【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第437話【アグリスの願い】

 「ウゼェんだよトカゲ野郎!」

 

 強化ドラゴンマンの爪を素手でパリィし、無防備になった敵の顎を蹴り飛ばした!

 

 敵は蹴られた衝撃で脳が揺れたのかフラフラと後退して尻もちをついた。 

 

 ダウンしたのかと思ったが、敵は大口を空けてブレスを発射!

 

「いっ!?」とレイゼは驚くが咄嗟に【ブラックホール】を展開しブレスを吸収する。

 

 どうやらあのレイゼという女はゼクードと同じ闇魔法の使い手らしい。匂いもゼクードと何故かほぼ同じだが、属性も同じだとは。女性なのに珍しい。

 

 アグリスがそう思っているとレイゼが反撃に出た。

 

「返すぜ。【ブラックホール・リバース】!」

 

 掌から先程のブレスを発射し敵を燃やした。

 しかし強化ドラゴンマンの竜鱗にブレスはまったく効果を成していなかった。

 そもそも熱にやたら耐性があるのがドラゴンの竜鱗だ。

 これは仕方がなかった。

 

 強化ドラゴンマンはブレスを受けながら平然と立ち上がり、レイゼに突撃してきた。

 

「やっぱ効かねぇな」と吐き捨てながら格闘の構えを取るレイゼだが、敵が接近する前にレミーベールが大剣を振るった。

 

 「【竜斬り・銀雷】!」

 

 ジグザグに飛ぶ斬撃が敵の胸部に直撃した。

 さすがの威力なのか受けた敵はズサァッとわずかに後退し動きが止まった。

 その隙に接近を果たしたのはオフィーリアとアスレイ。

  

「【竜斬り・斬首】!」

「【竜斬り】!」

 

 陛下の一閃と、オフィーリアの首を狙った大鎌の一撃は敵の首を落とすことは叶わなかったが大きく吹き飛ばしてみせた。

 吹き飛んだ敵は壁に激突し、亀裂を生ませ、破片を飛び散らせて倒れる。

 

「おいバカ! お前らお腹に子供いるだろうが! 先に逃げろって!」

 

 レイゼが怒りレミーベールが戸惑う。

 

「で、でも女王様より先に逃げるなんて……」

 

「バカ野郎! 地位より赤ちゃん優先だ! こんなもん一億年前から決まってんだよ!」

 

 なんとも清々しい女王だが、吹き飛ばして倒れていた強化ドラゴンマンが空気を読まずに起き上がってきた。

 ダメージらしいダメージがない。

 こいつ……割と厄介なドラゴンかも。

 

「ほら起きたぞ! 早く行け!」

 

 レイゼが叫び、レミーベールとオフィーリアは納刀して後退し扉へ向かった。アスレイも彼女たちの護りに付く。

 

「おいお前ら!」

 

 レイゼがアグリスとドレスを指差す。

 

「あのデカブツを倒してこい。倒すまで城から出るなよ」

 

「な!」

 

 突然のレイゼの命令にアグリスは虚を突かれた。

 

「相討ちでもいいぜ? あばよ。くそったれ共」

 

 そう言い残してレイゼも扉から出ていった。

『王の間』に残ったのはアグリスとドレス。

 そして強化ドラゴンマン。

 

「なによ……なによあの女! 死んじまえ!」

 

 怒りが収まらないアグリスは扉に向かって怒鳴った。

 

「……随分な嫌われ様ですね。なにをしたんですか?」

 

「アンタもその一人なんだけどね……」

 

 ドレスの見事なほどの他人面に呆れ、アグリスは迫りくる敵を見た。

 奴は逃げたレイゼたちを諦めて、こちらに狙いをつけてきた。

 もう戦うしか無いか、と腕をドラゴンのものに変異させようとした。

 しかしドレスがアグリスを片手で制した。

 

「アグリスさん。ここは私がやります。あなたは急いでレミーベールさんたちを追い掛けてください」

 

「一人でやるつもり!? あのドラゴンかなり強いわよ!?」

 

「行ってください」

 

「で、でも……」

 

 ドレスがもう帰って来ない気がして、アグリスは踵を返すことができなかった。

 ゆっくりと歩いていた敵はある距離にまで来るとついに走り出してきた。

 ドレスは腕をドラゴンのものに変えて走った。

 

 ドレスと強化ドラゴンマンの戦闘が始まり、爪やブレスの応酬で一気に火の海になっていく。

 

 すると『王の間』の扉がまたも開かれ、先に逃げたはずのレミーベールが戻って来た。

 

「なにやってるのアグリス! 早く逃げるわよ!」

 

「え……」

 

 何故戻って来たのかと思えば、まさか自分を心配して?

