【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第438話【迫る最強の敵】

 夜のエルガンディは静まり返っていた。

 空は星が煌めき、月明かりが街を照らす。

 フクロウの鳴き声が聞こえ、そよ風がロジェールの肌を撫でた。

 

「ちょっと! 馴れ馴れしく触らないで!」

 

 ロジェールは不愉快にもレグにお姫様抱っこをされていた。

 

「おいおい騒ぐなよ。街のみんなが起きちゃうだろうが」

 

 レグがやれやれと溜息を漏らすが、その顔は嫌味ったらしく余裕だった。

 好きでもない男にこんなことをされて不快極まりない。

 しかし逃げようにもロジェールの足ではすぐに追いつかれる。

 結局暴れられず、騒ぐしかできずにいた。

 

「わたしを連れてどうする気なの!」

 

「オレの心臓がお前の匂いに興奮していてな」

 

「え!?」

 

「『奴の一族だ』『奴の血を取り込め』『奴の血は誰よりも強い』『この若いメスを次の子孫の母体にしろ』……そう訴えて来るんだ」

 

「ぼ……母体って……」

 

「レミーベールという女でも良かったが……あれはまだ身籠っている。レイゼとか言う女でも良かったが、あれより娘のお前の方が若い。だからお前を連れてきたんだ」

 

「な! あなた女をなんだと思ってるのよ!」

 

「そう騒ぐなよ。お前を連れてきたのはオレなりの慈悲だ」

 

「慈悲!?」

 

「何も知らない男に抱かれたくはないだろう? だからこうして会話する機会を儲けてやってるんだ」

 

「ふざけないで! 誰があなたなんかに! わたしには好きな人いるのよ!」

 

「ほう? それはそれは……まさかあの弱っちいネオとか言う男じゃあないだろうな?」

 

「!」

 

 当てられて思考が一瞬止まってしまった。

 それを見たレグがニヤける。

 

「ほぉら図星だ」

 

「なんで……」

 

「なんで分かったってか? そんなもん、あの時のお前を見りゃ誰だって分かるさ。倒れたネオにすがってネオ〜ネオ〜目を覚まして〜って。はは、傑作だったなぁ?」

 

「く……っ」

 

「ふ……残念だがお前はネオの女にはなれない。あいつは明日処刑するし、お前はこのオレの心臓に気に入られたんだ。お前の身体は半永久的にオレの子孫繁栄のために使わせてもらう。諦めることだ」

 

「え!? ネオを処刑!?」

 

「ああ。明日、平民どもの前で盛大にぶっ殺してやるよ。そうすれば平民どもの心は折れ、オレに服従するだろう」

 

「やめて! ネオを殺さないで! 代わりにわたしを殺しなさいよ!」

 

「自惚れんなよクソガキ。お前みたいな雑魚が一人死んだところで誰も折れねぇんだよ」

 

「……っ」

 

 それからお互い一言も喋らなかった。

 会話する機会を儲けてやってるんだ、とか言っておきながら当のレグはロジェールと会話する気などまったく無いらしい。

 

 このお姫様抱っこにも何の意味があるのだろうか?

 まさかこれでお互いの距離を詰めているとか、そんな感覚でやっているのだろうか?

 

 まさか、このお姫様抱っこをすれば女は喜ぶとか、そんな事を思っているんじゃ?

 もしそうなら女性への想いが浅はかというか、簡単に見過ぎというか。

 

 そんなことを頭の中で思っていると、レグが不意に立ち止まった。

 

 どうしたの? と思いつつロジェールはレグの顔を見上げる。

 

「……やけに静かだ。どうなってる?」

 

「え?」

 

 エルガンディの街中は静まり返っている。

 夜だからこんなものではないだろうか? 

 自分も夜明け前に城を抜け出して街中を彷徨いてたから、夜の静けさみたいなのは分かる。

 こんなものだと思うのだが。

 

 するとレグはお姫様抱っこしていたロジェールをなんの忠告も無く落としてきた。

 

「きゃっ!?」

 

 いきなり落下させられ、お尻を打って、そのまま背中と頭も打った。

 

「い……っ! ちょっと! いきなり落とさないでよ!」

 

 しかしレグは無視してきた。

 痛がるロジェールなんか眼中にも無いように、近くの民家に寄ってドアを蹴り破った。

 

「ちょ、ちょっと! 何やってるのよ!」

 

 さすがにギョッとなったロジェールが叫んだ。

 そんなロジェールなぞ気にも留めず、レグは民家の中へ入って行った。

 

「……!」 

 

 コレは逃げるチャンスだと思い、ロジェールはすぐに立ち上がって走ろうとした。

 

 しかし!

