【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第444話【カティアたちの結末】

 ナイトとリィが仲間として加わった。

 それを喜ぶ中、ゼクードは娘のグロリアに呼ばれて森の奥へと来た。

 太陽光さえ遮る木の葉の密度が濃い。

 

「話ってなんだグロリア?」

 

「うん……お父さん……これを見て」

 

 背を向けていたグロリアが振り返り、ゼクードに腕を見せてきた。

 その腕は黒い鱗に覆われており、鋭利な爪も伸びていた。

 

「! お前その腕……」

 

「つい最近……腕だけ変異できるようになったの。アタシの中でドラゴン化が進んだみたい」

 

 悲しい顔で語るグロリアは今にも泣きそうだった。

 しかしどこか諦めているような溜息でそれを隠した。

 そしてその竜腕の掌からピンクの炎を湧き起こす。

 

「こんな火も出せるようになったの。アタシ魔法使えなかったのに」

 

 腕のドラゴン化。

 そしてピンクの炎。

 娘のドラゴン化の進行を聞かされ、さすがに動揺を隠せなかった。

 

「い……意識は大丈夫なのか?」

 

「うん……今のところはまだ、ね」

 

 暗く沈むグロリアの顔を見て、なんと声を掛ければいいかゼクードは迷った。

 風が吹き木の葉が舞い散る。

 チリチリという落ち葉の音だけが聞こえて、ゼクードの思考は止まっていた。

 

 大丈夫か。心配ない。きっと治る。

 そんな安っぽい声を掛けてもグロリアには届かないだろう。

 励ましてやりたいのに言葉が何も浮かばない。

 なんて浅い父親なんだろう俺は、と猛省する。

 

「グロリア……その……」

 

「ああ違うの。励ましてほしいから呼んだんじゃないわ」

 

「え?」

 

「このドラゴン化した腕……お母さんたちには言わない方がいいかどうか、お父さんに相談に乗ってもらいたくて」

 

「ぁあ……そういうことか……」

 

「お父さんはともかく、お母さんたちってみんな過剰なまでに心配してくるでしょう? 黙ってた方がいいかなって……」

 

「それは……」

 

 確かに黙っていた方が良いのかもしれない。

 特にローエが一番|堪(こた)えそうだ。

 カティアもフランベールも心が無傷という訳にはいかないだろう。

 

 妻たちはみんな腹を痛めて生んだ我が子を愛しく思っている。

 男の俺よりも子供に対する入れ込みはどうしても差があるはずだ。

 俺がこれだけ動揺するならローエたちはその何倍も動揺するだろう。

 

 だけど隠していてもいつかは……

 

「黙っていても……いつかはバレるだろうな」

 

「じゃあ……やっぱり……正直に言った方が良いのかな……」

 

 グロリアは不安でいっぱいの顔だった。

 おそらくローエに告げるのが怖いのだろう。

 たしかにローエがどんな顔をするかは想像に難くない。

 

 だけど確信もある。

 ローエの母親としての器は凄まじく大きい。

 19歳とは思えないほど母親としての心は据わっている。

 

 もともとローエは妹リーネのためにS級騎士にまで上り詰めた女騎士だ。

 身内に対してはどこまでも頑張れる女性だ。

 グロリアのこのドラゴン化の進行を受け止められないなんてことはないはずだ。

 

 出産して間もないボロボロの身体でグロリアを地の果てまで追い掛けてくるほどだ。

 グロリアのことは必ず受け止めてくれる気がする。

 

「そうだな。正直に言おう。母さんたちならきっと受け止めてくれるはずだ。最初はちょっと悲しませてしまうかもだけど、最後は必ず受け止めてくれるさ」

 

「……」

 

「心配するなグロリア。自分から言うのが怖いなら俺が母さんたちに言うよ」

 

「お父さん……」

 

「任せとけ。お前、俺に言うだけでも相当勇気使っただろう?」

 

「う、うん……それは、もう……」

 

「だったら次は俺の番だ。お父さんに任せておけ。よく隠さず言ってくれたな。ありがとう」

 

「……うん。ごめんね。押し付けちゃって」

 

「いいんだよ。俺だってどのみち自分の事をローエたちに話さなきゃならないからな。さぁ、みんなのところへ戻ろう。まずは【ヨコアナ】へ帰還してみんなの安否を確認する。話はそれからだ」

 

「うん。わかったわ」 

 

 

 地下通路を渡り終えた先【ヨコアナ】には、すでに暗い空気が充満していた。

 大概のことでは動じないカティアの心臓も、さすがに強く脈打つ。

 洞窟内部の至るところに絶望してうなだれる者たちがいる。

 

 若い騎士たちやベテラン騎士。

 若い市民たちや老人たち。

 みんな言葉一つ交わしていない。

 そんな気力もないようだ。

 

