【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「アンタはあの時の!」
「あなたはあの時の!」
アグリスとオフィーリア。
お互いに指を差し合い、そしてオフィーリアが先に続けた。
「弱っちい女騎士!」
「よわ!? 弱っちいのはアンタでしょう! 私に傷ひとつ付けられなかったくせに!」
「あれだけボコスカ食らっててよく言いますね!」
「はぁ!? たった二回でしょう! 私に攻撃が効かなくて焦ってたくせに!」
「普通の人間だったらわたしの余裕勝ちだったってことですよ? 二回も【竜斬り】食らってたら普通死んでますからねとっくに」
「あれは食らったんじゃなくて受けたの! 避けようと思えば避けれたわよ!」
「『あっぶな!』とか言ってたくせに何言ってるんですか! 都合のいいことばっかり言ってんじゃありませんよこのアンポンタン!」
「誰がアンポンタンよ! ドレスでしょアンポンタンは!」
「えぇ……」といきなり巻き込まれたドレスが困惑する。
「何しに来たの? あなた」
やたら冷静なレミーベールに問われ、アグリスは腕を組んで胸を張った。
「ふん……助けてあげようと思って来たのよ」
「はぁ?」っとオフィーリア。
「どういうこと?」っとレミーベール。
牢の中の二人は怪訝な顔でアグリスを見た。
当然の反応と言えば当然だが、アグリスは返事に困っていた。
助けることに嘘はないが、信じてもらうための言い分を考えてなかった。
レグがダメだったからゼクードの元へ戻りたいなんて言えない。
ましてや自分がドレスの子供を妊娠していて、その子供をレグに食われるのが嫌だからとも言えない。
ドレスの子供を妊娠している、なんて言ったらソレこそどんな目で見られるか。
「……理由なんてどうでもいいでしょ? 助けてあげるって言ってるんだから大人しく助けられなさいよ」
アグリスがそう言ってもレミーベールは首を縦には振らなかった。
むしろ顔の険しさが増した。
「それじゃ信じられないわ。あなたがリーネさんを襲ったことは知ってるのよ? ましてやディアマード家がワタシたちに何をしたか! 今だって!」
「ああもう! 言いたいことがあるなら後でいくらでも聞くわよ! 今はとにかく時間がないの! 城から逃げるならレグがいない今がチャンスなのよ!」
アグリスとレミーベールが睨み合う。
するとレミーベールは小さく溜息を吐き、顔の険しさを緩和した。
「……なら鍵は?」
「鍵ならいま探してるわ。アンタどこにあるか知らない?」
アグリスが聞くとレミーベールは首を振る。
「この牢の鍵はさすがに知らないわ。城の各種鍵なら受付ホールにあるけど……」
「じゃあダメ元でそこを見てくるわ。少し待ってて。ドレス! 行くわよ!」
「え、あの……さっきから言ってる鍵ってなんですか?」
さすがに呆れた。
まさかドレスは鍵の事もわからないとは。
まったくこのアンポンタンは。
「この牢を開けるための物よ。こう……なんかデコボコした小さい鉄の板みたいなヤツよ」
「もしかしてコレですか?」
ドレスがポケットから鍵を取り出して見せてきた。
見ればレミーベールたちが捕まっている牢と同じオリハルコン製だ。
「そうそう! そういうヤツ! ってなんでアンタ持ってるのよ!?」
「あ、いえ……レグ様が外へ出る時に渡されまして……」
「持ってたんなら最初から言いなさいよ! このアンポンタン!」
「えぇ……」
アグリスはドレスから鍵を貰い、すぐにレミーベールとオフィーリアの牢屋を開けた。
出てくるレミーベールの香りにアグリスは気づく。
ん?
このレミーベールの匂い……ゼクードと同じ?
どうなってるの?
この匂いは兄妹?
いや、でもあのフランベールの匂いも混じってる。
そういえば前にゼクードが言ってたわね。
フランベールとの間に子供が二人いるって。
まさか、この女がそうなの?
デカくない?
やっぱりこの女もゼクードの養子なのかしら?
でも匂いが一致するし……やっぱり親子なのかな?
でも17歳のゼクードと年齢が合わない気が……
ああもうワケわかんない。
この一家はどうなってるの本当に?
