【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

431 / 448
第441話【ゼクード死す】

 ゼクードは城の廊下を走っていた。

 レグの注意をこちらに向けさせるのに成功したが防戦一方。

 ゼクードの攻撃がまるで通らない。

 

 眼に攻撃を当て続けて来たが、どれも一時的に怯みを取れるだけでダメージにはなっていない。

 すぐに再生してしまう上にレグが対応し始めている。

 

 ……いや、最初から避けようと思えば避けられたんだろう。 

 さすがに何度も眼に攻撃してくるから鬱陶しくなったに違いない。

 人間なら失明する一生物のダメージになるが、奴にはそれはない。

 左眼を無くした自分からすると羨ましいことこの上ない。

 

「いつまで逃げるつもりだゼクード・フォルス。英雄の名が泣くぞ?」

 

 英雄……ね。

 元は自分の父フォレッドの称号だったのに、いつの間にか自分の称号になっているな。

 

 場違いな事を思いつつ、英雄ならやっぱりなんとかしないとな、と気合を入れ直す。

 レグの攻撃が激し過ぎて捌き切れず城へと来てしまったが、幸いグリータたちはもうすでに脱出してくれていた。

 

 これなら巻き込みを恐れずに逃げ回ることができる。

 そして【アレ】を探すこともできる。

 

 ゼクードはレグの攻撃を躱しながらある部屋を目指していた。

 それは城の科学班が実験や研究などをする研究室。

 そこにはリイドが以前採取した【エリザの血】があるはず。

 

 あれは人間を生き返らせる可能性を秘めた血だが、その代償に理性を失いドラゴン化させてしまう恐ろしい血でもある。

 

 そして何より【エリザの血】はドラゴンをゾンビ化させる力もあったはず。

 ゾンビ化は凶暴性を増長させるが、その代わり竜鱗を腐らせ防御力を大きく落とす。

 

 今のレグには【真・竜斬り】さえも効かない。

 ならばもうこの【エリザの血】の副作用に掛けるしか無い気がするのだ。

 

 しかし問題は山積みだ。

【エリザの血】がまだサンプルとして研究室に残っているのかどうか?

 その【エリザの血】をどうやってレグに飲ませるのか? あるいは撃ち込むのか?

 そもそもドラゴン化しているレグに効くのか?

 もしかしたらパワーアップしてしまうかもしれない。

 

 不安要素は多々あるが、今の自分に勝てる可能性があるとしたら【エリザの血】を使うしかない。

【エリザの血】を見つけさえすれば、あとはレグにそれを飲ませるだけ。

 飲ませるだけなら簡単だ。

 代償はもちろん発生する。

 

「……勝てるなら腕の一本くらい良いか」

 

 そう。

 自分の腕ごと奴の口に撃ち込む。

 間違いなく腕は持っていかれるだろうが、息子娘たちの未来。妻たちの未来。エルガンディの未来を腕一本で救えるなら安いもんだ。

 

 もっと両手でカティア・ローエ・フランベールを抱きたかったが、そうも言ってられない。

 意を決したゼクードは研究室の前まで全力疾走した。

 

 そして辿り着いた。

 一階の奥にあるから分かりやすい。

 だがレグを振り切れていない。

 すぐに攻撃が来る。

 ゼクードは振り返って迫る殺気を迎え撃った。

 

「もう逃げ場はないぞ? どうする? ゼクード・フォルス」

 

「見逃してくれたら嬉しいな。お前と違って俺には帰りを待ってる人たちが大勢いるんだ」

 

「くく、それは無理だ。何故ならオレの心臓がお前を殺せと叫んでいる。随分とこの心臓の持ち主に嫌われているようだな?」

 

「知らねーよ。誰の心臓だよそれ」

 

「なんだ忘れたのか? この心臓は昔ハーティシオを襲った上級ドラゴンの物だ。そいつを狩ったのはお前だ」

 

「は? ハーティシオで? てことはセレンの心臓なのか!?」

 

「とぼけるな! セレンは別の心臓だ!」

 

 眉間に血管を浮かすほどキレて爪を振りかざしてきた。

 ゼクードは慌ててなんとか避けるが。

 

「セレンのじゃないのか!? なら知らないぞ! 俺はハーティシオで狩りなんかやってない!」

 

「嘘をつくな! この心臓はオレに訴えている。黒い堅殻を纏った銀の髪の人間だとな! お前以外に誰が居る!」

 

 ハーティシオで黒い堅殻を纏った銀の髪の人間……

 まさか俺の親父フォレッドの事か!?

