【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第436話【強化B級】

「女同士で作れるわけないでしょう! もう少しマシな嘘をついたらどうなの!!」

 

「本当だってばああああああああああ!」

 

 アグリスを離さないレミーベールに、ついにドレスが痺れを切らした。

 腕をドラゴンの物に変え、爪を立てて一気にレミーベールに踏み込んでくる。

 

 それを見越していたかのようにオフィーリアがドレスに大鎌を振り下ろした。

 爪と大鎌がバキィンと火花を散らせ、ドレスとオフィーリアが睨み合う。

 

「アグリスさんを離してください。さもないと敵と見なします」

「元から敵じゃないですか!」

 

 凄まじいパワーの押し合いに擦れる金属音。

 弾ける火花がやまない。

 いつどちらからの首が吹っ飛んでもおかしくない鍔迫り合い。

 

「や、やめてドレス! 攻撃しないで!」

 

「しかし……!」

 

 アグリスの静止に戸惑うドレス。 

 アグリスはレミーベールを見据えてハッキリと告げた。

 

「アンタの言う通りよレミーベール。私はここに着いた途端にゼクードを裏切ったわ。でも頼りにしてたレグは私のことを忘れてた。だからもう一回ゼクードの元に戻りたいの。これは本当なの」

 

「図々しい女ね。……で? そのお腹の子は誰との子なの?」

 

「しつこい女ね。もうゼクードに聞いて。私からは何も言えないわ。言ったって信じてくれないでしょう?」

 

「逆に聞くけど女同士の子供って言われたらあなた信じるの?」

 

 確かに……普通なら信じられない。

 女同士の子供なんて、普通なら有り得ないから。

 ドレスとの子供が真実とは言え、これこそ嘘をつくべきだったのかもしれない。

 

 それこそレグとの子供と言ったほうがまだ信憑性はあった。

 たとえレグが家族で兄でも、女のドレスよりかは信じてもらえたかもしれない。

 

 やってしまったな、と後悔し歯を食いしばっているとレミーベールが何を思ったのか胸ぐらから手を離してきた。

 

「……まぁいいわ。あとはお父さんに聞く」

 

 アグリスを解放するないやなドレスもすぐに引いた。

 オフィーリアは大鎌の構えを解きつつレミーベールに寄る。

 

「レミーさん……いいんですか?」

 

「良くないけど、お腹の子を守るためにレグを裏切ったみたいだし、その気持ちに免じて今は……ね。それに今が脱出チャンスなのは事実だし、ここで争ってたらレグが戻ってきてしまうわ」

 

「そうですね」

 

「早く脱出してお父さんを問い詰めないと……。こんなのお母さんたちへの裏切りだわ。ぜったいに許さない……」

 

「そ、そうですね……」

 

 恐ろしい怒のオーラを全身から醸し出すレミーベールに、さすがのアグリスとオフィーリアも怖くて青ざめる。

 

 いらぬ誤解を生んでしまった。

 ごめんゼクード……っと内心で謝るアグリスは、胸ぐらを掴まれ乱れた装備を整えながら口を開く。

 

「ねぇ、他の奴らをどこに捕まってるの?」

 

 アグリスの問いに答えたのはレミーベール。

 

「カーティスとネオなら一階のホールよ。陛下たちなら王の間に捕まってるわ」

 

「鍵は一個しか無いわよ。どっちから行く?」

 

「まずは王の間。ここからすぐよ」

 

「わかったわ。急ぎましょう」

 

 アグリスが言うと、レミーベールが先行した。

 しんがりにはオフィーリアが付く。

 レミーベールが背中を晒しているため、オフィーリアがアグリスとドレスを監視している感じだった。

 

 ドレス以外はみんなお腹に子を持つ妊婦なのに走っていた。

 城の廊下は長いし、モタモタしてられないので仕方ないのだが、本来なら絶対にやってはいけないことだったりする。

 

 流産の危険性が増すタブーな行動だからだ。

 もちろん激しく動く戦闘だってダメである。

 もしレグが戻ってきて戦闘になったら終わりだ。

 

「アグリスさん」

 

 隣を走っていたドレスが呼んできて振り返る。

 

「なに?」

 

「もしレグ様がお戻りになられて戦闘になった場合は私が戦います」

 

「え!?」

 

「みなさんが逃げる時間くらいは稼いでみせます」

 

「……じゃあそうならないように早くみんなを助けて逃げるわよ」

 

「はい」

 

 城の廊下を駆け抜け、突き当りに大きな扉が見えた。

 

「あそこよ」

 

 後ろのレミーベールが言い、アグリスは勢いよく開けた。

 

「な!?」

「え!?」

 

 先行したアグリスとレミーベールは驚愕する。

 血の匂いが充満する『王の間』。

 そこには無数のB級ドラゴン――――ドラゴンマンが死んでいた。

 

 玉座への道を挟むようにドラゴンマンの死体の山がある。

 廊下との景色の差にアグリスは「なに……これ……」と消え入りそうな声で呟いた。

 

 レグがやったのだろうか?

 でも……なんでこんなことを?

 なんでこんな場所で?