「……本当に出してくれるのね」
怪訝な顔でレミーベールはアグリスを見てきた。
「だから言ったでしょう? 少しは信じなさいよ」
「無理。あなたの目的はなに?」
「いや、だからそれは……」
あまりに情けない理由と、恥ずかしくて言えない理由だ。
おかげで先の言葉に詰まってしまった。
その詰まりをオフィーリアに指摘される。
「なんで言葉に詰まるんですか? やっぱり裏があるんじゃないですか?」
「違うわよ! そんなのない!」
「じゃあ答えなさい」
レミーベールに詰め寄られ、アグリスはキッと睨む。
「何よ! 助けてあげたのにまだ不満なの!?」
「あなた自分が罪人だってことを忘れてない? 助けてくれたことには礼を言うけど、それだけであなたを信じられるほど馬鹿じゃないの」
ナイフのような鋭い目でレミーベールが言った。
こちらを一切信用していない刃物同然の視線だった。
見ればレミーベールもオフィーリアも騎士としての装備はしっかりしていた。
鎧も着ているし、大剣と大鎌も背中に装備している。
どうやらフル装備のまま牢屋に入れられていたみたいだ。
今にして思えばカーティスとネオもフル装備のままだった。
重傷で気づかなかったが、あの時に気づくべきだった。
レミーベールとオフィーリアは戦闘力を残している。
このままアグリスとやり合えるだけの装備は持っているのだ。
これはマズイと、ヒヤリとしたアグリスは生唾を飲む。
「答えなさい。なぜレグを裏切るの? 同じディアマード家ならレグはあなたの家族なんでしょう? あなたの目的は何?」
大剣の柄を握りながら、その鋭い眼を光らせてくるレミーベール。
ダメだわ。
このレミーベールって女をはぐらかせない。
なにか適当な嘘をついて凌ぐしか……
ここで争ってたら意味がない。
なんとかして信じてもらわないと。
……でも何も思いつかない。
なんて嘘をつけばいいのか。
どうすれば……
「アグリスさんの目的はゼクードさんの元へ戻ることなんです」
突如として口を割ったドレスに「は?」っとレミーベールが顔を険しくした。
「ちょっ!」
勝手に言い出したドレスにアグリスは慌てて振り返る。
しかしドレスは構わず続けた。
「レグ様がアグリスさんのことを忘れてしまっていたので、アグリスさんはゼクードさんの元へ戻りたいんです。どうか協力していただけませんか?」
「ちょっとドレス! なんで言うのよ!」
「ちょっと待って! 今ゼクードって言ったわよね!? 元へ戻りたいってどういうこと!? お父さんは帰ってきてるの!?」
お、お父さん!?
本当にこのレミーベールはゼクードの娘らしい。
思わぬところに食いついてきたレミーベールに対し、アグリスはとりあえず大きく頷いた。
「そ、そうよ! ゼクードならもうエルガンディに着いてるわ! だから早く城を脱出してゼクードと合流しないと!」
「……! あなた、まさか今までお父さんと一緒にいたの?」
「え? ええ……まぁ……」
「ゼクードの元に戻りたいって……あなた……お父さんとどういう関係なの?」
「へ!?」
いきなり声が低くなったレミーベールに、アグリスはドバっと嫌な汗が出た。
「いや、待って! 勘違いしないで! アイツとは別になんでもないから!」
「アイツってなによ!? さっきからお父さんのことを呼び捨てにしたりして馴れ馴れしいわね! そもそもなんでお父さんの元に戻りたいなんて言うのよ! おかしいでしょ! 敵同士のはずなのに!」
「そ、それは私もブラックホールに飲まれてゼクードと同じ場所に落とされたからよ! そこでちょっと協力関係を築いて一緒にいたの! 敵同士だったけど今は味方なのよ!」
「味方? じゃあなんで今いっしょにいないのよ? お父さんはどこ?」
「そ、それは……その……今はちょっと別行動で……その……」
「まさかあなた……エルガンディに着いた途端お父さんを裏切ったんじゃないでしょうね!」
ドキッ!
「そ、そんなこと……」
「レグが自分のことを忘れていたからやっぱりお父さんの元に戻ろうってそんな魂胆なんでしょ!? ワタシやオフィーリアを助け出したのだってお父さんに裏切ったことを許してもらうため! そうでしょう!? でないとあなたの行動に説明がつかないわ!」
レミーベールに図星を突かれたアグリスは何も返せず、口をパクパクするしかなかった。
「うわぁ〜……都合のいい頭してますね〜? 恥ずかしくないんですか?」
肩を竦ませたオフィーリアに煽られ、アグリスはカッとなった。
「うるっさいわね! 仕方ないでしょ! 今のレグに付いてったら私の子供食べられちゃうんだから!」
「子供!?」
「ぁ……」
完全に余計な一言だった。
自分のお腹を擦る仕草もやってしまっていたから、もはや言い逃れできない。
落ち着きそうだったレミーベールの顔が途端に曇り出した。
「……そのお腹に、子供がいるの?」
「ぃ、いない!」
「誰との子なの?」
「いないって! そもそも妊娠してないって!」
「いえ、アグリスさんは妊娠しています。その子供をレグ様は食べようとしているんです。だからアグリスさんは自分の子供を守るためにレグ様を裏切ることにしたんです」
「ドレスゥウウウウウウウウ!!!」
全てを暴露したアンポンタンにアグリスは怒鳴った。
しかしそれ以上の剣幕でレミーベールがアグリスの胸ぐらを掴んできた!
「ちょっとアンタ!」
「ひっ!」
「その子供は誰との子なの!? まさかアンタ……お父さんを誑かしたんじゃないでしょうね!」
「なんでそうなるのよ! 違うって! 誤解よ! 本当に誤解だってば! た、確かに妊娠してるけどゼクードの子じゃないわよ! そこのドレスとの子供よ!」
「女同士で作れるわけないでしょう! もう少しマシな嘘をついたらどうなの!!」
「本当だってばああああああああああ!」