「これは……」

 

 カティアが小さくそう呟くと、前を歩くガイスが口を開いた。

 

「カーティスくんとネオくんがレグにやられたのを間近で見せつけられたんだ。こうなるのも……無理はないんだ」

 

 確かに無理はない。

 それはカティアも同じだったからだ。

 息子のカーティスが負けるなんて、それこそゼクードと同じくらい有り得ないと思っていたから。

 

 どんなに強い騎士でも負ける時は負ける。

 それは分かっているんだ。

 しかしこんなドラグーンなどというワケの分からん化け物に負けるのは仕方ないと思うし、納得もできない。

 

 王国を消し飛ばすなんて、化け物すぎる。

 レグの足止めに残ったゼクードとグリータは大丈夫だろうか?

 ゼクードならきっとカーティスたちを助けてくれると信じたいが、今回ばかりは相手が異常すぎる。

 

 どうか死なないでくれゼクード……カーティス。

 グリータ団長もどうか無事で……

 

「リベカさん。私は彼女たちをリリーベールの元へ案内する」

「了解しました。私はシエルグリスの市民たちを見てきます」

 

 ガイスとリベカがそう交わし「さぁこっちへ。みなさんの娘さんたちが待ってます」とガイスが前に進み出した。

 それこそ一番待っていたと言わんばかりにローエとフランベールはガイスに続いた。

 カティアもカレンティアのことが心配でしょうがなかった。

 何度も置いていく不甲斐ない母を許してくれと内心で謝りながらガイスを追った。

 

「フラン!」

「姉さん!」

 

 前に使っていた部屋にリリーベールはいた。

 そしてもう一人も。

 

「リーネ!」

「お姉さま!」

 

 二つの姉妹は抱きしめ合い、再会の喜びを分かち合う。

 カティアはレィナがいないか部屋を見回したが、影もなかった。

 レィナはまだ帰還していないらしい。

 地下通路でガイスから聞いてはいたが、やはり妹の不在を再確認させられ気持ちが暗くなる。

 

 そんな暗い気持ちを照らすように小さなベッドから赤子の声が聞こえた。

 するとリリーベールが口を開く。

 

「みんな無事で良かったわ。ほら、早く抱いてあげて」

 

「姉さん……ほんとに……ほんとにありがとう……もうなんてお礼を言ったらいいか……ありがとう……」

 

「そんなのいいからほら」

 

 フランベールのお辞儀に苦笑するリリーベールは赤ちゃんたちの抱擁を催促した。

 ベッドを覗き込むとカレンティアがいた。

 彼女はカティアと同じライトブルーの瞳をパチリと開き、ぐいっと手を伸ばしてきた。

 

 母であるカティアのことを求めているようで、それが嬉しくてカティアはそっとカレンティアを抱き起こして抱擁した。

 無事だった我が娘の肌を感じ、思わず涙が込み上がってくる。

 

「カレン……すまなかった……またお前を置いていってしまって……」

 

 隣でローエもオラージュを抱きしめ、優しく抱擁する。

 

「あぁオラージュ……ほんとにごめんなさい……これからはもうずっと側にいますからね」

 

 フランベールも娘リィンベールを抱きしめて泣いていた。

 

「リィン……無責任なママでごめんね……ほんとにごめんね……もうどこにも行かないから……」

 

 それぞれの母親が娘に誓う。

 もうずっと側にいると。

 今この瞬間……三人の女は騎士を辞め、母親となった。

 

 それが18年も置き去りにしたカーティス・グロリア・レミーベールへの贖罪でもあり、あの三人がカレンティア・オラージュ・リィンベールたちに望むことだから。

 

 

 カレンティアは母親であるカティアの腕の中で安眠している。

 抱かれたカレンティアは母の顔をペタペタと触って少ししてからすぐに眠ったのだ。

 まるでカティアだと分かって安心したかのように。

 

「ふふ……可愛い寝顔ね」

 

 隣に立つリリーベールが覗き込みながら微笑んだ。

「ええ本当に……」っとカティアも釣れて微笑む。

 

「カーティスたちもそうだったんだけど、この子たちもなかなか寝付きが悪いの。でもこんなにあっさり寝るなんて……やっぱり本当の母親だと安心するのね」

 

 初耳だった。

 あのカーティス達の寝付きが悪かったなんて。

 わずかな情報でありながらリリーベールの苦労が垣間見えて、カティアは胸の奥から申し訳ない気持ちが溢れてきた。

 

「リリーさん……あなたには本当に、感謝しかありません。子供たちを守ってくれてありがとうございます」

 

「いいのよ。私にはそれくらいしか出来ることがないから。でもみんな無事で良かったわ。大きなブラックホールに飲まれたって聞いた時はさすがにもう助からないって思ったのよ?」

 