 そういえばカーティスが言ってたな。

 親父はハーティシオで活動していたって。

  

 やれやれ……親父のやることなすことなんで俺に降り掛かってくるかな?

 

 ピシッ!

 

「「……?」」

 

 何かが軋む音が聞こえた。

 ゼクードとレグは音のした天井を見る。

 そこには僅かな亀裂が走っていた。

 

 ピシッ! ピシピシッ! ビキッ! ビキビキビキビキビキビキ!

 

「やばい!」

 

 ゼクードはすぐに研究室の扉を開けて中へ避難!

 向かいのレグも少し下がって天井の様子を見た。

 そして間もなく天井が崩壊してニ頭のドラゴンが落ちてきた。

 

 片方はドレスだった。

 もう片方のドラゴンは見たこともない新種で、赤い竜鱗を纏った二足歩行のドラゴンだった。

 

「くっ! はぁ……はぁ……! まだです!」

 

 傷だらけのドレスはすぐに立ち上がって新種のドラゴンと対峙する。

 

 ドレスか。そういえばコイツも居たな。

 アグリスもその辺にいるのか?

 あの裏切り者め。ついでに殺してやりたい気分だ。

 

 でもなんでドレスはこのドラゴンと戦っているんだ?

 この新種のドラゴンはレグの配下じゃないのか?

 てことは外敵? こんな王国のド真ん中で?

 有り得ない。どうなってるんだ?

 

「おいドレス」

 

「! レ、レグ様……」

 

「なんの真似だこれは?」

 

 怪訝な顔でドレスを睨むレグ。

 さっきまで無表情だったドレスは露骨に震えて冷や汗を流した。

 

 研究室から覗くゼクードは、この光景に意味が分からずにいた。

 何故ドレスがレグに対して震えているのか?

 この新種ドラゴンと戦っている理由も不明で、ドレスの立ち位置がよく分からない。

 

 すると新種のドラゴンがドレスに向かって咆哮し、ようやくレグの視線がその新種ドラゴンに向いた。

 

「なんだコイツは? ……まさか。そうか。あの雑魚どもの一匹か。うまく血が馴染んだようだな」

 

 うまく血が馴染んだ?

 まさか自分の血をこのドラゴンに輸血したのか?

 じゃああの新種ドラゴンの元はなんなんだ?

 なんとなくB級のドラゴンマンに似ているが、まさかな。

 

 って、そんなことよりこれはチャンスだ!

 レグの意識がドレスに向いている。

 理由は分からないが身内で揉めてるなら好都合。

 今のうちに【エリザの血】を探そう。

 

「ふむ……ドレスは繁殖用になったが、コイツは戦闘用になったのか。面白いなオレの血は。次は外の雑魚どもに血を入れてみるか? くく、大半は死ぬだろうが、どう変異するか見ものだな」

 

 どこだ!?

 どこにある!?

 なんかほとんど物が残ってないぞ!?

 

「……で、もう一度聞くが、これはなんの真似だ? ドレス」

 

「……」

 

「あの母体を死守しろと命令したはずだが?」

 

「……」

 

 カラッポの机にカラッポの本棚ばかりだ。

 ありとあらゆる資料がみんな持ち出されている。

 これはもしかして科学班たちが【ヨコアナ】へ資料を持って行ってしまったのか?