 

「逃げたら殺すぞ」

 

 どうやら気配で察知されたらしい。

 冗談の色が見えないレグの言葉に、ロジェールはブルッと震え上がった。

 逃走を諦め、仕方なくロジェールはレグを追って民家へ入った。

 

 真っ暗な部屋の中には誰もいなかった。

 月明かりで照らされたベッドには誰もいない。

 空き家か? と思ったが、それにしては物がたくさん置いてある。

 ついさっきまで人が住んでいたのは間違いない。

 

「誰もいないの?」

 

 見れば分かるがロジェールは聞いていた。

 が、レグは答えない。というかまた無視してきた。

 

 なによコイツ……ネオより無愛想だわ。

 あのネオでもここまで話せば返事してくれるのに。

 

 レグは眉間にシワを寄せたまま踵を返して民家を出た。

 そしてまた近隣の民家に不法侵入する。

 もちろんドアを蹴り破って。

 するとまた無人の民家だった。

 

 次も。

 また次も。

 何件もの民家を回ったがどれも無人だった。

 

 不思議なことに……

 そのどれもがさっきまで人が住んでた状態だった。

 これにはロジェールも困惑した。

 

 カーティスとネオがやられてから、みんな希望を失って家に閉じ籠もったと聞いていたのに。

 どうなってるの? 街の外へ逃げたのだろうか?

 

「バカな……あれだけの人数を逃したってのか」

 

 目付きを鋭くしたレグがそう独り言ちた。

 すると思い付いたようにレグはロジェールを強引に引っ張り寄せる。

 

「嫌っ! なに!?」

「飛ぶ。掴まっていろ」

「へ!?」

 

 再度ロジェールをお姫様抱っこしたレグは背中から翼を生やしてきた。

 それはドラゴンの竜鱗を纏い、滑らかな翼膜が張ってある。

 それを瞬時に羽ばたかせ、風を掴んで一気に浮上した。

 

「ひっ!」

 

 凄まじい上昇感と風がロジェールに襲いかかる。

 地面があっという間に離れていく様を目で見てしまい、全身に寒気が走った。

 

 ロジェールはあまりの恐怖に思わずレグの首に手を回した。

 力いっぱい抱きついてしまった。

 嫌で仕方なかったが、空を飛ぶ恐怖を和らげるにはこれしか思いつかなかった。

 

 レグがネオだったならばどれだけ良かっただろう。

 ネオだったらもっと密着して、ぬくもりを感じたいくらいなのに。

 レグだと不快感しかない。

 

 あぁ……ネオに会いたい……ネオ……

 

 そんなことをレグの肩に顔を埋めながら思っていると、急に上昇感が止まって停止した。

 バサッバサッと翼の音だけが聞こえる。

 

 どうやらレグの望んだ高度に到着したらしい。

 ロジェールは恐る恐る目を開けると【エルガンディ王国】が一望できた。

 足元には先程の民家が豆粒のようになっている。

 

「――――っ!」

 

 声にならない悲鳴と共に息を呑み、レグを掴む腕に力が入った。

 とんでもない高度に全身が冷え込むような感覚を覚えた。

 落ちたら即死する高度だ。

 またさっきみたいに落とされたら即死する。

 

 怖い怖い怖い! 

 ロジェールは落とされまいと必死にレグに抱きついた。

 不快とか言ってられない。

 死ぬよりマシだ。

 

「見張りに被害が出ていないだと? 妙だな……」

 

 見張り?

 なんのことだと思い、レグの見ている先をロジェールも気を張り詰めながら見た。

 

 そこには城壁の外に配置された大群のA級ドラゴン。

 ワラワラとエルガンディを囲んでいる。

 あれではどこから出ても発見される。

 まさか王国の周辺がこんなことになっているとは。

 

 レグは周囲を確認し終えると高度を下げていった。

 高さは王国を一望できる高さから、街中を一望できる高さまで落とした。

 すると黒煙が上がっている一軒家にレグが目をつける。

 

「……爆発音がした場所はあそこか」

 

 

 ゼクードはグリータに案内された。

 そこは館内にある書斎らしき部屋。 

 

「ここが【ヨコアナ】へ通じる隠し通路だ」

 