「運よく陸のある場所に落とされたんです。あれがもし海のド真ん中だったりしたら溺れ死んでいました」

 

「そうならなくて良かったわ本当に。やっぱり子供は本当の母親に育てられるのが一番だからね」

 

 カーティスたちをあれだけ立派に育て上げたリリーベールがそう言うと、本当のところは『育ての親』の力量次第な気がする。

 とは言え、子供にとって親は『本当の親』ならそっちの方がいいに決まっている。

 

「リリーさん……我々はあまりに無責任でした。いつもリリーさんに子供を預けて仕事ばかり……」

 

「それは仕方ないわよ。あんた達みんな強いんだもん。特に今回のあの……えーっとドラグーンだっけ? あれと戦えるだけの戦力が他にいなかったんだから」

 

「グロリアと御義母様(セレン)の時も……リリーさんは我々を助けてくれました。生まれたばかりのこの子たちを預かってくれて……」

 

 改めて振り返ると、自分達はリリーベールにこんなにも助けられていたんだなと再確認した。

 昔のリリーベールはよくローエと喧嘩していて、先代国王にも噛み付いていたほど荒っぽい女性だったのに。

 そんな彼女に今はこんなにも助けられている。

 

「カティア。私たちがこうやって生きていられるのはあんた達が戦ってくれてるおかげなんだから。別に一方的ってわけじゃないのよ? そこまで思い詰めなくていいわ。私も私であんた達には感謝してるんだから」

 

「……ありがとうございます。リリーさん」

 

 救われるような言葉を贈られカティアは素直にお礼を言った。

 昔の彼女では考えられない言葉だった。

 どんなに時を経ても変わらない人間もいるが、変われる人間もいる。

 その代表がリリーベールだろう。

 

「姉さん……あのね」

 

 突如として口を割ったのはフランベールだった。

 部屋の隅でリィンベールを抱きながら、真剣な顔で姉のリリーベールを見つめる。

 

「うん?」

 

「わたし達……騎士を辞めるの」

 

「え!?」

 

 リリーベールは驚いた。

 同じ部屋にいたガイスとリーネも驚愕する。

 リリーベールたちの視線を一身に受けながらフランベールは続けた。

 

「みんなで決めたの。わたし達は親としてあまりに無責任だったから」

 

 するとオラージュを抱いたローエも口を開いた。

 

「わたくし達はちゃんと親になりますわ。今度こそずっと側にいて、愛してあげたいんですの」

 

 冗談ではない真剣な声音。

 親になるということは、これから長い年月を育児に費やすことになる。

 騎士としての仕事は受けない。

 

 つまりそれは騎士としての劣化の始まり。

 女の身体に限界を感じた女騎士の現実。

 その現実を呑み込み、一人の母親になろうと決意した。

 

 女騎士として積み重ねてきたものを捨てる決断でもあった。

 人間の身体は鈍るのは速い。

 女の身体なら尚の事。

 

 女騎士として積み重ねてきたものはカティアにとって人生そのものであり、それを捨てるのは人生を捨てるのにも近かった。

 だがそれよりも大事なものを手に入れてしまったから、そっちを選んだ。

 

 あまりに遅かった選択だ。

 もっと早く選んでいたら別の展開もあったのかもしれない。

 今さら決断したところでカーティスたちとの18年分の時は戻らない。

 

 すぐに子供を選んでやれなかった自分に、母親たる資格などないのだろう。

 だからこそ、今度こそ子供を愛そう。

 カレンティアたちが成人し、自分で前へ進めるようになるその時まで。

 

「…………。そう、ついに選んだのね。私としてはちょっと残念だわ。育児って楽しいから」

 

「姉さん……ごめんね」

 

「なんで謝るのよフラン。腹を括ったってことでしょ? だいたいの女騎士はみんな子供が生まれたらそのまま復帰せずに母親に専念するわ。レィナが稀なのよね」

 

「レィナは嫁いだ家が領主だったからですよ」っとリーネ。

 

「そうね。まぁそれくらい女騎士は最終的に母親になるの。みんな自分の力量に限界を感じて……というより女の身体に限界を感じて母親になるわ」

 

「……」

 

 カティアの胸を穿つリリーベールの言葉。

 だが不思議とすんなりと受け入れることができた。

 身を持って知った今となっては心も大きくなったらしい。

 

「だから褒めてあげる。あんた達ほどの女騎士が母親になることを選んだことにね。偉いわよみんな。本当に」

 

「ありがとう……姉さん」

 

 フランベールが涙目になりながらリリーベールに言った。

 今まで一番カティアたちを助けてくれて、一番迷惑を被っていたはずのリリーベール。

 迷惑を掛けていた我々に、選んだことを褒められた。

 

 敵わないな。この人には……

 

 リリーベールに大きな背中を見せつけられたカティアはそう思った。

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