 だとしたら最悪だ。

 いや、まぁ、大切な資料を置いていくわけないか。

 

「カーティスたちを逃したのもお前の仕業かドレス? あのオリハルコンの牢を開けられるのはお前に渡した鍵だけのはずだ」

 

「……」

 

「そういえば、カーティスたちの中にアグリスも紛れていたな?」

 

「っ!」

 

【エリザの血】も見つからないぞ!?

 そもそも液体らしい物が残っていない!

 嘘だろ!?

 どこかに一つくらい残ってないのか!?

 

「ふん、何を意外そうな顔をしている? オレがアグリスに気づいていないとでも思ったか?」

 

「……っ」

 

「答えろドレス。なぜアグリスはオレの元から去った?」

 

「……アグリスさんは、レグ様に子供を食べられたくないと仰っていました」

 

「……なるほど。まぁ、当然と言えば当然の答え。で? お前はなんだ? アグリスの手助けをしたのか?」

 

「はい」

 

「愚かな……あんな苗床に情でも移ったか?」

 

「わかりません。でも、一人にしちゃいけないって、思ったんです」

 

「それでオレを裏切りアグリスに付いたのか? バカが。短命のお前がアグリスを一人にしちゃいけないだと? 笑わせるな」

 

「……っ」

 

「だがお前の気持ちはよく分かった。種無しのお前はもうオレにとってなんの価値もない存在だ。裏切り者としてここで殺してやろう。やれ!」

 

 やべぇ……本当に何も見つからない。

【エリザの血】が無かったら反撃さえできない。

 これじゃあレグの追撃も振り切れない。

 

 いや、待てよ?

 いまレグはドレスに集中している。

 この隙に逃げてしまうか?

 ドレスは裏切り者だし放っておいても別にいいか。

 

 刹那!

 研究室の壁を突き破ってドレスが吹き飛ばされてきた。

 

「うおっ!」

 

 ぶっ飛んできたドレスに危うくぶつかりそうになったがギリギリ回避した。

 倒れたドレスは腹部に攻撃を食らったらしく、腹を押さえながら咳き込んだ。

 

「げほっ! げほっ! う、げほっ!」

 

「ぉ、おいドレス! 大丈夫か!」

 

 ここでドレスに死なれては囮役が居なくなってしまう。

 それでは困るとゼクードはドレスに駆け寄った。

 すると先程の新種ドラゴンがゼクードを見るなり威嚇の咆哮を発してきた。

 

「くっ! うるせぇな! 雑魚は引っ込んでろ!」

 

「ま、待ってくださいゼクードさん! そいつはかなり……」

 

 ドレスが言い終える前に新種ドラゴンがゼクードに仕掛けた。

 それは爪の振りかざし。 

 レグの攻撃と比べれば欠伸が出るほど遅かった。

 

 僅かな身体捌きで避けたゼクードは即座に反撃し【真・竜斬り】で新種ドラゴンの腹を切り抜く。

 胴が真っ二つになった新種ドラゴンはそのまま絶命し倒れた。

 それを見たドレスが眼を丸くして驚愕する。

 

「な……」

 

 ドレスから見ればあれだけ苦戦した相手を一撃で仕留めたのだ。

 驚かない方が無理があった。

  

「『かなり』なんだって?」

 

「あ、いえ……さすがです。ゼクードさん」

 

「やれやれ……血を分け与えても雑魚は雑魚か」

 

 レグが大きな溜息を吐きながらゼクードとドレスに迫る。

 ゼクードはドレスを囮にしようかと思ったが、ドレスはすでにボロボロで役に立ちそうになかった。

 

 これでは自分が逃げるまでの時間さえ稼げそうにない。

 どうしたもんか……

 

「さて、終わりにしようか。ゼクード・フォルス」

 

 ヤバい!

 こっちに来る!

 何か無いか?

 何か!

 

 ゼクードは辺りを素早く見渡した。

 突き破られた天井から上の階のシャンテリアが見えた。

 これだ! とゼクードは【ダークマター】を発射!

