【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
何も見えない。
感覚もない。
ただひたすらに闇の中をフワフワと浮いているような感じだ。
俺は……本当に死んだのか?
あっという間の出来事だった。
レグに腹を両断され、下半身と上半身が真っ二つにされたのを見た。
それから落下で木に激突して……そこからもうロクな記憶はない。
結局俺は……レグには勝てなかった。
あんな化け物を残して死ぬわけにはいかないのに。
ごめんローエ・カティア・フラン……なんとか子供たちを守ってくれ。
カーティスとネオもすまない。
とんでもない化け物を残してしまった。
俺も一緒に戦いたかったけど、ダメみたいだ。
もう二人だけが頼りだ。
回復したら、なんとかレグを倒してくれ。
……やれやれ。
俺も親父の事は言えないな。
厄介なものを残して死んじまうなんて。
……まぁ、俺もけっこう頑張ったよな。
やるだけのことはやったんだ。
それで負けんたんなら潔く諦めるしか無い。
あとは頼んだぜ。カーティス。ネオ。
『おい……起きろ』
ん?
誰かが俺を揺さぶっている。
男の声だ。しかも聞いたことのない声だ。
ゼクードはゆっくりと眼を開いた。
目を開けたその先には夜空と、いつかのナイトがゼクードを覗き込んでいた。
さすがに吹きそうになった。
俺的には父フォレッドか、義母ロゼが迎えに来てくれると思っていたから。
「ナイト久しぶりだな。まさかお前がお迎えとはなぁ。っていうかお前も死んだのか? あんな強いのに」
『……』
「娘のリィは一人にして大丈夫なのか? ……って言っても分かんないか。まぁいいや。さっさと連れてってくれよ」
『……よく喋る奴だ』
!?
「…………え? ……え!? 喋った!? え!? お前なんで喋れんの!? あ、もしかしてあの世だから? お互い死んでるから言葉も何もないってこと?」
驚きのあまりに勝手にそう解釈したゼクードだが、当のナイトは相手にせず森の奥を見て口を開いた。
『おいグロリア。セレン。目を覚ましたぞ』
え?
グロリアとセレン?
なんであの二人があの世にいるんだ?
「ああ! ゼクード!」
「お父さん!」
森の奥から娘グロリアと母セレンだった。
どう見ても本物である。
二人の匂いがハッキリと分かる。
「嘘だろ……」
「良かったゼクード……もうダメかと思った」っとセレン。
「本当に良かった……手遅れかと思ったんだからね!」っとグロリア。
二人は涙目になりながらゼクードに抱きついてくる。
「ちょ、ちょっと待て! かか、母さんとグロリアも死んじゃったのか!? なんで!?」
「え? あ、違うって! みんな生きてるから!」
「え? みんな? じゃあ俺、生きてんの? だって俺……」
グロリアに言われたゼクードは自分の身体をペタペタと触った。
「ぁ、あれ? 傷が無い……下半身も繋がってる……」
どうなってるんだ?
あれだけのケガだ。
助かるはずなんてなかったのに。
ましてや傷が癒えるなんて。
「お義兄様!」
今度は森の奥からレィナが現れた。
「レィナちゃん!」
「良かったお義兄様! どこか痛むところはありませんか?」
「ぁ、ああ大丈夫……」
レィナも無事だったのか。
良かった。
……? それにしても、なんだろう?
やたらと鼻が利くな。
レィナちゃんの良い匂いがする。
セレンとグロリアからも。
それになんか
妙に視野も広いような……
まるで眼が……
「あ! これ……」
ゼクードは左眼を撫でた。
すると潰れていた左眼が治っている事に気づく。
「治ってる!」
どうなって………………いや、待てよ?
この異常な回復力……まさか!
