程度の仲だった。

 姉妹だからそんなものだろう。

 

 元のドレスは暴力的で平民をいたぶるのが趣味だった。

 父ヴァルドレイクの真似をして平民の指をよく折っていた。

 でも今のドレスは完全に別人だ。

 

 どこか中身のない抜け殻のような人格になっている。

 私に竜子を植え付けてからは守るような立ち回りをするようになった。

 まるで本能のままに行動している。

 人間味がない。

 ……それでも今の私には、たった一人の理解者なのかもしれないけど。

 

「ん……大丈夫。目にゴミが入っただけよ」

 

「そうですか」

 

 ドレスは寄せていた身を引いて元の位置に戻った。

 また目の前で直立不動になる。

 レグに命令されたとは言え、こんな至近距離で守られては落ち着かない。

 が、一人になりたい気分でもない。

 

「……そう言えばドレス。レグはどこに行ったの?」

 

「なにやら外へ。爆発音が聞こえたのでその確認に向かいました」

 

「爆発音?」

 

「大砲の音らしいです」

 

「そう……」

 

 そう言えば南の方角からわずかに爆発音が聞こえた。

 ゼクードたちが侵入して何かをやらかしたのだろうか?

 もしかしたらこの城へやってくるのだろうか?

 

 もしこの城へやって来て、出会ってしまったら、どうしようか。

 レグに会いたい一心で勝手に離れて逃げて来たから、きっと怒ってるだろうな……

 でもあのまま一緒に居ても殺されていた可能性はある。

 この大陸に着いた時点で、ゼクードにとって私とドレスは用済みなのだから、生かしておく理由がない。

 

 逃げて正解だったと思いたい。

 

 けど逃げた結果がこれでは……

 

「……ねぇドレス。ゼクードは……やっぱり怒ってるかな?」

 

「え?」

 

「勝手に離れて、逃げたでしょう? 私たち……」

 

「あぁ……そうですね。きっと怒ってると思います」

 

 できれば怒ってないと言ってほしかったが、そんな淡い期待にドレスは答えてくれなかった。

 仕方ないと思いつつ、ゼクードの元に帰りたくなっている自分がいた。

 

 レグはもう私のことを覚えていない。

 レグは私の子供を食うことしか考えていない。

 私は永遠に子供を産み続けて、永遠にレグにその子供を食われ続けるの?

 

 いつかドレスもいなくなって、その子供さえ失い続けるのなら……

 

 ……

 

 …………

 

 ……………………

 

 腹は決まった。

 どっちがマシかと言われればこっちしかない。

 

「アグリスさん? どこに行くんですか?」

 

 寝室を出て廊下を歩くアグリスは、追ってきたドレスの質問に答える。

 

「ゼクードのところに帰るわ。アンタも来るのよ」

 

「え!? 無理ですよ! 怒られますって!」

 

 怒られるだけで済めば安いもんだが……

 

「わかってるわよ。今回はちゃんと考えてるから」

 

「いったいなにを?」

 

「人質を助け出してゼクードに返すのよ。そうやって恩を売れば、少なくともすぐに殺されることはないはずよ」

 

「ええ!? それってレグ様を裏切るってことですか!?」

 

「私の知ってるレグじゃないからもういいの! 自分の子供を餌にされるくらいならゼクードに付いたほうが絶対にいいわ」

 

「で、でも……」

 

「アンタは納得してるの!? 自分の子供が食われるのよ!? 何回も何回も!」

 

「そ、そう言われても、それが私の役目ですから……」

 

「私は嫌よ! アンタとの大切な子供なんだから!」

 

「!」

 

「ほらいくわよ! レグが居ない今がチャンスなんだから!」

 

「は、はい……」

 

 ドレスの手を引っ張り無理矢理に同行させる。

 戸惑いながらもドレスはアグリスについて来てくれた。

 それに救われるような思いを感じつつ部屋を回った。

 

 カーティスとネオは一階のホールに捕まっている。

 まずは彼らを助けるために鍵を探そう。

 最悪なのはレグが鍵を持ってるパターンだ。

 

 そうなったら打つ手はない。

 次の機会を伺うしかないないだろう。

 だが今はまだ分からないからレグが帰ってくる前に鍵を探してみよう。

 

 間に合わなければ次の日にまたチャンスを伺おう。 

 だがそうなるとカーティスとネオが処刑されてしまう。

 急がねば!

 そう思い至って城のあちこちを探した。

 しかしその廊下の途中にある扉から声が聞こえてきた。

 

「ちょっと! 誰かいませんか! ここから出してくださーい!」

 

 ん?

 この声……どこかで聞いたような。

 そう思い、アグリスは耳を澄ませた。

 

「カーティスさんの手当てはしたんですか!? ねぇ! だれか聞いてますかー!? ちょっとおおおお!」

 

「オフィーリア。あんまり叫ぶとお腹の子に響くわよ」

 

 オフィーリア?

 あれ? 

 どこかで聞いたような……

 

「でもレミーさん! カーティスさんとネオさん凄い重傷なんですよ!? あのレグが二人を手当てするとは思えません!」

 

「カーティスとネオは王国最強の騎士よ。そんな簡単には死なないわ」

 

「でも……」

 

「それよりワタシたちはお腹の子のことを心配しないとダメよオフィーリア。夫の身に不幸が起きたら、それこそ子供を守れるのは自分しかいないのよ? しっかりしないと」

 

「レミーさん……そこまで覚悟して……」

 

 オフィーリアとレミーという女が捕まってるみたいだ。

 まだ調べてない部屋だから入ってみよう。

 ガチャと扉を開くと、いつか戦った糸目の女騎士が牢に閉じ込めれていた。

 

「あ」

「あ」

 

 アグリスとオフィーリアの目が合う。

 

「え!?」っとレミーベールはドレスを見て驚く。

 

 そして次の瞬間アグリスとオフィーリアは指を差し合った。

 

「「あああああああああああああー!」」

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