 

 レグの足を止めるために二発は奴の足元に。

 最後の一発はシャンテリアの鎖を撃ち抜く。

 落下を始めたシャンテリアはレグの真上に落ちていく。

 

 しかしレグに気づかれバックステップで避けられてしまった。

 床に叩きつけられたシャンテリアは各部品を爆ぜらせ、レグに散弾となって襲い掛かる。

 

 レグは咄嗟に顔を守り、眼に飛んできた部品が入らない様に閉じた。

 

「くだらん真似を!」

 

 それこそゼクードが狙っていた一瞬の隙!

 

「ドレス! 変身しろ! 上に向かって飛べ!」

 

「え!?」

 

「急げ!」

 

「は、はい!」

 

 言われたドレスはすぐさまドラゴン形態に変身して浮上した。

 ゼクードはドレスの背中に飛び乗る。

 ゼクードを乗せたドレスは突き破られた天井から二階へ飛び「このまま真っ直ぐ上に向かって飛べ! 次の天井は俺が斬る!」とゼクードに指示され『了解!』と二階の天井へ向かって上昇!

 

 しかし下のレグもドラゴンに変身して浮上しようとしていた。

 

『ゼクード・フォルス! お前だけは絶対に逃さんぞ!』

 

「そうかい!【真・竜斬り・竜獄斬】!」

 

 迫って来た次の天井目掛けて大技を放った。

 無数の石ブロックと化した天井をドレスは突破した。

 追い掛けて来るレグにゼクードはドレスの背中から【ダークマター】を乱射。

 石ブロックの雨と【ダークマター】の雨。

 それらの弾雨はレグの巨体を押し返して僅かな時間を稼いだ。

 

「よし! このまま逃げ切るぞドレス! 速度を上げるんだ!」

 

『はい!』

 

 エルガンディの城から夜空へ飛び立ったドレスは翼を羽ばたかせる。

 月明かりに照らされながらドレスは風を掴んでスピードを上げていった。

 すくにエルガンディの城壁を超えて、下の景色は草原になる。

 

『ゼクードさん。どこに向かえばいいんですか?』

 

「すぐにレグが来る! 雲まで上昇しろ!」

 

『了解です!』

 

 雲で身を隠しつつ逃げる。

 これしか思いつかなかった。

 雲のある高さまで飛ぶのは初めての経験だが、大丈夫だろうか?

 

 そんな不安を抱きつつ、ゼクードはある異変に気づいた。

 さっきまで自分とドレスを照らしていた月光に、影が掛かっていた。

 

 え?

 これは……

 

 月を見上げれば、そこにはすでにレグが翼を広げて飛んでおり、とっくにドレスの頭上を陣取っていた。

 

「レグ!? いつの間に!?」

 

『馬鹿な奴だ。このオレを相手に空へ逃げるとはなああああ!』

 

 ギュンと風切り音が響いた。

 それはレグの本気の加速。

 強靭な両翼から発せられる爆発的な加速はドレスを優に捉え、一気に迫り来る!

 

『終わりだ! ゼクード・フォルス!』

 

「しまっ……」

 

 加速を乗せた爪の一閃。

 それはドレスを貫通し、背中のゼクードさえも斬り裂いた。

 

『あ……っ!』

「が……っ!」

 

 ゼクードとドレスの血が夜空に舞う。

 二人は共に落下し、凄まじい速度で森へ墜落した。

 ゼクードはドレスの背から振り落とされ、木に突っ込んで全身を叩きつけられながら落ちていく。

 

 目に大きな枝が刺さって眼球が潰れた。

 激突した際に腕が折れた。

 衝撃で内蔵もやられた。

 頭をぶつけて頭蓋が砕け、全身の至る所を損傷して落下した。

 

 レグに斬られたのは腹部で、上半身と下半身が両断されていた。

 破損した内臓が地面に叩きつけられた衝撃で身体から飛び出した。

 

 ぁ……れ……

 俺…………死ぬ……の、か?

 

 あまりに唐突な自分の死。

 

 ゼクードの意識は家族のことを思い出す間もなく消滅した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。