「俺に母さんの血を輸血したのか?」
「ご、ごめんなさいゼクード……あなたを救うにはそうするしかなかったの……」
「勝手な事してごめんお父さん。でも、頼んだのはアタシなの」
ああ、やはりそうらしい。
俺は一度死んでセレンの輸血に助けられたらしい。
それで左眼の視力も回復したのか。
すごいな。
元はこんなに視野が広かったのか。
忘れてたよ。
「なんだそういうことか。やっとわかった。俺もグロリアと同じになったってことか」
「本当にごめん……お父さん……」
「良いんだよグロリア。むしろ助かった。ありがとう。レグをあのままにしておく訳にはいかなかったからな」
なぜさっきナイトの言葉が分かったのか理解できた。
どうやら自分もドラグーンみたいな生き物になってしまったみたいだ。
ゼクードは手をグーにしたりパーにしたりと動作確認をした。
とくに違和感はない。しっかり動く。
驚くほど身体も軽い。
左眼が復活したのは嬉しいが、妙な損失感も胸の奥に沸いた。
もう人間じゃなくなったという損失感。
そしていつ理性を失うか分からない先行きの不安。
……なるほど。
これがグロリアの感じている気持ちなのかもしれないな。
真っ先にゼクードはそう思った。
やっと娘の気持ちを共有できたような気がして、不謹慎だがちょっとだけ嬉しかった。
とはいえ、グロリアとセレンはいつまで経っても理性を失う気配がない。
もしかしたら理性を失う原因は『竜の心臓』にあるのかもしれない。
いや、それだとセレンが説明つかないか?
セレンの心臓って、今はセレンの心臓なのか? それとも竜の心臓なのか? わからんな。
あのアグリスもまだ正気っぽいし、んー、やっぱり理性を失う原因がハッキリしないな。
それとも個人差による時間差があるのかもしれないな。
だとしたらやっぱり早くレグを倒さないとな。
俺が正気を失う前に。
立ち上がったゼクードは背中についた土を叩いた。
まだ暗い夜の森の中だから視界は悪い。
しかしグロリアたちが焚き火をしていないのはおそらくレグに発見されないためだろう。
暗闇に慣れてきたので辺りを見渡すとセレン・グロリア・レィナ・ナイト・そして少し大きくなってるリィが見えた。
ナイトとリィは少し離れた場所で身を休めている。
リィと眼が合ったが、すぐにそっぽ向かれた。
……あれ?
そういえばなんでグロリアたちとナイトたちが一緒にいるんだ?
「みんなも無事で良かった。ところでなんでナイトとリィも一緒にいるんだ?」
聞くとグロリアが答えた。
「別の大陸で再会したの。何度か助けてもらって、そのうえこの大陸にまで案内してもらったのよ」
なるほど。
そこまで世話になったのなら後で礼を言わなくちゃな。
「そうだったのか。その大陸に母さんやレィナちゃんもいたのか」
「うん。あとミオンさんも一緒よ」
「そのミオンさんは?」
「あっちでドレスと喋ってるわ」
「あぁ…………ドレス!?」
すっかり忘れていた彼女の存在に驚いた。
「あいつ生きてんのか!? どこだ!?」
「あっち」
グロリアが指した方角にドレスはいた。
そこにはシエルグリスの二番手ミオンもいた。
なにやら喋っているみたいだが。
「あんたなんで生きてんのよ? 心臓もろとも上半身を吹き飛ばして私が殺したはずよ?」
「ですから、私はあなたなんて存じません」
「ドレス!」
「! ぁ……ゼクードさん。お目覚めになられたんですね。良かったです」
相変わらず淡々とした人間味の無い返しに思わず吹きそうになった。
「はは、お前こそしぶといな。まだ生きてやがったのか」
「はい。前に食べた火山のドラゴンの栄養が残ってましたので」
「なら良かった」
いや、良くはないが、なんとなく口をついてそう言ってしまった。
共にレグに殺されかけた者同士の情というヤツだろう。
「ミオンさんも無事で良かったです」
「ありがと。でもなんでドレスが生きてるの? 問いただしても『存じません』の一点張りよ」
「私はレグ様に血を分け与えられ蘇生しました。それだけです」
「なによそれ……ねぇゼクード。こいつ殺していい?」
「あ、いや、それはちょっと待ってくださいミオンさん。今となってはコイツも貴重な戦力なので……主に空の」
「……ふーん。で? 現状はどうなってるの?」
「ミオンさんは……シエルグリスを見ましたか?」
「? いいえ。まだよ。何かあったの?」
まだだったのか……説明するの辛いな。
ネオの事だって……
「ありました。シエルグリスはレグのブレスで消し飛びました」
「……は?」