 

「うわっ!? なんですかコレ!?」

 

 後から入ってきたオフィーリアが眼を開眼させて驚愕した。

 美しいライトブルーの瞳が露わになったが、いつかのあの女騎士カティアが脳内に蘇り、アグリスは少しムカついた。

 

 ドレスも入ってきてドラゴンマンの死体群を見るなり口を割ってきた。

 

「ドラゴンマンの実験です」

 

「実験?」

 

 オフィーリアに頷きドレスは続ける。

 

「レグ様は弱くて使い物にならないドラゴンマンを自分の血を入れて強化しようとしていました。ですが……」

 

「……血が適合しなかったのね」

 

 レミーベールの答えにドレスは「はい」と答えた。

 

 血が適合しなければ、本来はこのような死を迎える。

 アグリスは自分の胸に手を当てて、心臓の脈動を感じた。

 この心臓で作られる血が自分の血に適合していなかったら、このドラゴンマン達と同じ末路になっていた。

 

 そう思うと今さらながらゾッとした。

 別の心臓で生きている今が不思議にさえ思う。

 

「……陛下は? 陛下はどこ? 陛下!」

 

 レミーベールが血相を変えて走り出す。

 おそらくこのドラゴンマンと同じ実験をされたのではないかと不安を持ったのだろう。

 しかし。

 

「その声はレミーさん!? こっちです!」

 

 生存していた。

 アグリスにとってまったく知らない声だ。

 しかしレミーベールには聞き覚えがあったらしく。

 

「アスレイ陛下!」とまっすぐ玉座に向かっていった。

 レミーベールを追い掛けると、玉座の裏に牢屋があった。

 カーティスやレミーベールたちが入れられていた牢屋と同じデザインのものだ。

 

 中には青い髪の男が一人と、あのシエルグリスの女王レイゼ・シエルグリスがいた。

 どうやらレミーベールの言った『アスレイ陛下』とはこの青い髪の男らしい。

 

「ああレミーさん! 良かった!」

「おおレミー! 無事だったか!」

 

「レイゼ女王こそ! いま開けます!」

 

 レミーベールはアグリスから鍵を受け取りすぐさま牢屋を開けた。

 するとアスレイとレイゼが、アグリスとドレスを見て目を大きくする。

 

「お、おいレミー! なんでコイツらがいるんだ!?」

 

「裏切り者です」

 

「裏切り者ぉ!?」

 

「レグを裏切ったそうです」

 

「はぁ? レグを裏切っただと?」

 

 レイゼに睨まれ、少しビビりながらも「そ、そうよ」とアグリスは答えた。

 しかしレイゼは怒りの表情を浮かべながらアグリスに詰め寄ってきた。

 

「何が『そうよ』だ。テメェあれだけの事をしておいてよく顔を出せたもんだな! テメェのような奴は――――」

 

 アグリスに掴み掛かろうとしたレイゼにドレスが目付きを変えて今にも攻撃しそうだったが、その前にレミーベールがレイゼの前に立って止めた。

 

「待ってくださいレイゼ女王! ワタシとオフィーリアを牢屋から出してくれたのは彼女たちなんです。今はそれに免じて目を瞑ってください!」

 

「本気で言ってんのかレミー! コイツらは大罪人だぞ! 信用するな!」

 

「わかっています! でも今は我慢してください! まずはレグが戻ってくる前にここを脱出しましょう! 話はそれからで!」

 

 言われたレイゼは露骨に舌打ちし、アグリスとドレスを睨みつけた。

 圧倒的なレイゼの威圧感にアグリスは気圧され一歩引いた。

 そこへドレスがアグリスの前に立ちレイゼを睨み返す。

 今にも争いが始まりそうなほどの睨み合いだったが「女王様! 王女様はどこに?」というオフィーリアの問い掛けで打ち切られた。

 

「ああ……さっきレグに連れて行かれた」

 

「そんな! なんで!?」とレミーベールが口を手で覆う。

 

「それは――――」

 

 レイゼが言う前にどこからともなくドラゴンマンの咆哮が『王の間』に轟いた。

 全員が驚き辺りを見渡した。

 

 すると死体の山から一体のドラゴンマンが起き上がってきた。

 そいつは肉体を変異させ二メートルほどある巨体をさらに大きく四メートルほど進化させた。

 

 牙や爪や竜鱗が生え変わり更に強固になる。

 鋭利な棘が体のあちこちに生え、血走った眼がレミーベールを捉えた!

 

「!」

 

 凄まじい速度でレミーベールに肉薄した!

 気づいた時にはドラゴンマンはレミーベールの懐に入っていた!

 

「くっ!」

 

 爪による横薙ぎ一閃!

 大剣を即座に抜刀し、寸でのところでガードが間に合った。

 しかし強化されたらしいドラゴンマンの一撃は重く、レミーベールは大剣で受けてもなお止まらず地面をスライドした。

 

 そんな彼女にドラゴンマンが追撃しようと踏み込むが、アスレイがそれを阻止した。

 

「やらせるか! このおおおおっ!」

 

 アスレイの長剣の振り下ろしは強化ドラゴンマンの片腕で止められた。

 掴まれたわけじゃない。

 竜鱗で止められた。

 

「か、堅い!? この硬度……B級なんかじゃない!」

 

「国王! 伏せろ!」

 

 レイゼの声が弾けアスレイは咄嗟に屈んだ。

 彼の背後からレイゼが飛び出し、強化ドラゴンマンの顔面を思いっきり蹴り飛ばした。

 

 レイゼの蹴りは四メートルもある巨体のドラゴンマンを宙に浮かし、壁にまで吹き飛ばして見せた。

 みんながレイゼの怪力に驚く中「今だ! 逃げるぞ!」と冷静に指示を出すレイゼ。

 

 みんながハッとなり、慌てて『王の間』の扉へ駆け出した。

 強化ドラゴンマンは蹴られた顔を鬱陶しそうに振り、逃げるレイゼの背を見据えて突撃してきた。

 

 凄まじい脚力で接近する強化ドラゴンマンにレイゼが振り向きキレる!

 

「ウゼェんだよトカゲ野郎!」

 

 強化ドラゴンマンの爪を素手でパリィし、無防備になった敵の顎を蹴り飛ばした!

 

 敵は蹴られた衝撃で脳が揺れたのかフラフラと後退して尻もちをついた。 

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