 グリータが本棚を押してスライドさせた。

 すると地下への階段が現れた。

 どうやらここからエルガンディの民を【ヨコアナ】へ逃していたようだ。

 

「すげぇな。こんなのが用意されてたなんて。よし。みんなは先に【ヨコアナ】へ行っててくれ。俺は姉さんやカーティスたちを助けてから向かう」

 

「一人で行こうってのか!?」と驚くグリータにゼクードは

「一人の方が見つかりにくい」と即答する。

 

 すると後ろにいたカティアとフランベールが口を割った。

「待てゼクード! 私も行く! カーティスを放ってはおけん!」

「わたしも行くよゼクードくん! レミーが捕まってるんだから!」

 

 そう言うだろうと思っていたゼクードは首を振って冷静に拒否する。

 

「ダメだ。レミーたちの事は俺に任せるんだ。その代わり三人は子供たちの事を頼む。俺の代わりに側にいてあげてほしい」

 

 ゼクードは頑とした態度で言い放った。

 レグという巨大すぎる相手に……帰って来れない可能性も含めてそう言った。

 それを理解してくれたらしい三人の妻は一滴の汗を頬に流し、生唾を飲み飲んで深く頷いてくれた。

 

 最悪なケース……夫の戦死も覚悟してくれた。

 

 これでいい。

 ローエもカティアもフランベールも騎士を引退する身だ。

 これからは育児に専念して、俺に代わって子供たちの側にいてあげてほしい。

 

 しかしこう言ったが俺も死ぬわけにはいかない。

 ローエたちに安心して育児をしてもらうには、やはりレグをなんとかしないといけない。

 何か手は無いものか。

 何かレグを弱体化させる方法でもあれば……

 

「ゼクードさん。せめて私は同行させてください」

 

 前に出てきたのはリベカだった。

 ネオ・レイゼ・ロジェールも捕まってるなら立候補してくるだろうとは思っていた。

 

「ダメですよリベカさん。リベカさんはシエルグリスの民をまとめてあげてください。姉さんが戻るまでお願いします」

 

「しかしあなたに任せっきりなのは……」

 

「それが俺の仕事です。リベカさんだってそうでしょう?」

 

「……!」

 

「お互いの仕事をこなしましょう。姉さんたちは……なんとか救ってみせます」

 

「……お願いします」

 

 自分の役割を思い出したようで、リベカは引いてくれた。

 リベカには悪いが、中途半端な戦力なら居ない方がいい。

 それはS級ドラゴンが相手でも同じこと。

 

 ましてカーティスとネオが負けたレグが相手なら尚更だ。

 本当に強い相手には数なんて無意味なのだ。

 それはたぶん……ここにいる全員が理解しているはず。

 

 数が意味を成すようにするなら、それこそゼクード・カーティス・ネオ……そしてナイトの四人を束にしないとレグには通用しないだろう。

 

 だがその最強のパーティを組もうにもカーティスとネオはすでに重傷。ナイトはどこにいるかも分からない。

 やはり自分一人で戦う他ない。

 

 ここで自分が死んだら、いよいよエルガンディは終わりだ。

 まるで崖っぷちにいる気分だが、俺でこんな気分なら、俺より弱いみんなはもっと苦しい心情のはず。

 やるしかない。 

 

「まずい! レグが来たぞ!」

 

 窓から外を見張っていたガイスが低めの声で言った。

 確かに外から異様な気配が近づいて来ている。

 なんて気だ。セレンの比じゃない。

 

「みんな! 急げ!」

 

 ゼクードの指示に従いローエたちが地下へ走った。

 ローエ・カティア・フランベール・リベカ。

 そして……

 

「ゼクードくん! レグの側にはロジェール王女もいた!」

 

「了解だガイスさん。さぁ行って! みんなをお願いします!」

 

 殿のガイスを見送り、即座に本棚を戻して地下への階段を隠した。グリータだけは行かせない。

 

「グリータ。悪いがお前には手伝ってもらうぜ」

「おう。何すりゃいいんだ?」

「簡単だよ。俺がレグを引き付けるから、その間に城へ向かってくれ」

 

 すると間もなく奥のホールでガシャンという轟音が響いた。

 ドアが破壊されたらしい。

 

「出てこい平民ども! ここに居るのはわかってんだぞ!」

 

 レグの声だ。

 ギシギシと床を軋ませながら歩いてくる。

 こちらの部屋に近づいてくる。

 

 見つかるのも時間の問題か……

 

 ゼクードは【ブレイブエルガンディ】の柄を握った。

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