 

「あんた……なんで……」

 

 さすがに意外過ぎて言葉が出てこなかったアグリス。

 すると今度はレイゼまで戻って来た。

 

「おいレミー! あんな奴ら放っておけよ!」

 

「ダメなんです! アグリスのお腹にはお父さんの赤ちゃんがいるんです!」

 

「あ?」

 

「ちょっ!」

 

 誤解を誤解のままにした結果。 

 とんでもない爆弾に引火した。

 さすがに黙ってられなかったアグリスは慌てて訂正する。

 

「ちょっと! それは誤解だって言ってるでしょう! この子はドレスとの子だって!」

 

「ドレス?」っとレイゼが首を傾げた。

 

「今あそこで戦っている女の名前です」

 

 レミーベールがドレスを指差しレイゼが目を丸くした。

 

「え!? あいつ男なのか!?」

 

「いや、ちが……いや、そう……なの、かな?」

 

 ハッキリ否定できなかったアグリスにレイゼが床を強く踏む。

 

「んなんだよ! どういうことだ!?」

 

「アグリスは嘘をついてるんです。女同士で子供なんて作れるわけない」

 

「いや、それは……」

 

 レミーベールの言葉にアグリスはまたも強く否定できなかった。

 ドレスとの子供であることを証明できない。

 証明するにはドレスの裸を見せるしか方法はない。

 しかしそんなことドレスに言えるわけない。

 

 言えば平気で脱ぎそうだが、それで自分がドレスに抱かれたことも判明してどんな目で見られるか分かったものではない。

 

 恥ずかしい……。

 やはり嘘でもレグとの子供だと言えば良かった。

 これではゼクードにも迷惑が掛かってしまう。

 

「お父さんとの間に子供がデキちゃったから、そうやって下手な嘘をつくんでしょう?」

 

「違う! この子は…………レグとの子供なのよ!」

 

 ついにレグの名を出したが時はすでに遅かった。

 レミーベールはまたも呆れたように溜息を漏らす。

 

「レグは身内でしょう? 嘘はもういいから」 

 

 にべもないとはこのことで、アグリスは泣きそうになった。

 すると今度はレイゼが頭をムシャクシャに掻きながら苛立ちを露わにした。

 

「おいおいマジかよ……あのクソバカ野郎! フランさんたちがいながら敵の女に手を出したのかよ! ふざけやがって!」

 

「女王様……お父さんはもうここエルガンディに帰還してるそうです」

 

「そうか。ならキッチリ話を聞かせてもらわねぇとな!」

 

「はい!」

 

 レイゼとレミーベールが互いに頷き、話を終えるとアグリスを見てきた。

 

「おい小娘。テメェ……アグリスだったな? テメェもあとでじっくり話を聞かせてもらうぜ?」

 

「だから違うんだってば! この子は本当にレグとの……」

 

「うるせぇ黙れ。テメェは大罪人だが……まぁ腹のガキに罪はねぇ。ほら来い。一緒に逃げるぞ。まずは赤ちゃん優先だ。おいドレス! そいつ倒すまで戻って来んなよ! いいな!」

 

 強化ドラゴンマンと戦っているドレスにレイゼが言うと、ドレスは目を細めて不機嫌な顔をした。

 

「指図しないでください。あなたに言われなくてもそのつもりです」

 

「そうかい。さっきも言ったが相討ちでもいいぞ」

 

 相討ち? 

 冗談じゃない!

 今の私にはドレスしか味方はいないんだ!

 

 そう思い至ったアグリスは叫んだ。

 

「ドレス! 絶対に勝って帰って来てよ! 待ってるから!」

 

「……。わかりました。努力しましょう」

 

 ……ほんの一瞬だけドレスの返事に間があった。

 顔も一瞬だけ曇ったように見える。

 帰って来るのがそんなにも難しい相手なのだろうか?

 

 強化ドラゴンマンとは互角に戦っているように見えるが……

 それともドレスの身体がすでに時間がないのだろうか?

 ドレスはもう時間の命が長くないと言っていた。

 延命するためには上級クラスのドラゴンを捕食せねばならない、と。

 

 前に火山のドラゴンを食べていたからまだ大丈夫なはずだけど……

 どこか胸騒ぎがした。

 ドレスのどこか切ないもの哀しげな顔にアグリスは不安を覚えてまた叫んだ。

 

「絶対よ! 私ずっと待ってるからね! ドレス!」

 

 それだけ言い残してアグリスはレミーベールに連れて行かれた。

『王の間』に残ったのはドレスと強化ドラゴンマンのみ。

 

 爪の応酬を終えて互いに間合いを空けるとドレスは一呼吸した。

 

「……ごめんなさいアグリスさん。私ではコイツには勝てないかもしれません」

 

 弱気なドレスの言葉。

 その真相はドレスの目の前でさらなる進化を遂げようとしているドラゴンがいたせいだった。

 

 このドラゴンはまだ進化を終えていない。

 さっきまで互角だった力の均衡が、ゆっくりと崩れていった。 

 

 さらに巨体になっていく強化ドラゴンマンに対し、ドレスもドラゴンに変身して対抗した。

 

 不安と寂しさに満ちたアグリスの顔を思い出し、グッと全身に力を込める。

 

「でも……勝つ努力はします」

 

 努力はすると約束した。

 勝てる見込みは少ないが、なんとか勝ってアグリスの側にいてやりたい。

 

 最初は優秀な母体としてしかアグリスを見ていなかったが、今は自分がいないとダメな気がして……アグリスを一人にしてはいけない気がした。

 

 なんとかして彼女の元に帰ってやりたい気持ちがあった。

 

 しかしそれを許してくれない強化ドラゴンマンが、ドレスの前に立ち塞がる。

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